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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第30話  『第三の歯車』

 


 一同は、比較的落ち着いた様子を見せる、王都の中心近くを進んでいた。

 今まさに、ライフェナにあの爆弾で溢れた場を任せ、離れてきたところだ。

 当然のごとく、簡単に逃がしてくれる訳はなく、あの場から撤退するのにも一悶着あったのだが、ライフェナの支援により、少ない犠牲で離れることが出来た。



「――これからどうしますか?」



 そう言ってライフェナとのやり取りの中、一番静かにしていたルシアンが話を切り出し、止まったのは王城の門の前であった。



「どうするも何も、俺らは遊撃隊だろ? 危なそうな所に駆けつければいいんじゃねえか? ……まあ、その危なそうなところから今しがた逃げてきたばかりだけどよ」


「……逃げたんじゃなくて、任せたから、大丈夫」


「物は言いようだな、姫」


「ええ、まあそうなんですが、その危なそうなところが多すぎるというか。北と南にも敵兵が現れたらしいですし、西にも何かしらの脅威が現れたみたいですからね」



 今の状況を聞いた限り、思った以上に相手の戦力が多い、というのが一同の共通した感想であった。

 ただ、救援要請の出ている、西方面を優先したい気もするが、少年が一人だけ、というのがどうも引っ掛かるのだ。



「自分は、西の一人の少年、どうしてか嫌な感じがするっすね」


「嫌な感じ……」



 確かに、『黒』の兵士達が現れたというのなら分からないでもない。が、西の状況は少年が一人だけという状況である。

 この場合、黒のトップの人物が現れて、その人物が相当の実力を持っていると普通は、そう思う。


 だけど、そうやって、事件の影で何か異様な状況を作りだす。

 そのパターンに一つだけ、たった一つだけ覚えがある。たった一つが強烈な記憶過ぎて、忘れることも出来ず、懸念を抱かずにいられない。


 というのも、



「――『飢餓の絶望』。いや、この場合は何かしらの『絶望』っすかね」


「それは……いささか話が飛躍しすぎてねえか?」


「あくまで可能性だけの話っすよ。何しろ自分は絶望に遭遇したことないし、最近エリファさんと情報屋から聞いたばかりだから敏感になってるだけかもしれないっすから」



 肩をすくめて冗談ぽく、おどけるローレンス。

 ローレンスの聞いた情報屋の発言によると、このノワンブール王国の隣に位置する『フェニス』という国で『飢餓の絶望』、すなわちシリアル・ファングリルが目撃されたとのことだが、それくらいである。

 今回、西に現れたというのは少女ではなく少年であるし、他の絶望達のこれといった目撃情報は全くない。


 それは、可能性が低いことを示しているが、同時に居場所が割れていない『絶望』が現れた可能性がゼロではないことも示している。

 それこそ、ザガの言うように飛躍した話ではあるが。


 そこで、思い出したように疑問を浮かべるのはローレンスだ。



「……そういえば、アンナ姫はどこに居るんすか?」


「ん、私もそれは気になってた。聞くタイミングが見当たらなかったけど」



 本来、この場に居るべき人物。いや、本人の性格からしていないとおかしい人物である、アンナ。

 だが、この戦が始まってからというもの、その姿は一度も目にしていない。

 みるみる変わる戦況に、ついて行くのがやっとで先延ばしにしてきた疑問。

 その疑問を代弁したローレンスの質問にルシアンは少し間を置いてから、どこか困ったような表情を浮かべて、口を開く、



「……すみません。アンナ様は他に『成すべきこと』があると言って……」


「それは、どういうことっすか? ルシアンさんにも知られてないってことっすか? それで、納得したんすか?」



 歯切れの悪い返答に、ローレンスが少し苛立った様子で追及する。

 状況が状況だ、自分達のトップであるアンナの居場所と行動の目的が知らされず、一番そばに居るルシアンが分からないというのは不自然すぎる。


 その追求に、さすがにこのままでは乗り切れないと判断したのか、ルシアンは難しい顔をしながら、



「…………『王』に、頼まれ、いや命令を受けたそうなんです」


「まだ全然足りないっすよ。もっとくわしく……」


「――言えない? ……なら、無理に言わなくていいよ」


「エリファさん!?」



 ルシアンもローレンスもエリファの発言は想像していないものだったらしく、目を見開いて驚く。

 そんな二人のリアクションを気にせず、エリファは続ける、



「『王』に命令されて、しかも、『王』のことを嫌ってるアンナがそれを受け入れたということは、私達にとって悪い事では無いはず。……それに、ルシアンとアンナの秘め事は今に始まったことじゃないし」


「うっ、すみません、エリファ様」


「……別に。謝らなくていいよ」



 痛いところをつかれ、呻き、頭を下げるルシアン。それを宥めながら、エリファはひとつ問いかけをする。



「信じていい?」


「はい。それは、間違いなく」


「なら、とりあえず、アンナのことは今は置いておく。ずっとモタモタしてる場合でも無さそうだし。レンも、それでいい?」


「……エリファさんがそう言うならいいっすよ。……けど、自分はエリファさんの障害になる物は残らず排除するっす、それだけは忘れないでくださいっす」


「ああ、ありがとう。肝に銘じておくよ」



 エリファの言うとりあえず今だけは置いておく、それでこの場は収まることとなる。



「……で、俺らはこれからどうすればいいんだ?」



 ひとつの話題が終わったところで、前の話題をもう一度掘り返すのが、唯一大したリアクションも取らず落ち着いていたザガだ。

 こういう時に、冷静に話を見てくれるザガは、やはり侮れないし、有難い。


 兎にも角にも、ザガのお陰で本来の線に修正された会話は続く。



「――では、手を分けてみるのはどうでしょう」


 最初に提案するのはルシアンだ。


「……そうだね。私も手を分けるのはいいと思う」



 それにすぐさま賛成するエリファ。

 幸いにもライフェナに言われた通り、アンナの陣営は人数こそ他の陣営と比べれば少ないものの、個々の戦闘力は高い。

 この場にいる四人もその部類だ。

 散り散りになってもそこそこ戦えるのがこのメンバーの利点と言える。

 ならば、手分けすることにはあまり反対する要素がない。



「なら、誰がどこに向かうんだ? つっても、あまり戦況が分からないからどうとも言えないか」


「そうですね……北のレヴィアナ様の所には俺が行きましょう。多分、皆さんレヴィアナ様に良いイメージはあまり持っていないようですから」


「自分は賛成っす。一番内情に詳しいルシアンさんが北に行くのが、この中では最適だと思うっす。完全に敵意を向けられてるのに、まだ自分達は会ったことないっすからね」


「たしかに、敵対関係とはいえ互いに顔を知ってるルシアンが行くべきか」



 ルシアン以外のメンバーは、レヴィアナとまだ会えていない。

 こんな戦時に、出会った瞬間に攻撃でもされたらたまったものではない。

 それなら、互いに力を知っている者同士が会うべきだ。

 特には何も不都合はないのでエリファも頷く。



「オーケー。北はルシアンで決まりだな。んでもって西なんだが……」


「――それは、私が行こうと思う」


 北の担当が決まり、西の担当へと話題が移ったところでエリファが名乗りをあげる。


「姫が? そりゃまたどうして」


「ある程度近づけば『生体センサー』を使って、西の状況が早めに分かるから、本当に不味そうだったらそのまま西に行くし、異変がなかったら他の所に行けるし、判断する点においては私が一番速そうだから」


「なるほど、エリファ様なら移動速度という意味でも、群を抜いている……」


「……そう」



 ――こういう状況においては判断は早い方がいい。

 半年前のプレストロイの屋敷で、判断、即ち行動の速さの重要性は嫌という程に思い知った。

 二度とあんなのはゴメンだ。



「ま、俺らは反対しないぜ? そうだろ、レン?」


「…………そうっすね」



 納得して優しく笑いかけてくれるザガと、同調を求められ、不安げな少しぐらついた表情を見せながらも肯定するローレンス。

 ローレンスの行き過ぎのようにも感じる、エリファへの心配性。それに、謝りながらも西にはエリファが向かうことが決まる。



「となると、俺とレンは南……リアリナ嬢だっけか? そいつの所に向かえばいいんだな?」


「そうなりますね、お願いします。リアリナ様は少し変わっていますがお優しい方なので、安心してください」


「おう。ってか今んとこ五人の姫で変わってない奴いねえぞ?」


「まあ、人を引っ張る人達っすからね。少し変わってないとついてくる人もついてこないってことっすかね」



 言外に自分達が仕えているアンナのことも事実だが、変人扱いするザガとローレンス。

 そんな変わっている姫の一人であるライフェナに『変わり者ばかり』と言われた私達も相当だとは思うのだが。


 そんなこんなで、各々の目指す場所が決まり、四人は担当の方角へと急ぎ始めた。




 ※※※※※※※※※※




 西へと向かい、単独行動を初めて数分。

 避難命令が出されたことにより、人気がなくなった、来た時とは打って変わって静かになった、異なる姿を見せる王都。

 エリファは西へと伸びる広めの『大通り』を走っている。


 西といっても思っていたよりも外側でルキナの陣営は構えているらしく、まだ『生体センサー』にはこれといった反応がない、はずだ。


 はずだった。



「こういう時は速さが大事。だから、構ってる場合じゃないんだけど……そうだね。避難命令っていうのはお前みたいな奴の為にあるのかな?」



 一人で歩くには広すぎる整備された道。

 その人のいない道で、エリファはただ佇む『それ』に呟く。


 これが、独り言になるのであれば、それで良かった。


 でも、目の前の黒い影のような『それ』はエリファの言葉に反応を示した。

 こちらをじっと見つめていた『それ』は声を発し、




「……やあ、我らが姫。随分と、そう随分と探したよ」



 ――()()、笑った。




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