表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
27/69

二章第17話  『情報を語る女』

 


「――情報屋?」



 ローレンスは教えたつもりのない名前を呼びかけられ、より一層に警戒を強めて女の動きを一瞬たりとも見逃さまいと視界を凝らした。



「ええ、『情報屋』です。ローレンス・ルラウドさんあなたは今、とても情報を欲している。そうでしょう? あなたの少し変わった主の為に」


「――――ッ!!」



 名前だけでなくこちらの置かれている状況すらも、特に、ローレンスの唯一、絶対の信頼を置く主――エリファのことも大雑把ではあるが知られていることに、大きくローレンスは動揺し、瞳を震わした。

 言葉にできない類の衝撃が、ローレンスの身体を駆け巡る。


 その衝撃に打ちのめされて愕然とした表情を浮かべ何も言えないでいるローレンスを見た『情報屋』と名乗った女は、それも理解しているような口振りで言葉を続ける。



「――かといっても、私にもあなたのその欲している情報がどういったものなのか。というのは、はっきりとは分かりませんよ」


「そう、っすか……」


「ええ、凡その目星は付いておりますが、もしそれが的中しているとしたら……それはそれはもう素晴らしい事です」



 こちらの事情の外面のほとんどを理解していても、さすがに詳細の所までは知り尽くしては居ないらしい。

 その事にローレンスは確かな安堵を覚える。


 何もかもを知られているという感覚。あの胸の中に、心の中に直接虫刺されができたような途方も無いむず痒さ。

 それこそ、このまま何もかもを知られていたら、その感覚に耐えきれなかったかもしれない。

 いや、もしかしたらこの『情報屋』はローレンスのそういう心情さえも理解しているのかもしれないが。



「……なんにせよ、侮れないっすね」



 とやかく言っても、こちらの情報はバレている。ならば、同時にそれはこの女の『情報屋』としての腕前を証明していることになる。



「うまーく、乗せられてる気がするっすけど。……あんたの言う『情報』は信用できるんすよね?」


「ええ、もちろん。まだ足りないというのなら証拠をもう少し見せましょうか。私の『情報屋』としての情報収集能力を」


「――――」


「あなたはローレンス・ルラウド。四ヶ月前に、一度生命の危機に直面。そこを今のあなたの主『幽鬼の姫』という少々特殊な存在の少女に助けられた。それに、その『幽鬼の姫』と出会う前は――」


「ああっ! もういいっすよ!」



 もう遠い過去に追いやった、いや消し飛んだはずの言われたくもない事を言われそうになって、ローレンスは慌ててその女の言葉を遮るようにぶっきらぼうな声を出した。



「あんたの情報力はよく分かったっすから! あと、一つ訂正すると、自分は確かにあの時に死んでるっすから『生命の危機』なんてものじゃないっすよ」



 女はローレンスならこういう反応をすると思って、わざと嫌な話題を出したのかもしれないが、どちらにせよもう疑う必要は無い。

 この女の『情報屋』の実力は本物だ。


 だが、その信用はこの女の持つ情報にであって、この女自体ではない。不自然な点が多すぎる。

 だからこそ、ローレンスは本当に求めている情報の前に、この女自体の情報を聞き出さなければならない。



「……実力は理解したっす、だけど、それはあくまであんたの持っている情報。あんたを理解した訳では無いっすよ。だからまずはあんたのことを教えて欲しいところっすね。話はそれからっす」


「ええ、そうですね。あなたならそう仰ると思っていました。だけど、申し訳ございません。『情報屋』という職業柄、詳しくは教えることは出来ません。知られたくない『情報』を消そうと私の命を狙う者もいますから」



 ローレンスの要望に女は細い色白の指でテーブルに浮かぶ立体的な魔法陣を撫でながら、謝罪を含めながら拒否する。


 それは、そうだろう。ローレンスも女が『情報屋』を名乗る限り、女の出自等の詳細を女の口から聞けるはずはないと分かっていた。

 ローレンスが知りたいことはそういうことではない。

 ただ一つ、



「――せめて自分に情報を与えるあんたのメリット、利益を教えて欲しいっすね。ただ与えるだけではないはずっす。タダという言葉ほど信用できないものはないっすから」


「ふふふ。ええ、そうですね。やはりあなたは面白い。あなたに資格を与えて正解だったと心から今、思いましたよ」



 薄気味悪い笑いを含めた女の返答がどこか恐ろしいもののような気がして、ローレンスは怪訝な表情を浮かべる。

 が、一応はローレンスに情報を与える目的を上っ面だけでも聞けるということに、ローレンスは初めて女へと発していた今にも襲いかねないプレッシャーを解き、会話できる相手だと認め、手に込めていた魔力を宙に霧散させた。


 女は自身の身を包み込みピリピリと肌を刺激していたそれが、消え去ったことを確認した後、ローブに隠れた顔を向けて言葉を続ける。



「……私があなたに『情報』を与える理由。それは私が、『情報』を求めているからですよ」


「要領を得ないっすね。つまり?」


「――私が、貴方に私の持っている『情報』を与えることによって、私は私が未だ知り得ない、持っていない『情報』を結果的に手に入れることができる。ということです。情報の入手経路に関しては企業秘密ですが」



 今のローレンスに『情報』を与えることによって、女は更なる『情報』を入手出来る。

『情報屋』の女は随分と回りくどい言い方をしたが、簡単にするとこんな感じだろう。

 それでも、前者と後者の繋がりがよく分からないが、その疑問を見越しての『企業秘密』ということか。


 そして、女の言葉は重ねられる。



「私はもっともっと知りたいのです。この世界には謎が異様なほどに満ちている。私はその謎達を私の中で紐解き、いずれこの世界の全てを知りたい。いつしか、私は深淵を覗いてしまったのでしょう、そしてその深みに見事にはまってしまった」



 異常なまでの知識欲。膨大すぎる『情報』への探求心。それが、ローレンスに『情報』を、場合によっては『武器』にもなるそれを与える理由だという。

 めちゃくちゃだ。めちゃくちゃだが、


 ――()という理由はそこら辺の綺麗事なんかよりもよっぽど信用できる、だから、



「わかったっす。もう十分っすよ」



 ローレンスは、この女の持つ『情報』を大いに利用させて貰うことにした。

 もちろん、変な事をしようとした瞬間に捩じ伏せるという心意気は変わらないが。


 そんなローレンスの心の内を理解したのか理解していないのかは定かではないが、女は唯一見える口元に薄らと笑みを浮かべ、魔法陣に手を翳した。

 すると淡い光を放っていた魔法陣は、先程までより明るく、青の色がついた光を放ち始める。



「さあ、では聞きたいことを仰ってください。ですが、提供する『情報』、質問に答えるのは三つ迄です」


「自分が聞きたいことは一つ、二つ、三つ。――ぴったりっすね。まさか、それも分かってたんすか?」


「さて、どうでしょう」



 偶然にも、否、ここまで来て偶然などということは思うまい。言い当てたのだ、女はローレンスの質問の数を。


 ――そうして、不気味な情報提供が行われる。




 ※※※※※※※※※※




「――まずは、エリファさんに頼まれていた『飢餓の絶望』と名乗る少女の事っす。これが最優先事項っすから」


「やはり、『飢餓の絶望』……」



『飢餓の絶望』という単語をローレンスが口に出した瞬間、微かに情報屋の女の身体がピクリと揺れた。そして次に、意味ありげにその単語を呟き復唱する。

 何か心当たりのありそうな情報屋の態度に、ローレンスはごくりと次にどんな情報を自分に与えてくれるのかとつばを飲み込んだ。



「……何か知ってるっすか?」


「ええ、ですが、残念ながら『飢餓の絶望』そう名乗る少女のことを詳しく知っているわけではありません。目的、居場所を問われてはお手上げといったところです。なにせ、――その存在は私の追い求めている謎の一つですからね」


「てことは『飢餓の絶望』の情報は何もないってことっすか?」



 なんだ、とローレンスは肩をすくめる。正直、拍子抜けだった。先程まであんなにも豪語していたというのに、あっさりと最初の質問から躓くとは。

 だが、つまりはローレンスの出自を言い当てた情報屋の女でさえも、『飢餓の絶望』という存在の足取りをつかめない、その特殊性を酷く表していた。


 なんにせよ時間が惜しい、後の二つもささっと聞いておこう。

 と、ローレンスが口を再び開けようとするよりも少し早く、静かに否定の言葉が情報屋の女の口から放たれる。



「いいえ、そういうわけではありません。すみません、回りくどいのは私の良くない性質でして。……『飢餓の絶望』、その少女の現在地は先ほど言った通り分かりませんが、つい二週間前、この国の西に位置する隣国、『フェニス』という国で『飢餓の絶望』とそう名乗る少女が目撃されたそうです」


「隣国で……」


「それと、『飢餓の絶望』を筆頭とする謎の存在は一人ではないことをご存知でしょうか?」


「いや、知らないっすね。複数居るんすか?」



 エリファから話を聞いただけでも、おぞましく気味が悪い『飢餓の絶望』という存在。そんな狂った存在が複数もいるというのか。

 ローレンスはその情報を聞いた瞬間にあからさまに嫌な顔する。



「ええ、なんでも彼らはそれぞれの『絶望』を名乗っているらしいですよ。この辺に関しては噂程度なので聞き流してもらっても構いませんが。……一つ目の質問『飢餓の絶望』については今はこれが限界でしょうか」


「つまりあれっすか? 『飢餓の絶望』以外にも『○○の絶望』みたいなシリーズ本みたいな奴らがいるってことっすか?」


「噂、ですがね」



 否定とも肯定とも取れない今までにない女の返し。この話題については本当にこのくらいが限界なのだろう。

 だが、真偽が明確ではないことについてはちゃんとした忠告を付け加える女の態度に、ローレンスはさらにこの女の提供する情報への信用度が上がったことを感じた。


 ともあれ、一つ目の質問はこれで終わりだ、さっそくここから先は個人的な質問になるのだが二つ目の情報を聞き出すとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ