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塩にしよう

今回のお題は「塩元帥」と「ルンバ」です。

 今年も1週間後に、調味界での定例会議が開かれる。そこでトップ5に選ばれることが、調味料たちの何よりの名誉なのだ。調味料たちは人間に化け、人間界で飲食店を経営する。1年間でどれだけの人間を喜ばせることが出来たか、どれだけの売り上げを記録できるか、料理の味等、様々な観点から総合的に判断してトップ5を決めるのだ。


 もちろん「塩」もトップを目指す調味料のひとつである。遥か昔から存在している塩は過去何度もトップ5入りを果たし、一時期は「調味界のさしすせそ」として周りから一目置かれていたものだ。しかし現在ではそれも過去の栄光になってしまった。昔に比べて調味料の種類は膨大な数になり、5本の指に入ることも容易ではなくなった。昨年はたしか「塩麹」とかいうダークホースが表れてトップ5争いに波乱を巻き起こした。今年は特に著しい成長を見せる調味料がいなかった為、トップ5の名誉を取り戻すには今年が絶好のチャンスだと新たな試みを交えて努力を続けてきた。


 どうかどうか今年こそは…。塩は人間界で最高の料理をふるまいながらそう願うのだった。




「ついに今年もこの時がやってきた。皆の日々の努力には脱帽しておるよ。」


 そう全調味料の前で語るのは調味界を創生期から支えてきた調味料のひとり「砂糖」である。創生期から今までトップ5から外れたことがない生きる伝説だ。甘いものは人を幸せにする。彼は人間界、調味界において、なくてはならない存在なのだ。


 塩と砂糖は、年齢は違えども同期で、創生期から切磋琢磨してきた仲だ。しかし、いつの間にか二人の間には差ができてしまった。そんなこともあり、塩は多少の悔しさを感じながら砂糖の話を聞いていた。


「儂は長年この調味界を発展させる為、皆と意見を交わしながら励み続けてきた。だが本日をもって、この座を降りたいと思う。」


 突然の砂糖の発言により、調味料たちはざわめいた。それは塩も例外ではなかった。


「いやぁ、驚かせてすまないね。だが、これはトップ5の中では既に話し合われていたことなんだ。なぁに、引退後も名誉調味料として調味界の発展には協力するから安心せい。そして、儂が退くことを踏まえて、今年のトップ5の中のひとりに来年からの調味界を任せることも決まっている。」


 調味料たちのざわめきが一層大きくなった。それもそのはず、調味界の歴史的瞬間に今立ち会っているのだ。


「儂がどうしても頼みたい男がいるのだが、それは…」


 どよめいていた調味達が一斉に口をつむぎ、砂糖に注目した。一言も聞き逃さないように皆が次の言葉を待っている。



「塩!お前だ。」



 砂糖が塩の姿をしっかりと見据えてそう言い放った。その直後、定例会議の場は歓声の渦に飲み込まれた。


 しばらくして、お祭り騒ぎのような歓声が落ち着いた頃、砂糖はまた口を開いた。


「塩は儂と共に調味界を歩んできた親友だ。だが、そんな私情を挟まずとも、彼の今までの努力がどれほど素晴らしいものだったかは皆も知っている事だろう。そして今年の彼の活躍はその更に上を行くものだった。」


 

 砂糖が言うように、塩の努力は素晴らしかった。


 飲食店経営における課題は、人件費と収益のバランス、そして店そのものの居心地の良い空間づくりだ。その問題を塩は完璧に克服している。人気店であればあるほど雇用が必要になり、店内の掃除を閉店後に回すことは更なる人件費の増加を助長する。


 そこで塩が考えた策が「ルンバシステム」である。従業員は皆、「ルンバ」という乗り物に乗って店内を移動する。「ルンバ」は掃除する機能がついている為、従業員の移動はそのまま店内の清掃につながるのだ。このシステムによって、塩は人件費を抑えることに成功した。




 砂糖はまた語りだした。


「塩よ、儂はお前と共に歩めたことが何よりの喜びだった。これからはお前がこの調味界を引っ張っていってくれ。今からお前はこの調味界の長“塩元帥”だ!!」


 調味界の頂点を表す「元帥」の名を授かり、塩は「塩元帥」となった。彼の経営する飲食店の名前が「塩元帥」という名前に変わるのはもう少し後の話である。


 砂糖の言葉を受け止めながら塩改め、塩元帥は涙を流した。


 彼だけでなく調味料全員が歓喜の涙を流している事だろう。




 流した涙は塩の味がした。





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