素直な命
いつも素直な子だ。こちらが何を言っても屈託のない笑顔でうなずく。いつも、だ。いつも素直な子だ。彼女に黒い心はない。彼女はそして、人でない。天から生まれた子。容姿は人のようだが人でない。ある日、声を聞いた。この子をよろしくお願いします。長くは生きれないけれど、どうかよろしくお願いします。声が終わった時、自分の前に光と共に小さな子供が現れた。まるで、童話のようだ。天から子供を授かるなんて。―長くは生きれないけれど、よろしくお願いします。
そう、この子の命は短い。
それがわかっている。
なのに、愛してしまった。愛せば、いなくなった時につらいのは間違いない。でも、無理だった。まさに天使のような真っ白なこの子を見て接していて―好きになれないなど無理だ。生きてほしい。先にいかないでほしい。ずっと傍にいてほしい。それだけが自分の願いだ。
…生きれない。願っても生きれない。この子はそういう存在だ。泣きそうな自分を見て、小首をかしげるこの子は誰が見てもいとおしくなるだろう。
―実は、あの声の主の思考が頭に入った。あの声を聞いている時だ。
命の大切さを知ってもらいたくて―。
だと。それで、人間代表でオレを選んだというのか? 命を粗末にする人間が多いから―て。みんながみんなアンタがオレに預けたこういう子なら粗末にしないさ。無駄なんだよ。アンタのした事は無駄。…この子の命だけは粗末にしたくない。してたまるものかとオレ一人が思うだけだ。…一人だけなんだ。アンタのした事は、無駄でオレを結果つらくさせるだけだ。
…でも、ありがとう。それだけは言っとく。独りだった自分に、温もりをありがとう。
独りだった男は涙を拭わずに、あの子が気に入って着ていた白いワンピースドレスをぎゅっと抱きしめた。




