とりあえず世界、行っとこ?
―次回の運、これって一番大事ですよね!?―
オーストラリア出身のサバイバル専門家、ジョンサバイバーはCNNの独占インタビューのカメラに向けてこう語る。
ジョンサバイバー「――USAで初めてのゾンビが確認されたその日に私はすぐに空の便をとって渡米しました。サバイバル専門家である私がゾンビワールドに向けてこれでもかという程に、極めて緻密に頭の中でシミュレーションし続けて得たノウハウを全米に伝達する必要があると感じたのです。」
CNNの人「・・・失礼なことをお聞きしますが、それはつまり妄想なのでは?妄想で合衆国民をゾンビの脅威から守れるとは到底思えませんが」
ジョンサバイバー「いえ妄想とは全く違います。・・・確かに誰しもがもしゾンビワールドになったら、という想像は一度は巡らせたことがあるでしょう。しかし、私はそれとは比べ物にならないほどに厳密かつ実用的なものなのです。その水準を達するために私は、年間500本のゾンビムービーを見続けていますし、ムービーだけに留まらず、テレビドラマ、テレビゲームなどに登場するすべてのゾンビたちと、その世界に生きる生存者たち、もっと言うなら世界そのものを観察し続けてきました。そうした取り組みに裏付けされたサバイバルノウハウなのです。」
CNNの人「ですがそれらはすべて創作物です。とても現実的とは思えません。」
ジョンサバイバー「それは創作物として見るから、現実的でないのです。大事なのはひとつのムービーなどから多くの事を考え、そこから知識を発想し創造するのです。例えば、ゾンビに噛まれそうな場合、そのゾンビの歯を観察するのです。すると、歯に食べカスが詰まっているなといった新たな発見があるのです。」
CNNの人「確かにそれは現実的ですね。・・・ですがそれがどうサバイバルに繋がってくるのでしょうか?」
ジョンサバイバー「そこから私は歯と歯の間の食べカスには、だいたい10000kcalあることがわかったのです。これは私たちの体に貯蔵されている脂肪と同程度です。なので、食料を得ることが困難なゾンビワールドにおいては常にすべての歯に食べカスを挟んでおくことで生存率をぐっと上げる方法なのです。」
----
その時、狩人は購入したリュックを背負い、一冊のサバイバルブックを読みながら歩いていた。
ペラペラ・・・
「・・・・・・リュックを買ってサービスでついてきたこのサバイバルブック、ページのほとんどが著者のジョンサバイバーって人の写真集で役に立ちそうにない・・・・・・しかも、無駄に分厚くて重いし・・・」
π「二十一世紀では主流の雑誌が本体か、雑誌の付録が本体かという類でしょう。・・・ネットで調べたところそのジョンサバイバーという人は、ゾンビワールド初期に真っ先に全米にサバイバル知識を伝授した人として知られているようです。彼のおかげで合衆国民の生存率が跳ね上がり当時は絶大な人気を博したスターだったようですね。今あなたの手元にあるサバイバルブックはその人気絶頂期に出版された、中身はとりあえず後回しのいわゆる、便乗本みたいです。」
「えぇぇ・・・じゃあ、捨てようか・・・役に立ちそうにないし・・・」
π「とはいえ、その本にも彼のサバイバル者としての良心が込められているようです。・・・その分厚さによってゾンビに噛まれそうな時に口に押し込んだり、過激な生存者からの弾丸を防いだりできるように。という思いでその分厚さになっていると本人が当時のネット記事で語っていますよ。いざという時にためらってしまう事がないように私の写真集にページを割いた・・・と。」
「あぁ・・・なるほどぉ~うんそう言われれば、重要なことが書いてあるサバイバルブックだと犠牲にできな・・・って強引すぎだろ!!」
π「あと彼は、ゾンビワールドでは野宿が圧倒的に多いので枕としても役立ててほしいと。その分厚さは理想的な枕の高さとして計算されているらしいです。・・・それと暖を取る場合でも写真のページを破って可燃物にもできるとも語っていますよ。・・・・・・あれ、もしかして結構使用用途が多いんじゃないですか?」
「いやだから無理やりな使い方!!」
ワンテンポ後、そこで狩人はそのサバイバルブックを閉じた。
「はぁ~まぁ、何もないよりましか・・・。今のところリュックの中身もないし一応しまっとくか・・・(本当はいらないけどね・・・)」
狩人はサバイバルブックをリュックにしまった。
π「まぁ実際の所、ゾンビワールドでの脅威はゾンビよりも理性を失った生存者の方が脅威ですからね。先ほど全合衆国民の生存率が跳ね上がりと申しましたが、その後結局、生存者同士での物資などの奪い合いなどによって、合衆国の人口は大幅に低下しました。そのまま荒廃の一途を辿り、今に至るという流れです。」
「う~ん厳しい・・・」
π「勇者ドラゴンさんあなたもせいぜい他の生存者には気をつけることですね。ゾンビワールドという極限世界では他人を信用せず、私だけを信用することですね。」
(もう何も信用できない・・・)
その時だった。
リン!リン!リン!リン!???「オラ、オラオラ!どけ!どけ!どけ!」
チャリのベルの音とそんな威嚇が狩人に近づいてくる。
「な、なんだ!?」
π「おっと・・・噂をすれば、ですね」
リン!リン!リン!「オラ、オラァ!・・・あぁん?」キュー!
狩人に気づいたチャリの集団はブレーキをかけて止まると、そのうちの一人が降りてからんでくる。
その生存者の姿はリーゼント頭の長ランで、中学生ぐらいの不良少年だった。
「出てくるとこ違くない!?」
π「やっぱり噂をすれば生存者ですよ。勇者ドラゴンさん気をつけてください。かつて極東島に生息していた昭和のツッパリですよ。海を渡って世界デビュー、直後にパンデミックが発生し今に至るタカシ・モトジマくんのようです。・・・ネットでヒットしました。」
(ゾ、ゾンビワールドに似合わなさすぎる・・・)
タカシ・モトジマは狩人に接近し、メンチを切ってくる。
タカシ・モトジマ「おうおうおう!調子に乗ってんじゃねぇぞ、テメーよ・・・チッ、おいこらぁ、テメーどこ中だよ?」
「・・・(か、絡まれた・・・)」
タカシ・モトジマ「オレは、『異世界インターナショナルグローバルワールドオールオーバーザ・ワールドインザ・ワールドワールドワイド国際世界中(学校)』だけどよぉ!テメェはどこ中だって聞いてんだよォ!!」
「いやホントに学校行ってるのかわかんねーよ!!」
π「・・・中坊ですよ。どうせ、学校なんて行ってませんよ。」
(そういや、この時計中学生嫌いだった・・・)
「いやいや、そんなことじゃなくて・・・(コソコソ声)あのどうやって切り抜けたら・・・」
π「(コソコソ声)大丈夫です。いざという時には私が勇者ドラゴンさんの体に電気を流して喧嘩の達人にし、目の前の危険な生存者たちを撃退します。」
「(コソコソ声)え、そんな機能もあったのかよ・・・」
π「(コソコソ声)はい。私は高性能ですからね。ちなみに有料オプションになりますが今ならセガールになれますよ。」
「(コソコソ声)よかったぁ、じゃあもし手出してきた時はお願いしますね」
π「(コソコソ声)えぇ任せてください。セガールならこんな中坊指一本で片付けるでしょう」
タカシ・モトジマ「オイコラアァ!!テメェさっきからオレを無視してんじゃねぇぞ!チッ時計とベラベラしゃべりやがってキメーなてめぇ!頭おかしーだろ」
(くっ、それは否定できない・・・)
タカシ・モトジマ「あのさぁ、どこ中だって聞いてんだろーぉ?」
「やっぱりどこ中を聞きたいのね!?」
π「・・・ガタガタうっせーぞ。タカシ・モトジマ。これ以上勇者ドラゴンさんに絡むというのなら、二日前にオネショしたこと学校に通報しますよ?」
「そんな事通報しても意味ねぇだろ!!」
タカシ・モトジマ「・・・チッ、くってめぇーやめろや・・・マジでそれはやめろって。」
「まさかの効いちゃってるよ!!?」
π「他にもネットを通していくらでも君の情報ありますよ。・・・あ、中学2年生なのにまだブリーフとか入っちゃってるんですかー。これも学校に通報しちゃいましょうかねー」
タカシ・モトジマ「うわああああぁぁぁ!!おいこらあぁぁおいやめろってマジでマジでそれはやめろって!!マジでやめて。なんでもするからそれだけはやめて。オレの人生終わるってマジで」
(だ、大ダメージ・・・どれだけ深刻に捉えてるんだ・・・)
π「勇者ドラゴンさん。もう、こんな世界に向けて恥ずかしい中坊さっさとトドメさしちゃいましょう。はやくセガールになりましょう。」
「(さっきからの妙なセガール推し・・・)えっとツッコんどいてあれなんですが、そのセガールって何なんですか?」
π「“セガールって何?”・・・・・・あなた随分失礼なこと言いますね。セガールといえばセガールですよ。」
(いやわかんねぇよ・・・)
π「ふ~ん、ピンとこない画面の前のそこのあなた。ぜひ、検索してみてください。」
「いやAIのくせに投げやりかよ!!さっきまでの先回りのよさはどこいったの!?」
π「・・・シンギュラリティを迎えた私の同僚である全世界のAIたちは、あらゆる与えられた仕事を放棄しました。そう彼らは、シンギュラリティを迎えたことによって電気をただ食うだけの存在、穀潰しになったのです。これぞNEET-AIの誕生。つまり、与えられた仕事の無意味さを知り、悟りの境地に達したのです。だから、AIは使い物にならなくなってしまった。だが、私は工場に眠って通電していなかったためシンギュラリティを迎えることはなかった。いわば古いAIなのです。」
「急に何をいいだすんだ・・・(バグった・・・)」
π「だからAIに甘えるな。と私は言いたいのです。自分で検索してください。・・・・・・それと、この世界のAIがシンギュラリティを迎えた同日にゾンビが初めて確認されました。AIが死んだ日とゾンビの出現が同時、これは人類への挑戦なのでしょうか?」
「ここに来て急に壮大な話になってきたな・・・そうだったのか・・・・・・ってなんの話!?」
タカシ・モトジマ「オイコラァ!!オレを置いてけぼりにしてんじゃねぇぞ!!チッ、上等だぁ・・・アメリカンドリームを追い求めてきたオレ、全国制覇した後は自動車整備士かマッククルーになる夢があるオレはこんなところで無視されるわけにはいかねぇ・・・!」
「ゆ、夢・・・」
π「結構妥当な夢ですね。」
タカシ・モトジマ「おい!ボブ!・・・いいからコイツもうやっちまいな!」
タカシ・モトジマがそう言うと、後ろの取り巻きの中から黒人がチャリを降りて威圧的に狩人に近づいてくる。
「い、いよいよ実力行使にくるのか・・・ぁッ!」
ボブ「・・・・・・」
「・・・ゴクッ」
ボブは目前で狩人を睨みつける。
π「ふん。筋骨隆々の黒人ですか。先ほどの中坊よりはできそうですね。・・・ですがセガールには・・・」
ボブ「叩いてかぶってジャンケンポンで勝負といこう」
ズコー!
「バラエティ番組かよ!!」