表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

くるぶしの君

2話目のお題は

「ハイリスクノーリターン」と「くるぶし」です。


 誰しも人生において一度くらいは後先考えずに行動したくなる時がある。俺にとって今がその時だ。

 この扉を開くと俺の人生は変わる。



 ある日俺は初めて一目惚れというやつをした。この時まで信じてなかったよ、一目惚れなんて。だって見た瞬間恋に落ちるなんてあり得るか。そんなの体良く言ってるだけで、実際外見しか重要視していない言い訳でしかないと思っていた。

 だか分かってしまったんだ一目惚れ。もう見た瞬間にビビッと来たね。この人しかいないって思う日が来るなんて思ってもなかった。今まで批判してきた一目惚れ野郎達に今なら素直に謝れる気さえする。これは運命だ。


 今日俺は1週間分の食材を買いに大型複合施設にやってきた。近くのスーパーでもよかったんだが、その日はなんとなく大きい店に行きたくなった。そう、ここから俺の運命は始まってる。

 せっかく沢山の店が入ってる複合施設に来たんだから食材を買い込む前にいろいろ見て回ろうと思った。そしてちょうど目の前にあったエスカレーターで二階に登っていったその時だ。

 俺は見てしまった。登り切って二階のフロアへ歩いていく女性のスカートから覗くスッとした足を。


 くるぶしを。


 そして俺は恋に落ちた。


 くるぶしに。


 思いがけない出会いに声を漏らしてしまったよ。


「くるぶしいぃ…」


 ってな。完璧なまでのくるぶしへのときめきと、狂おしいこの気持ちが合わさって「くるぶしいぃ」という言葉が生まれたのは、まぁまた別の話。


 とにかく俺はくるぶしに一目惚れした。だがそのまま突っ立ってるわけにもいかない。近所だといえここは大きな店だ。ここで見失ってしまっては二度と会うことは無いだろう。見失わないように俺はエスカレーターを駆け上がり、彼女の後ろ姿を探した。


 ようやくそれらしき後ろ姿を見つけて足元に視線を移す。うん、間違いない。まごう事なきくるぶしだ。


 話しかけてよう。そう思って顔を上げると、なんとそのタイミングで彼女は扉の向こうへ入っていってしまった。

 そこで気づいた。自分が今、女性服売り場にいることを。そして彼女が入っていったのは、そう、試着室だ。



 誰しも人生において一度くらいは後先考えずに行動したくなる時がある。俺にとって、今がその時だ。

 目の前の扉を開くと俺の人生は変わる。

 俺はなんの迷いもなく扉を開けた。







 …少し間を置いて、施設内全体に大きな悲鳴が響き渡った。



 俺自身の悲鳴だ。

 扉を開けた先に立っているはずの運命の人。くるぶしの君。




 扉を開けた先に立っていたのは…髭を生やした俺の親父だった。


「いやん!!なぁに!?あなたいきなり…ってヒロシ!!いや、これはだなぁ、訳があって…」


 親父が慌てふためいて何やら言い訳を並べているが、今の俺には何も届かない。そういえば昔、親父の書斎でかくれんぼしていた時クローゼットに派手な女物の服がかかっていたような気がする。あの時は怖くて記憶から消したんだったっけ…。




 勇気を出した俺の行動は、何も生まなかった。いや、色々生まれたが今は考えたくもない。

 …ハイリスクノーリターンだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ