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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第40話  『時戻しと時送り』




「――応援に来たよぉ?」

「――助太刀に参りました」


 そう言って『黒』との戦闘に参戦の意を表した二人の少女。

 レヴィアナ・フラクトール・ホワイトと、リアリナ・フラクトール・ホワイト。


 実際に会ったのは今が初めてだが、二人の少女の片方の名前に聞き覚えがある、いや、あり過ぎるエリファは嫌悪感を抱く。


「レヴィアナ……」


 清らかな水色の髪に、金色の瞳。

 特徴的な首から胸へと垂れる赤のリボンと、ギザギザのスカートといった何やら変わった服装の見た目麗しい、レヴィアナと名乗った少女。

 その名前は、半年前に、アンナの屋敷へと刺客を送り込んだ張本人の名前と一致する。


 そもそも、エリファが王都に来た理由の一つがこの、レヴィアナという姫から刺客を送り込んだ際に取った人質の情報収集だ。

 だが、まあ流石にこんな状況で聞くわけにはいかない。


 それを頭では分かっているのだが、エリファの胸の内に広がる名状し難い感情は、激しく渦を巻いていた。

 そんなエリファが無意識の内に、レヴィアナを睨みつけていると、その表情を痛みで苦しんでいると勘違いしたのか、リアリナと名乗った少女が心配そうに、


「痛みますか? 大丈夫ですか? ……ふむふむ、血は出ていますが、怪我の方はそんなに酷くは無さそうです。……魔力切れとショック症状でしょうか?」


 エリファの身体のあちこちを優しく触り、診てくれているようだ。

 そういう方面に長けた人物なのだろうか。

 現に、エリファの症状を言い当ててみせた。

 が、そんなエリファの心情を読み取ってか、リアリナは輝く金髪を揺らしながら首を横に振り、


「あ、ごめんなさい。私、治癒魔法とかそういったものは使えないんです。分析するのが得意なだけで。……ですが、暫く安静にしていれば、魔力も回復しますし、じきにショック症状も収まると思います」


 怪我自体がそんなに酷くないのなら、確かに安静にしていれば、自然と今のエリファの魔力切れも朦朧とした意識も回復するだろう。

 しかし、それにはこの場においては一つ問題がある。


「――その回復って戦闘できるようになるまでどのくらいかかる?」


「魔力がすっからかんな今の状態からなら、二、三時間と言ったところでしょうか。ショック症状は直ぐにでも治ると思います」


 戦闘が再び出来るようになるまで二、三時間。

 その言葉を聞いて、エリファは苦虫を噛み潰す。

 

「……っ!! それじゃ、間に合わない……! 空の魔法陣は王都を消し飛ばす『殲滅魔術』。もう発動まで時間が無いの……!!」


「えい!」


「……何してるの? ふざけてる場合じゃないんだけど……?」


 もう時間が無い。

 そう焦りを感じ始めたエリファ。

 その手をいきなり掴み、どこか気抜けた声を出し、唸るリアリナにエリファは若干苛立ちを募らせる。


 エリファの静かな怒りを感じたのか、リアリナは咄嗟に手を離し、大袈裟に手と首を全力で振って、


「ごめんなさい違うの。急いでいるようだったから魔力供給をしようとしたのだけれど……私の魔力と貴方の魔力、合わないみたい」


 どうやら、突然の間抜けな声の正体は魔力供給を試みたせいだったらしく、エリファは彼女の良心に不相応な反応をしてしまったようだった。


「……いいや、こちらこそごめん。冷静じゃなかった」


 エリファはそんな恩を仇で返すような態度を反省し、リアリナに謝罪する。

 焦りで周りが見えていなかったことを省みることで、少し落ち着きを取り戻すエリファ。

 先程よりは幾分かマシな精神状況で、エリファはリアリナがエリファを落ち着かせるために、わざとああいった掛け声を出したのではないかという思考が脳裏を過ぎる。


 まさか、とは思ったが、リアリナもアンナと同じく、天才の血を持っているかもしれないし、そういった可能性がゼロではない。

 どちらにせよ、彼女のお陰で当初よりは冷静になれたので、内心で感謝しておく。


 すると、当の本人であるリアリナは、申し訳なさそうに呟く。


「いえ……でも結局、魔力供給出来ないんじゃ意味ないですよね……」


 そうなのだ。

 いくら冷静になれたところで、エリファが戦えないということに変わりはない。

 それに、


「いつまで、喋っているつもりだ? 俺を倒さないと魔法陣の発動は止まらんぞ」


 時間は進むばかりだ。

 こうしてモタモタしている時間は無い。

 その間にも『殲滅魔術』の発動の時は着々と近づいている。

 なんとかしなくては。けど、どうする?


 そうやって思考の沼へとハマりかけたエリファに、突如、暫く黙っていた少女が声をかけた。


「ならぁ、私の魔力も試してみるぅ?」



※※※※※※※※※※



 「――――」


 突然の予想外な人物――レヴィアナからの提案に戸惑い、口を開けたままその場で固まってしまうエリファ。

 そんなエリファの様子に一瞬疑問の表情を浮かべたレヴィアナはその後、直ぐにハッとした様子で、


「……あぁ、もしかしてお前、アンナの所のやつぅ? 安心しなよぉ、私がぁ、嫌いなのはあくまでアンナ、一人だけだからぁ」


「え、レヴィアナ、あなた、この方がアンナの所の『幽鬼の姫』だと気づいていなかったのかしら?」


「逆にリアリナ姉、気づいてたのぉ? ……さすが、やるぅ」


「気づいていなければ、見ず知らずの方に自分の魔力を供給させようなんて思わないでしょう」


「あぁ、それもそっかぁ」


 姉であるリアリナと何処か気の抜けた会話をするレヴィアナは、嫌いなのはアンナだけでその他は、特段、嫌悪はしていないと言った。

 その割には、刺客を屋敷へと送り込んだ時、その刺客である『サイコパスあはあは女』はアンナだけでなく使用人等、全員を殺そうとしていたが、それはあくまで『サイコパスあはあは女』のこだわりということだろうか。


「……で? 結局、私の魔力も試してみるのぉ?」


 再度、確認を取ってくるレヴィアナ。

 

 いくら考えたところで、今のエリファの状況だと試してみるに越したことはない。

 抵抗は、ある。

 しかし、手詰まりなのも確かだ。

 あまり時間も無い。だから、エリファは複雑な感情が渦巻くまま、しばしの沈黙の後――、


「……うん。よろしく」


「……誰かとは違って素直でいいじゃん」


「どうしたの?」


「――なんでもないよぉ。じゃあ、いくよぉ。えい」

 

 またどうも気の抜ける掛け声と共に、レヴィアナの綺麗な手がエリファの白い手に触れる。

 そして触れた途端に、二人の手の接触部分を中心に、淡い光が纏い始めた。


「これは……」


「成功。私の魔力がぁ、合うのって実は三人目くらいだよぉ? 私の魔力、あげようとするとぉ、みんなブッ飛んじゃうからぁ」


「え、ブッ飛ぶって何?」


「まぁまぁ、このままいけば回復できるしぃ、気にしなぃ、気にしなぃ」


 何やらとんでもない事を聞いた気がするのだが、結果的には、魔力のタイプが合ったらしく、彼女の言う通りこのままいけば、短時間で回復できるだろう。

 今も、触れた手から全身に力が行き渡っていくのを感じることが出来る。


 ただ――、


「――俺が何もせずに、このままいかせると思うか?」


 『黒』がそれを良しとする訳がない。


 魔力供給の成功の兆しが見えるや否や、すぐさま『黒』はそれを阻止するべく、剣を構え、エリファ達に飛び掛かろうとする。

 が、それに合わせて、迫る『黒』とエリファ達の間に、一人の少女が勇ましく割り込む。


「……このままいかせるために私がいるのでしょう?」


「邪魔をするな、リアリナ・フラクトール・ホワイトぉ!!」


 男の振るう刃を受け止めようと前に出たリアリナ。

 彼女は、右手を前に出し、その掌を中心に魔力の障壁が出現させる。

 行く手を阻むリアリナに迫る『黒』は、激号し、


「なら、まずは貴様からだ!!」


「……ごひゅっ」


 剣を振るった。

 エリファは、『黒』の剣が、障壁を意図も容易く斬り捨て、そのまま彼女の色白の女性らしい肉付きの胴体へと、柔い肌を食い破るのを見た。


 鮮やかな赤が噴き出し、中の臓器を宙へとぶちまける。

 身体が二つに分かたれる直前、彼女の喉から漏れた断末魔はなんとも小さく、空気が抜けるようなものだった。


「うそ、でしょ……!?」


 エリファが目の前で起きた悲惨すぎる光景に目を見開く。


 ――そう、エリファは見た。


 リアリナ・フラクトール・ホワイトの『死』を。


 左右の半身が分かれた状態で、倒れ込んだ少女の身体から、すぐに地面に赤の絨毯が広がる。

 即死。もはや痙攣の一つも起こさなかった、綺麗な死。

 それは見紛うことなく、一つの命の終わりだった、


 ――はずだ。


「……ふう」


 少女の命が終わった、その次の瞬間、妙な感覚がエリファを襲った。

 そして聞こえる、ついさっき死んだ筈の、聞こえる筈の無い少女の声。


 あまりに一瞬の出来事だった。

 幻でも見たのかと自分を疑う程の現象。


 驚愕するエリファの目の前には確かに、()()()()()()()()()()()()優雅に立つ、死んだ少女――リアリナの姿があった。


 あまりにも不自然な、それでいて、さも当たり前のように落ち着いて短く息を吐き、服を払う動作をした彼女は、唖然とする『黒』の不意を突き、左手から衝撃波を出した。

 衝撃波によって押し出された『黒』は、リアリナ含むエリファ達から、大幅に距離を離されてしまう。


「くっ……これが『時戻し』か!」


「あら、ご存知でしたか?」


 未だ、呆然とするエリファ。

 ふと見れば、隣で魔力供給をしてくれているレヴィアナがニヤついていた。


「なにぃ? 気になるぅ? あれが、リアリナ姉の魔術、『時戻し』だよぉ。たしか、戻す地点を予め設定しておいてぇ、その時間まで自分の身体の状態を戻すとかなんとかぁ、フフッ、驚いたぁ?」


「……うん。ほんとに。ほんとに、びっくりした」


 素直に驚きながら、エリファはそこはかとない安堵を覚える。

 ゆっくりと肩をなでおろし、ゆっくりと息を吐くエリファ。

 その様子を見ていたレヴィアナは優しげに微笑み、


「じゃぁ、私もぉ、今の内にちょっと見せようかぁ」


「……? ……!!」


「――『時送り』。私ってぇ、こう見えてサポート系女子だからぁ」


 エリファの手と重ねられたレヴィアナの手が放っていた光が一段と強くなり、その直後、エリファは自身に送り込まれてくる魔力の量が増加したことを感じ取った。


「私はぁ、時間を早送り出来るのぉ、まあ、無防備になったり、色々と制約は多いけどねぇ。今のはぁ、魔力供給を三倍くらいのスピードで早送りしただけぇ。……どう? もう戦えるぅ?」


「……うん、ありがとう。これなら多分、大丈夫」


 『時送り』の魔術を発動した彼女に触れられていた時間は一分くらいだが、その魔術のおかげで、充分動ける程にまでエリファへの魔力供給は進んでいた。


 ライフェナの『時跳び』。

 リアリナの『時戻し』。

 そして、レヴィアナの『時送り』。


 どうやら、この姉妹は『時』に関する魔術を使えることが多いようだ。

 こうなってくるとまだ見たことはないが、アンナとさっきセレマが抱えていた四女のルキナも『時』に関する魔術を持っていそうだが――。


「――――!」


 五人の姫について思考していると、突如として、エリファ達の後方の瓦礫の山が、相当な音を立てて爆発した。

 そこから現れるのは炎を体現したかのような少女。

 ライフェナだ。


「……ああ。これは、かなり堪えた。まあ、自爆だが」


「ライフェナ姉!」


「姉様!!」


「……ん? おお、リアリナとレヴィアナか!」


 振り返ったリアリナとレヴィアナは、瓦礫の中から派手に登場した姉の姿を見て、ぱあっと嬉しそうな表情を浮かべる。

 そんな妹二人の表情を見て、ライフェナは満足気に歩み寄った。


「お前達、無事で何よりだ! 久しぶりだが、元気な姿を見れて、私は嬉しいぞ」


「ふふ、つい先程一度死にましたが、確かに元気ですよ。こちらこそ、姉様に会えて嬉しいです」


「私もぉ、会えて嬉しぃ。ライフェナ姉はぁ、今日もぉ、綺麗だねぇ」


「よせよせ。可愛い妹には敵わん」


 戦場とは思えないほど、ほのぼのとした雰囲気の会話が姉妹で繰り広げられる。

 どうも、この姫達が危機感に欠けているのを、戦が始まってから何度か感じるが、エリファは再会くらい好きにさせてやろうと、半歩引いてその光景を眺める。


「……ああ、すまない。エリファ、君も無事で何よりだ。……っと、そうではないな。二人とも、時間が無い。一気に終わらせるぞ」


 それに目敏く気づいたライフェナは、エリファの方を向き、無事を確認して微笑む。

 が、直ぐに思い直した様子で、妹二人に指示を出した。


「……流石は長女」


 周りをよく見ているし、見た感じではアンナ以外の妹からは慕われているようだ。

 そんなことを思いながらも、エリファは『黒』――ガゼル・グレイドが飛ばされた方向へと視線を動かす。

 見ると、『黒』は丁度、重そうな鎧を持ち上げながらゆっくりと立ち上がろうとしていた。

 そんな『黒』に対峙する、三人の王国の姫と『幽鬼の姫』。


 一歩前に出たライフェナが、我先にと魔力を迸らせる。


「可愛い妹達と一緒に戦えると思うと、燃えてきたぞ」


「姉様。姉様は常に燃えているようなものでは……?」


「確かにぃ」


「……う、うるさいぞ」


 妹達のツッコミに顔を若干紅くして、頬を掻くライフェナ。

 いつまでも締まらない姉妹のやり取りに、エリファはため息をつきながらも、静かに、決意を固める。


「……好きにはさせない。魔法陣も発動させないし、お前もここで止める」


「ええ、エリファさんの言う通り。ここには姫が三人と一人。合わせて四人」


「ああ。――これ以上、好き勝手に暴れられると思うなよ」




 ――――『殲滅魔術』の発動まで、あと四分。



 戦力最高峰の者達は最終舞台に集まった。



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