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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
序章 『姫の目覚め』
2/69

一章第1話  『ココハドコワタシハダレ』

三章から、物語が動くのでそこから読み始めても、普通に大丈夫です。

ですが、その際は『登場人物まとめ(二章時点)』を見てから読み始めるのをオススメします。


長い話になりますので、よろしければこれからもよろしくお願いいたします。


Twitterやっております。

@ionoritoki

こちらもよろしければフォローして頂けたら嬉しいく思います。

 


 ――ここ、どこだろう。



 目を覚ますと、暗い空間に私は居た。

 生憎、私にはこの様なジメジメとしていて不気味な場所は知らない。

 というよりも、



 ――まず、私は誰? 何故こんな場所にいるの?



『私』に関する記憶が無い。なのに思考も出来るし、喋れるしでよく分からない。

 いや、そもそも『私』は存在しているのか。『私』という輪郭が暗闇にぼやけて溶け込み、一体化しているような感覚に陥り、そんな疑問さえ浮かぶ。



「――おう、姫。 気分はどうだ?」



 突如、思考の深い沼へと沈みかけていた『私』の意識は投げかけられた気さくな男の声にすくい上げられる。



「……誰?」


「俺は姫の従者兼、案内役みたいなところだな、よろしく」



『私』の質問に対してそう答える男の声。

 だが、辺りを見渡しても男の気配は何処にも感じられない。

 ただ、この一連の動作のおかげで喋る口も、見渡す目も存在していることが判った。



「んでもって、姫は『幽鬼の姫(ゴーストプリンセス)』この世界に幽鬼、ゴースト達の力を示す為に生まれた存在だ、どうだ? わかるか? ――その辺の細かい事は生まれた時に刻み込まれたはずだがな」


「うん……そうだね」



 声の後半はよく聞き取れなかったが、はっとする。

 そういえば――そうだった。何故、私は『私』を忘れていたんだろうか。こんなにも当たり前のことなのに。


 二度と忘れぬよう自分の記憶に喝を入れながら立ち上がり、徐々に暗闇に慣れてきた目をぱちぱちさせ、身体がここにあることを確かめてから、その発生源不明の男の声に問う。



「どこにいるの?」


「おっと、すまねえな。ここだ、ここ」



 すると、わざとらしくそう言いながら怪しく紫色に光った火の玉が身にまとった服の胸元辺りから姿を現す。



「火の玉...? 」


「そう、この火の玉が俺、名前はザガだ」


「……今、どこから出てきたの?」


「おう、極楽だったぜ、ご馳走さん」


「――――――殺す」



 この火の玉を生かしておいてもいいことは無さそうだ。手で握りつぶしてしまおう。



「いやいや、冗談だから! 姫さんが首からかけてる宝石のペンダントから出てきただけだから!! まだ登場したばっかで案内とかしてないから! 手で掴もうとするのやめて!」


「これか……」



 ひゅるりとすばしっこく殺意を持った手を避けるザガが『私』の首から胸にかけてぶら下げてあるペンダントをその全身(?)を使い示す。

 ペンダントの先には立方体の紫色の綺麗な宝石が着いていた。あまりの美しさに暫くじっとその宝石を見つめて固まってしまう。



「――姫、それに見惚れるのもいいが、そろそろここから出ようぜ、こんな辛気臭い場所に居てもいい事ないしな」



 ザガの急な真剣な調子の声。この短い時間でふざけたり真面目になったり扱いにくいなと思ったが、その意見には同感だ。

 正直、この場所でうだうだしていても、何も始まることは無いし、幽鬼(ゴースト)の力を世に認めさせるという『私』の使命は果たせそうもない。


『私』が頷くのを見ると、ザガは紫の光の残像を少し残しながら「こっちだな」と先導し始めた。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 道中、光が少ないせいで足元の起伏に何度かバランスを崩しそうになったり、そんな苦労も知らずふよふよと浮かびながらどんどん先に進む軽口の減らない火の玉にうんざりしたりしたが、なんとかついて行き、洞窟を抜け、森に出た。



「……洞窟抜けても結構暗いね」


「ま、こいつらが人目につかないように篭ってた場所だからな。さすがに明るい場所には逃げ込めねえよな」


「……そっか」



 日がもう少し傾いているとはいえ、木々が光を遮りることによって、森の中は影が立ち込めている。

 ザガの言う「こいつら」というのは、洞窟を出た時から、移動する二人、ザガと特に『私』の周りを囲む淡く青白い光を放つザガと同じ形状の火の玉――幽鬼(ゴースト)達のことだ。


 『私』は火の玉の一つを指で突きながら、ザガに顔を向けて疑問を浮かべる。



 ザガにはこの幽鬼達との明確な違いが二点ある。

 その放つ色と、会話能力の有無だ。

 今のところ、見た感じ会話能力のある幽鬼は『私』とザガしかいなさそうだ。

 ひょっとしたらザガは幽鬼の姫(ゴーストプリンセス)である自分と同様に特別な幽鬼で、大きな力を持っているのではないだろうか。

 ふざけている奴だと思っていたけど本当は凄い存在なのだろうか。



 そうして、思考するうちに自然とザガを見つめていると敏感にその視線に気づき、



「ん? 姫、どうかしたか? そんなに可愛い顔でじっと見られると惚れちまうぜ、いやもう惚れてるけど」



 などと軽口をほざく。



「……あっそ」


「ちょっと冷たくない?」



 洞窟を抜けるまでに何度も冗談を言われ、それを適当にあしらうというのを繰り返したので、大分こいつの対処にも慣れてきたものだ。



「んで、実際のところどうしたよ?」


「……ザガの色、他の幽鬼達と色が違う。あと喋れる、他の幽鬼達は喋れないのに、なんで?」



 またも、急にお調子者の口調から一転、本腰を入れるザガの態度に若干ついていけずテンポをロスするが、気にせずそのまま疑問を投げかける。



「とりあえずあれだな、詳しくは言えないが俺は幽鬼じゃないぞ」


「え?」


「だから、光り方が違うし、喋れる。――今はこれだけで勘弁してくれな」



 打ち付けなカミングアウトに呆気に取られた『私』はさっきとは違った意味で、話についていけなかった。

 ならば、ザガは、この紫の火の玉は一体なんなんだろうか。『私』は今まで疑うことがなかった根底を覆され、咄嗟に浮かんだ疑念を隠すことが出来ないでいた。


 すると、ザガはそんな『私』の様子を見て、



「はは、まあ心配すんな、姫を裏切ったりだとかは絶対しねえからよ」



 と笑いを含んだ声を掛けてくる。


 多分、これ以上突っ込んだ質問をしても、相手は答えないだろうと思い、その言葉を全部とは言わないが当面はある程度信頼することにした。



「……わかった、これ以上は聞かない」


「おう、助かる、素直な姫も好きだぜ」


「……はいはい」


「おう、なんか段々雑になってね? 」


「そんなことはない」


「おう……」



 再び調子者になるザガの軽い言葉をこちらも軽くあしらい、意識の矛先をこの紫の魂から、先程からちらちらと木々が揺れると同時に若干入り込む木漏れ日の光に移し替える。



「……色々と気になることもあるけど、明るいところに行きたい」


「そりゃそうだな――あと、掘り下げるようで悪いが、一応、姫さん以外にも喋れる幽鬼はちらほら居るぞ」



 またも意外な事実、会話能力はそこまで珍しいものではないのだろうか。



「まあ、そいつらの大半は失踪したか、姫の目覚めに合わせて各地に散らばったからこの辺りにはいなさそうだけどな」


「じゃあ――」


「ああ、そうだな外に出たらいつか会えるかもな」



 それは楽しみだ、目覚めてからこの短期間話した感じザガは冗談が過ぎるところがあるが、ザガと話すこと自体は別に嫌いではない。むしろどっちかと問われたら楽しいと答えるだろう。

 だから、喋れる相手が増えるというのは少し心が弾む。



「――いや、ザガみたいなのが増えてもそれはそれで嫌か」


「なんか、唐突に悪口言われてね? 納得いかねぇ!!」



『私』の口からうっかり漏れた誹謗にザガが憤慨し身体から紫の火花を散らした。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 そんな様子を尻目に、『私』は突如として、敵意ある何かが近づいてくるのを察知し、体を強張らせる。



「……ザガ」


「おう、なんか近づいてんな」



 ザガも気配を感じ取ったらしく、またも真剣な様子に一転する。

 しばらくして、近づいてきた二匹の『それ』は『私』達を見るなり言葉を放った。



「へへ、ゴーストがこんな所まで出てくるなんて珍しいな相棒」


「ああ、そうだな、ゴーストは死ぬ時、光を出しながら消えるらしいぜ、相棒」


「それは面白そうだな、みてみたいなあ?」



 わざと聞こえるように会話しているらしく、内容も憎たらしい。


 背の小さいその二匹は『小人』と呼ばれる魔物だ。


 小人は、その小さな身体に小さな頭という見た目から想像するよりも頭が良く、現に目の前にいる二人の小人は茶色のしっかりとした生地の服を着ていて、その腰に色々な道具を携えている。



「そら!」



 二人の小人は気に障る会話を終えるとすぐに、腰に掲げた大きめの木製のパチンコを取り出し、掛け声とともに小石を飛ばしてくる。

 その石は小さな体の小人が放ったと言えども、道具を使っているため、かなりの勢いを持っている、直撃したらそれこそ、単なる怪我では済まないだろう。




 ――――だが、射出された石つぶては『私』の身体に当たることはなかった。

 いや、正確には的が外れた訳ではない。小石は『私』の身体をすり抜けたのだ。


 すり抜けたとは言うが、当たった箇所は丸く穴が空いていた。しかし、その穴もわずかな時間でゆらゆらと霧のように閉じて元通りになってしまう。



「へ? おいおい、嘘だろ、ゴーストは物理耐性が少し有るだけで無効化なんてことは……」


「ああ、そんなことは無いはずだぜ、きっと何かの見間違いだ、もう一回撃つぞ、相棒」



 信じられない光景に、二人の小人は驚愕し、慌てた様子で何回も何回も、『私』に向かって石を装填しては撃ちを繰り返すが、それらの全部が(ことごと)く『私』の身体に穴を開け、すり抜け、塞がってしまう。



「有り得ない、有り得ないぞ相棒!?」


「はは、相手が悪かったな、うちの姫は強いんだよ!」



 常識を無視した今の状況に焦る小人に、ザガは自慢げに声を張り、前に威張るようにして身を乗り出す。

 そんな調子に乗ったザガの後ろで『私』は手を前に掲げ力を込め始める。



「さようなら」



 右手に毒々しい色の魔力と呼ばれるエネルギーを集め、別れの言葉を吐き捨てじりじりと『私』は武器を捨て震えながら互いに抱き合う小人に近づいていく。



「ひっ! す、すすす、すみませガッ――――」



 恐怖で腰を抜かしたのか地面に尻を落としたまま動けない二人の小人の顔にそのままエネルギーを押し付けると、悲鳴と共に首から上が、魔力の渦に飲まれ、切り刻まれ血を吹き出しながら消失する。


 頭を失った小人の体はぷつんと糸が切れたあやつり人形のように、力を失い、ぐしゃりと崩れ堕ちた。


 小さい身体からは想像出来ない、(おびただ)しい量の鮮血が死体を中心に地面を満たす。


 そんな残酷な景色の傍ら、



「姫、どうだ? 身体の調子は」



 ザガは、二つの命が消し飛んだというのにも関わらず、あっさりと、何も無かったかのような声でのたまう。



「不具合は無さそう」



 それに対して『私』も何も無かったかのように答える。それこそ、今までと何も変わらない様子で。




 この二人にとって、小人の生死はどうでもいい事柄だった。

 意識にあったのは、目覚めたばかりの身体に不備は無いかということが主である。



 ――『幽鬼の姫』は最早忘れ去られた小人の亡骸という絶望を背に、



「……それはそうと、外の世界、楽しみ」



 と、まだ見ぬ世界へ希望で心を弾ませるのだった。



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