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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第三章『神の居る街』
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三章第6話  『決意と表明』

ほのぼの回です(多分)。




「とは言っても、そんなに急ぐことは無いんだけどね。彼らはまだ封印の解除手段を持っていないから」


「なんで分かるの?」


「それは簡単! 私達が『鍵』を持ってるからだよお!」


 ウィルの言う事を素直に聞き、今の今まで黙っていた『飢餓の絶望』ことシリアル・ファングリルが元気よく手を挙げて答える。

 こうして見ると、ほんとに年相応の活発で純粋な少女に見えるが、エリファはこの少女の本質を知っているため、正面から受け取れきれない。


 そんなことよりも、シリアルが言葉にした『鍵』という単語の方が重要度は高そうだ。

 これは、文字通り『箱』の封印を解くための『鍵』だろう。

 鍵をこちらが握っているから、第三者に開けられることはない、と。


「――! 誰!」


 彼ら『絶望』の話を脳内で噛み砕いていると、突如として、エリファは生体センサーに何か異質なものを感じ取り、暗闇へと問う。

 感じ取った異質さはウィルとシリアルに良く似ていて、少し違う。

 明確には、ウィルとシリアルもそれぞれ似ていて、少し違う。

 ああ、なるほど、つまり、


「君は……中々に珍しいな、『愚者』か?」


 ――暗闇に紛れた存在も、『絶望』である、ということだ。


 そんなエリファの確信の背中を押すように、夜の闇から現れた()()()、腰に手を当て、大きく胸を張り、名乗りを上げ、


「ああ、そうとも! 話は聞かせてもらった! その上で言おう、この『愚者の絶望』ことクロ・ナルヒェン。お前達を手伝ってやる、感謝するがいい!!」


 静かな夜に馬鹿みたいに大きい声を放つのだった。




※※※※※※※※※※




「――で、結局できることが情報収集と待つだけっていうのは、どうなの」


「仕方ないじゃないか、彼ら『組織』が、何処を根城にしているのか分からないのだから。エリファもそう思うだろう?」


「……そうね」


 夜が明け、活気を取り戻しつつある街中を歩きながら、街の人から情報を掻き集めていると、不意にシリアルが退屈そうな様子で呟いた。

 口ではウィルの言い訳に賛同しつつも、心の中ではエリファも今の状況について思うことがない訳では無い。

 なにせ、あれだけ『世界が滅亡する』などと、煽って起きながら、やれることが再度の襲撃を待ちながら、できるだけ情報を聞き出すことだけとは。


「ええい! まどろっこしい! 我が自ら敵の城に乗り込み、全員切り伏せてくれるわ!!」


「それが出来ないからこうやって情報収集してるんだろうが、まったく、君は本当に馬鹿だな!」


「この我に向かって、『馬鹿』だと!? 我は確かに『愚者』ではあるが、『馬鹿』ではないぞ! そこ、大事だから間違えるんじゃない!」


「そんなに変わらないんじゃ……」


 もう我慢ならないといった様子で、前のめりになった少女――『愚者の絶望』クロ・ナルヒェンを制し、指をさして罵声を浴びせるウィル。

 対する彼女は、訳の分からない箇所に訳の分からない理由で、訳の分からない抗議をするので、こっちにはまるでわからない。

 昨夜、突如として現れ、我らが陣営に加わった彼女だが、その風貌は、また一段と変わっている。


 後ろで結び長く下ろした艶のある黒髪に、橙色の瞳にキリリと凛々しい顔立ちをした彼女は、その身に何やら目新しい紫紺の布地の服を纏っていた。

 本人曰く、『袴』とかと呼ばれる服装らしく、伝説上の『侍』という武士が着ていたものだそうだ。

 因みにそれを何故着ているのかと聞くと、「なんかかっこいい」という理由だった為、そこでエリファが「ああ、こいつ馬鹿だ」と思ったことは言うまでもない。


 その顔立ちから、真面目で強気な戦士を想像してしまうためか、気の抜けるような言動の彼女にどうしても、可笑しくなってしまう。


「はああ、君のせいで昨日の夜も大変だったし……この先、君がいて僕らは一体、大丈夫なのだろうか」


「昨日は、クロっちが大声で叫んだせいで、大変だったもんねえ。駆け付けた衛兵から身を隠してさあ! 私は結構楽しかったけどねえ!」


「はっはっは、そう褒めるな、声を出すことはいい事だ、お前達もこれからは大声で自己紹介をすることだ!」


「……褒めてないよ、誰も」


 悪びれるどころか、胸を張って自慢げにするクロに静かにツッコミを入れるエリファは、この状況を見て改めて不思議な感覚を覚える。

 まさか、『臆病』、『飢餓』、『愚者』と三人の『絶望』と一緒に行動することになるとは、思いもしなかった。

 中でも『臆病(ウィル)』と『飢餓(シリアル)』はその驚異性を身をもって味わったエリファだったが、どうやら実際に彼、彼女と話してみると中々にウマが合う。

 嬉しいやらなんやら、妙な感じだ。


 それに、『箱』とか『絶望』とは別に、エリファには気がかりなことがある。


「……エリファ、やっぱり従者のことが心配かい? 今一瞬だけど、不安そうに見えたよ」


 エリファ本人はあまり感情が表情に出ないことを、自覚しているし、他人にもエリファの内心に気づくのは困難であるが、ウィルだけは違う。

 彼だけはエリファの自分でも気づけない表情の変化に気づいてくれる。それは今回も。

 エリファにとって彼の気づきは、不気味なものでもあったが、同時に何処か、ほっと、安心を与えてくれるものだ。


 それはそれとして、ウィルが言った従者のことが、エリファの気がかりなことである。

 従者とは勿論、お調子者のザガと従順すぎるローレンスの事だ。

 『箱』や『組織』の事があったり、何より、この空間に何やら居心地の良さというものを感じてしまった。故に、暫くウィル達と行動することを決めたエリファは、一時間ほど前に、宿泊していた宿に戻り、従者である二人にその事を伝えようとしたのだが――、


「……どこいったんだろ、二人とも」


 その肝心な二人の従者が、忽然と姿を消したのだ。

 静か過ぎる部屋の扉を開け、エリファが足を踏み入れた時には、最早そこはもぬけの殻だった。

 ザガとローレンスの姿も無ければ、それらしき荷物もない。

 そこにあったのはエリファのちょっとした荷物と、ザガが中で眠っていたはずのペンダントだけだった。


 彼らは腐っても従者で、主であるエリファをとても大事にしてくれていた。それこそ過保護な程に。

 だから、彼らが何か出掛ける時は、必ずエリファに一言あったのだが、今回に至っては何もそう言った類の報告を聞いていない。

 何の前触れも無く、エリファの前から居なくなるなど、これ迄に一度として無かったし、考えたこともなかった。


「まあ、大丈夫さ。彼らも、只の者達では無いからね。今頃、君の為に何かしようとしてるんじゃないかな。安心して、そのペンダントの宝石が壊れていないのが、彼らが無事な証拠だ」


「そう、だね……ん」


 確かに、彼らはまず第一にエリファのことを考えてくれる。だから、居なくなったことにも彼らなりの理由があるはずだ。

 それにウィル曰く、ペンダントの宝石とザガの命は繋がっているらしく、それが壊れていない以上、無事は保証されているらしい。

 ならば、今のエリファにできることは、ウィル達と協力し、『組織』のことを探ることだ。


 と、自分に言い聞かせてもなお、不安が拭いきれないエリファの頭にウィルの手が、ぽん、と優しく乗せられた。

 不思議とその感触に、幾ばくか不安は薄れていく。

 

「むー、二人だけでわかんない話しないでよお! 私も会話にいーれーてー!」


「我も混ぜろ、会話が人数が多いほど楽しいぞ! 和気そいそい! だ!!」


「君達が入ってくると話がややこしくなるんだよ! あと、なんだその言葉は、本当に馬鹿だな君は!!」


「馬鹿とは失礼な! いいか、私は『愚者』ではあるが――」


 エリファが暫く頭の上の感触に固まっていると、シリアルとクロが会話に乗り込み、一気に騒がしくなる。

 なんなら先程見たような流れだ。

 この騒がしさにエリファは――、


「…………ふふ」


「お、おお、エリファが笑った……」


「ほらあ、私とクロっちのお陰だね! いえーい」

「いえーい。我も気分が良い! 『臆病』との会話では楽しくなさそうだったからな!」


「お、おい! 僕との会話も楽しかったよね? え、ほんとに楽しかったよね!? つまらなかった!? 僕死ぬよ!?」


「おいおいおい、こんなことで早まるでない!!」


 シリアルとクロに揶揄われて、絶望しきった表情で自分の首を締め始めるウィルを慌てて一行は止めに入る。

 一見冷静なように見えてこの男、中々に精神が弱い。

 だがそんな彼らの様子を見て、エリファの心は随分と落ち着いた。

 大丈夫だ。『彼ら』となら大丈夫だし、『彼ら』なら大丈夫。


「……よし、なんかやる気出てきた。皆、頑張ろう。――世界滅亡。させやしない」


「うむ、その意気だな! はっはっは!!」




 『箱』の奪還へと、世界滅亡の阻止へと、『絶望』達は動き出す――。




※※※※※※※※※※




 ――舞え、可憐な花弁達よ。


 ――舞え、甘い匂いで誘いながら。


 ――舞え、他の何よりも誇り高く、より美しく。



 ――舞え、舞え、舞え。




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