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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第23話  『黒の鉄屑』

登場人物増えてきたので、二章の途中か二章終わってから登場人物まとめでも作ろうかなと思っております。

では、今回もよろしくお願いいたします

 


『――王都の東。兵舎が集まる場所に、謎の生命体が現れました!!』



 駆けつけた兵士の報告を聞き、敵が現れたはずの王都の東へと走る、エリファ一行。

 敵の戦力は、この国の武力が集まっている兵舎へと向けられた。間違いなく、そこを落とされるのはまずい。



「……何処から現れるかと思っていたら、兵舎に真っ先に来るとは……」


「でも、確かにそこを早い段階で一気に突破されたら、普通は自分達の負け確定っすよね」



 エリファの一歩前を走るルシアンの呟きに、半歩後ろを走るローレンスが答える。



「ええ、多分奴らは俺達が準備出来ていないなら、より早くに武力を封じ込めた方がいいと思ったのでしょうね」


「……だけどよ、ルッシー。たしか、兵は他の姫達が連れ回してるんだよな?」


「そうですね、王の呼びかけで姫達は各々動いているはず。兵舎に武力は集結していない。それに少なからず、全く準備出来ていない、ということは無さそうですね……確か、東はライフェナ様の派閥の者達が担当しているはずです」



 仮に兵舎が敵の手に堕ちたとしても、最悪の事態にはならずに済みそう、といったところか。

 だが、痛手には違いない。


 ちなみに、今回の戦いの布陣はこうである。

 東はライフェナの派閥、西はルキナの派閥、南はリアリナ、北はレヴィアナで、エリファの属するアンナの派閥は状況に応じて動くというものだ。

 元々、アンナの兵はまだ到着していないので、大きな戦力としては見られておらず、これとした担当区域は与えられなかったのだ。


 最初はそれを聞かされた時、自分達も戦えると抗議する気持ちも若干あったのだが、



「……この布陣で結果的に良かったのかもしれない。これだったら、私達が自由に動ける」


「ああ、姫。そうだな」



 なにも『お前らは戦力として見てないから戦うな』と言われている訳では無い。

 自分達は戦闘が起きた場所へ駆けつけて、いい所だけ貰っていけばいい。そう考えると、このポジションが一番手柄を得るチャンスが多い気がする。


 だからといって、一番優先すべきは手柄ではなく事態の収束であるということを忘れてはいけない。

 出来るならこちら側の被害を出さずに解決するのに越したことはないのだから。



「今回の戦いで私達がやらなきゃいけないこと……結構見えてきた気がする」



 つまり、エリファ達の動き方はピンチな場面に駆けつけるという、要は、『遊撃隊』のような立ち回りをすればいいのだ。




「さて……この辺ですね」



 ルシアンが声を上げ、立ち止まる。それに続いて、後ろを付いていたエリファ達も止まり辺りを見渡す。

 エリファ達の視界には横に長い形状の兵舎と思しき白い建物が所々崩壊しつつも形を保っていた。


 周囲でなり止むことの無い爆発音。

 見ると、兵舎の前の庭で白を基調とした制服と黄色の腕章を身に着けた者達が戦闘を繰り広げている。


 その相手は――、



「黒い……鉄の、兵士?」



 白い制服の『王国騎士』達が相対する敵は見たことも無い表面が金属特有の光沢を放っている無機質な黒い鉄の塊。

 見た感じ二本足で歩いており、腕も二本ある。しかし、それでも人、と言うのは難しく、その様はさながら一人でに『歩く鎧』のようであった。


 その歩く黒い鎧が無数に群がり、眼前の兵舎を壊さんと波のように押し寄せていた。



「――ッ!! エリファさん! 伏せるっす!!」


「え? ……うわっ!」



 エリファが駆けつけた戦場の状況を整理しようと思考を張り巡らせていると、横で後方を見つめながらローレンスが叫ぶ。

 咄嗟にローレンスの見る方向に視線を向けると、離れている黒い鎧の胸あたりから何やら青白い光がエリファの頭目掛けて放たれていた。

 その空を物凄い勢いで切り裂き高い音を唸らせる明らかに破壊力の持った光をエリファは反射的にローレンスに言われた通りにしゃがんで避ける。


 身体が吹き飛びそうな風圧と共に空振った光の飛んでいった先、凄まじい爆発音を轟かせた着弾地点に視線を移すと、その地面は人の全身が隠れられる程の穴が深く抉られていた。



「ビームとか、うっそだろ…………」



 ぽつりと駆けつけたエリファ一同が抉れた地面を見て唖然とする中、ザガが一人「信じられねえ」といった言葉を本人が意識した訳ではなく、自然と漏らす。

 目の前で起こったほんの少し前の現象にエリファ達の誰もが黙り込む。


 その静寂を破ったのは、愕然とする一同に堂々とした態度で近寄ってくる、爆煙の中から凛々しい表情で現れた少女であった。



「おお。誰かと思えばルシアンではないか。……ということは君達はアンナの所の者達かな?」



 その少女を見た時、一番に意識が向くのがその燃え上がるような赤の髪だろう。長めのポニーテールが作られた赤の髪からは見ているだけで熱さえも感じた。

 瞳も同じ赤。これには既視感を覚える。

 身には一見ゴツゴツとした凹凸が多いように思えるが所々から肌が見えるような軽装の鎧を纏っている。


 炎の中から炎が出てくるそんな不思議な感覚に囚われそうになる美しい容姿の少女の言葉にいち早く反応したのが、名前も呼ばれていたルシアンである。



「ライフェナ様! ご無事でしたか!!」


「うむ、こんなものでくたばる私ではないぞ。そちらこそ無事で何よりだ」



『ライフェナ』という少女を指す名前を聞き、エリファは顔を無意識の内に(しか)める。

 それもライフェナという名前はたしか、アンナが嫌う他の四人の姫の中にあった覚えがあるからであった。

 が、そんなエリファの様子に気づいたライフェナは穏やかな表情をエリファへと向け、



「なに、アンナは私の事を嫌っているようだが、私自身はアンナのことを特別に嫌ってはいないから安心しろ。むしろ妹として大事に思っている」



 そうやって言葉をかける。確かに、目の前のライフェナという少女はエリファ達を毛嫌う様子も嫌な感じも全く無く、むしろ第一印象だけでいうとこちらを心配するような様子を見せてくれたので好印象である。

 ライフェナとアンナの二人、いや、四人の姫とアンナの五人の裏には複雑な何かがあるのだろうが、今はそんなことを考えている状況ではない。



「ところで、君達は助っ人……ということでいいのかな?」


「……うん」


「そうか! それなら助かる。何しろこいつら手強くてな」



 エリファが自分達が助っ人であると肯定すると、真剣な眼差しと口元に笑みを浮かべ、こちらの手を勝手に握って握手してくるライフェナ。

 随分とグイグイくるな、と思いつつもエリファはライフェナのそんな態度に不思議と不快感は感じなかった。



「……こいつらは一体何者なんすか? さっき、途轍もない威力の光を放たれたんすが」



 あまり『ライフェナ』という言葉に反応を示さなかったローレンスがライフェナ達が戦っている黒い鎧の者達が何なのかを質問する。

 ライフェナは一度、頷いてから口を開き、



「――何者でもないな。一つ言うとすれば、こいつらは人ではない」


「人ではない……? じゃあ、鎧が勝手に歩いてるとでも言うのか?」


「勝手にでもないな。数体、破壊してみて分かったことなのだが、こいつらの胸の部分には大小様々な『魔力核』が埋め込まれていてな。間違いなく、その『魔力核』から産出される魔力を動力に動いているというのが私達の見解だ」


「『魔力核』が……?」



 ローレンスに続くザガの質問に答えるライフェナ。

 それによると、色々な所でその存在の大切さを披露してきた『魔力核』という器官、人によっては第二の命と呼ばれるその『魔力核』がこの動く鎧一つ一つに嵌められているという。



「ああ、これらは人の手によって造られた『擬似生命体』。私達はこれらに仮ではあるが『魔導機械兵』という名前を付けた。この魔導機械兵どもは設計者の意思に従って動いているはずだ」


「……なるほど。死ぬことに恐れがないからあんなに高威力の魔法を自分の身に構わず撃てるのか」


「その通りだ、君の名前は?」


「エリファ」


「そうか、君が噂の『幽鬼の姫』か!」



 短い自己紹介を交えながら質問と回答と各々の見解が飛ぶ会話。

 エリファの名前に大きく興味を示すライフェナであったが、それも一瞬で、近くで鳴った爆発音の方を向き苦しい表情を浮かべる。



「ともかく、……馬鹿にしているのか、そう私はこの状況に対して言いたいものだ」


「馬鹿に……ですか」


「うむ。これ程の戦況に相手の命がひとつもない事がその証拠だ。こちらの命は散っていくというのに、やっとの思いでこれらを倒しても失われるのは資源だけ。命と命の釣り合いすらまともに出来んようだ」


「なあ、それってつまり」


「ああ、あまりいい状況とは言えんな。……この『魔導機械兵』達は思った以上に手強い代物だ。このまま戦っておればこちら側のジリ貧だろう」



 その通りである。こちらの兵士たちは生きているからこそ、死んだら取り戻すことは出来ないが、相手は生きていないから死ぬこともなく消えるのは資源だけ。

 戦争には暗黙のルールがあると聞いた事がある。

 この魔導機械兵は非人道的であり、そのルールに反しているような気もするが。



「まあ、だが助っ人が来たからには負けん。君達にはこの魔導機械兵を出来るだけ多く撃退して欲しい、頼めるか?」


「うん、任せて」


「ああ。頼りにしているぞ。アンナの所の者は変人ばかりだと聞くがその分強者揃いだと聞く。特に、エリファ。君は我らが『王』ですら一目置く存在だ。活躍を期待している」



 ライフェナが奮い立たせるような激励の言葉をエリファ達へとかけ、黒い鎧達が跋扈する方へと向き直って一歩前に踏み込み、



「では……――我はライフェナ。戦場へと立つ破壊者なり。我が『覇龍の大剣』にて、有象無象の鉄屑共を薙ぎ払わん! 踊る相手が無機質であろうと我は美しく舞ってみせよう!! ……『龍舞の一閃』ッ!!」




 次の瞬間、時間がうねるような感覚とともにライフェナが振るう赤き刀身が数多の黒の鎧を跡形もなく消し飛ばした。




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