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オーデスの槍

皆に出会えたこの奇跡に…





土下座!

護衛騎士には悪い事をしてしまった。

オーデスは真っ赤に輝く槍を見て思う。


【聖槍グングニール】

槍の形をとっているがこれの真実の姿は所有者の魔力を常に吸収し、槍内部で増幅させ続ける自動魔力炉である。

オーデスが槍の魔力を滅多に…いや、ほぼ全くと言っていいほどに使わないために槍の中で増幅している魔力の総量は想像を遥かに超えている。


それを今…解放したのだ。


「何年も溜め続け…増幅し続けた魔力。遠慮するな……好きなだけくれてやる!」


オーデスの声に応えるものは


「阿呆かお前は。」

護衛騎士でも守護者でもなかった。

『彼女』は突然オーデスの横に現れ、オーデスから槍を引ったくった。

「なっ!?」

「魔力を欲しがっている奴にはいどうぞと馬鹿正直に魔力を渡すな大馬鹿者が。」


赤く輝き、肉を焦がすほどに熱を持った槍を奪い取った少女、エレンは平然と槍を玩具のように上下に振る。

所持者の手から離れた槍はどんどん輝きを失い、いつも通りの姿に戻っていく。


「…あなたは、キュレーが言っていた。」

「……エレン…オーケス。」

オーデスと護衛騎士が槍を弄ぶエレンを見る。キュレーから話は聞いていたが、それでもやはりその見た目は異様だった。


こんなに幼い見た目の少女が…あのバケモノの爪を止めたと言うのか?


「他の奴らがあまりにもトロトロと準備にふけっていたのでな、先に来てしまった。」

「か…感謝する。」

「…ありがとう…ございます。」

その少女の対応に困る大人連中は守護者が今にも動き出さないかと気が気でなかったのに対し、エレンは守護者など気に留めずオーデスの槍に興味津々だった。


「遺憾だ、魔力を渡すのではなかったのか?」

「お前に渡すにはちと天然さが足りないと思ってな。」

「疑問だ、魔力に天然も人工も関係なかろうに。」

「それはお前が天然でも人工でもない守護者だからだよ。地脈に呼び出された魔力を喰らう亡霊が…早く成仏した方がいいんじゃないか?」


そのやりとりでオーデスは漸く地脈の守護者がどんな存在なのかを悟った。

そして、あそこで魔力をぶつけても逆効果であっただろうことも。


「エレン…くんでいいのか?奴はどうすれば倒せるんだ?…正直に言って我々にはもう打つ手がない。」

オーデスの言葉にエレンがニヤリと笑う。

「あるじゃないか、とても大事な仕事が。」

「……なに?」

「その槍にありったけの魔力を流す…とても大事な仕事だろう?」

それに反対したのはオーデスではなく、護衛騎士だった。

「…奴に魔術は効かないと言ったのはあなただ。」

しかし、エレンは相手にしなかった。

「私のは効くのさ。」


そう言った時、守護者の背中側…王国の方向から走ってくる影が4つ見えた。

それと同時に、守護者に飛んでくる一本のナイフ。


「……?」

守護者は正確に顔面へと迫るそれを右手で払い除ける…ことができなかった。

ガキッと金属音が響き、払い除けるはずだったナイフを左手で握っているアンナが突然現れる。


「…なっ!?」

「先手必勝…基本ですね。」


アンナの左手のナイフは守護者の右手の動きに合わせて巧みに力の加減と刃の向きを変えることで完全に守護者の右手を封じている。


そして右手のナイフで守護者の首を狙う!


しかし、硬すぎる皮膚を切ることはできずにナイフの方がパキンと折れてしまう。

「…駄目だ。そのナイフでは斬れない。」

「……知ってますよ。」


その言葉にハッとする守護者は後ろのオーデスたちを見るが、既に姿は消えていた。

……転移か。

守護者は向かって来ていた影を見る。


影は消えていた。近くにいたはずのアンナも既に去った後のようだ。

今頃戦った時の情報を共有しているのだろう。

「……笑止、人間に負けることなどあり得ない…魔力はまだまだ足りぬのだ。早く戻ってくるがいい。」


独り言は自信に満ちていた。

そして、それは紛れもない事実だった。


守護者に勝てる人間は存在しない。



敗北までのカウントダウンは既に始まっている。

起立!



礼!!




敬具

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