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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第19話  『光と影』

 


 ――これは、マズイな。


 各々、色々な種類の武器を装束から取り出したザガの周りを逃がさないように囲む無数の『黒』達。

 その手に構えられた武器はそれぞれ違う形をしていたが、いずれも刃を白く光らせており、人を殺すという行為に特筆した形状をしていた。



「あー、盗み聞きしようとしたことは悪いと思ってる。けど、正直よく分かってないんだわ、だからここは見逃してくれるとうれ――」


「却下だ」


「まあ、だわな」



 じりじりと、四方八方からザガの行動範囲を狭めるように距離を徐々に詰めてくる『黒』達。

 先程からザガとの会話に一応の返答をしている男が、この組織とは言わないまでも、この場を仕切っている人物だろうか。


 表情は目以外を覆う黒い仮面に隠れて読み取れない。だが、その唯一伺うことの出来る瞳には一人残らず鋭い殺意を浮かべていた。



「……やれ」



 リーダー格であろう男が短く、そう指示すると、周りを囲んでいた『黒』の一人が凶器の刃をこちらに向けて、無言で飛びかかってきた。

 その突発的な攻撃にザガは何も無い空間から大きな()を取り出し、その攻撃に素早い慣れた動作で応じる。



「うおっと! 危ねぇだろうが! 身体に傷が残って姫に引かれたらどうすんだ!」


「『収納魔法』だと……?」



 右手で持った鎌を地面に突き、左手を上げてザガは激しく抗議する。

 だが、『黒』の男が反応を示したのはザガの叫びではなく、何も無い空間から突如として現れた何処かに仕舞うには大きすぎる鎌に対してだった。

 眼前で起きた現象に仮面の奥の目が見開かれる。



「お? なんでまたそんなオーバーなリアクション……ああ、そうか、そうだった。たしか、結構これ難易度高かったか?」



 予想だにしていなかった『黒』達の大きな反応に、一瞬、何事かと思ったが、直ぐに直前の自分の行動を思い返して独り納得する。

 ザガにとってはこの『収納魔法』は使い古した術だが、



「……癖で使ったのは間違いだったか」



 この『収納魔法』せいで、より周りを取り囲む『黒』達のザガに対する警戒心を高めてしまったらしい。

 囲む『黒』達の後ろの方の見張っているだけだった者達も武器を取り出し、臨戦態勢を取り始めてしまった。


 次の瞬間、ザガとの距離が比較的近い『黒』が複数、一斉に攻撃を仕掛けてくる。



「――シャアッ!」


「よっ! おっと! ……数が多いけど、まだあん時の『捕食者』に比べれば全然マシだ、なっ!」



 上から真下へ叩きつけるような仮面の一人の剣撃を持ち手の鈎柄で受止め、跳ね返し、横からのもう一人の細剣の刺突をそのままの流れで鎌を回転させて弾き、少し遅れて足首を捉えようとする三人目の短剣の斬撃を背中の壁を鎌で壊し、空いた空間に後ろに飛んで避ける。



「壁で追い詰めたと思ったか! こんなもん壊せば障害物にもなりゃしねえよ! ぐおっ!」



 後ろに飛んだザガを逃すまいと、『黒』の一人が大きく地面を蹴り、宙に舞うザガに空中で追いつき短剣を身体に突き刺そうとしてくるのでそれをザガは身を捩りそれを辛うじて直撃を逃れる。



「空中にまで攻撃するとか! お前ら節操無しにも程があるぞ!」


「ちっ……ちょこまかと鼠のように……」



 ザガが複数の攻撃をやり過ごし、驚異的なバランスで足から綺麗に着地すると、リーダー格の男の黒い仮面の下から舌打ちが鳴った。

 それでも、結構な距離を取ったにも関わらず、すぐさま統率のとれた動きで迅速に再び包囲する『黒』達にザガはかつての『捕食者』達とは違うタイプのやりづらさを感じずにはいられない。



「お前ら、さながら軍隊みたいな動きをするな……ま、とりあえず、俺は姫の為にも生きて帰るぜ。まだ、今の姫には俺が必要だからな」


「先程から貴様、姫だと!? お前は五人の姫、どれかの刺客か!?」



『黒』達は『姫』という単語を最初は聞き流していたが、今回はその単語に裏返った声で激しく反応する。



「やべえ。肯定も否定もできない質問きた。で、なになに? お前らに『姫』っていう言葉、地雷だったの?」


「……否定なし、か。ますます、貴様を生かしておけなくなったな。――全力でこいつを殺せ!」


「はっ!」



 咄嗟に返答ができなかった。

 しょうがないじゃん。エリファがアンナに仕えてる以上はエリファの従者である俺もアンナ領の者だし、だけど、別に個人的にはアンナに仕えてるつもりはなくて、あくまでエリファの命令最優先だし。


 立場上は肯定。気持ち的には否定。

 両者がせめぎ合って瞬時に口から言葉が出なくなったのだ。


 嘘でも違うと言えばよかったのか。まあ、嘘を言ってもこいつらは信じないだろうし、信じても殺されることに変わりわない、そしたらば、



「……即退散! 『ブースト』! からの『フラッシュ』!」



 毎度のお馴染みの身体強化魔法である『ブースト』で足腰を強化し、続いて『フラッシュ』と呼ばれるその名の通り自分の身体を中心に強烈な光を放つ、視界妨害系の魔法を唱える。



「しまっ――!?」



 白い閃光で満ちた空間を、ザガは迷いなく強化された足で駆け抜けていく。

 それも、



「サングラスかけてっからな、もちろん俺には効かん」



 この『フラッシュ』という魔法の弱点といえば、術者自体の視界も奪ってしまうことにあるのだが、それを黒いサングラスでしっかりカバー。


 逆にザガの動きを見逃さまいと目を見開いていた『黒』達には大分効いたらしい。

 振り返るとその場の者達全員が、目を抑え悲鳴を上げながら、なかには転げ回りながら悶絶する様子が見える。



「とりあえず、情報収集はこれ以上出来そうにないし、姫の所に急いで戻るか。役割分担と言えどもやっぱり近くにいねえと不安だ! あと、俺の中の姫パワーが切れそうだしな」



 それ以上、後ろを見ることをやめ一目散にその場から離れていくザガ。


 ――その背中をを遠くから好奇の目で見つめる視線があったことにザガは気づかなかった。





 ※※※※※※※※※※





 別行動をしていた『エリファ王都探索団?』の三人は集合場所である城に入ってすぐの広い空間に集合していた。

 その広い玄関の隅には少数だがテーブルと椅子があり、エリファとローレンスがテーブルを挟んで向き合って座り、火の玉の姿へと戻ったザガがエリファの近くで、ふよふよと浮かんでいる。



「――それで、私もその『魔力核が石化してしまう病気の子』と話したあともレヴィアナを探してみたんだけど、どうやら今日は城内にいないみたい。すれ違った人がそう言ってた。ごめん」


「そうか……そりゃタイミングの問題だからしょうがない、姫のせいじゃねえよ。にしても、魔力核が石化ね……」


「命に直接関わる器官っすからね、苦痛は計り知れないっすね」


「うん……辛そうだった」



 今でも、あの耳にこびりついた苦しい呻き声を鮮明に思い出すことが出来る。

 一人、病気のせいで部屋に引きこもらざるを得ない少女。明日もその少女――ステラの元へと話に行くつもりだ。

 珍しいであろう、感染の心配のない話し相手だろうから。



「で、さっきの話に戻るっすけど、ザガさんの言う通りなら一週間後、この国に何かが起こるっていう話っすけど、自分が持ってきた情報と組み合わせても、悪い予感しかしないっすね」


「……ローレンスが聞いた『王国騎士の失踪事件』にザガが見た『スラム街の組織立った計画』……」


「レンがその『情報屋』っていう女に聞いた話だと、『失踪事件』と『スラム街の不穏』は同時期に始まったっつうはなしだっけか? そりゃまた、嫌な匂いしかしねえな」



 エリファが城の廊下で出会った二人の兵士の口から出た単語である『情報屋』という存在にローレンスが接触していたのは驚いたが、確かにザガの話とローレンスの話を聞く限り何かが起きようとしていることは間違いなさそうだ。


 ザガの話にあった、黒装束の集団の無駄に統率のとれた動きというのも気になる。



「失踪した王国騎士団がその黒装束の集団に入ってる……?」


「あくまで可能性だけど、俺は姫のその説を推すぜ。あんなに素早く包囲網を展開するなんて、それなりの訓練を受けてなきゃできねえ」


「自分もそうだと思ってるっす。……となると、その組織の目的っすが……これに関しては何の情報もないっすね」


「セレマとユウマのいた村を襲った王国騎士の『ヴェルラ』がその組織の一員だとすると、『魔力核』を手に入れること……? いやでも、それならわざわざ辺境の村まで出向いた理由がわからないか」



 なんにせよ、この国の王国騎士には謎が多い。

 陰で何を企んでいるのか、捜査は続けなくてはならなそうだ。

 思考し、エリファが首を傾げていると、ローレンスがもう一つの話題を出す。



「あとは『飢餓の絶望』――シリアル・ファングリルについてっすね。これも『情報屋』に聞いたんすが、二週間前に隣国の『フェニス』で目撃されたらしいっす、ついでに『○○の絶望』てシリーズの奴らが他にもいるらしいっす」


「隣国『フェニス』……」


「ああ、予想してたことだけどやっぱあいつら他にもいるのな」



 エリファが顎に手を当て隣国への興味を示し、ザガが『絶望』複数人説という最悪な情報に声を低くする。


 これらの王都での情報収集の結果はアンナにも話すつもりだ。こういう情報をまとめるのは天才に任せるのが吉だ。

 特に、『飢餓の絶望』の情報はアンナ自身も欲しがっていたし。



「……あ、そういえば、ザガ、ローレンス。ここの、名物料理は聞いてきてくれ――」


「……あら? エリファ達まだこんな所に居たのかしら?」



 もう一つ頼んでいた大事な情報。それをザガとローレンスに尋ねようとしたところで、何処か力強く、それでいて清らかな絹のような声が広間に響く。



「……アンナ」



 その声の方を向くと、白雪のような純白の衣装に身を包んだ少女と、陽光を思わす金色の髪の好青年がその顔に僅かな疑問を浮かべていた。




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