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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第27話  『世界で一番の臆病者』

 


 ――どうしてこうも、私は事件に巻き込まれるのだろうか。


『臆病の絶望』――ウィル・ライストンがよく分からない数字の羅列を叫んだのを聞きながらセレマは内心、ふとそんなことを思う。


 自分の村は虐殺されかけるし、王都に来てみたら訳の分からない奴に仲間を殺される。

 何ともまあ、ここまでくると、世界が私になにか恨みを持っているのか、と考えてしまうほど何者かの意思が働いているとしか思えてならない。



「……何を考え事をしているんだい? 僕の攻撃はもう始まっているよ!」


「セレマー! あぶないよー」


「うわっ!」



 ウィルの言葉と同時にセレマの足元がヒビ割れ、不気味な音とともに隆起する。

 その次に起こるであろう現象をすぐに察したセレマは短く悲鳴を上げながら、慌ててその場から倒れ込むように大きく飛び退け、距離を取った。

 ワンテンポ遅れて、隆起した地面から高威力の魔力が柱となって噴出する。


 その柱を見て、セレマはその脅威を改めて実感し青冷める。

 あと少し反応が遅れていたら、今頃は、先程散っていった兵の後を追っていただろう。

 とんでもない威力だ。

 この罠の魔法がどれくらい、何処に仕掛けられているというのか。



「うー。罠が仕掛けられている筈なのに魔力を感じないー。このままじゃ、まずいー」



 ルキナが同じように無数の柱の攻撃を跳ねて避けながら、言葉とは裏腹に抑揚のない喋り方をするのであまり焦燥を感じないが、そうぼやく。

 よく見ると、ルキナの額の白い肌に汗が薄らと滲んでいるので、危機を感じてないことはなさそうだ。


 そして、そのぼやきを聞いて笑うのが『臆病の絶望』――ウィル・ライストンだ。



「ははっ、準備をしてきたと僕がさっき言っただろう。……ああ、でも怖いな。……何かミスはないだろうか。あったら嫌だな。嫌だ。いやだな。こわいないやだ、こわい、いやだいやだいやだ!!」



 見下す態度で笑ったかと思えば、すぐに、頭を抱えて半泣きでそれこそ、絶望した表情で蹲り震え出すウィル・ライストン。

 忙しい奴だ。


 と、その隙を逃すまいと間髪入れずに一つの影が弾丸のような速度で迫る。

 その影、ルキナは魔力が放つ特有の光を纏った両手を結んで頭上へと掲げていた。その両手をウィル・ライストンの胴体へと容赦無く振り下ろす。



「――何を考え事をしてるんだー。私の攻撃はもう始まってるよー」



 振り下ろされた両手を結んで作られた拳がウィル・ライストンの胴体をそのまま捉える。

 ――よりも早く、ウィル・ライストンが大きく目を剥いて早口で叫んだ。



「ひぃっ! プ、プラン! No.125824599!」


「――またトラップ!? ぐっ!」



 ルキナの攻撃がウィル・ライストンに当たる寸前で二人の身体の間で火花が散ったかと思えば、それは瞬く間に威力を拡大させ、大きな爆発を起こした。

 突然の爆発にルキナが驚愕の表情を浮かべ、爆風に呑まれた身体が勢いよく弾き飛ばされる。



「ルキナ!!」



 悲鳴を上げたセレマは紙クズのように吹き飛んだ他の姫と比べて小柄な彼女の落下地点に足を魔力で強化しながら滑り込み、両手でクッションのように衝撃を吸収しながら軽いその身体を地面に叩きつけられる前にキャッチする。

 爆発と自分の動作が巻き起こした砂埃に()せながらも、腕の中で動く少女の柔らかな感触にセレマは安堵を覚えた。


 ――のも束の間。激しい爆発が起こった方向から感嘆の声が上がる。



「――君、速いな」


「……それはどうも」



 見れば、ウィル・ライストンは爆発をルキナと一緒に至近距離で受けたはずなのに、目立った傷は無い。

 セレマの腕から「よっ」と立ち上がったルキナの身体は火傷を負っており、服もただでさえ着崩れしやすいものであるのに最早、燃えちぎれて殆どその機能を果たしていない。

 それに比べて、少年の方はどうか。

 火傷もおろか、その貴族のような服装には一つの綻びも無いというのだ。


 異常だ。道理から外れている。

 この量のトラップを仕掛け、管理する魔力もそうであるし、意識しても微塵もその魔力を感じないトラップもトラップだ。

 それでいて、ウィル・ライストンは臆病だ。故に、あらゆるケースを想定して、備えている。

 だからといって、無限にあるケースをここまで思考できるものなのか。


 ――異常だ。

 この少年を起因とする様々な現象に世界が異を唱える。



「……おっと。そこ、危ないよ?」



 少年の小さな囁きとともに、セレマの背後で大きな破壊の音と悲鳴が鳴る。

 セレマはその音に顔を顰めるも、目の前の少年から、異物から目を離すわけにはいかない。だから、その音に振り返ることはしなかったが、その音はさっきまで散々聞いたものだったので様子は想像出来た。

 おそらく、少年の仕掛けた魔力の柱のトラップが作動して、兵士がまた犠牲になったのだろう。



「――――」



 辺りに満ちる静寂。

 聞こえるのは微かな風の音だけ。

 その場の誰もが息を呑んで黙り込んだ。

 静かにしろと誰かが命じた訳でもない、ただ動けなかったのだ。

 無数に仕掛けられたトラップ。設定された発動条件も分からず、設置された位置すらも分からない。

 故に、自分のどういった動作が思わぬ危機を巻き起こすか計れず、全員が身動きをとることが出来なかった。


 半歩動けば、破壊的な柱が自身の身体を貫くかもしれない。口を開けば、爆発が起こるかもしれない。

 自分だけならまだしも、誰かを巻き込むことだってあるだろう。

 だから、皆が無闇に動くことを自ら止めたのだ。

 その結果がこの静寂なのだ。



 ――しかし『臆病の絶望』はその静寂さえも許さない。



「……ああ、動かなくなったね。まあ、そうなること分かっていたよ。むしろ、臆病な僕がこの状況を想定していなかったとでも思うのかい?」


「――――」



 勿論、問いかけに答える者も答えようと思う者も誰一人としていない。

 少年の言葉を挟んで再び訪れた静寂。


 そこに一つの言葉にならなかった声が混ざり込んだ。



「――あゔぇ?」



 金属の擦れる高い音とともに、どっしりとした鈍い何かが倒れたような低い音がセレマとルキナの背後、兵達のいる場所から発せられた。



「ぐあッ!」「ごふ」「うわぁぁああ!」



 続けて二人の耳に届く様々な悲鳴と呻き声。



「戦場で止まっていたら、殺されるに決まってるじゃないか。君たちはそんなことも分からないのかい?  ……いや、い、今のは、ち、ちがうんだ! 君達を怒らせようとかそう思って言ったんじゃなくて、少し調子に乗ってしまったというか、ひぃっ! ご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!!」



 少年が何やら喚くが、そんなことは全く頭に入ってはこず、振り返ったセレマとルキナは視界に入った地獄のような光景に絶句する。



「柱が、開いてる……?」



 震える声で呟いたセレマの視線の先、いくつも(そび)え立った、今もなお逃げ惑う兵士達の足元から噴出し、その数を増やしている魔力の柱。

 一部のその背の高い柱の先端部分が膨れ上がり、まるで花の蕾のようにその花弁を開かせていた。


 開いた花の中心部からそれは産み出される。

 プカプカと浮かび上がり光を放つ球体。

 種のようなそれはある高度まで浮上するとピタリと止まり、次の瞬間、地上の兵士へと向かって弾丸のように降り注いだ。


 トラップを警戒して動けないでいた兵士達を一人、また一人と『種』が的確に撃ち抜いていく。

 崩れ落ちる兵士の身体と飛び散る鮮血。



「――ご覧の通り、僕の花達は種を飛ばす」


「柱じゃなくて茎だった……!?」



 動くとトラップが発動し、動かないでいると種に撃ち抜かれる。

 それは、静と動。ここにいる者達全員のの静と動の両方が、一人の少年によって掌握されたことを示していた。

 それは当然の如く、セレマやルキナも例外ではなく、



「……セレマ! 避けて!」


「きゃっ!」



 ルキナの声に反射的に身を反らし、寸でのところで弾丸を回避するセレマ。

 しかし、その動作が足元のトラップの作動条件を満たしてしまい、隆起した地面から柱、いや、茎がその姿を現す。



「『ブースト』ッ!」



 魔力を無理矢理両腕へと流し込み瞬発的に強化して、身体を反らしたままその両腕で頭の近くで地面を掴むセレマ。

 地面に付いた両腕を支点にしてバク転して茎の噴出を避ける。


 幸いにも再び地面に足をついて体勢を立て直した地点にはトラップが仕掛けられておらず、茎の追撃はない。



「助かった……けど、このゆっくりしてられる時間もあまりない」



 少しすれば、先程の弾丸がまたセレマを目掛けて降り注ぐだろう。

 だからあまり、じっとしてもいられない。

 でも、無闇に動くとトラップが作動するので動き回る訳にはいかない。


 最初の茎の攻撃を避けた兵達も、着実にこの茎と種の凶悪すぎる連携によって数を減らしている。



「――セレマ」


「うん」



 状況はいたって最悪だ。

『絶望』。その言葉がピッタリである。

 このままでは、どのみち全滅だ。


 ――ならば、全力で短期決戦を仕掛けるしかない。


 同じく攻撃の波を逃れたルキナに呼びかけられセレマは視線を送り、両者が同時に決意の表情で頷く。

 今のままやられるくらいなら、全力で。



 セレマは元々、魔力を上手く使う事が出来なかった。

 だから半年前の村での事件では立ち向かうことも出来ず逃げ回るしかなかった。

 しかし、王都に来て、ルキナと出会うことによって一つの可能性を見出された。

 ルキナは魔力というものをよく研究している。

 そのルキナが言うには、セレマの魔力は変わっている、だそうだ。

 魔力の質が高い割には、燃費が悪く、属性が欠損しているらしい。


 ――普通の使い方は出来ないねー。だけどー、使いようによってはーすごいことになりそー。

 彼女にそう言われ、彼女の指導の元、王都に来てからずっと特訓しているその使い方。

 まだ、半端ではあるが今は、後先考えずに使うしかない。



 セレマは息を吸い込み、そして、その()()の名前を呟く。




「――『無尽蔵の(アンリミテッド)加速(ブースト)』」






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