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閉ざされた扉 【shut the door】

妹のお話がかなり続くな〜

…もう少し続きます。

冬休み、私は家で家族とのんびり過ごした。

ニルティとのお茶会は彼女が都合のいい日を伝えてくれるらしいので、その連絡待ちだ。

そんな悠々自適で幸せな冬休み生活にある日転機が訪れる。

「私に……縁談…ですか。」

「……あぁ、そうなのだ。」

父からの急な報告。それは、スターク伯爵家からの縁談の話だった。正直、相手の詳しい情報を知る前から思う。…無理でしょ?

だって私、今は軽くなってきたと言っても現在進行形で男性恐怖症だったんだよ?

今でも急な対面だと発狂する可能性があるのに縁談なんて…無理でしょ?

そんな私に、お父様が言う。

「お前の気持ちはよくわかる。私も今回の縁談は断るつもりだ。もちろん、マリア…お前の母さんも同意見だ。お前はまだ男性恐怖症が完治していないのだろう?そんな娘を嫁に出すほど私は愚かでは無い。それに、そもそもの話でスターク家にいい噂を聞かんのだ。」

いい噂を聞かない…そう言っているが、お父様がそんな話を聞いて調べずに放っておくはずがない。きっと私のことを考えて具体的な話をしないのだろう。

「つまり、今回のスターク家からの縁談は王家と親密な関係を持つのが狙いだった…。」

私の言葉に驚いた顔をするお父様。

「…まぁ、そう言うことだ。そのような小狡いマネをして地位の向上を図る害虫にやる餌など我々は持ち合わせていない。お前は安心していい。」

「ならば、なぜ私がここに呼ばれたのです?何か注意しておいたほうがいいことがあるのでしょう?ちゃんと仰ってください。」

「…やはり、お前は賢いな。私が言って欲しい言葉を必ず言ってくれる。私の妻のようだ。」

そう言って、お父様が続けた。

「さっき言った通り、スターク家にいい噂を聞かんと言うのが…少しばかりお前と関係するのだ。あの家は帝国と繋がりがある可能性がある。それを前提条件として考えると、今回のお前との縁談。お前はどう考える?」

急に話を振ってくるお父様、この人はこうやって急に問題のように話を振ってくる。

最近やっと会話ができるようになってから何回もこのようなやりとりをしている。

でも、嫌いじゃない。前世での爺様みたいだ。

「帝国は私たち王国と敵対しています。そしてその帝国と繋がりがあるスターク家は帝国に恩を売りたい、その上で私を欲しがるのは。………やはり、人質…ですか…。」

考えただけでも体が震え、寒気を覚える。

「…そうだな、その可能性が高いだろう。シュリエよ、十二分に注意しておきなさい、縁談という作戦を潰された彼等が何をしてくるかはわからんのだ、今ここで奇襲を受けてもおかしくないと常に警戒しておきなさい。国同士のやりとりとはそういうものだ。」

「……わかりました、お父様。」

国同士のやりとり、なるほど…婚約をしていない私に縁談という目的で近づき、人質としてさらう事で優位を確保する。良い作戦だと思う。

私が男性恐怖症でなければ成功していたかもしれない作戦…恐ろしい作戦だ。

そんなことを考えながら、私は自室に戻る。

無駄に広い、私の自室。ベットに置かれているルルードベアーのヌイグルミしか私のものは無い。

机、テーブル、ベット、ヌイグルミしかない自室のほぼ全てがお父様が買ったもの。

私のものはヌイグルミ一つだけ。


…ここは、私の自室と言えるのだろうか?


ダメだ、思考がネガティブになってる…。

そんな時、コンコンと軽いノックが聞こえた。

「ネリアナ…じゃないわね、誰?」

「お嬢様、ドルジアですよ。ノルジネの茶葉が手に入りましてね、お嬢様にもお裾分けをと思いまして…入ってもよろしいですかな?」

ドルジア…お母様の専属メイドで、ネリアナの元上司だったおばあちゃんだ。

「えぇ、いいわよ。」

「失礼しますわ、お嬢様。ノルジネの茶葉、お好きだったでしょう?たまたま手に入ったもので、喜んでいただけるかと思いましてね。」

「そうね、大好きよ。ノルジネのお茶、他のお茶にはない甘みが好きなのよね。」

「そうですわね、このお茶は独特の甘みと香りがあります…これが苦手な人もいますけどね。」

でも、この香りと味が私は好きだ。

王国で栽培できないのが本当に残念である。


「そういえば、今ネリアナはどうしてるの?この時間ならネリアナがお茶を入れてくれるはずなんだけど。」

「あぁ、ネリアナは私がノルジネ茶を淹れることを知ってならば先に晩御飯の支度をしておきますって言って厨房に向かいましたよ。」

「そう…昼からもう晩御飯の支度ね…。」

やっぱり彼女に強制的な休みを与えたほうがいいのではないかと真剣に考える。

そんな時

コンコンコンと早いノック。

これはネリアナではない。

「誰かしら?」

ドルジアの質問に答えた声は…

「リーナです、入ってもよろしいですか?」

「えぇ、いいわよ?」

「お嬢様、リーナをご存知で?」

「え?」

リーナが入ってくる。

ドルジアはなぜそんなことを聞くのかしら?

確かに初めて見る子だけど…。

「あなた、何の要件?お嬢様は今お茶を楽しんでいるのだけれど…。」

ドルジアが注意するも、リーナは意に介さない。

「すみません、緊急の要件でして…。」

「緊急の要件?何のことかしら。」

私は気になって尋ねる。もしかして、あの縁談のこと?

「緊急の要件なら、私にも情報が入るはずだけど。私は何も聞いてないわよ?」

ドルジアの指摘に、リーナの表情が険しくなる。


「あぁ、うるさいなぁ。」


ドスッ

「うっ!?な…なにを…。」

ドルジアの腹に鋭いパンチを入れるリーナ。

「ドルジアッ!?」

「うるさいですよオジョウサマ?黙ってアタシに従えよ?話したら殺す、指示以外の行動をしたら殺す、…分かったら頷け、分からないなら殺す。」

「………はい。」


バシンッ

「きゃあ!」

「指示以外の行動をするなと言っただろうが!なに喋ってんだこのガキ!次は殺すぞ!」

「……。」

私は何もできず、ただ頷いた。

「…よし、それでいいんだよ。」

彼女は満足気にそう言って、右手にチョークのようなものを持ち、床に何かを描く。

…これは、魔法陣?


彼女はそれを描き終えると、私の方を向いた。

「今からお前は人質だ、あのクソ国王が縁談を断るらしいからな、先にお前をいただいておくことにしたのさ。さあ、この魔法陣の上に乗れ。」

「……。」

私は魔法陣の上に乗る。

すると、魔法陣が光り出した。

これは…長距離転移の魔法陣!まずい!このままだと本当に帝国の人質になる。

どうにかしないと…でも、どうすればいい?


【魔法陣なんてものはただの暗号だよ 簡単に書き換えられる】

声が聞こえた。懐かしいような、初めて聞いた声。


気づけば、足が動いていた。

「おい!貴様何を!?」

魔法が起動する。


目の前が、真っ暗になる。



【安心しろ、私は強大で偉大なるー---だ】



目が見えるようになった。

目の前には、ニタニタと笑っている野蛮そうな男たちがいた。

まるで…あの時の…


山賊たちのような………


頭が…真っ白になる。


「…嫌……やめて…来ないで…。」

男たちの笑みが深くなる。

「おいおい嬢ちゃん、態度が悪いぜ?」

「そうそう、『人質』としての態度ってのがあるだろう?」

もう男たちが何を言っているのか理解すらできなくなっていた。


「やめて!来ないで!来ないで!!」

自分が何をしているのかも分からない。

「おいおい、こいつ大丈夫か?」

「…あぁ、パニックになってるだけだ。」

「それよりも早く帝国にずらかるぞ、行動は早い方がいい。そろそろリーナも帰ってくる頃だろうからな、あいつの転移で一発だぜ。」

「おう、先に荷物をまとめとけってか?」


【その必要は 無い】


「やめて…来ないで、来ないで…。」

男たちの表情から笑みが消えた、ように見えた。

もう私に周りを認識する余裕はなかった。

恐怖とトラウマで頭の中がぐちゃぐちゃだ。

今私は過去と現在のどちらに恐怖しているのか分からない。…その両方が正しいのか?


もう、何もわからない。

私は気がついた時には気絶していた。



時は遡り数分前。


「やめて…来ないで、来ないで…。」

帝国から依頼を受けたこの男たち、彼らは国を跨いで活動している傭兵である。

一定の国に拠点を置いている冒険者と違い、彼らは金さえあればどこの誰にでも従う。

『金があれば赤子にすら従う』と蔑まれることもあるが、彼らは気にしていない。

金こそが正義であり、金が力であると信じているから…。

しかし、今回ばかりは違った。

「…おい、やっぱりこいつおかしいぞ!」

「さっきからなんだ!怯えてんのか?」

「だってこいつ……。」

今回ばかりは…


【理不尽には 理不尽で返さなければならない】



彼らは敵対する相手を間違えた。



「なんでこいつは『魔術』を使えるんだよ!?」

「……。」

彼女は答えない…いま、彼女はいない。


いまは、ただ黙々と『敵』を狩るだけの『鬼』と逃げ惑う『人』しかこの場にいない。


既にこの場所は傭兵のアジトではなく、殺人『鬼』が『鬼ごっこ』をするための広場でしか無くなっている。

雷鳴が轟き、業火が空間を埋め尽くし、激流が辺り一面を洗い流す。


まさに、ここは『地獄』だった。


複数人いた『人』も、今ではたった1人。

「た…たすけ、助けてくれ!」

「……。」

彼女は答えない。


【理不尽には 理不尽で返す】

代わりに、————が答えるが、彼には聞こえない。


やはり、ここは地獄だった。





「………様!……嬢様!お嬢様!」

「…うぅ……ネリ…アナ?」

「お嬢様!よかった!本当によかった!」

気がついたら、ネリアナが私に抱きついていた。


…私は、一体何を………!?

「そう…だ、私は……男たちに…。」

体が震えてくる、息が苦しくなり、寒気がする。

「……お嬢様?どうしたので…!お嬢様!」

ネリアナの慌てた声が遠く感じる。

「お嬢様!お嬢様っ!誰か!早く医者を!」



私の男性恐怖症は、以前より酷くなった。

今では『男性かもしれない人間』にすら恐怖を感じてしまうほどになった。

扉を叩く人間、誰かわからない足音、遠くから聞こえてくる男性かもしれない声、それらを認識した時点で体が震え、息が荒くなる。


もう、誰も私の近くにいることができなくなった。


私の近くにいることができるのはネリアナのみだった。彼女のノックの音は判別できるからだ。


彼女は足音を立てることなく私の部屋に来ることができる、そしていつもと同じノックの音で私に存在を知らせる。

もう、彼女しか私の部屋の前に来ることは許されなくなった。



私は、部屋を出ることがなくなった。

……ニルティ…ごめんなさい。

ひどいこと考える奴もいたものだ。(張本人)


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