二章第42話 『時詠み』
曇天を無慈悲に眩い光が満たしていく。
灰色の王国の都の空を、明るく覆っていく。
「……止めなきゃ!!」
もはや一刻の猶予も無い、かといって、打つ手も無い。
しかし、それでは終われもしない。
気持ちが急いで無策で空へと跳躍しようとしたエリファ。
その肩を一人の少女が軽く叩き、エリファの無謀を止める。
「――待て」
エリファを制したのはライフェナだ。
先程まで燃え滾っていた彼女の周りの炎熱は、今は静まり返っている。
「でも……!!」
「焦る気持ちも解る。しかし、あれはもう止められん」
――そんなことは分かっている。
まだ魔術が準備段階なら、止めることが出来たかもしれない。自律型の魔法陣は、基本、不具合が発生した時、直ぐに修正できるよう簡単な組み方がされている。
だが、それも発動段階に入ってしまえば話は別だ。
最終調整を終え、発動段階に入った魔法陣は一気に複雑性を増すのだ。
つまり、今はもう、魔法陣自体を何とかすることは出来ない。
それでも、
「……でもこのまま、何もしなかったら、何も変わらない!!」
「だからといって、私達がどうにかした所で、もはや何も変わらん。一旦落ち着け、冷静になれエリファ」
この状況で何をどう落ち着けと、冷静になれと言うのか。
見れば、ライフェナだけではなく、その妹であるリアリナとレヴィアナまでもが、こんな状況下に置かれているというのに、酷く落ち着き切っているように見えた。
はっきり言って異常だ。
『黒』との戦闘中も、この姉妹はどこか緊張感が抜けていたが、この場面になって、その異常性は激しさを増している。
あと数秒後に、王都を巻き込み、自分達の命も危ないというのに冷めすぎている。
もちろん、三人が諦めたという事ではない。
彼女達の目にはまだ生気が宿っている。
「大丈夫だ、待て」
「なにが……!!」
自分とは真逆の態度を取る彼女達に苛立ちすら覚え始めたその時。
天の魔法陣が一際輝きを増し、それと同時に、くたばっていたはずの男が、うつ伏せに倒れたまま掠れた声で笑った。
「……ははは、とち狂ったか姫ども。残念だったな、言っただろう、タイムリミットだと。変な真似をしないように、わざわざ俺を倒すことへと目的をすり替えてやったんだ。部下どもは俺が次の王だとかで、盛り上がっていたが、俺はそんな座に興味もない」
――無力だ。
アンナ領での事件から何度か感じた虚しいような、切ない、空っぽのような感情。
あれから、知識も付けたし、経験も積んだ、けれどもまだ全然足りない。
「俺は、この王都さえ、復讐を果たせさえすれば他には何も、権力も、金も、命すらいらん。あとは勝手に、誰かが新しい時代を築いてくれる。部下は必要最低限しか連れてこなかったしな」
「それで魔導機械兵かぁ、下らない」
「お前らはその下らないものに負けたんだ。残念なのは、『白』の絶望する顔を見れなかったことか」
ここで終わる?
自分が情けないばかりに、無力なばかりに終わる。
幽鬼の力を世界に認めさせる、その目的を全く果たせないままここで。
気づけば、甲高い音が上空から鳴り響き、殲滅魔術発動の警鐘を反響させている。
「もうそろそろか……」
酷く落ち着いたライフェナがエリファの肩を押さえたまま呟いた。
輝く空に、何も出来ないことを、何をしても無意味なことを悟ったエリファはキュッと固く目を瞑る。
そして――、
「さあ、お前らの時代は終わりだ! 一緒に仲良く地獄へ堕ちようじゃないか!!」
――破壊の光が、エリファ達を飲み込んでいった。
※※※※※※※※※※
それは、天の光がそのまま降りて来たかのようだった。
周りは白く飛び、自分の身体さえ見えなくなるほどに眩い光が空間を満たす。
何かが焼けるような高い音。
それと共にやってくるであろう、何らかの衝撃に無意識のうちに身体が強ばり、再び目を閉じる。
が、
「……?」
消し飛ぶなり、焼けるなり、そういった類の感覚が一向にエリファを襲ってくることはなかった。
暫くして、恐る恐る目を開けると、そこには、落ち着いた様子の少女が三人と、倒れる男が一人。
何も変わらない景色があった。
戸惑うエリファをよそに、三人の姫が不敵に笑い、
「ふふ、あらあら、これは」
「あーぁ、終わった終わったぁ」
「ああ。――『勝ったな』」
「――!!」
天を見る彼女達に釣られて、顔を真上へ向けるエリファ。
そこには発動された破壊の光。
そして、
それを防ぐ、巨大な亀の甲羅のような、美しい半透明の障壁が浮かんでいた。
突如として出現した障壁に、衝突した殲滅魔術は、儚く散り、魔法陣も跡形もなく消失する。
「馬鹿な……」
「……同感ね。ほんと、馬鹿げてるわよ」
「…………アンナ」
青冷める『黒』に同意の返事をする聞き慣れた声に、エリファは驚愕と安堵を覚え、その声の主の名前を呟く。
溢れ出す優雅な雰囲気と共に現れた、純白の髪に、宝石のような綺麗な赤の瞳の、誰もが振り向くほどの美貌を持った少女――アンナ・フラクトール・ホワイトはエリファを見るなり、優しげな表情で微笑んだ。
「無事だったのね、本当によかったわ」
「う、うん。……で、な、なに? 今の」
戦闘が始まってから、唯一、一度も姿を見ていなかったアンナ。
この状況での、このタイミング。
天に浮かぶ半透明の障壁の突然の出現には、彼女が関わっているはずだ。
その予想は当たっていたようで、エリファの疑問の視線にアンナは頷き、
「そうね。ちゃんと説明しなければいけないわね。あれは――」
「……貴様、『白』だな……!?」
その会話に割り込むのは、息も絶え絶えな『黒』――ガゼル・グレイドだ。
『黒』はうつ伏せになったまま、顔だけこちらへと向け、アンナを睨みつける。
「あなたが昔あいつに何をされたかは知らないけど、私は『白』じゃないわよ。私はアンナ・フラクトール・ホワイト、あなたが言う『白』は、私の、認めたくないけど、親のことだと思うわ」
「娘、だと……?」
「ええ、癪だけど」
そんな『黒』の態度にアンナは首を横に振り、否定をする。
「――そんなにも母様の愛を受けて、なにが癪なんだか」
自分の親を蔑んだ発言をするアンナ。
そこに心底苛立った様子で口を挟むのは、先程までの軽い口調ではないレヴィアナだ。
エリファには一切見せなかった、冷たい殺意がレヴィアナからアンナへと向けられていた。
「今頃あいつは呑気に玉座に座ってるわ」
レヴィアナが小さく吐いた毒気のある言葉を無視して、アンナは『黒』へと呟く。
「今回もお疲れ様ですね」
「ああ、そうだな、私は早く、紅茶が飲みたい」
「あら、ライフェナ姉様。それ、私もご一緒してよろしいですかしら。珍しい茶菓子が手に入ったの」
そんな傍らで、一大事が過ぎ去った直後だというのにライフェナとリアリナは何やら楽しげなトーンで会話をしていた。
「勿論だ。可愛い妹達の参加なら断る理由もない。……アンナも、気が向いたらいつでも来ていいぞ」
「ハッ!」
そんな呑気な茶会の誘いをアンナは、鼻で笑い一蹴する。
つれないアンナにライフェナは少し寂しそうに、頬を掻くが、その後、そそくさとリアリナとレヴィアナを連れて城の方へと向かっていった。
「姫! 無事だったか! まあ、姫がそう簡単にやられるなんて思ってないけどよ」
「そんなこと言ってエリファさんの顔に、傷でもついていたらどうしようかって、ずっとソワソワしてたじゃないっすか」
「おま!? そ、そんなことねえよ、ずっと信じてたぜ!」
「ザガ! ローレンス!」
それと入れ替わるようにやってくるのが、今回の戦闘の中で途中から別行動をしていた、従者の二人、ザガとローレンスだ。
「姫、俺がいなくて寂しかっただろ? ほら、抱きついてもいいんだぞ」
「……ザガ、敵に頭でも攻撃された? もう一回叩いて、直してあげようか?」
「うわ、姫! じょ、冗談だ! ほら、そもそも今、俺、火の玉だから! 叩く頭ないから!」
「――はいはい、そこまでよ。色々と話さなきゃいけないことがあるでしょう? あ、そいつは片付けておいて」
再会してすぐに、いつものザガとの軽口の言い合いを始めると、それをアンナが手を二回叩いて制止する。
そんなこんなで、アンナに命じられた兵士達が、絶望して固まっている『黒』を含め、倒壊した建物などの、戦闘の痕の片付けの作業をするなか、一行はアンナの言葉に耳を傾けるのだった。
※※※※※※※※※※
「まず、あなた達には、急に姿を見せなくなったことを謝らなきゃいけないわね。ごめんなさい。ただ、勿論これには訳があるわ」
「……うん、心配した。で、何があったの?」
前触れもなく、姿を消し、この出来事において全く、関わっているように見えなかったアンナ。
一番の従者である、ルシアンが言葉を濁していたこともあり、何か訳ありだということはわかっていたが、それだけだ。
エリファ達は、アンナが今までどこで何をしていたのかを知らない。
「『王級魔術』って知ってるかしら」
「……ろいやるあーつ?」
聞き慣れない単語を耳にし、首を傾げるエリファ。
それに神妙な顔つきで答えるのが、エリファの隣の大きな丸石に座ったローレンスだ。
「『王級魔術』……聞いたことがあるっす。国のトップ、正式に王と呼ばれる存在にしか使えないと言われている、謎多き特殊な魔術っすよね」
「そうよ。で、このノワンブール王国の王、アリア・フラクトール・ホワイトにもその力は宿ってるの」
「『白』の王……」
『王級魔術』、聞いたことの無い力だ。
それをアンナの親であり、アンナが敵視している『白』――アリア・フラクトール・ホワイトなる人物は使用可能らしい。
「『王級魔術』は理の外の力。常識は通用しないの。『魔術』がそもそも、常識から外れているけれど、それ以上に強力なものなの」
「なるほど、要するに、その力の関係でお嬢は動けなかった訳だな?」
「理解が早くて助かるわ」
『王級魔術』という特殊な力の影響によって、身動きが取れなかったということを推測したザガが問うと、アンナはそれに頷き、肯定する。
しかし、自分の陣営の者にすら姿を見せられない状況に置かれる程の『王級魔術』の能力とは一体どれ程のものなのだろうか。
その疑問を同じく浮かべていたザガが、続けて問う。
「……で、その『王級魔術』っつうのは、どういう力なんだ?」
「『王級魔術』にも色々あるのだけれど、あいつに宿っているのは、ずばり――『時詠み』ね」
人差し指をビシッと突きつけるアンナ。
その指先と、アンナのなんとも言えない様な表情を見て、エリファは苦笑する。
「……やっぱり、『時』だ」
自分の中の時をスキップさせるライフェナの『時跳び』に、指定した時間に自分の身体の状態を戻すリアリナの『時戻し』、制限があるようだが、ある事象の時を加速させるレヴィアナの『時送り』。
これらからして、ノワンブール王家の者には『時』に関する何かしらの力があると仮定していたが、いよいよをもってその仮定は正しそうだ。
思案するエリファを見て、アンナは「ああ」と、何かに気がついたかのように、呟く。
「私も、一応その血を引いてるから『時』に関する力は持ってるわよ? 私は『時延ばし』ね」
やはり。
これはセレマが抱いていた火傷を負った少女、ルキナも、『時』に関する力を持っているに違いない。
「まあ、今は私のことはいいわ。それで、『時詠み』ね。簡単に言うなら未来予知ってところかしら」
「未来予知? そんなこと有り得るの?」
「それが有り得るのが『王級魔術』と答えるしかないわね。……で、『時詠み』で見た未来のために、私の魔力が必要だったから、城内で必死に練っていたのよ」
「それが、あの障壁……」
未来予知で見た未来、それは、先程の『殲滅魔術』のことだろう。
『殲滅魔術』を防ぐために障壁が必要で、その障壁を展開するためにアンナの魔力が必要で。
そのために、アンナは今の今まで城に縛られていたのだ。
しかし、それなら――。
「……それなら、未来予知なら。先に術者を倒しても、『殲滅魔術』は自動発動するって伝えてくれればよかったのに」
「勿論、出来たら私だってそうするわよ。けど、それは無理なの。あいつの『時詠み』はあくまで数シーンだけの未来予知。その未来に辿り着くまでの過程とかそういうのは吹っ飛ばしちゃって見えるらしいのよ。だから、自動発動するなんて誰も知らなかったの」
「……なるほど」
今までの姫達が使っていた『時』に関する力に、いくつか制限があるように、その元である『王級魔術』の『時詠み』にも制限があるということか。
「でもって、自分達にその事を伝えなかったのは、凡そ、未来を知る人が多くなると、本来の動きとは違う動きをしてしまう人が増えて、その結果、見えていた未来とは違う状況になる可能性がある。それが怖かったからっすね? あとは、単に極秘情報だったとか」
「さすがね、ローレンス。その両方ともよ。……まあ、だから今聞いたことはくれぐれも内密にしなさい」
「……わかった」
真剣な表情で言うアンナに、エリファは頷く。
周りもエリファに続いて、了承の意を示した。
これでライフェナ達の余裕そうな、危機感のない態度にも合点がいった。
見えた未来の内容までは知らなくとも、自分の親が『時詠み』の力を持っていることは知っていたのだろう。
だから、普通にしていれば自分達が負けることはないとほぼ確信していた。
今までも殆ど負けることがないのであろう、恵まれた状況に置かれ続けた結果、ああやって、戦場においても、どこかほのぼのとした雰囲気が抜けなくなってしまったのだ。
「顛末はこんな所かしら。……ああ! それと、エリファ。あなたをあいつ……『白』が呼んでいたわよ。本当は行かせたくないのだけれど、私はまだ忙しいから……信じてるわ」
「…………」
忙しい、そう言ってアンナが目線を移した先には、今もなお、必至に戦闘の後処理をする兵士達。
アンナはその指揮やらなんやらで、この後もやることが沢山あるのだろう。
沈黙して、視線で頷いたエリファは、はて、と疑問を浮かべる。
『白』つまりアンナの母であり、ノワンブール王国の王である――アリア・フラクトール・ホワイト。
その本人に、呼び出されるようなことが果たしてあっただろうか。
なんにせよ、王様直々に呼ばれてしまえば、行かざるを得ない。
アンナはやや不満そうだが、断る訳にはいかまい。それをわかっているからアンナも、止めろとは言わず、信じるといったはずだ。
しかし、その前に、
「……アンナ、一つお願いがあるの」
「? なにかしら」
そう、この王国での出来事を体験した今。
自分の無力さを改めて思い知った今。
言わなければならない。
「……私、この王国を暫く離れたい」
※※※※※※※※※※
城の入口、広すぎる玄関を突っ切って真っ直ぐ、一際大きな、豪華な黄金の装飾なされた扉。
見た目とは違って、スムーズで騒音を一つも立てずに、奥へと開かれたそれを潜り、質素な、それでいてどこか品のある、灰色の石材で出来た空間へと足を踏み入れる。
城で一番、広く、天井も高いであろう『王の間』。
やや薄暗い、この空間。
高い位置に設置された窓ガラスから光が差し、そこに佇む一人の人物を、上品に照らしている。
「――来たようね」
「…………」
「いらっしゃい、『幽鬼の姫』。いつも私の愛娘が世話になっているわね」
この空間への来訪を歓迎する人物、その姿を見てエリファは静かに驚く。
「……本当にそっくり」
透き通る純白の髪に、陶器のような白い肌、そして、炎のような紅い宝石の瞳。
娘にそっくりだ。
身体的特徴がほぼほぼ一致している。
エリファと協力関係にある少女――アンナがそのまま大人になったかのような容姿を、その人物はしていた。
「私は、『白』の王、アリア・フラクトール・ホワイト。まあ、分かるわよね」
エリファは頷く。
これだけ似ているのだ、しかもそもそもこの空間にいるのだからそういう事だ。
この美しい女性が、この国――ノワンブール王国の王だ。
「……要件は何?」
「これからもアンナをよろしく……という挨拶と、私の娘、ルキナを助けてくれたお礼よ」
「ああ、無事だったんだ」
「ええ、従者の……セレマと言ったかしら? その子が連れてきてね。あなたが助けてくれたと言っていたわ。ルキナの『時止め』の力もあって、今はもう元気よ。……改めて礼を」
頭を下げ、優雅に一礼するアリア。
それに対して、エリファはまた頷く。
この空間に足を踏み入れた時から、妙なプレッシャーを感じているせいか、どうもやりにくい。
「何か欲しいものはあるかしら?」
欲しいもの。
それはぱっと思いつくもので、一つしかない。
けれど、それはこの場にはもう無いだろう、と思う。
薄々、そう感じながらも、一応、聞いておく。
「――アンナが持っている完全治癒の『魔法柩』、かな」
「……! ごめんなさいね。その『魔法柩』は、たったさっきルキナの治療に使ってしまったの」
「そうだよね」
そう。
この城の一室で、魔力核が徐々に石化していく病に苦しむ少女――ステラのために、アンナの屋敷での事件で、エリファの瀕死の傷をたちまち癒してみせた完全治癒の『魔力柩』が欲しかった。
しかし、ルキナがこの短期間で元気な状態にまでなったとなると、効果が残り一回だった『魔力柩』は使われたのだろうと、予想していた。
見事、その予想は的中した訳だが、どうしたものか。
「あの『魔力柩』は大陸違いの、アステル王国から贈られた物なの。私の方から、また貰えないか聞いておくわね」
「……うん、よろしく」
エリファは頷きながらも、言われようもない胡散臭さをアリアから感じ取っていた。
アンナが、あそこまでこいつを嫌う訳。
それが見えないからこそ、完全には信用しない。
アンナが信用していないのなら、協力関係にあるこっちも警戒しておくに越したことはない。
「ところで、あなたから見て、どうだったかしら。『黒』は、というより、この一連の舞台は」
「どう?」
その警戒は、正解の方に転ぶこととなる。
アリアから放たれるプレッシャーに底の見えない何かが混ざり込んだ。
「ええ。未来のために、なったと思うかしら?」
「…………」
「私的には、なったと思うのよ。お陰で、あなたも手に入ったし」
「……ふうん」
――なるほど。
対面したばかりで、何となくだが、分かった気がした。
アンナがこいつを気嫌う訳。
アンナが言っていた、あいつは未来の為なら何でもするというような言葉の意味。
「……未来の為に、私が必要?」
「ふふふ、ふふ。ええ! そうよ、あなたが必要! あなたの中のこの国に意味ができた。それは未来のためになったと思うわ!!」
『時詠み』。
未来予知のような力があって。
それで見た何かしらの未来の為に私が必要で。
この事件を未然に防ぐことだって出来たのに、防がない。
それどころか、『黒』がこの事件を起こしたのも、元を辿れば『白』の王、つまりこいつが原因。
ああ、確かにアンナが嫌いそうだ。
――全部。
「……お前か」
「これからも、愛しいアンナと、この国をよろしくね?」
「…………」
全部、納得した。
だが、こいつは勘違いをしている。
確かに、揺れることもあった。
しかし、己の無力を感じるにつれて、再確認した。
「――勘違いするなよ、人間」
「……はい?」
「私は、お前達のために存在しているんじゃない。私の生きる意味は、あくまで私たち、『幽鬼』のため。極論、お前達がどうなろうと私には関係ない。……私は私の為に、私のしたいことをするだけ」
「な、あなたにはこの国に留まる理由が沢山ある筈で……」
「それをどうして、お前が知っているの? ……それと、私、暫くこの国を離れるから。もう、アンナとも話し合ったの。……それじゃ」
唖然とするアリアを無視して、エリファはくるりと扉の方へと身体を向け、それ以上何も言わずに『王の間』を去っていく。
アリアはそれをただ静かに見つめるだけで、エリファの背中に、かけられる言葉は何も無かった。
『幽鬼の姫』が、自分の予想とは大きく離れて、立ち去ってしまった後で、アリアは一人、呟く。
「……何か間違えてしまったのかしら。やはり、あなたは混ざりすぎていて見えないわね」
光の差し込む窓へと、視線を移す。
そこには窓と光以外に何も無い。
ただ一点を見つめて、光の射す方へと細い腕を伸ばす。
「私はあんな未来など、受け入れない。……だから、どんなことでもする。……世界崩壊の未来の前に、――『奇跡』の雨が降る前に」
※※※※※※※※※※
「あーあ。危なかった。危なかった。フェイクはちゃんと機能したみたいだ。流石に死んだかと思ったなぁ」
様々な思惑の交差した『黒』の襲撃。
その一連の騒動が終わり、新たなわだかまりや、不安を残しながらも、復旧作業に勤しむ王都を遠巻きに見る少年が一人。
その少年も『黒』とは別だが、騒動にまた関与した人物である。
「……まあ、当初の作戦は果たせなかったものの、結果は上々。エリファの今の状態が知れたからね」
結論から言うと、少年――ウィル・ライストンは敗北した。
それは、『無危険存在』である『幽鬼』から産まれた『幽鬼の姫』たる少女、エリファの状態が思ったよりも成長していたからだ。
しかし、『臆する病』を司る者である少年は、敗北を喫したにも関わらず、熱っぽい笑みを顔に浮かべていた。
「そうだ。君はそれでいい。君を抑えておくにはこんなちっぽけな都じゃ、狭すぎる」
それこそ、愛する人を思いやるような態度で、少年は呟く。
少年の目標は半分達成された。
達成の悦びに清々しい気分になった少年は、だから笑っている。
「――また、すぐに会えるよエリファ。僕の愛しい人」
――少年を含み、『絶望』は、エリファ達を手招きしながら世界に溶け込んでいく。
だいぶ駆け足でしたが、今回で二章は終わりです。
これからは、一度簡単な登場人物まとめを投稿してから、三章に入るつもりです。
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