はいど~も~~!今一番売れてない芸人で~す~!・・・いや、売れとるわ!!
どこにでもいる芸人(ボケ担当)「~――ほんで、リコーダー吹いてると思ったらちくわ吹いてたんや。」
どこにでもいる芸人(ツッコミ担当)「なんでやねん!もうええわ」
(観客)ワハハハハハハハハハハ!!(大笑い)
どこにでもいる芸人(ボケ・ツッコミ)「どうもありがとうざっしたー!」
(観客の拍手)パチパチパチパチパチパチ!
ある日の、狩人は漫才を見に劇場へ来ていた。
座席で拍手をしながら笑いを浮かべていたのだった。
「アハハハハ!・・・(いやー笑った。笑った。くぅ~やっぱ、前の「漫才ブラザーズ」の前代未聞の8人漫才もおもしろかったけど、さっきの「A漫B漫」の正統派漫才もおもしろかったなぁ~!異世界に来て久々に大笑いできた(笑)」
今日の狩人はお笑い通だった。
(うーんいやーでも甲乙つけがたい(笑)大笑いできたのは「A漫B漫」の方だけど、記憶に残るのは案外「漫才ブラザーズ」の方かもしれないフフフッ・・・(笑)、だって8人漫才をするコンビの結成エピソードが、『漫才賞がどうしても欲しい、売れてないザコ芸人8人が出会ったため』ってwフフフフッいや、8人w・・・もうコンビじゃねぇし(笑)フフフフフw)
次のコンビが来るまでの間、狩人はパンフレットを見つめながら思い出し笑いを続けていく。
(しかも『芸人としてのプライドを捨てて、数の暴力で笑わせに来た』ってw・・・『数の暴力』にも程がある(笑・・・『今一番悩んでいる事は、もし年末の漫才賞で優勝してしまったら賞金の1000万をどのように割るかで喧嘩になってしまうこと』ってw・・・本末転倒過ぎじゃねーか(笑)フフフフフフッ・・・w)
そして狩人は次のコンビを確認する。
(フゥゥ~・・・で、次が今日最後のコンビか。えっと、あっ今一番売れてる芸人の「大福大笑」だ!うわ~楽しみだな~)
そうもしていると今日最後のコンビが登壇してくる。
~♪(出囃子)
パチパチパチパチパチパチ!
「はいど~も~!」
芸人である、衣服を着ていない人体模型筋肉と人体模型骨格の2人が登壇してきた。
(えっ、「大福大笑」の2人じゃないぞ。全然知らない顔だ。あれ登壇予定変わったのかな・・・)
人体模型筋肉(ボケ)「どうも皆さん初めまして。・・・おぉ?やっぱコイツ誰やねんって空気してます?」
人体模型骨格(ツッコミ)「当たり前やろ!漫才見に来ていきなりこんな人体模型出てきたら怖いわ!」
(観客)ハハハッ。・・・ハハッ!フッ。(小笑い)
人体模型筋肉「実はね『大福大笑』さんのお二人~今日どうやら2人そろって寝坊しはったみたいなんですわー。せやから~急遽僕たちが代わりに漫才することになったんです。・・・ホンマ~売れてる芸人はこれやからね~。あきませんよ。ねぇ~そこのタンクトップのババアもそう思うでしょ?」
人体模型骨格「おばさまやろが!お前も失礼しとるやないかい!」
(観客)ハハハハハハハハハ!(中笑い)
人体模型骨格「まぁ、そういうわけで~(笑『大福大笑』さんのお2人に変わってこの人体模型2人のコンビ『ラフマン』って言います。どうぞ、今日は『ラフマン』っていう名前だけでも覚えて帰ってください。いうてもこの春に芸人学校卒業したばっかりのひよっこ2人なんですけど~今日は精一杯やらせて頂きます~~!」
パチパチパチパチパチパチ!
(へぇ~そうだったんだ。「大福大笑」の漫才を見られないのは残念、でも・・・!この「ラフマン」も新進気鋭の若手って感じで、結構期待できるかも・・・!うわ~どんな漫才するんだろ~)
人体模型筋肉「というわけでね。今日劇場にきはったお客さんに僕らを覚えてもらうためにもね・・・・・・マイクなんかいらーん!!」
突然、人体模型筋肉は、目の前にあった漫才マイクを客席に放り投げた。
ガシャーーン!・・・・・・ハハハハハハハハハ!
人体模型骨格「いきなりプロレスみたいなことすな!!炎上さす気か!」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「えっ、だって俺マイクなんかなくても地声で声通るし、いらんかなっておもて・・・」
人体模型骨格「お前は声帯残っとるやないかい!俺は骨やぞ!!」
ハハハッ。・・・ハハッ!フッ。
人体模型筋肉「まぁお前は骨のままがんばれや。」
人体模型骨格「いやがんばれちゃうねん。・・・そんなことよりとりあえず、マイクぶつけたそこのお客さんに謝っとけ。・・・ねぇホンマ~すみませんねぇ大丈夫ですか。鼻血とか出てませんか?」
(観客)スッ・・・(会釈)
人体模型筋肉「あ、すみませーん!僕らのネタの犠牲になってもろて・・・もしよかったらコレ・・・肝臓です。」
人体模型骨格「肝臓差し出すな!どんな詫びやねん!・・・いらんいらん!」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「あ、もしかしてコッチの方がええですか?」
人体模型骨格「いや心臓差し出すな!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型骨格「ちゃうちゃう!肝臓か心臓かじゃないやろ!」
人体模型筋肉「せやったら、脳か・・・脳だけはご勘弁を・・・」
人体模型骨格「うん脳でもない!脳でもないな!!・・・別にそこは渋らんでえぇと思うよ!」(小刻みに頷きながらツッコむ)
ハハハハハハハハハ!
人体模型骨格「そんなお前の臓器もろても何の詫びにならへんちゅうことや!・・・ただグロテスクなだけなんや。はよ戻せ。戻せ。」
人体模型筋肉「鬼は~外~!福は~内~!出血大サービス~!!」
人体模型骨格「投げるな―!どこ飛ばすねーん!おぅおぅもうメチャクチャやな!!!」
ワハハハハハハハハハハ!!
客席と劇場に人体模型筋肉の臓器と出血が散らかった。
人体模型筋肉「いやー体、軽なったわー」
人体模型骨格「軽なったちゃうやろ。メチャクチャやわ~後で掃除せぇよほんま・・・あとせめて臓器ネタは劇場だけでにしてくれや。」
人体模型筋肉「なんで?」
ハハハッ。・・・ハハッ!フッ。
人体模型骨格「・・・うん?『なんで?』うん?『なんで?』」
人体模型筋肉「生の特番でやろかなって思ってたんやけどあかんか?」
人体模型骨格「普通にわかるやろ!放送事故もええとこや!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「う~んそうか~生の特番はあかんか~。せやったら知育番組で~」
人体模型骨格「もうえぇ!もうえぇ!」
ハハハッ。・・・ハハッ!フッ。
(すげぇ・・・!卒業したばかりの芸人とは思えない、客席をも巻き込んだ場の空気を支配する力。自己紹介も兼ねた強烈な印象の中にある正統派漫才!これは侮れないぞッ・・・「ラフマン」・・・名前覚えたぜ・・・ッ!)
狩人は瞬きせず目の前の漫才に見入っていた。
人体模型筋肉「あのさ、僕らが今こうして劇場デビューできたんのも『大福大笑』さんが寝坊してくれたおかげさんやんか。」
人体模型骨格「いや言い方!言い方!大先輩の傷口えぐるなえぐるな」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「せやから、僕らも『大福大笑』さんみたいに売れっ子芸人になった時に、仕事で寝坊した時のシミュレーションを今からしとこうや。ほら先に想定しとったら、備えられるやん?」
人体模型骨格「あー避難訓練みたいな感じで?おぉん、まぁ、想像しとくんはえぇんちゃう?」
人体模型筋肉「じゃあここは俺の四畳半の部屋と思って。・・・・・・最初は、前日にセットした目覚まし時計のアラーム時間が間違って鳴るとこから始まんねん。・・・ドドドドドドドドドドド!!」
人体模型骨格「いやドドドドドドド!!ってなんやねん!漫画の擬音みたいになっとる!普通リリリリリリ…やろ!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「わかるやろアホ!マシンガンの音や!」
人体模型骨格「お前の目覚まし時計どないなっとんねん!なんやねんマシンガンって!トークだけにしてくれや!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「えぇやんそんな細かい事。・・・ほんで~」
人体模型骨格「絶対細かいことちゃうけどね。いや~お前の目覚まし時計気になるわ~」
人体模型筋肉「ヤバッ!て直感的に、いつもより寝すぎたって感じで目が覚めるんや」
人体模型骨格「あ~あるある。妙にいつもより疲れが取れてる感じね」
人体模型筋肉「そこから目覚まし時計止めて、真っ先にスマホに飛び込んでマネージャーからの連絡きてへんかメッセージアプリを見るんや」
人体模型骨格「あれ、寝坊してんやったらまず電話の着信あるんとちゃう?絶対いっぱい掛かってきてるやろ」
人体模型筋肉「いや俺、電話NGやねん。」
人体模型骨格「なんでやねん!メッセージはOKで電話はあかんってお前どんな大御所やねん!」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「ほんでやな、メッセージアプリを開いたら・・・・・・マネージャーから・・・」
人体模型骨格「これはもう絶対激おこのメッセージいっぱいきてますよ。まぁ、それか逆にずっと連絡つかんくて心配されてる可能性もありますね」
人体模型筋肉「『お誕生日おめでとう!』ってスタンプがまず送られてきとんねん」
人体模型骨格「いや!よりによって寝坊した日に誕生日迎えんな!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「・・・・・・えっ?俺って誕生日無いの?」(真顔で向く)
人体模型骨格「ややこしいややこしい!・・・・・・いやそんな真顔でこっち見んな!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「薄情な奴やな~。なんやお前~・・・“プレゼント一回もくれたことないしやな~”(←アドリブ)」
人体模型骨格「えぇよもう薄情で(笑!ほんで、続けて」
ハハハッ。・・・ハハッ!フッ。
人体模型筋肉「それからやな80件ぐらい、『まだ?』とか『おーーい!』みたいなスタンプがいっぱいきとんねん」
人体模型骨格「友達か!!えらい緩いマネージャーやな!!緊張感無さすぎやろ!」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「まっ、・・・今のぬるま湯と化したお笑い界にはこれぐらいやる気のないマネージャーがピッタリちゃいます?」
人体模型骨格「サラッと物申すな!お前、何もんやねん!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「これを見た瞬間、あぁー!寝坊したって!気づいて、大慌てでとりあえず支度するんですわ」
人体模型骨格「いやーもうこれは大変ですよ。生きた心地がしませんね。」
人体模型筋肉「まずは同じ布団の隣で寝てた見知らぬ謎の美女をどうしたもんか・・・」
人体模型骨格「妄想!妄想!やめやめ!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「えっ?」
人体模型骨格「えっ?じゃない!そんなスパイ映画みたいな急展開はいらんいらん!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「あ、そう?・・・じゃあ最低限の支度を済ますために、まずはコーヒー豆を・・・」
人体模型骨格「いや!寝坊してんのにコーヒー挽こうとすんなや!」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「いや、コーヒー飲まな目がちゃんと覚めへんやん。」
人体模型骨格「ホントに寝坊してる!?お前ホントに寝坊してる状況なんやろな!?なぁ!大丈夫!?」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「うぅ~んそんなん言われたら・・・冷蔵庫を開けて缶コーヒーを飲むしかないわ~」
人体模型骨格「どうしても飲みたいんやな!?そんなに飲みたいなら、もう飲んで!うん!えぇよもう!飲んで早く支度しよか!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型筋肉「で、缶コーヒーを飲んで目が覚めて急いで服脱いで、いつもの手提げを取って・・・」
人体模型骨格「服は脱ぐのね。」
人体模型筋肉「そんなん今更言わんでも俺らの常識やん。外出する時は服ぬぐって。・・・今日のお前も脱いでるやん」
人体模型骨格「まぁまぁまぁまぁ。そこは~せやね。譲れない・・・僕らの勝負服は脱ぎなんでね。」
(なるほど。・・・「ラフマン」は服を着ない芸風っと。・・・うん?まぁいいか)
人体模型筋肉「そっからは、もう大急ぎでタクシー拾って民放の異世界放送局に直行と。こんな感じや。」
人体模型骨格「ちょっと一つ気になったんやけど、やっぱり口は磨かんねや。」
人体模型筋肉「あー起きたての口臭のまま行くのも迷うんやけども、やっぱそこは『あ、こいつ寝坊したから口も磨かんほど急いで来たんやな』って必死さ演出のために使う方がええかなって」
人体模型骨格「うわー細かいとこ打算やなー。じゃあ、起きたての口臭プラスコーヒーの臭い・・・って想像しただけでメッチャ臭いなァ!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型骨格「で、一応聞くけどその寝坊した日の仕事はどんな設定なん?」
人体模型筋肉「民放大晦日の特番の生放送。」
人体模型骨格「うわー大仕事やん。そら、寝坊したら大ヤケドもいいとこですよ」
人体模型筋肉「そない言う程か?・・・どうせ大晦日のテレビは皆紅白みはるんやし、誰も民放なんて見いひんやろ。むしろ誰が見んねん。視聴率、安定の数%のしょぼくれた世界やで」
ハハハッ。・・・ハハッ!フッ。
人体模型骨格「お前大丈夫!?・・・まだ芸歴一年未満やんな!?早速干されるつもりなん!?」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「そんなことないよ。どえらい感謝してるで~だって、その大晦日の特番の内容は12時間連続・出演者俺だけの、俺密着特番なんやから」
人体模型骨格「どこの独裁国家テレビやねん!そら、誰もみいひんわ!」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型骨格「はぁ~、なんかお前とこうして初めて劇場で漫才してたら、これから先の芸人人生心配になってきたわ。」
人体模型筋肉「えぇ!?どこがー!?」
人体模型骨格「いや、わざとらしいな!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型骨格「いやまぁ、いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず炎上芸に時々走りそうなところはやめようや。なぁ。やっぱり、僕ら『ラフマン』はこうして地道に漫才なりなんなりして目の前のお客さんを笑わせるんが一番えぇんやから。」
人体模型筋肉「お前・・・『ラフマン』の何を知ってるんや!?一体どの口が言うとんや!」
ハハハハハハハハハ!
人体模型骨格「いや『ラフマン』そのものやろ!・・・僕って『ラフマン』のツッコミやんな!?やっぱり、冒頭で脳、投げたん良くなかったんちゃう!?」
ワハハハハハハハハハハ!!
人体模型筋肉「そうか・・・俺もこうやってお前と劇場で初めて漫才して、なんかお前の本心を聞けたような気がするわ。・・・せっかく腹割って話せたついでに、俺から最後に一つお前に言いたいことがある・・・聞いてくれ」
人体模型骨格「なんや・・・急に改まって・・・ゴクッ、えぇで言うてみぃ。」
人体模型筋肉「実は昨日『大福大笑』の2人を宅飲みに誘ってな睡眠薬盛ったんは・・・・・・俺や!」
人体模型骨格「・・・・・・・・・ここに犯人いましたーー!!」
ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!(特大笑い)
人体模型筋肉・骨格「どうもありがとうざっしたー!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!
(こ、これが新人・・・だ、と・・・!?)
狩人は感銘を受けていたのだった。