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Come with me

今回のお題は

「キシリトールガム」

「高速道路」

です。

 「夜の高速道路」ってなんかちょっといい感じだよなぁ。


 なんてなんとなく思っていたのは何歳の頃だろうか。子どもの頃の俺は、夜の高速道路を走るという未知の世界に憧れを抱いていた気がする。

 まぁ、大人になって、仕事の都合上何度も夜中に高速道路を走るようになった今では、なんだこんなもんか…と思う程度なんだが

 仕事の為一日中車で走り回って、帰ってきた頃には妻子はすでに夢の中。最近は少し家庭の雰囲気も悪くなってきている。でもその雰囲気をどうこうする時間も作ってられない。たまに妻と未来について話そうとしても、なかなか上手く言葉にできずに終わってしまう。

 いつからこうなってしまったのだろう。昔持っていたはずの夢も、輝かしい未来も今は色をなくして、ただ生きるために働いている。

 このまま社会の歯車として回り続けて、歯が欠けて使い物にならなくなるまで抜け出すことはできないのかもしれない。



 そんな中、俺にとって唯一の楽しみができた。それは高速道路で走りながら聴くラジオだ。走る地域や時間によって流れる内容は変わり、それでもどこでもいつでも常に流れ続けるラジオになんだか仲間意識を覚えていた。深夜のラジオのパーソナリティの声を聞くと、この時間に俺以外にも頑張ってる人がいるんだと思えた。


 いつものように、眠気覚ましにキシリトールガムを噛みながら高速道路を走る。

 ラジオから聞き慣れた声が聞こえて少し口元が緩む。日付が替わって少ししてから流れ出すひとつのラジオ番組が最近のお気に入りだ。


「今日一つ目の相談内容は…」


 そう言ってパーソナリティは喋り出す。ネットから寄せられた全国のお悩みにテキトーに答えていくなんとも気の抜けた番組。でもこの気の抜けたくらいの軽さが今の俺にはちょうど良かった。最近は高速道路のパーキングエリアで休憩しながら自分でもお悩み相談を送ってみたりしている。



「さて、次はペンネーム"初めてのキスはキシリトールの味"さんからのお悩みです。ははは、いい名前ですねー。ファーストキスは匂いとかやっぱ気にしちゃいますよね。この人は心配でキシリトールガム噛んじゃったんですかね。ちなみに私のファーストキスはエビの味でした…ってそんなことより…」


 ドキッとした。まさしく自分の送ったペンネームがラジオで呼ばれたのだ。事故しない程度に運転に集中しながらラジオの声に耳を傾ける。


「なになに、"最近仕事が忙しくて何の為に生きているのか分からないです。結婚した頃は、家族のためにと、がむしゃらに頑張ってきましたが、次第に疲れてきて、仕事に追われて今では妻子との関係も悪くなってきています。"…ふむふむ、こんな大切なお悩みの相談に私が乗ってもいいんでしょうか。何はともあれ……あなたは今、噛み続けたガム状態なんですよ。」


 噛み続けたガム状態?何じゃそりゃ…。

そう心の中でツッコミを入れつつ続きを待つ。


「あなたが初めてのキスの前にキシリトールガムを噛んだのは何故ですか?きっと初めてのキスを大切なものと思ったから、相手に嫌な思いをして欲しくなかったから…相手へ愛、思いがあったからではないでしょうか。でも、ガムは噛み続けると味も匂いもなくなり、不快なグニグニしたものが口の中に残るだけ。最初はその意味をしっかりと分かっていた。けど今はその意味を見失って形だけ必死に整えようとしている。」


 的を射ているような、射ていないような言葉遊びを必死に理解するが…今噛み続けたガム状態だとして、じゃあどうすれば…。


「じゃあどうすれば…って思いますよね?」


 まるで自分の心を見透かしたようにパーソナリティは語っていく。


「噛み続けて味がなくなったのなら、新しいガムを噛めばいいんです!!…っというのは冗談です。離婚や転職を勧めたい訳じゃありませんから…さて、ほんとのところは」


 ははは〜っと自分のジョークにひとしきり笑ったあとパーソナリティは少し真剣な口調に変わる。


「…ほんとのところは、本当に大切なのは、あなたが今噛んでいるガムが何度でも味わうことのできる魔法のガムだということに気づくことです。そして味を取り戻す為には、大切な人ともう一度しっかりと向き合わないとダメです。仕事が忙しいのは分かります。毎日遅くまでお疲れ様です。…でもそれで向き合う事から逃げるのはただの言い訳です。市販のガムなら幾らでも買い直すことができますが、あなたの今噛んでいるガムの味はあなたとあなたの家族にしか作れない味なんですよ。…なんてね。ちなみに私は普段エビ味のガムを持ちある……」



 その後のパーソナリティのエビの話は正直耳に入らなかった。

 ただ、彼女のおかけで、今日帰ったら今の気持ちをちゃんと言葉にして伝えようという思いが湧いた。





 そう強く思いながら走る夜の高速道路はなんかちょっといい感じだった。








ありがとうございました。


タイトルはちょっとしたダジャレです。笑

ファーストキスの味なんて、実際は緊張して覚えてないことの方が多いのかもしれませんね。

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