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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第28話  『援軍不可』

 


「……ふむ、そうか」



 ライフェナは怯えた様子の兵の救援要請の内容を聞き、顎に手を当てて、落ち着いた声色で呟いた。

 一通り内容を伝え、自分の役目を果たした兵は深呼吸をして乱れた息を整えようとしている。


 が、その安堵もすぐに消え去ることとなる。



「なるほど、大まかな状況は理解した。……が、私達は援軍を送ることはできない」



 ライフェナが酷く冷えた声と表情で明らかに只事ではない雰囲気だった兵に、そう言い放ったのだ。



「――え?」



 ライフェナの急な態度の変化に驚き、兵が口と目をぽかんと大きく開けながら小さく息を漏らした。

 そして自分が目の前の少女に何を言われたのか理解したのか、兵の顔がみるみるうちに青ざめていく。


 隣でそのやり取りを見ていたエリファは兵を気の毒に思うのと同時に、ライフェナが拒絶した理由を思い浮かべて、しょうがないとも思った。


 何故なら――、



「何を疑問に思う、見て分かるだろう。……この黒い鉄屑の群れを。ここも先程アンナの者達の援軍がついてやっと押し返し始めたところだ。つまり、私達には今、他の場所に人員を割けられるほど余裕はないのだ」


「……で、ですが!」


「――それに。……援軍要請は北と南、レヴィアナとリアリナの所にも行っているのだろう。なら、忙しい私達ではなく、手の空いてる陣営の者達が行くべきだ。もっとも北と南も手が空いてないかもしれんが。……もし、私達がそっちに援軍を寄越して、結局両方とも駄目になったら最早笑いも起こらん」


「……!」



 ライフェナの言っていることは正しかった。この場面、人員を減らすのはあまり得策ではない。

 なにせ、この魔導機械兵達はこちらより圧倒的に数が多い。

 ならば、できるだけこちらも被害を減らしながら相手の数を一方的に減らすという戦い方になるだろう。

 そんな状況でこちらの頭数をわざわざ自分から減らすなど愚かと言える。


 正論を突き付けられ、言い返すことが出来ず、かといってこのまま引き下がるわけにもいかず、その場で歯を食いしばっている兵士になおも、ライフェナは言葉を続ける。



「君はルキナの陣営の待機兵だったな。自分の陣営の危機を知らされて確かに焦る気持ちは分かる。……だが、西はあくまで君たちの陣営の担当のはずだ。それに少年が一人と言ったな。私にはどうもその状況に緊迫感を感じん。……わかったのなら戻れ」


「しかし!」


「――執拗いぞ」


「く、くそっ……!」



 未だ納得出来ない兵士に短く言葉を吐いて、魔力を『覇龍の大剣』に込めさせて「これ以上時間を使わせるのなら容赦はしない」という意を見せるライフェナ。

 それを見てライフェナの言葉に従ったのか、はたまたライフェナの放つプレッシャーに耐えきれなくなったのかは分からないが、兵士は振り返り最初駆けてきた方角へと戻っていく。


 既に遠くなったその背中に、



「……すまない」



 嘆くようにライフェナは言葉を漏らしたのだった。




 ※※※※※※※※※※




「――よかったの?」


「……何がだ」


「……いや、聞かなくてもわかるや。ごめん」



 ライフェナはこれがこの場の状況において最善であると判断したからあの兵を突き返したはずだ。

 だが、彼女の表情は苦しみで満ちていた。

 それを見れば、ライフェナ個人にとって良かったのか良くなかったのか聞かなくとも理解出来た。



「エリファ。君に一つだけ言っておこうか。……私はあくまで妹の陣営の担当区域だと、妹の責任だと、そう言って見捨てた訳では無い。――私は『妹』達を信じているんだ」


「――、――そう」



 ライフェナが何を言いたいのか分かるようで分からない。そんな言葉にし難いもやもやとした感情がエリファの中で生まれるが、エリファは彼女の言葉に頷くしか無かった。



「……では、この鉄屑共の殲滅をさっさと終わらせよう。急がねばなるまい理由が出来たのでな、少し手荒に行くぞ」


「……! そうだね」



 ライフェナの言葉にエリファが再度、今回は納得した様子で頷く。

 ライフェナはその頷きを見て満足したのか、ニヤリと笑い、『覇龍の大剣』から炎を撒き散らしながら目下の魔導機械兵の群れの中へと飛び込んで行った。

 エリファもそれに続いて、再び『呪い』の魔術により『咎人の剣(クリミネル・エペ)』を生成してから飛び下り、殲滅を再開する。


 ※※※※※


 落下の勢いを利用して、生成した『咎人の剣』を一体の魔導機械兵の頭部に叩きつけ、そのまま中心機関の『魔力核』もろとも真っ二つに斬る。



「……それも当たらない」



 その横から突進してきた一体の魔導機械兵に言葉を理解できないことを知りながらも呟き、エリファの完全幽体の身体をすり抜ける途中でその機械兵の首であろう部分を掴み、一人の長身の男の元へとそれを投げつける。



「――ザガ」


「なんだ? 姫。ってうおぉわっ!」


「……パス」


「どんなボールだよッ!! ……姫ってたまにこういう破茶滅茶なことするよな?」



 慌ててエリファの乱暴な行動にツッコミながらも、両手で持った大きい鎌で綺麗な弧の軌道を描いて投げられた機械兵を斬り裂くザガ。



「――でも、そういう所もエリファさんの魅力っすよね!」


「……お前、姫ならもうなんでもありだろ」


「何言ってるんすか! そんなこと当たり前っすよ」


「そうだったな! レン。お前そういうやつだったな! ま、俺も姫は誰よりも魅力的だとは思うけどな!」



 近くで同じように魔導機械兵との戦闘を繰り広げているローレンスが会話に満面の笑みで割り込んだ。

 すかさずザガが冷めた反応をするが、それを全く意に介さずに開き直る。

 軽口を挟んだ会話をする、そんな彼の手には銀色に輝く剣が握られていた。


 ローレンスがその剣で、迫ってきていた魔導機械兵の胴体へと一振りすると、金属と金属がぶつかり合う騒々しい音と共にどういうわけか三本の斬撃がその黒い身体を叩き斬った。

 荒々しい切断痕を刻まれながら機能を停止する機械兵。

 最早鉄のゴミと化した残骸を見て、ローレンスが顔を顰める。



「それにしても、無機質と戦うっていうのも疲れるっすね」



 ローレンスがそう言うのも無理はなかった。なにせ、相手はただ指示に従うのみの機械だ。

 普通、生きている者との戦いではお互いに自分の身を守りながら戦うことになる筈だ。

 しかし、その保身行動が機械であるこいつらにはまるで無い。いつだって捨て身で攻撃をしてくるのだ。

 それこそ、魔力核が壊れるくらいの魔法を放って自爆するくらいには。


 流石のルシアンもそれには困ったようで、少し離れて戦っている彼の表情にも若干の疲れが見える。

 本人は自覚していないが彼は戦闘好きであり、並外れた戦闘センスとスキルを持つが、こんな大量の心を持たず思考をしない相手は初めてなのだろう。



「でも、もう少しみたいだぜ。まあ、半分くらいはライフェナ譲が灰にしたけどな。……ほら、レン。パス」


「――っと。ザガさん、ナイスパスっす! あの殲滅力を持ってしても今倒した数の半分っすからね……自分達も貢献できてて良かったっす。あ、エリファさん。パスっす」



 ザガが飛びかかってきた機械兵の一つを鎌の持ち手の部分でローレンスの方向へと突き飛ばし、それをピッタリのタイミングで軽い身のこなしで何気なしにローレンスが綺麗に切り刻む。

 その斬撃たるや一振りのはずであるのに、またも三つに増えていた。


 この、先程からのローレンスが起こす不思議な現象。

 正確にはローレンスの持つ剣が起こす現象。

 名称は本人が分からないと言っていたのでエリファも知らないが、魔術が埋め込まれた魔導具であるらしい。

 振り下ろされた刀身による斬撃に加えて、目に見えない魔力の斬撃が二つ放たれるという魔術が組み込まれていて、その切り傷は三本の大きな爪痕のようである。



「……ん。キャッチ。からの、リリース」



 一体の魔導機械兵を斬ったローレンスの後方から彼を狙うもう一体の魔導機械兵。

 それに気づいていたローレンスは足を後ろに上げて機械兵を蹴りあげ、そのままジャンプして縦に回転しながらかかとでもう一度その機械兵を蹴り、エリファの方向へと飛ばす。

 飛んできたそれをエリファは掴み、横に回転して遠心力を利用しながら機械兵の群れへと弾丸のような速度で投げ捨てる。

 耳を裂くような大きい音を立てながら巻き込まれ、粉砕されていく鉄屑達。



「……驚いた、いいコンビネーションだ」


「結構、この三人で戦うことが多いか――」



 遠目からエリファ達三人の連携を見ていたのか、離れたところからライフェナが賛辞を送ってくる。


 今の戦況を見ると最初と比べて二分の一の数にはなったであろう魔導機械兵。

 今のところ倒した数の半分が、つまりは全体の四分の一がライフェナ単身によるもので、その他がエリファ達と他の兵士たちによるものだ。

 ライフェナ一人の殲滅力が桁外れだが、自分達も手柄は十分だと言える。

 このまま全てが倒されるのも時間の問題だろう。


 が、そう簡単にはいくわけがない。



「――目標地点に先回りしたが、全くウォーカーの姿が見えないと思って、いざ見に来てみれば……何だこの有様は! 我が傑作で遊ぶんじゃない! なぁにが! ゼェゼェ……パスだあああ!?」



 エリファの言葉を遮り、響き渡った怒声。

 それが発された方を向くと、



「……馬鹿な」


「え……飛んでる……?」



 炎と煙の立ち込める、鉄屑でかえった地面から離れて、異様な程に眼を開き、背中から金属の『何か』が生えた一人の男が、



 浮かんでいた。





こんにちは。作者の異音です。

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@ionoritoki

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