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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第24話  『時跳びの魔術』

 


「おいおいおいおい! どんな火力だよ!!」


「…………え?」



 一瞬の内に焼け焦げた目の前の空間。

 鼻を刺す焦げた臭いと肌に感じる膨大な熱量。

 群がっていた魔導機械兵の数を目に見えて減らした、馬鹿げた威力の一撃。これは、たった一人の少女によって起こされた。

 当の少女、ライフェナは、ふう、と息を吐きこちらを振り向いてその愛らしい表情に疑問を浮かべると口を開き、



「――どうした? 数が減ったと言えども絶対数が多い。まだまだ残っているぞ、君達も早くその力を魅せてくれ」


「どうしたもこうしたもねえよ!! お前、いつの間にあんな膨大な量の魔力を練ってたんだよ!?」


「……まさに今さっきだが?」



 ザガの思わず早口になった言葉に、余計に疑問の表情を強めるライフェナ。

 ザガのツッコミ所は正しい。これ程までの破壊力を持った魔法を行使するには、その威力に比例した膨大な魔力が必要である。

 自身が扱いきれないほどの魔力量を内に秘めるエリファであっても、同じ攻撃を再現しようものなら魔力を練るのに、言わば詠唱するのにかなりの時間を要するだろう。


 だが、ライフェナは魔力を練る素振りを一度も見せることなく目の前の現象を起こしてみせた。

 こういう、意味のわからないことには大体、ある一つのものが関係している。


 ――『魔術』だ。



「……流石ですね、ライフェナ様。『覇龍の大剣』と『()()()』を合わせた圧倒的な使い方はライフェナ様にしか出来ない使い方です」


「そんなに便利な力ではないがな。お喋りはここまでだ。――さあ、舞えッ!」



 再び、ライフェナの持つ『覇龍の大剣』と呼ばれる刀身の赤い剣が腫れ上がり熱を帯び始める。

 次の瞬間、今度は先程よりも威力は下がっているが、炎の刃が三方向に別れながら魔導機械兵を塵へと変える。

 そのまま、ライフェナは魔導機械兵の群れへと覇龍の大剣を華麗に振りながら突っ込んで行った。


 その様はまるで炎の龍が踊り、舞うようで――、



「……で、ルシアン。あの魔術って何? その『時跳び』ってやつ?」


「ええ、ライフェナ様の持つ魔術『時跳び』の力ですね。『時跳び』という魔術はその言葉通り、時間をスキップ出来る魔術なんです」


「時間をスキップ……?」


「本人曰くその効果範囲は自分の中だけに限られるそうですが、先程のは魔力を練る時間。つまり、詠唱時間をスキップしたという所でしょうか」



 成程、だからあれほどの超威力の魔法を隙を殆ど見せることなく発動させることが出来たのだ。



「それに、ライフェナ様が持つ『覇龍の大剣』ですが、遥か昔に邪神を追い払ったという覇龍、実際にその鱗から作られたと言われていて、魔力を込めれば込める程に飛躍的に火力が上がるといった伝説的な『魔道具』なんですよ。あんな使い方を出来るのはライフェナ様の他にいないでしょう」



 だが、その荒い使い方では魔力を激しく消耗してしまうだろう。

 まず、魔術を発動させるために魔力を使う筈だ。

 次に、『覇龍の大剣』に魔力を込めるという、二段階の魔力の徴収が彼女の身体の中では起こっているはずだ。

 そういったところを、あまり便利な力ではないとライフェナは言ったのだろうか。


 ともかく、ライフェナが怒涛の勢いで数を減らしているとはいえ、魔道機械兵の全体の数は留まることを知らずどんどんと波のように押し寄せている。

 このままでは、ライフェナが言った通りにジリ貧だ。

 自分達も参戦しなければ。



「……『咎人の剣(クリミネル・エペ)』。まずは、とにもかくにも相手の数を減らす!」


「おう!」「了解っす!」「やりましょう!」



 エリファが『呪い』で黒の剣を生成し、先に突っ込んで行ったライフェナに続いて魔導機械兵の群れへと駆ける。

 同時に、人化したザガ、ローレンス、ルシアンも散開してそれぞれ殲滅戦へと向かう。



「『呪いの鎖(チェイン)』!」



 一体の魔導機械兵の足下から黒い鎖が生え、金属の身体を縛り付け、そして、その身動きが取れなくなったのを確認して容赦なく片手に持った『咎人の剣』を縦に叩き付ける。頭から入って胸の辺りまで切り込んだ黒の刃は動力源である魔力核に到達し、魔導機械兵の機能を停止させる。



「――当たらないよ。そんなの」



 後方から寄っていた魔導機械兵がエリファの背中を腕に搭載された回転する刃で切り裂こうとするが、その物理攻撃は『完全幽体』の体質魔術があえなく無効化する。

 エリファは瞬時に振り返り、『咎人の剣』をもう一本生成して低姿勢で魔導機械兵の懐へと潜り込み魔力核へと剣を突き立てた。


 僅かな時間の攻防で破壊された魔導機械兵は爆発することも無く、制御を失いただの鉄屑となり崩れ落ち、



「……一体一体はそんなに強くない。でも、囲まれた時に――」



 エリファの視界に無数の光が映り込む、その青白い光は先程、地面に大きく穴を開けた光線と同じであった。



「『禁呪:かごめかごめ』!」



 その光がエリファの身体に到達するよりも僅かに早く、エリファの周囲を地面から生えた黒い壁が囲む。

 光線の進行方向を阻む、いつかヴェルラという王国騎士にトドメをさした黒い壁。

 だが、その黒い壁は自らの魔力核自体を傷つける自爆のようにも思える何本もの光線の威力に耐えられない。



「壁にヒビが――!」



 壁に亀裂が入り、それは一気に拡がる。壁が派手な音とともに崩壊する――直前にエリファは壁が稼いだ時間で高く飛んだ。

 対象を失った光線は互いにぶつかり合う衝撃で、大きく爆発する。

 ライフェナの攻撃にも引けを取らない熱と衝撃波が空中のエリファを襲い、かなりの距離を飛ばされるが、バランスを早い段階で取り戻し、その間にも大きな重量級の黒い剣を生成して落下させ、魔導機械兵達を押し潰しながら、綺麗に瓦礫の積み重なった地面に足をつける。



 見れば、エリファが先程まで立っていた地面には円形に穴が空いている。

 その周りでは、自らの力を使い果たし機能を停止させ糸が切れたように崩れる魔導機械兵達の姿。



「――囲まれた時に、こうなる」



 この魔導機械兵達、個々の能力は低いが、多勢に無勢というやつだ。このように囲まれて光線を撃たれでもしたら普通の兵士は無事では済まない。

 圧倒的な数の暴力。言い表すならこれだ。



「……ひやひやしたが、あれだけの数の光線を撃ち込まれて大したダメージを負わないとは君は噂通り、いや噂以上のようだな、エリファ」


「あ、ライフェナ」



 修羅場から一旦距離を置いたエリファに、大剣を担いでいるというのに身軽な様子で瓦礫から瓦礫に飛びながら近づいてきたライフェナが横に並び、顔は向けずに声をかける。

 だが、そういうライフェナも傷という傷は負っているようには見えない。



「現に今までに多くの私の兵が、同じような状況で光線で命を散らしている。本当に下らんな、命には命をもって。というのが道理だろうに」



 ライフェナが戦場を見下ろして奥歯を悔しげに軋むほどに食いしばる。

 自分の部下達が魔導機械兵という道具に刈り取られていく苦痛はきっと想像を絶するものだろう。



「――それはさて置き、流石はアンナの部下達だ。数が少ないというのに、皆、多くの鉄くずを破壊しているようだな。ルシアンの実力は知っていたが、他の者も中々のものだ。君達のお陰で戦況を押し返し始めている」



 エリファもこの瓦礫が積み重なって出来た高台から戦場を見下ろしているが、見た感じではライフェナの言う通り、鎧達の数が徐々に減り始めていた。

 自分達が参戦した、恩恵は少なからずあったという訳だ。

 もちろん、ライフェナ自体の殲滅力には誰も適わないのだが。

 それよりも、相手の自爆が多い気がしないでもない。


 なんにせよ、このままいけば――



「……このままいけば、削りきれる」


「――ライフェナ様!」


「どうした?」


「少しお耳に入れたいことが」


「うむ。落ち着いて話せ」



 突如として一人のアンナ領ともライフェナの部下とも違う()の腕章をはめた兵士がライフェナに息を切らしながら駆け寄って、王国騎士の作法で一礼する。

 ライフェナの許可を貰った兵士は深く息を吐いてから、もう一度吸い込み、



「西、北、南にも敵が現れました。……しかし、北と南はどちらも『黒』と名乗る兵士達なのですが」


「うむ、まあ来るだろうとは思っていた」


「西のルキナ様が担当する区域だけ、どうやら様子がおかしいらしく……」


「様子がおかしい?」


「はい。――少年が一人だけ。たった一人だけ現れたそうなんです、にも関わらず救援要請が……」



 酷く怯えた様子の兵士。


 熱によって焦げついた空気が、ピリッと肌を刺す空気に変わる感覚がした。





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