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...こちらパパラッチ...銭湯に潜入した...

ある日の狩人は、ジャーナリスト(見習い)だった。

そして今日も仕事を始めるため、いつもの駅前広場の通りで一人の先輩ジャーナリストと待ち合わせをしていると、ちょうどその時狩人の近くにタクシーが止まる…


「・・・」


狩人は、その止まったタクシーに黙々と近づくと中を覗く。

それに合わせるようにしてタクシーはドアを開けて、狩人をいつものように招き入れる。

タクシー内は、運転席と後部座席に一人ずつ人物が座っていて、定番の仕事仲間のメンツがすでに揃っているようだった。


(運転手はいつも通り、全身にモザイクがかかった人。通称「モザイクさん」。・・・そして後部座席にいるのが、見習いジャーナリストである俺の面倒を見てくれている先輩ジャーナリストの「X氏」。いつも決まってハンチング帽にサングラスにマスクをつけててこっちもまったく素性が不明な人。確実にわかってることはジャーナリストで男っていうぐらいだ。)


X氏「うん?どうした勇者ドラゴン。突っ立ってこっちを見てないでさっさと乗れ。誰につけられてるかわからないんだぞ。」


「・・・あぁ、すみません。」ゴソゴソ、バタン


狩人が後部座席X氏の隣に座ると、ドアは閉じられた。


「いや、なんというか何回見てもタクシー内の光景が見慣れないなと・・・」


狩人はX氏を見つめる。


(・・・初期のころ一回だけ「X氏」と名乗る先輩ジャーナリストの正体を出来心で知りたくなって、色々とインターネットで調べたことがある。有力な情報はあまりなかった。・・・けど匿名掲示板の「Y氏」っていうネームドが結構それっぽいことを書いてあるのは気になった。

その内容によると、「X氏」は国立文系単科大学の社会学部に在籍する大学生らしい・・・結構若い、かと思えば何年も留年を重ねるうちに自然と大学生ではなくなったとか、家族を養うために休学してる最中だとか単に卒業生だとかで、この辺は情報が錯綜して曖昧だ。だけど一つ確かなのはその大学に関係するのは濃厚みたいだ。

そして他にも、両親がおらず家族は都内の高校に通う妹だけらしい。で、妹は兄の仕事に協力しているみたいで、兄が入れないところには妹に潜入してもらっているみたいな内容が書いてあった。

そうやって食い入るようにその掲示板を見ていると、俺のメールボックスに何者かから「件名:これ以上詮索するな」っていう警告が届いたので、そこで怖くなって見るのを止めてしまった。)


モザイクさん「・・・これ今日のタレコミ。」


そこでモザイクさんがモザイク声と共に大判の茶封筒をX氏に渡す。

受け取ったX氏はボタン糸を外して、中の書類を見る。


X氏「ふん、・・・ある公共団体が裏活動をしているんじゃないか疑惑・・・と、ある有名人の不倫疑惑・・・の2件だな。よし、なら早速公共団体の方から取り掛かる前に、いつもの“アレ”いっておこう。」


(・・・アレっていうのは仕事開始前の掛け声みたいなもので特に意味はない。)


モザイクさん「メガホンスピーカーオン。駅前にとどろかせて」


X氏「『社会あるところに闇があり!!』」

「『社会あるところに闇があり!!』」と狩人も後に続ける。


X氏「『闇あるところに社会あり!!』」

「『闇あるところに社会あり!!』」


X氏「『ジャーナリストの名にかけて!!』」

「『ジャーナリストの名にかけて!!』」


X氏「『社会の闇を暴くぞおおおおぉぉぉぉ!!』」

「『社会の闇を暴くぞおおおおぉぉぉぉ!!』(・・・・・・最初の頃は恥ずかしかったけど、今は何とも思わなくなった。)」


駅前にX氏と狩人のシャウトが響き渡った。


モザイクさん「では出発しまーす。」


ブゥゥゥゥン――


こうしてタクシーは出発した。

---

目的地までに着く間の車内。


X氏「・・・あ、最近どうなの。ジャーナリストスキルの習得は進んでる?」


「スキルですか。あぁ、まぁ前よりは増えましたね~。えっと確か『忍び足Lv1』『速記そっきLv1』は習得できました。あと最近は『覗き見』スキル習得のため結構練習してますね。その上位スキル『盗撮』スキルは一人前のジャーナリストになるうえでやっぱり欠かせませんから。」


X氏「ふんふん、まぁ~それもいいけど『ボイスチェンジャー』は習得しないの?・・・結構重要だよ。なんせ電話の向こうでは何人なんぴとにもなれるんだから。それになんつったってつぶしが効く。ジャーナリストで食っていけなくなったら、声優業に転向できるよ。結局、『忍び足』の上位スキル『ストーキング』とか『盗撮』スキルなんてジャーナリストやめたらなんの役にも立たないでしょ。」


「いやいや、見習いの俺にする話じゃないですよ・・・(笑)」


X氏「まぁ、これはー(法律的に)グレーなんだけどかろうじて『速記』スキルの上位スキル『コピペ』は、ジャーナリストやめた後もあらゆるメディアの海賊版生成に役立つかな。グレーだけどね」


「アウトだよ!!」


その時・・・!


X氏「すでにテメェがアウトだろがァ!!」


なんとX氏は逆ギレを起こし、狩人にツッコミ返したのだ。


モザイクさん「目的地に着きました。」


タクシーは繁華街に到着した。


――バタン、バタン


モザイクさん「それでは、その辺の歩道に止めておきますので。」


「歩道!?」


ブゥゥゥゥン・・・


タクシーは走り去り、X氏と狩人はとある雑居ビルの前に立つ。


X氏「今日の一発目はここだ。NPO法人・ハンシャ。・・・この『ハンシャ』つう公共団体がどうやら裏でとんでもない活動をしているとのタレコミが入った。そこで我々がこの雑居ビルに潜入し、証拠なり活動の実態を掴もうと思う。白黒はっきりさせてやろう。」


「・・・(これはわざとなのか・・・)たぶん、黒だと思います・・・」


X氏「なぜ?」


「え、もう頭角出てません?」


X氏「・・・ふ~ん。一つ先輩ジャーナリストとしてアドバイスしておくが、そういう根拠がない決めつけはよくないぞ。ジャーナリストたるもの、ちゃんと人物なり現場に当たって裏付けや証拠をとってから事実を公表するものだ。・・・ネット時代だからこそ、こうやってリアルにいかないとダメだぞ。ジャーナリストは脚で稼ぐのが鉄則だ。」


「す、すみません。・・・確かに、名前だけで決めつけは早とちりでした。もしかするとどこかの外国語ではハンシャも別の意味合いかもしれないですしね・・・。」


X氏「そうだ。ジャーナリストたるもの先入観はよくない。あくまで我々は事実だけを追い求めるのだ。先入観を持てば真実を見失ってしまう。」


そこでX氏と狩人はあらためてその雑居ビルを見上げる。


X氏「正面玄関から入るのは無理そうだな。・・・あの勝手口から潜入しよう。にしても名前が『ハンシャ』って、おいおいジョークも程々にしろってんだ。絶対これ反社だわ。」


「さっきのやり取りなんだったの!?」


そしてX氏と狩人は路地裏に入って、勝手口の前に立つ。


ガチャン。


X氏「ふん、やはり鍵が閉まっているか。しかし問題ない。こいつがある。」


そう言ってX氏がカバンから取り出したのは、ピッキングツールだった。


カチャカチャカチャ・・・X氏「私がピッキングしている間、誰かこないかそっちで見張っててくれ。」

「あ、はい。」


――それから3秒後。


カチャカチャカチャ・・・X氏「・・・・・・」カチャカチャカチャ・・・X氏「・・・・・・」


X氏「・・・・・・・・・アァアアアァァア開かねえぇえええッ!!クソッタレエェェ!!どうなってんだ!?この糞鍵がァ!!」


そう言いながらX氏はピッキングツールを地面に叩き捨てた。


「癇癪持ちかよ!というより諦めるの早すぎるわ!取り掛かったばっかりだよね!?」


X氏「あ~糞。あ~ホントこれ糞鍵だわーこんな糞鍵穴みたことねーわ~あーダリィー。つうかさぁ、今日普通に指痛てぇし~」


(精神年齢が下がって言い訳までしちゃってるよ・・・)


X氏「・・・まぁ問題ない。今から脚で蹴って蹴り開ける。さっきも言った通り結局、ジャーナリストは脚が肝心だ。」


「脚が違いすぎる・・・」


X氏「アチョオオォォォッ!!」


ドオオォォン! X氏は華麗に扉を蹴り飛ばした。


X氏「よし、開いた。入ろう・・・それにしてもルポルタージュをサボタージュしてまで、カンフー映画見てた甲斐あったわー。やっぱジャーナリストもカンフースキル必須だわ。闇の組織に消される心配もいらねぇし」


(こんなんでいいのだろうか・・・)


そうしてX氏と狩人は建物に入る。

---

X氏と狩人が建物内を探っていく。


X氏「お、さっそく怪しいものを発見だ。見ろ、この机の上の白い粉。まずは、舐めて確認だ。ペロッ」


「幼児か!!」


X氏「うん、地中海の塩。問題なし。」


ズコッと狩人はこけたのだった。


X氏「お、これはゴミ袋に入った大量の葉っぱだ。これは怪しい。噛んで確認。ガブッ」


「いや、だから何でもかんでも口に入れんじゃねーよ!!」


X氏「うん、茶葉の出涸らし。問題なし。産地は京都宇治。」


「趣旨が変わってるよ!?」


X氏「もうこの部屋に怪しいものはないな。進もう。」


X氏と狩人は建物を進む。


X氏「こ、これは、廃車寸前の白い軽トラが何十台もあるぞ!これは怪しい。普通じゃない!写真だ写真。」

「は、はい!」


そこで狩人は写真を撮り始める。


X氏「う~ん。しかし、なんのためにこんなにも軽トラが・・・金属やパーツを違法に売買するためか・・・それとも車両自体が何らかしらの違法性があるのか・・・今すぐはわからないが、何らかしらの活動の証拠にはなるはずだ。」


数分後。


X氏「よし、もうこれだけ写真をとれば十分だ。さっさと見つからないようにずらかろう。・・・あ!記念のセルフィ―セルフィ―」


パシャッ


X氏は自撮りを行った。


(この人、なんだかんだで現場で楽しんでるんじゃないか・・・)


ダッダッダッ!

X氏と狩人は建物から去り、タクシーに再び戻った。

---

X氏はノートパソコンを開いて、先ほどの写真を情報収集と共に分析していた。


X氏「う~ん。今NPO法人・ハンシャの公式SNSを見ているんだが、どうやら先ほどの大量の軽トラはやましいものではないみたいだ。先日の河川敷のゴミ拾い活動による不法投棄のゴミらしい。むしろ、ハンシャは善良な活動をしていたようだ。ほら、SNSにその活動の様子が。」


(軽トラばっかり捨てられてる河川敷の方が気になりすぎる・・・)


モザイクさん「ということは我々としては残念ですが、NPO法人・ハンシャは白。よって記事なしと。」


(というか、SNSの下調べぐらいしといてくれよ・・・)


X氏「そんな雑用は助手のテメェがやれよ!!私は日々キャバ嬢から情報収集するのが忙しいんだ!」


モザイクさん「では、出発しまーす。」


ブォォォォン

---

数時間後、タクシーは次の目的地に到着した。


バタン、バタン


モザイクさん「では私、今日これで転職ですので。どうもお世話になりました。」

「転職!?えっま、待って!まだあなたのこと全然知ら、」


ブォォォォォン


タクシーは去っていった。


X氏「今日の二発目はここだ。下町の銭湯。ここがどうやらある有名人の不倫場所とされている。・・・この銭湯は都内有数の男女混浴の銭湯だ。確かに理に適っている。しかも男女が集まっても何ら不自然さはない。優れたカモフラージュだな」


「えぇ・・・そんな大胆な・・・で、その有名人って誰なんですか?」


X氏「聞いて驚くな・・・なんと、あの、あの・・・・・・みかどだ。」


「急に時代遡るな!」


X氏「帝だろうが神であろうが我々ジャーナリストはすべての闇を暴く。ここで一つアドバイス、ジャーナリズムってのはな権力へのカウンターなんだよ。言い換えれば、永年人間アンチ。プゥゥゥゥンと常に人間の周りを飛び続けてうっとおしい蚊のような存在なのだ。モスキート音とたまに血を吸いにくる蚊。・・・どんなに嫌われようがどんなに叩かれるリスクを負いながらも蚊は淡々と標的の血を吸っていく。人間のすべてを吸って吸って吸って、痒さで丸裸にしていく。崇高な虫、それが蚊なのだ。」


「蚊を力説する方に寄ってません!?」


X氏「ということで、勇者ドラゴン。裸になってこい。私は外で張って帝の写真を撮るから、お前は銭湯の中に入って現場の写真を押さえてくるんだ。これは一大スクープの大仕事だぞ。」


「で、でも、まだ『透明化』スキル習得してないですよ!絶対ばれますって!」


X氏「大丈夫。元々お前は存在感がないからたぶんばれない。自信持て。」


「(くっ、でもここで帝の不倫写真を撮れれば・・・世を震撼させることができる・・・ゴクッそれどころか歴史的なスクープになるぞッ)なら、このカメラと共に行ってきます!」


X氏「期待してるぞ!いろんな意味で!」


そうしてカメラと共に狩人は銭湯へ潜入を開始したのだった。


X氏「・・・・・・また、つまらぬ社会の闇を葬り去ってしまった・・・」




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