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趣味は人間観察ですが何か?

ある日の、狩人は地下鉄の構内で電車を待っていた。そこで声をかけられる。


男子美大生「ちょっと勇者ドラゴン。そんなところに立ってたら邪魔だよ。僕のクロッキーの妨げになる」


男子美大生は黒縁眼鏡をかけて、スケッチブックと尖った鉛筆を持っていた。


「(邪魔っていわれても、普通に白線の内側で電車待ってただけなんだけど・・・)えっとところでクロッキーって?」


男子美大生「クロッキーはモデルを観察して5分とか3分とかで描写する、絵の練習法ってところかな。僕は美大に通っていて、こうして人通りの多い場所で日々通行人を観察して絵を練習してるんだ。・・・ほら、こんな感じでね。」


男子美大生はそこでゴミ箱に捨ててあった描き上げた作品を狩人に見せる。


「へぇ~すごい!これ全部そんな短い時間で描き上げたんですか?すげー白黒の写真で撮ったようにうまい・・・さすが美大生・・・。」


男子美大生「短い時間で描かなければならないからこそ、こういう人通りが多い場所はクロッキーをするにはピッタリの場所なんだね。足早に移動していく人をモデルにして作品として描き切るんだ。・・・それに絵の技術だけでなく、こうして多くの通行人を観察する事で芸術を嗜む者として”人間観察”もできるからね。」


「なるほど・・・結構、工夫して練習してるんですね~人間観察か・・・。」


男子美大生「こうして人間観察をしてるとさ。ほとんどの人間が無味乾燥で普通だなってことを実感するんだけど、たまにおもしろい人がいるんだよね。ほら、噂をすれば現れたよ」


不健康そうなサラリーマン「チッ」「チッ」「チッ」「チッ」「チッ」「チッ」…


わざと次々と通行人にぶつかって行って、舌打ちを繰り返すサラリーマンが現れた!


(な、なんだあのサラリーマンは・・・同じところグルグル回って・・・め、迷惑すぎる・・・)


男子美大生「あれは駅構内名物モンスター、資本主義に負けた奴隷シタチッチッだね。僕が観察してわかったことは、シタチッチは早朝の通勤ラッシュ帯の時間から現れて、終電の時間あたりまで、ああいう風にわざと通行人にぶつかって相手に舌打ちをするを繰り返して、自身のストレスを解消する結構愛嬌のあるモンスターなんだ。」


「もはや出社してねぇじゃねえか!!つーか愛嬌ないよ!?ただ迷惑なだけなんだけど!?」


男子美大生「きっとシタチッチは、ブラック企業に勤めてストレスをその身にため込んだとてもかわいそうなモンスターなんだ。だから、温かく見守ってあげなくちゃいけない。国の天然記念物って厚生労働省も声明だしてるからね。」


「頼むから誰か通報してやってくれ・・・」


男子美大生「僕はあのシタチッチを観察して思ったんだ。・・・もしニュートンがうたた寝して木から落ちるリンゴを見逃していたら、現代に生きる僕がシタチッチを見て、万有引力の法則を見出していたかもしれない・・・!ってね。(眼鏡を光らせてクイッ)全ての物体は引き付け合う――」


(さ、さすが美大生・・・ずいぶん個性的な事を言うな・・・)


男子美大生「まぁシタチッチはノーマルモンスターだね。出会ったらザキ(死ね)!ってね。・・・あっ!あそこにドッペルゲンガーが!こういう人通りの多い場所で観察していると、よくドッペルゲンガーを見つけるよね。」


「いや!ねぇよ!!」


男子美大生「しかも今日のドッペルゲンガーはどうやら勇者ドラゴンのドッペルゲンガーのようだね。」


「まさかの俺のっ!?」


男子美大生「あの勇者ドラゴンドッペルゲンガー・・・ゴミ箱に上半身を突っ込んで一体何をしているんだろう・・・?あっ!漁ってゴミ箱の中に捨てられていた溶けかけのソフトクリームを見つけるとなめ出した!?」


「何してくれてんだよオォ!?オレエエェッ!?メチャクチャ評判下がるじゃねぇか!!」


男子美大生「しかもゴミ箱から拾った溶けかけのソフトクリームをなめると思ったら、突然アヘ顔で鼻をほじり出した!?・・・いいね。これはクロッキーし甲斐のある芸術的な表情だ。これこそ人間のあるべき姿だ・・・ホモ・サピエンスッ!!そうだ人間は元来サルなんだという事を思い出させてくれる素晴らしいモデルだ!文明を持ったサルの姿ッ!」


創作意欲を衝動的に駆り立てられた男子美大生はクロッキーを物凄い勢いで完成させた。


「もう主人公降板ものだわ!!やめてくれえええぇえ!!」


男子美大生「あ、・・・・・・残念。あの勇者ドラゴンドッペルゲンガー、駅員の人と鉄道警察に連行されて行ってしまった・・・。どうやら迷惑行為だったみたいだね。残念ながら、2枚目のクロッキーはできないようだ。芸術は時に、弾圧されるッ・・・!」


「俺のドッペルゲンガーより先にシタチッチの方を何とかしてくれ!!まだ俺のドッペルゲンガーの方が愛嬌あって温かく見守れるよね!?」


男子美大生「・・・・・・ふぅやっぱり、駅でクロッキーすると様々な作品が生まれるね。まぁ、自分のドッペルゲンガーが何をしているかなんてそんな気にしなくてもいいと思うよ。」


「いや気にするわ!俺の姿だよ!?これ以上変なことされたらたまったもんじゃない・・・」


男子美大生「もうあの勇者ドラゴンドッペルゲンガー何回も見てるけど、痴漢とか線路内に立ち入ったり色々してるから今更じゃないかって思うけどね。確か先週電車に轢かれて、大幅に遅延させてたよね、君?」


「好き放題やってくれてんなオイ!!てかやったのは俺じゃない!!・・・いやでも俺だけどさぁ・・・見た目は・・・。」


男子美大生「ところで実は最近僕はスランプ気味でね。だから、ちょっと変化を加えて現実空間だけじゃなくネット空間でも人間観察を試みているんだ。特に僕の同世代である大学生を中心に観察しているんだ。ほら見て。これが僕の観察対象だ。」


男子美大生はSNSの画面を映したスマホを狩人に見せる。


男子美大生「この数学科に進んだ”数式に呪われた学徒”っていう名前の大学生は、僕が観察してわかったことはある日この地下鉄の駅で電車を待っていたら数式の奈落に落ちて、今も行方不明なんだ。たぶん、彼は今も現世の裏世界を落ち続けているんだと思う。一応行方不明届は出してあげたんだけど全く見つからないようなんだ。・・・あとは、この哲学科に進んだ彼”陽キャになりたい人”も友人と、陽キャと陰キャどちらの人生が一体幸福かっていう命題を議論していたら、自分の『陽キャの方が幸福だ』っていう意見を受け入れてもらえなくてこの駅で電車に轢かれて自殺してしまったみたいなんだ。」


「観察対象が偏り過ぎてません!?てかこの駅ヤバすぎィ!!いろいろ怖すぎだろ!!?ど、ドッペルゲンガーはいるし、シタチッチはうろついてるし・・・人は消えていくし・・・」


狩人は今いる場所に少し恐怖を覚えるのだった。


男子美大生「あ、そういえば陽キャで思い出したけど、最近は僕も美大生の義務として異世界転生・転移系のアニメとかをよく観察するんだ。」


(び、美大生の義務なのか・・・それに鑑賞ではなくか、観察とは・・・)


男子美大生「観察して思ったんだけど、異世界系の主人公って陰キャの皮をかぶった陽キャだよね。・・・行動力はあるし、なんだかんだで成功するし、周囲の人の評判はいいし、なぜか異性にもてるし・・・陽キャそのものじゃないかって思うんだけど、同じ異世界転移者として勇者ドラゴンはどう思う?どう見ても勝ち組だよね。」


(この作品って、ヒロインとかそういうの一切登場しないけど・・・。そうか異世界系の主人公って勝ち組だったんだ・・・!俺って実は勝ち組だったんだ!ヤッター!)


狩人は気づきを得たのだった。

男子美大生は真剣になり熱弁し始める。


男子美大生「陰キャってのは、コミュニケーション取りづらくて何考えているのかわからなくて変なヤツとか思われるけど、それは違うね。陽キャが作る世界で生きるのを強いられて我慢してるからそう思われるんだよね。学校の先生だって美術と一部の情報の先生以外はみんな陽キャ。僕らは知らないうちに陽キャに洗脳されてきた。陽キャが作る世界は、隙があればマウントする世界、デザインに興味ないのに高級ブランド持って、デザインに興味ないのに高級車乗り回して、デザインに興味ないのに立派な家住んで、ギスギスして荒廃して他者を蹴落とすデスゲームみたいな他者からエネルギーを搾取して奪い合う世界。対して陰キャの作る世界は、みんな等しく輝いて豊かで個々人が夢や希望を実現でき、才能や美しさや優しさにあふれた天国みたいな自ら生き生きとエネルギーを生み出す共存の世界。・・・やっぱり陰キャが世界を支配すべきだって改めて思わされたね。異世界を観察して。」


「こ、個人の感想すぎる・・・」


男子美大生「つまり、陽キャが作る世界って資本主義社会だけど、陰キャが作る世界って社会主義社会なんだよね。そこで思うんだ僕は。僕の芸術が本当に輝けたのは社会主義社会だったんじゃないかって・・・。あぁ、社会主義社会に生まれたかった。社会主義こそ芸術は輝くんだ。」


「さすが、び、美大生のセンスは個性がある・・・」


そこまで男子美大生が言っていると、通りかかった女子美大生が近づいてきた。

女子美大生はオーバーオール姿にセクシーに絵の具がついている。全身石膏像を荷物代わりに背負う。


女子美大生「あ、おつー。・・・?あれもしかして今日もクロッキー?」


男子美大生「お、うぇーい!あ、そうそうちょうどクロッキーしてて」


「えっと・・・」


男子美大生「あ、僕の彼女。」


「アンタが陽キャじゃねぇか!!普通に彼女いんじゃねえか!!!(てかさっきまでと口調すら違う!?)」


男子美大生「彼女いたら悪いのかよ!!ちょっと偏見すぎるな(怒)!僕に彼女いたらまさかそんな大声でツッコまれるとは!これだから陽キャは!陽キャを断罪せよ!」

女子美大生「陽キャを断罪せよ!ちなみに、うちの大学の理念だよ!」


「・・・えっと(人間観察、とかしてる人はどうみても陰キャに思うじゃんか・・・)」


狩人はどことなく男子美大生に裏切られた気分を味わうのだった。


女子美大生「・・・あれ?もしかして勇者ドラゴン?ね、この人、誰?」


最後女子美大生は男子美大生に聞く。


「いや絶対知ってるよね!?」


男子美大生「あ、この人は僕のクロッキーを妨害してきた勇者ドラゴン君だよ。まったくいい迷惑だよ(笑)」


「むちゃくちゃなこと言わんでくれ!!」


女子美大生「ふ~ん。そうなんだ。それよりさ、あのさ聞いた?うちのバイト先の店長。また酔拳失敗してビールケースに頭打って救急車に運ばれたんだよ~」

男子美大生「えっ!?マジ!?で、今回は何針縫ったの!?」

女子美大生「えっと確か~9針だったかな。前に失敗した時が25針だったからちょっとずづ転び方うまくなって上達してる~みたいな( ´∀` )~」

男子美大生「うわ~マジか~アハハハハ!そのうちマジで酔拳成功すんじゃね!酔拳成功したら、その姿、メッチャ絵に収めて~」


知らぬ間に男子美大生と女子美大生は盛り上がっていた。


(ど、どんな状況なんだ・・・ま、全く話が見えない・・・)


狩人は一人むなしく置いてけぼりを食らう。


男子美大生「あ、隣の陰キャに説明するの忘れてた。すまんすまん話の蚊帳の外に置いてしまって。」


「もう完全にアナタ、陽キャですよね!?(くぅっ~異世界系主人公なのになぜかマウントされる~ッ)」


男子美大生「あー僕の彼女、この駅の近くの水餃子専門の中華屋でバイトしてて、そこの店長が結構面白くてね。元々そこの店長は焼き餃子フランチャイズチェーン店を打倒したくて、異世界転生した人なんだけど――」


「まさかの異世界転生者見つけちゃったよ!?」


男子美大生「暇があったら酔拳の練習をする人でね。その人が、徐々に転び方うまくなってるって事を僕の彼女と盛り上がってたんだ。」

女子美大生「この前さ、一緒に本場に旅行行った時ホテルの窓から見えた、早朝から酔拳の練習してる集団いたじゃん!あれぐらいのクオリティに結構近づいたらうちの店長もいよいよ水餃子で全国制覇」

男子美大生「違う違う(笑)あれは酔拳じゃなくて太極拳なw全然違うwそういやこの駅で太極拳してる人さっき見かけたからクロッキーしておいたんだけど見る?」

女子美大生「見る見る!・・・へぇ~さっすが~この線の入り方とか私じゃ絶対まねできないな~脱力してるようで脱力してない?みたいな?」

男子美大生「えwなにその酔拳みたいな表現wあーそいで、これが昨日この駅で酔拳してたおじさんのクロッキーで――」


「・・・・・・。」


狩人はいつしか相手にされなくなっていた。

が、そんな感じで見せつけられるように盛り上がる二人のカップル美大生を前に狩人は気づく。


「・・・(人間観察ってこれの事か・・・!)」


狩人は人間観察に目覚めたのだった。







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