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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第18話  『二。そして、三』

 


「二つ目の質問はこの国、ノワンブールについてっすね」



 ローレンスの言葉に女は静かにローブで隠れた顔を縦に振る。

 それから女は再び立体魔法陣に触れ、何やら操作し始めた。恐らく、この魔法陣が彼女のもつ膨大な数の情報をまとめる役割を果たしているのだろう。


 情報管理方法はさておき、このノワンブールという王国には厄介事と謎が何かと多いような気がする。アンナを含めた五人の姫もそうだが、何よりも、



「――『王国騎士団』。これがどうも引っかかるっすね。エリファさんから前に聞いた話じゃ、辺境の村で大量虐殺を画策していたらしいっすけど、『ヴェルラ』と名乗る騎士を筆頭に、その手の情報ってあるっすか?」


「ええ、知っていますよ」



 即答。

 ローレンスは心なしか先程の『飢餓の絶望』の質問の時よりも女の声に張りがあり、その情報に関する自信を感じた。



「『王国騎士団』。その名の通り王と五人の姫に仕える騎士団のことですね。一応は全員が王に仕えるという形をとっておりますが、その中でも王の次に五人の姫のうち誰の命令を重視するかによってグループが分けられているようです」



 女は本題に入る前に、といった風に淡々と『王国騎士団』の立場と形態を述べ始める。



「言うなれば『派閥』といったところでしょうか。その中でも一番勢力の大きいのが長女であるライフェナの派閥。その次にリアリナ、アンナ、レヴィアナ、ルキナという順番ですね」


「その五人の姫の名前……なんか一人だけ法則から離れてそうな人がいる気がするんすけど、まあそこは今はいいっす。あまり興味もないっすから。……それで、前提はもういいっすから本論を頼むっすよ」


「また回り道をしてしまいましたね。では、ローレンスさん、最近、王国騎士団の人員の失踪事件が起こっていることはご存知ですか?」


「失踪事件……?」



 ローレンスは女の口から出たその聞き慣れない筈なのに、どこか覚えのある単語をぽつりと呟く。

 そもそも、ローレンスは王都に来たことがあるのは数回。片手で数えられる程度であるし、何より、ローレンス自体が『王国騎士団』と何かパイプを持っているのかと言われたら持ってない。

 なので、ローレンスの知る『王国騎士団』のことなどたかが知れている。

 しかし、記憶の隅でそういった出来事を覚えているような――、


 そんなローレンスの内心を知ってか知らずか『情報屋』は一瞬の静寂の後、言葉を繋ぐ。



「ええ、失踪事件です。半年よりも前に辺境の村でも失踪事件が起きていたそうですが、それとは別で、この王国でも公表はされていませんが人が度々姿を消しています――」


「ああ、なるほど、エリファさんから聞いたんだ。でも、それとこれとは別、と……」



 ローレンスは女の言葉の前半部分で、何故聞き覚えがあるのか独りで納得し、小声で感嘆を漏らすが、女は聞こえなかったのかそのまま語り、



「――そして、その失踪は『王国騎士団』に限られているのです。ローレンスさんの言った、『ヴェルラ』という王国騎士ですが、その方も一年前位に失踪しています」


「……なんか、エリファさんの聞いた話と時系列が噛み合わないっすね」



 ローレンスがエリファから聞いた話だと、エリファ達が辺境の村で王国騎士を名乗る『ヴェルラ』と会ったのが、たしか半年より少し前。

 で、『情報屋』の女が言う、『ヴェルラ』という王国騎士の失踪が一年前。

 双方に大幅な時間的な差異が生じている。



「そのようですね。一方で失踪事件の始まった丁度同じ一年前、王都の商店街のある賑やかな、今私達のいる南側とは逆の、廃墟の建ち並ぶ『スラム』がある北側で、何やら不穏な動きが見えるとか……どうです? この二つ繋がりがあるとは思えませんか?」


「『失踪事件』と『スラムの不穏』っすか……パッと見繋がってなさそうに見えるっすけど……『王国騎士団』についてはこれくらいっすか?」


「……そうなりますね」



 となると、自分はこれ以上は聞く必要はなさそうだ、とローレンスは王都の北側、スラムがあるはずの方向を見やり遠い目をする。

 というのも、北側には今ごろザガが向かっているはずだからだ。ローレンスは南側、ザガは北側とその行動範囲を聞きこみ開始前に定めている。


 遠い目をした視界に映るのは壁を覆う黒い布、その闇だけなのだが。


 ちなみに、この女の肯定の裏に、「これ以上、情報を与えない方が面白そうだ」という個人的な感情が秘められているのだが、ローレンスは気づかない。


 そのまま『情報屋』の女に視線を戻しローレンスは質問を続ける。



「……じゃあ三つ目っすね。三つ目はすばり、エリファさんの従者――『ザガ』と名乗る火の玉について」



 重みの増した雰囲気。


 問うた少年と問われた女は黒く闇が支配した隔離された空間で同時に、その口元にそれぞれ冷たく、面白く、笑みを浮かべたのだった。




 ※※※※※※※※※※




 ――おかしい。貧困街といえどここまで人が居ないのは不自然だ。


 辺りを見渡すが瓦礫の山と人の気配が感じられないひび割れ苔の生えた建物、それらが視界を満たす。

 静けさと寂しさを併せ持った貧困街――『スラム』に男は一人、足下に転がる崩れ落ちた建材が散らばった地面を身軽な様子で歩みを進めていた。



「王都の北側ってこんなにも人気がないものか? 『スラム』っつうから、やせ細った奴がうろうろしてるもんだとおもってたんだけどよ」



 歩みを進める、鼠色の緩いシャツに黒い長ズボンの全体的にラフな格好に、焦げ茶の短めの髪に顎の先に薄らと髭の生えた長身の男――ザガはかけたサングラスの下で視線をキョロキョロさせる。



「……なんにせよ、姫に頼まれてんだ。手ぶらで帰るわけにはいかねぇな」



 基本的にやること成すことがテキトーだと自負すらしているザガという男だ。本来なら、こういう事もテキトーに気分で終わらせてしまうのだが、今回は他でもないエリファに頼まれているのでそうはいかない。



「んでも、こう、二時間くらい瓦礫ばかりとアスレチックしてると、どうしても悲しいものがあるぜ」



 瓦礫を様々な格好付けた動きで乗り越えながら未知のエリアを探索する、というのに若干少年のような心をくすぐられるが、そんな感覚を抱いたのもせいぜい最初の三十分位だった。

 疲れは全く見せていないが、同じ光景、同じ動きに飽きは見える。



「王都に来たんだからもっと、なんかほら数多の美女との素敵な出会いとか色々あるじゃん。なんで俺、数多の建材との無機質な出会いを色々してんの? ああ! この石材、形が素敵ね! ……なんてならねーよ」



 ここまで文句を垂れるなら初めから南側の担当をすればいい、なんていう意見もあるだろうが、北側がこんなにも廃れているなど知らなかったのだからしょうがない。

 結局はどの国でも、光あればまた陰があるという事だろう。時代がどれほど移り変わろうとも、そういった格差は無くならないということか。



「――っと、ついに第一村人発見か? 小さいけど声がすんな。男が数人……か?」



 まだ色の落ちた所々崩れた建物の奥から何やら複数人の会話のような音がザガの耳に届く。

 ここまで来てやっとの初めての人の気配だったというのもあり、その音の主の所へ嬉しさのあまり飛び込んでしまいそうだったのだが、何やらその会話に緊張感を感じたのでザガは留まり、とりあえず建物の壁にもたれて耳だけを澄ます。


 すると距離が近づいたこともあり、より鮮明になる声。人数は三人くらいだろうか。



「……の確認、終わりました。皆問題なく動かせます」


「わかった。『王』への報告も忘れるな」


「はっ!」



 一人の男が、もう一人の男に何かしらの確認作業の報告したらしい。

 両者とも忙しそうな、張り詰めた声色だ。

 会話の冒頭が分からないために、曖昧にしか理解できない。されど聞き耳を立てる者の存在を知らない会話は続く。



「……あと一週間。それで、この国は変わる」


「そうだな。あいつに仕組まれただけのこの国は滅び、我らが自ら開いていく時代が始まる!」


「ああ、『王』が望む――」



 そこまで聞いて、ザガは意識をその会話から突如として離す。

 それも、ザガに近づく目の前の脅威に気づいたからである。


 ――いつから、バレていたのか。



「囲まれたか……いやあ! 今日もいい天気だな! やけに人の気配が無いと思ったら、皆こんな所に集まってたのかよ? なんだ、その、お前ら……俺も混ぜてくれよ? ……なーんて」



 いつの間にか壁を背にするザガの周りには、黒い装束に身を包んだ人影が複数。その影どれもが、ザガの動きを少しも見逃さまいと束縛の睨みをきかしていた。


 やがて、ザガの引き攣った笑みでフレンドリーを装った謎の発言を聞いた後の静寂を、黒装束の一人が破り、



「生憎と今日は曇りだ。見ろ、灰色の空だ。それに、侵入者は必ず殺すようにしている。いいだろう、混ぜてやる……今までに殺した知りすぎた部外者達の死体にな」



 ぞろぞろとその数を増やす、『黒』達はその手に凶器を、その目に狂気を光らせた。





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