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感触

この小説は毎日投稿ですか?


いいえ、不定期更新です。

今のところ毎日投稿してるけど。

目の前に広がる朱はどんどんあたりを侵食し、生臭い鉄の香りをいっそう強くしていく。

その中心には動かない肉塊。

それは、数秒前まで王国で財政局長をしていた男だ。美しく輝く白い髪はその輝きを失い、清らかな碧い瞳は光を失くし、ガラス玉のように無機質だ。

年の割に若く見えるハンサムな顔も恐怖、というよりは驚きで歪んでいる。

彼は、殺されたのだ。他でもない私に。


時は遡り、この日の昼頃。


私は『先生』に暗殺を命じられた後、武器を用意するために街に出た。お金は『先生』から前金、いわゆる支度金を貰っている。

街は昼時だからか結構賑やかで、明るく活気がある。曇り空なんて御構い無しだ。

あたりから漂ってくる美味しそうな香りが私の空腹を刺激する。昼食を買う事は命令に存在しないので、私は空腹を無視して武器屋に向かう。

雨はまだ降らない。


武器屋は私たちの『家』から少し離れたところにある。不便だが、『先生』は絶対にここで武器を買えと命令した。なんでも店主と顔なじみらしい。

私が店に入ると、店主らしき大男が私の方をギロリと睨みつけるように見る。

「…いらっしゃい、と言いてぇが。ここはお前みてぇなチビが来るとこじゃねぇよ。帰りな。」

「『先生』の武器を買いに来た。」

大男は私を訝しげに見つめる。少し驚いたか?

「……お前か。なら問題ねぇ、すまなかった。」

…武器を選んでいい、ということか?

私は恐る恐る店内に入り、武器を選ぶ。

選ぶのは切れ味の良い、私でも持てる軽いナイフだ。というか私はそれしか扱えない。肉体的に。


探していると気づかないうちに時間がかなり経っていたようで、大男が痺れを切らしたように話しかけてくる。

「おい、何を探してんだ?言ってくれりゃ俺も探してやる。奴の体格は俺も知ってるからな。」

…奴、というのは『先生』のことだろうか。

どうやら大男は私が『先生』の武器を選んでいると思ったらしい。

「『先生』じゃない、私の武器。」

「…お前の武器?そりゃダメだ。」

大男がさも当たり前のように話す。

「奴隷が武器を買うには許可がいる。俺は奴の武器を買うという話しか聞いてねぇ。お前に武器は売れねぇ。今日は帰りな。」

……なるほど、しかしそれは私が困る。

今から『先生』に奴隷だから買えませんでした、なんて言ってマヌケを晒した場合、仕事には支障が出なくても今後どんな扱いを受けるか分からない。最悪、子供たちに不利益を与えるかもしれない。

つまり、自分のことは自分でなんとかできるほどに優秀であることを認めさせなければいけない。


「どうした、考え込んで。どんなに駄々こねても売れねぇもんは売れねぇ。今日は諦めな。」

「問題ない、ナイフを選んで。」

生憎、アドリブの強さは『先生』も舌を巻くほどには強い。

「だからなぁ、奴隷に武器は売れねぇんだよ。」

「問題ない、『先生』の武器を買う。」

何も、問題はない。

「おいおい、今更訂正しても遅いんだよ。

そもそもおめぇは奴が使いそうにねぇ軽いナイフしか見てなかっただろ?そもそも違和感があったんだよ。最初は武器を選ぶのに慣れてねぇ初心者かと思ったがそれにしちゃぁ武器は扱い慣れてるみてぇだったしな。」

「問題ない。」

「だから!問題大有りなんだよ!」

大男が怒鳴るが……

「私が、『先生の武器』」


何も、問題はない。


「は?」

「私が『先生の武器』、私の武器は買わない。」

私は私物を買いにきたんじゃない。『先生』の金で武器を買い、先生の命令で殺すのだ。

それは、私の武器ではない。

「おいおい、そりゃ屁理屈だろ?」

「私の武器は買わない、問題ない。」

大男は観念したようにため息をつく。

「…わかったわかった。要望を言え、探してやる。……ったく、あの野郎。もっとマシなガキを連れてくると思ってたのに。」

「…軽くて切れ味の良いナイフ。有る?」

大男のぼやきは無視だ。

「そんなナイフが無ぇなら俺は武器屋をしてねぇな。少し待ってろ、一番合うのを繕ってやる。」

大男は笑って店の奥に引っ込んだ。


「……手に馴染む。」

大男が持ってきたのは、パッと見た感じではごく普通のナイフだった。特別な装飾や刃の形が特殊と言った特徴が無い、本当に『普通』なナイフ。

しかし、店で出されていたどのナイフより手に馴染んだ。まるで…。

「腕の一部みたいだろ?」

「……値段は?」

大男は可愛げがねぇな、と言いつつ答える。

「持ち金の3分の2でいい。」

「…2分の1」

「ここで値切るか!?ほんと可愛げのねぇガキだな!……5分の3だ、それ以下は認めねぇ。」

私はお金が入った袋からお金を5分の3取り出し、大男に渡す。

「…あの野郎、こんな大金渡してたのか。俺の1月分の収入じゃねぇか。」

「……これ。」

私は大男に残りのお金を渡す。…これで財布の3分の2だ。そもそも値切るつもりはなかった。

ちょっと悪戯がしたかっただけだ。

「あ?なんのつもりだ?これじゃ値切った意味がねぇだろ?」

「チップ、ナイフ選んでくれたお礼。」

まぁ、恥ずかしいから言ってやらない。

「……次はもっと早く可愛げを見せろってんだ。早く帰れ、仕事があんだろ?」

……どこまで『先生』から聞いているのだろう?

そう思ったが、聞いても仕方がないと思いお礼を言って店を後にした。


私は一度『家』に戻り、暗殺のための準備を整える。ナイフだけでは心もとないからだ。

『家』に着くと、『先生』が待っていた。

「遅かったな、武器は買えたか?」

「はい。」

「そうか、財布は?」

私は『先生』に財布と呼ばれた袋を差し出す。

『先生』は中身を受け取ると、私に質問してきた。

「……お前、昼飯は食ったか?」

「?…いいえ。」

『先生』はなぜか呆れたように言う。

「…金はやる、仕事前に食ってこい。」

「…はい。」

私は何を間違ったのだろう。


昼食は露店で買った串焼きで済ませた。

正直味はしなかった。周りの人は美味しいと言っていたのに、私の舌がおかしいのだろうか。

お腹を満たすと、ようやく暗殺の準備だ。

と言っても、用意するのはナイフと服だけで、その服も『先生』用意していた。

「早かったな、今日決行するのか?」

私は『先生』に財布を返しながら言う。

「はい。」

「そうか、くれぐれも失敗だけはするな。」

「はい。」

覚悟はできていない。有るのは決意だけだ。

雨はまだ降らない。


暗殺をするタイミングは夜中、財政局長が色街に出かける時だ、警備がおらず周りに人がいない絶好のチャンス。逃す道理はない。

財政局長が色街に入るところを待ち伏せて背後から急所を狙う。簡単な仕事だ。

しかし油断してはいけない。いくら『先生』と2年の間暗殺訓練をしたからと言って、失敗しないはずがないのだ。

そもそも実践は今回が初めてであり、暗殺訓練は積んでも暗殺は初めての素人だ。

失敗する確率の方が高いと考えてもいい。



結果から言うと成功した。それはもうあっけなく。

背後に回ってナイフで頸を切りつけるまで私に気づいた様子もなかった。

そして、声を上げることなく短いうめき声を漏らし彼は生き絶えた。最後に何か言っていたような気もするが、私には何を言っているのかわからなかった。

初めての仕事の緊張感も、人を殺す事にためらいもなく。初仕事は終わった。

「…あなたの名前を私は知らない。」

そういえば、この死体(ひと)の名前を私は聞いていなかった。これでは山賊と変わらないな。

……私を殺した男たちとなんら変わらないのか。

なんの因果だろうか。それとも皮肉か。

「……ごめんなさい。」

一言、死体に残し私は帰る。

懺悔じゃない、ただの自己満足だ。

雨は降らなかった、しかし月も見えなかった。

ナナちゃんは寡黙なキャラのはずだけど。

今回は結構喋りましたね。


喋らせたのは私ですけど。(苦笑い)

次回は妹ちゃんの話にしようかな。


予定は未定です。

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