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3時のおやつ♡

ダブルワードショートショート初投稿です。それぞれが短時間で読める短編小説ですのでよろしければ読んでみてください。

はじめのお題は「クーポン」と「3時のおやつ」です。

「はい、これあげる。」


屋上でひとり佇んでいると…確かジキバ エミさんだったか?彼女が突然1枚のチケットのような紙切れを渡してきた。


「え、何これ…?」


学校では既に2学期を迎えているにもかかわらず、彼女と話したのはこれが初めてだ。苗字が珍しいのと同じクラスで隣の席になったことで名前だけは覚えていた。普段は女子に囲まれてワイワイしているジキバさんと話すこともあり内心かなり動揺していた。

そもそもさっきまでひとりだったのにいつの間に屋上にやって来たんだろう。


「近くのお店のクーポン券だよ。」


彼女はニコッと笑ってそう言う。


「いや、それは見たら分かるんだけど…そうじゃ…」


「3時のおやつってなんで3時なのか知ってる?3時は特別な時間でね、この時間は何をどれだけ食べてもいいの!太らないんだよ!」


僕の話なんて聞いていないようで、よく分からない豆知識を披露してくる。


「佐藤君ってガリガリだよね。それに拒食症?だっけ、本当はもっとお肉付けた方がいいと思うけど、太ることを気にしてるみたいだったからこの情報は嬉しいかなって思ったんだけど。」


そう言ってジキバさんは「迷惑だったかな?」といったような切ない表情をする。その表情はずるいよ。


「ありがとう。心配してくれてたんだね。嬉しいよ。」


そう本心から言った。そういうと、ジキバさんは満面の笑みになった。可愛い人だ。


「喜んでもらえてよかった。実は私4月に同じクラスになったその日から君に一目惚れしてたんだよね。ねぇ、そこの店ちょっと分かりにくい所にあるから、今日案内してあげる。一緒に帰ろう。」


何か夢を見ているのではないか、そんな疑いさえ生まれてくる。彼女が僕に一目惚れしたなんて信じられるか…そりゃ嬉しいけど。ただ、ジキバさんの押しが強く、僕の抵抗が弱いため流されるまま彼女と下校することになった。


そもそもこの世界で僕のことを気にかけてくれている人がいることに驚いていた。拒食症というのは嘘だ。世間に向けての言い訳だ。本当は親に虐待されている。虐待といっても殴られることは少ない。いわゆるネグレクト。ろくな食事を与えてもらっていない。だからといって、僕が黙って外で食べて来たり、助けを求めようとしたことがバレた時には永遠に殴られ続けられる。だから空気のようにただ日々を過ごしていることが唯一の平和なのだ。彼女のいう3時の魔法が本当なら、今日はお腹いっぱい食べれるかもしれない。彼女の優しさに涙が溢れそうになる。



「着いたよ、入って。」


おっと、考え事をしていたらどうやら店に着いていたみたいだ。彼女に案内されて扉をくぐる。客は僕たち以外に居ないようで、掃除もあまりされていない印象。


「取り敢えず座ってて、立地のこともあって客が入らないから殆ど貸し切りみたいな感じだね…おーい、おじさーん!お客さんでーす!」


彼女は店の奥の扉を開いて声をかける。客が居ないから奥で休んでいるのか。まあ、客が多いのも落ち着かないからこのくらいの静かさがいい。

しばらくして彼女がお冷やを注いで戻ってきた。


「はい、これ。おじさんサボって寝てたみたいだから時間かかるかも…。お冷やでも飲んで待ってて。あ、クーポン券をテーブルに置いておいてね。」


呆れ顔でも彼女は可愛かった。お冷やだけ置いて、またおじさんを起こしに奥へ入っていった。お冷やを飲みながらポケットからクーポン券を取り出す。手書きで「3時限定 食べ放題!※残さず全部食べること!」と書いてある。おそらく彼女は僕のことを心配して、この店のおじさんに協力してもらって今回のことを考えたのだろう。彼女の優しさにまた泣けてきた。涙のせいで視界がぼやける。


彼女には本当のことを話そう。しばらくしてそう決意した。そして涙を拭う。

あれ、涙を拭っても視界がぼやけたままだ。焦って立とうとすると、足に力が入らずそのまま床に倒れてしまった。


「どうしたの?佐藤くん!」


よかったジキバさんが物音を聞いて駆けつけてきてくれた。


「よかった逃げられたかと思った。」



…え?


ぼやけた視界の向こうに恐らくジキバさんがいて、シャッ、シャッと何かをこすり合わせる音がする。


「ダメだよ、逃げたら。まあ、薬が効いたみたいだからもう逃げる事は出来ないけどね。」


どういう事だ!?と思って口を開けるが呻き声しか出ない。喋れない。


「そのクーポン券を手にした君はもうこの店から出る事は出来ないの。」


よく分からないことを言うジキバさんはこちらに近づいて来ながらそのまま喋り続ける。


「私ね、食べることが大好きで、世界中の味わったことが無いものを全て食べることが夢なの。4月に君と同じクラスになって君に一目惚れしたんだよ。だって、太った人はたくさんいるけど、こんなにガリガリな人見たことないもん。どんな味するんだろってずっと思ってた。」


彼女が目の前で立ち止まったのがわかる。

持っているのは…包丁だ。


「3時のおやつの時間はね、何をどれだけ食べてもいいんだよ。…大丈夫、残さず全部食べるから。」




読んで頂いてありがとうございます。


今回のヒロイン?である、「ジキバ エミ」さんですが、漢字表記だと「食場 笑美」となり、苗字が食べる場所という意味になります。苗字で展開がバレないように今回はカタカナ表記にしました。

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