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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第二章 『灰色の王国』
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二章第2話  『好奇心』

 


「それにしても、まさか助けた馬車に乗ってたのが、ここの領主だったとはな……」



 ザガはアンナ・フラクトール・ホワイトと名乗った白い裾の長い美しい服装で、それと同じく白のうねる長く艶やかな髪を下に垂らした少女に連れられ、屋敷へと向かう中、町の様子を見渡しながら言う。



「ええ、私も、まさかよ。兵士でもない、同じ少女に助けられるなんてね」



 アンナは、顔に手を当て、情けないといったように首を振る。



「まったく、私の護衛の男どもも、しっかりとして欲しいものね。あんな鳥だか蛇だか分からないものに、慌て逃げるだけなんて」


「す、すみません……」


「うわあ、おっかねえ……」



 後ろを着いてきている、馬車の中にアンナと一緒にいた兵士達が赤い目で睨みつけられ、申し訳なさそうに声を上げる。

 ザガはそんなやり取りをみて、その身を震え上がらせる。



「まあいいわ。――それよりも、エリファ、だったかしら? あなたほんっとうに素敵よ!」



 アンナが突如、エリファの方を振り返り、その目を輝かせる。

 その視線と声からは、賞賛というよりはエリファという存在に対しての興味の方が強いように感じた。



「おう、せやろせやろ。お前、なかなか見る目があるじゃねえか!」


「当たり前よ。今までに色んな者のその輝きを見てきたのだから。そんな中でも、エリファ、あなたは別格よ」


「…………」


「姫は、超絶プリティーで強いからな、惹かれるのも分かるぜ」


「ええ、実に気に入ったわ! それと、そこの使い魔、あなたとはなんだか気が合いそうね」


「俺もそう思ってたところだ」



 何故か、エリファの話題で出会ったばかりであるにも関わらず、すぐさま意気投合するザガとアンナ。

 二人の挟み撃ちに、何も言わない、いや何も言えないエリファは身体を強張らせる。


 アンナという少女は、王国の五人の姫の内の一人だと自分を紹介したように、その言動の節々に自らを高く見ているような態度が垣間見える。

 ちなみに、最初の礼儀正しい様子は演技だったのか、崩れまくっている。



「――さ、着いたわ」



 どんどんと先行するアンナの後に続いて、町を真っ直ぐに突き進んできたエリファ達は気づけば、屋敷の前までやって来ていた。

 ここまで短い時間ではあったが、エリファはザガとアンナの二人の会話に疲れ果てた様子で視線を上げる。



「……改めて近くで見ると、迫力あるね」


「ああ、こりゃすげえな。俺はいくつか、貴族の住む建物っつうのを見てきてっけど、ここまで立派な物は少ないぜ」


「ふふ、そうでしょう。なんせ、この私のお気に入りの、専属建築士兼デザイナーに一から作らせたのだから。それに、一応これは別荘という立ち位置よ」


「これが別荘……」



 屋敷は大きな窓が規則正しく並ぶ石造りで、広い庭を半分囲むようにして、構えていた。

 その出っ張った左右の塔の様な構造物と、建物の中央の屋根は赤く、高く尖って、その先端を伸ばしており、住まう者の威厳を示すように悠然とそびえ立っている。

 庭は、町の住宅街の一つを、丸ごと入れても、まだ空きができるのでは無いかと思うくらいに広い。

 何よりも、エリファ達の目を引いたのは、屋敷の至る所に、散りばめられたドラゴンを象ったと思われる、装飾だ。

 今、エリファ達が立っている、入口の金属の門の左右でも、龍の像がその存在を目立たせている。



「――アンナ様! ご無事でしたか!? 先程、魔物に襲われたと連絡が……」


「あら、ルシアン。私はなんともないわ。エリファが助けてくれたもの」


「この者が?」



 屋敷からこちらに走ってきた、ルシアンと呼ばれた金髪の青年が、アンナに心配そうに声をかける。

 そんな青年にアンナが落ち着いて返答すると、青年は張り詰めていたその整った顔の表情を安堵へと変え、ほっと息をつき、そのままエリファの方を向いた。



「……申し遅れました。私は、アンナ様の側付きの騎士のルシアンです。この度は、アンナ様を助けて下さり、ありがとうございました」


「……別に、構わない」


「姫もこう言ってんだ、気にする事はねえよ」


「火の玉が喋った……? ――失礼しました、使い魔でしたか」


「んー、まあ間違ってはねえから、それでいいぜ」



 ルシアンという名前の騎士はエリファとザガを交互に見て、ザガをエリファの使い魔だと解釈したようだ。

 この青年、大分判断が早い。まあ、その使い魔という結論は間違いであるが。



「ルシアン。私はエリファ達と話がしたいわ、直ぐにお茶を用意しなさい」


「かしこまりました」



 アンナの命令に従い、準備の為にそそくさと屋敷の中に戻っていくルシアン。


 そう言えば、アンナはザガが喋るのを見ても、大して驚くような素振りを見せていない。

 それどころかルシアンのように一瞬でも戸惑うのが普通の初見の反応であろうが、アンナは初めから顔色一つ変えずにザガと息のあった会話をしていた。

 目の前の事象に寛容的というか、妙に肝っ玉の据わっているというか、よく分からない具合だ。



「エリファ、私達も入りましょ」



 ともあれ、その彼女に促されるのでルシアンに続いて、流されるようにエリファ一行は屋敷へと足を踏み入れていく。





 ※※※※※※※※※※





「さて、エリファ、ザガ、改めてお礼を言うわ、助けてくれてありがとう」



 屋敷の一室、アンナは要人を招く為の部屋と言っていたが、そんな場所で、少女達のお茶会は始まった。



「私は前に言った通り、『ノワンブール王国』の姫の一人、アンナ・フラクトール・ホワイトよ。別荘を建てたら、周りに人が集まってきて、出来上がったこの街が『プレストロイ』。こうやってたまに様子を見に来ているの」


「……姫の一人ということは、複数いるの?」


「ええ、王都には今、全部で五人の姫がいるわ」


「一つの国に五人の姫とか、ドロドロしてそうだな」


「いいえ。そんなに険悪ではないわ、私は姉も妹も心から愛しているもの」



 アンナは恥ずかしい言葉を堂々と、淡々と、丸いテーブルに置かれた紅茶を飲みながら言う。

 アンナのそういう『我が道を行く』という態度は、出会ったばかりであるが清々しくて、ある種の気持ちよさすら感じる。

 基本的に我儘であるのだろうが、それを不快に思わせないほどに人を惹きつけて止まないオーラのようなものをアンナは漂わせている。



「さて、次はこちらから質問よ。まず、あなた達は旅人ね?」


「……うん」


「? なんでそんな()()()()とわかったんだ?」


「私は街の全員の顔と名前を覚えているけれど、その記憶のリストにあなた達の顔と名前に一致するものはないもの」


「うへえ、マジかよ。天才じゃねえか」


「ええ、私は天才だもの」


「それもよく、()()()()と言うな!」



 アンナの口振りに、流石にツッコむザガ。

 だが、街の住民全員の顔と名前を把握しておくなんて、実際に並の才ではできる代物ではない。町の規模もそこそこのものだから、人口も多いはずなのに。



「で、旅人なのだとしたら、何の為にこの町に来たのかしら?」


「……王都に向かう途中に寄った」


「知人から王都に向かう際に、一つ道中に街があるって聞いたんでな。休める宿探しついでに、色々なものをこの町で準備しておこうって感じだ」


「なるほどね」



 エリファが端的に答えるとザガが補足して説明する。

 エリファはアンナが納得するのを見てから、出されたお洒落な色々な形の焼き菓子を一つ手に取り、口に入れる。



「もうひとつ聞きたいことが――」


「姫、俺にもその焼き菓子取ってくれよ」


「……ん」


「それよ!」



 ザガに頼まれエリファが菓子を一つ取ると、アンナがズバリといった感じで勢いよく指をさし声を上げる。



「あ? どうした、このクッキーか?」


「違う、使い魔が言う『姫』よ。エリファのことを指してるみたいだけど、どういうことかしら」



 アンナは椅子から立ち上がり、手を机について、前のめりになって質問する。



「……それは私が『幽鬼の姫』だから」


「幽鬼?」


「おう、そうだぜ、姫は、幽鬼の力を世界に知らせる為に、旅をしてる」


「ということは、エリファは人間じゃないということね?」


「ああ信じられなくても、おかしくはないと思うぜ? なんせ急なカミングアウトだからな」


「なるほどね」


「おおい! 目の前の不思議を飲み込むのがはええな!! 普通、もう少しビックリするもんじゃねえの!?」



 あっさりと、状況を受け入れるアンナに、ザガが騒いだ。

 アンナは落ち着いた様子で、紅茶の無くなったカップを横に差し出し、使用人に紅茶を注がせる。

 普通エリファの見た目で「人間じゃありません」といわれても大抵の人が信じないはずだ。なのに、目の前の少女は疑いもせずに頷いてみせた。



「驚いてはいるわよ。ただ、それに一々派手なリアクションを取っていると疲れるでしょう。世界には不思議なことが溢れかえっているというのに、そういう時こそ、冷静であるものよ。そうだとは思わない?」


「ま、まあ確かに、そうだな」



 アンナの雰囲気に呑まれるザガ。

 エリファは基本的に大体の言動がマイペースなザガが、何も言えなくなる程のアンナのその有無を言わさない佇まいに感心を憶える。言っていることはかなりぶっ飛んでいるが。



「まあ、ただ、私は強い存在と、不思議な存在がどうしようもなく大好きなのよ、屋敷に飾られている『覇竜』もその一つね――そして、それは今のエリファ、あなたもそうなのよ」



 アンナは忽然と立ち上がり、笑みを浮かべた。


 そして、この部屋の空間の全てが、彼女のものになったかと錯覚する程に、傲慢に、自尊的に、されど美しくアンナは白い髪をかきあげ、赤い瞳でエリファを見つめて宣う。




「――だから、エリファ、宿を探しているのなら、この屋敷に泊まっていきなさい」



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