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君のために僕は詠う−21−

君のために僕は詠う―21―




 ケイを乗せた車は高速道路を下り、しばらく県道を走ってから山手の方へと進んで行った。山道は途中まで整備されていたが、30分程走ってから次第に道が悪くなってきた。車は大きく揺れながら走り続けた。

「―――体調は大丈夫か?」

 黒装束の男は聞いた。

「……最悪。すぐ着くって言わなかった?」

 ケイはイライラしながら言った。

「すぐ着くなんて言ってないぞ。遠いとも言ってないが…もうすぐ着く。辛抱しろ、ケイ」

 男の言葉にケイは大きくため息を吐いた。

「……アキに何て言ったの?何て言って連れて来たの?」

「お前が待ってると言ったら迷いもせずに付いて来た」

「……そう…」

―――迷いもせずに?…アキが?…

 ケイは黙り込み、うつむいた。

「―――1つだけ嘘を吐いた」

「は?」

「お前の体調が悪く、倒れたと言ってある。最初は信じていたがさすがに山道に入ると疑い出した」

 ケイは男の胸倉を掴み、そのまま窓ガラスに押し付けた。運転手は驚き、慌てて車を停めた。

「お前っ!!」

「落ち着け、ケイ。何度も言わせるな。女には何もしていない。―――女は黙って我々に付いて来た。お前のように騒いだりはしなかった。見かけによらず度胸のある女だ」男は笑いながら言った。「今頃、お茶でも飲んで寛いでいるだろう…」

 ケイは男の胸倉を掴んだ手を離し、座り直した。男はずれたサングラスを直し、運転手に合図した。車は再び走り出した。


 ケイを乗せた車は、大きな建物の正面入り口の前に停まった。ケイは男の後から建物の中に入った。入り口の自動ドアから広がったフロアには別のスーツ姿の男達が整列していた。その男達に囲まれるように、1人の女がケイのもとへ真っ直ぐ歩いて来た。

「―――やっと会えたわね、ケイ。私の事覚えてる?」

 ぴったりとしたサイズのパステルイエローのスーツに身を包んだ細身の女は微笑んだ。ナチュラルピンクの口紅が女の印象を若々しくしていた。

「……いや…」ケイはしばらく考えて答えた。

「そう……そうね、会ったのはあなたがまだ赤ちゃんの時ですものね……立ち話もなんだし、お部屋でお話しましょう!いらっしゃい!」

 女は笑顔でケイを手招きした。

「アキは?アキに会わせろ」

 ケイは女を睨みながら言った。女はフッと笑った。

「私の話が済んでからよ。……そんなに怖い顔しないで。あの子なら心配いらないわ。ゲストルームで私オリジナルのアップルティーとフランスから取り寄せたお菓子を堪能してるわ。さっ、早くこっちへいらっしゃい!」

 そう言うと、女は腰を振りながら歩いて行った。ケイは小さくため息を吐いて、女の後を行った。



 ケイは女の書斎に通された。

「―――私とケイにもアップルティーね。それから……」

 女はスーツ姿の男に細かく指示し、椅子に腰を下ろした。女はしばらく突っ立ったままのケイを見つめた。

「本当に良い男に成長したわ。見惚れちゃう!……さぁ、遠慮せずに座りなさい!」

 女は笑顔で言った。ケイは黙ってソファに腰を下ろした。

「……僕に何の用なんだ?」

「…もう!せっかちね!まだお茶もお菓子もきてないわ」

 ケイは呆れ顔で女を見つめた。

 グレーのスーツ姿の女がティーセットと茶菓子を運んで来た。その女は手際よく机の上にティーセットと茶菓子を並べ、書斎から出て行った。

「あぁ〜美味しい!このアップルティー、私がブレンドしたの。飲んでみてよ!ケイ!」

 若いのかそうでないのかよく分からないような雰囲気の女に、ケイはうんざりした気分になっていた。 

「……早く要件を言えよ」

「そのやつれた顔も素敵ね。…でもやっぱり体調崩す前の方がさらに魅力的だったわ」

「…あんた、僕をからかってんのか?」

「まさか!本心を言ってるのよ。……それにしても、よく耐えたわね。やっぱりあなたは神から選ばれた人間なのね」

 ケイはしばらく女の顔を見つめた。

「…それ、どういう意味?」

「―――あなたなら…もう分かってるはずよね?私の考えてる事」

 ケイは小さく息を吐いた。

「あんたの考えてる事はなんとなくは分るけど…意味が分からない。僕にどうしろって言うの?」

 女はカップを口に運び、アップルティーを一口飲んだ。

「―――あなたは今2回目の覚醒期に入ってるの。1回目は10歳くらいの時だったはずよ。その時も苦しかったでしょ?…どうやって1回目を乗り越えたか、分かってるわよね?」

 女の言葉にケイは言葉を詰まらせた。女はそんなケイの心境を見透かしたように笑った。

「ケイ、あなたは無意識のうちにあの子と波長を合わせたのね。人の心理なんて複雑なようで単純なのよ。あの子と波長が合った時、気持ち良かったでしょ?身体中の血が一気に巡って生まれ変わったような感覚になったでしょ?」

 両手を大きく広げ話す女を見ながらケイは眉をひそめ、うつむいた。

「恥ずかしがる事なんてないわ。みんなそうですもの。ただ、あなたの場合その事が覚醒期に大きく影響するのね。今のように…あの子に拒まれれば、あなたは自分自身をコントロール出来ず、自分の細胞に支配されてしまうわ。分かるでしょ?」

 女の言葉にケイは驚いた。

「…なっ何が言いたいんだ?」

 女はフッと笑った。書斎のドアがノックされ、黒装束の男が入って来た。

「彼は私達の組織の司令塔よ。…彼の後継者を―――ケイ、あなたにお願いしたいの」

「僕が…?」

「もともとそのつもりであなたを誕生させたの。でも、本条教授が裏切ったのよ。それなのにあなたは組織のメンバーを殺した…」

「…裏切ったのはあんた等だろう?」

「人聞きの悪い!あなたを誕生させるための莫大な費用も施設も私達が本条教授に提供したのよ。それなのにあの教授は途中で怖気づいた。ねぇ、大神」

 黒装束の男、大神は頷いた。

「―――ケイ、私の後継はお前しかいない。ここに残り、組織のために生きるのだ。それがお前の運命だ」

 大神の言葉にケイは苛ついた。

「お前のその言い方が嫌いだ。運命は僕が決める」

 大神は薄らと笑った。

「―――運命はもう決まっているのだ。お前はもう分かっているはずだ。もうお前1人ではどうする事も出来ないと…」

 ケイは言葉を詰まらせた。

「…ケイ、私達ずっとあなたを見守ってきたのよ。私達はあなたの仲間よ。あなたはここに留まり、私達と生きるべきよ」

「…でも…僕は…」

「心配いらないわ。あなたが大神の後継者になってくれるなら―――あの子、松田アキをあなただけのモノにしてあげる」

 女はそう言うと微笑んだ。ケイは面食い、言葉を失った。

「私達の組織はただの暗殺者軍団じゃないのよ。人間の神経・細胞の研究のプロが揃ってるの。あの子の脳神経を少しいじれば…すぐあなただけの女になるわ。なんなら私が直々にやってもいいわ。私、こう見えても医者なのよ」

 女の言葉にケイはしばらく黙っていた。そして笑い出した。

「?何?何がおかしいの?」

「…いや…本当に僕の事思ってるんだなって思ったんだ―――― でも肝心な事が分かっていない」

 女は眉をひそめた。

「どういう事?」

「…アキがそばにいてくれるのは嬉しいんだけど…それはアキの意思じゃない。だから駄目なんだ」

「……でも、もうあの子の意思ではあなたのそばにはいないわよ」

「分ってるよ…分かってる…」

 ケイはそう言うと大きくため息を吐いた。

「……ケイ、あなたこのままじゃ死ぬわよ」

「…うん…そうだな…」

 微かに微笑んだケイを見つめながら女はしばらく黙っていた。

「……死にたいの?」

 女の言葉にケイは答えなかった。女は大神に目をやった。大神は小さく息を吐きながらケイを見つめた。

「…とりあえず、その覚醒期を乗り越えられるように頑張るよ。でも…それでも駄目なら―――僕の身体、あんた等にあげるよ」

 ケイの言葉に女と大神は目を見開いた。

「本気で言ってるの?ケイ」

「あぁ、本気だよ。死ぬのは僕の“意思”だろ?後はあんた等で僕の神経や細胞を好きなようにすればいい」

 ケイの穏やかな表情を見つめながら、女は黙っていた。

「―――そんなに好きなのね…」

 女の言葉にケイは苦笑した。

「アキを元の生活に戻してよ。それと、兄さんや大学の連中には一切手を出すな。この条件呑んでくれるなら、僕ここにいるからさ…」

 女は首を振りながら苦笑した。

「分ったわ。…あの子は最上階の一番奥のゲストルームにいるわ」




 ケイは最上階に向かうエレベーターの中で、静かに目を閉じた。


―――触らないで!


 アキの言葉が脳裏にハッキリと残っていた。ケイはゆっくりと目を開き、頭を軽く振って―――大きくため息を吐いた。

 ゲストルームのドアをノックし、ドアをゆっくり開けた。部屋の中央に置かれたソファにアキは座っていた。


――アキ…

「ケっケイ君!?」

 アキは驚いた様子で、慌てて立ち上がった。

「ごめん、アキ。驚かせて…」

 ケイは苦笑しながら言った。

「大丈夫なの?身体は?倒れたって本当!?」

「…うん…本当…。でも、もう大丈夫だから…」

 2人の間に沈黙の空気が流れた。

「……ケイ君…私…」

「―――アキ、ここに来た事は忘れるんだ。誰にも言ってはいけないよ」

「え?…」

 アキは不安げにケイを見つめた。


――アキ……

「……僕は…もうアキの前に現れないから…心配しないで。僕の事も忘れていいから……」

 アキの顔が強張った。ケイは込み上げる想いを必死に抑えた。

「ごめんね、アキ。君を…こんなに傷つけるつもりはなかったんだ。本当に…ごめん…」

 頭を下げるケイを見つめながら、アキは小さく息を吐いた。

「……やっぱり…“魔が差した”だけなのね。」アキは苦笑しながら言った。「……なんだ…色々考えて損しちゃった…」

「…アキ…」

「ここに来た事は誰にも言わないわ。…でも…ケイ君を忘れる事なんて出来ないわ…出来ないわよ…」

 アキは込み上げる涙を必死に堪えた。

「…アキ、僕は真剣だったんだ…真剣に君の事が…」

「真剣?ケイ君さっき自分の事忘れろって言ったじゃない?何が真剣なの?…ただ、魔が差しただけなのよ…」

「違う!僕は…」

「あなたにとって私って何?」

 アキはケイの瞳を真っ直ぐに見つめた。アキの瞳から涙が零れた。

「私は…私はケイ君がいるから伊藤君に付いて行かなかったのよ。ケイ君がここにいるって聞いたから…ここに来たのよ…」


――アキ…!

「…私はあなたの気持ちが分からないわ……」

 ケイは息を呑んだ。心臓が激しく動き出した。

「僕はアキの事が好きなんだよ!」

「もうそんな嘘吐くのやめてよ!」

「嘘じゃない!!」

 アキは泣きながらケイの顔を見つめた。

「……嘘じゃないって…どうやって信じればいいの?…」

 震える声でアキは言った。

 ケイは全身から血が噴き出すような熱い感覚に襲われた。

「何を信じればいいの!?ケイ君!!」




 僕の中で“何か”が目覚めた。

 それが何なのか…分からない。分からないけど―――僕はアキのために出来る事を1つ見つけた。


「―――アキ。行こう…」

「え?…」

 アキはケイを見つめた。ケイは優しく微笑んだ。


「―――その選択は間違っている」

 ドアの横に大神と数人の男達が立っていた。

「ケイ。私達を裏切るのか?」

 大神のサングラスにケイとアキの姿が映っていた。

「……悪いね。さっきの女の人に伝えて。気が変ったって」

 大神はゆっくりケイ達に近付いた。ケイはアキの腕を掴み、引き寄せた。

「ここから出られるとでも思っているのか?」

 大神の言葉にケイはニッと笑った。

 男達は一斉にケイに銃口を向けた。





「―――ケイがいなくなった?」

 研究室に来た中島と麻衣子の言葉に本条は驚いた。

「本条の奴、倒れちゃって…医務室で寝てたんですけど…俺が売店に行って戻って来たらいなくなってて…荷物はそのままだったんでトイレかと思って…見に行ったけどいなかったし、待ってたんですけど、戻って来ないんです…」

「携帯にも掛けてみたんですけど…繋がらなくて…本条君、すごい熱だったんです…あんな身体で動いたら…」

 麻衣子はワッと泣き出した。中島は必死に麻衣子を慰めた。

「麻衣子ちゃん、ケイならきっと大丈夫だから…きっとワケあっていなくなったんだよ」

 本条の言葉に中島は少し安心したように笑った。

「そうだよ!麻衣子ちゃん!本条だって子供じゃないんだからすぐ帰って来るよ!な!」

 麻衣子は泣きながら頷いた。

「悪かったね、2人とも。こんな遅くまでケイを探してくれたんだね?」

「俺達友達ですから!な!麻衣子ちゃん!」

「うん!」

 中島と麻衣子の言葉に本条は微笑んだ。

「お腹空いたろ?私もこれから帰ろうと思ってたんだ。どうだい?一緒に食事でもして帰るかい?」

「…え…でも…」

「ちゃんとご飯食べて、早く家に帰ってしっかり寝るんだ。ケイが帰って来たらすぐ連絡するから…いいね?」

 本条は穏やかな口調で言った。2人はホッと安心したように笑った。


―――ケイがいなくなった。朝、アキちゃんから連絡があったばかりなのに…もしかして…アキちゃんも一緒なのか?……

 本条は考えた。

 答えは見つからず、不安だけが残っていた。








―――軽い!!身体が軽い!!


「追いかけろ!外に出すな!」

 大神の怒声が響いた。ケイはアキの身体を抱え、飛び交う銃弾の中を駆け抜けた。

≪なんて速さだ!!≫大神は苛立った。≪女を抱えてあんなに速く動けるなんて……≫

 ケイは横から飛びかかってきた男をかわし、その男の腹を蹴った。男は勢いよく壁にぶつかり、その場に突っ伏した。

「アキ、ここでじっとしてて」

 ケイはそう言うとアキを通路の隅に残し、突っ伏した男の所に近付き、男の懐から拳銃を抜き取った。そして通路の突き当りの窓ガラスに向かって銃を撃ち続けた。弾は窓ガラスの中央に1ミリの狂いもなく撃ち抜かれ、窓ガラスには細かいひびが入った。ケイはアキの手を引き、アキの身体を抱き抱え、その窓ガラスに向かって突進した。

「アキ!目をつぶって!!」

 ケイの声にアキは必死と目をつぶった。

「止めろ!ケイを止めろ!!」

 ケイはアキを抱えたまま、背中から窓ガラスにぶつかった。窓ガラスは粉々に砕け、ケイとアキの身体は夜空に舞い、落ちて行った。









「―――逃がした?」

「申し訳ありませんっ」

 女は大神の言葉を聞いて、大きくため息を吐いた。

「完璧に覚醒しちゃったのね……でも、大神。お前達プロでしょ?いくらケイだからって女連れてたのに逃がしちゃうなんて…あんまりじゃない?」

「……あんなに速く動くとは…」

「言い訳するの?お前らしくない」

「…申し訳ありません…奥様…」

 大神は深々と頭を下げた。

「―――もう、いいわ。しばらく時間をおいて…またケイをここに連れて来て」

 女はゆっくりと椅子に腰を下ろした。

「女はどうしましょうか?…」

「何言ってるの?あの子に手を出したら…お前、殺されちゃうわよ」

 大神はうつむいた。

「…大神、引退はまだ先の話ね。早く自分の部下を鍛え上げなさい」

「はっ」

 大神は足早に部屋を出て行った。

 女はしばらく窓一面の夜空を仰いだ。


――死ぬほど好きか……

 女はフッと笑った。









 ケイはアキを背中に抱えたまま、山の中を走り続けた。凄まじいスピードで駆け抜けるケイの身体にアキは必死でしがみついていた。

 突然、ケイは勢いよく倒れ込んだ。アキをかばうように倒れたケイは地面に顔をぶつけた。

「きゃぁ!!ケイ君!!大丈夫!?」

「…うん…っ痛…」

 ケイは額を押さえながら起き上った。

「ケイ君!血!血が出てるみたい!…待って…ハンカチ…ハンカチ…」

 アキは慌ててジーンズのポケットからハンカチを引っ張り出した。ケイの額からじんわりと滲んでいた血を、アキはハンカチで拭った。

 木々の茂みと茂みの間から市街地の明かりが見え、車のエンジン音を微かに聞こえていた。アキはケイがどれだけ走り続けてきたか改めて考え、息を呑んだ。

「……ごっ…ごめんね。私、重かったでしょ?」

「重くないよ。少し足がもつれたんだ…」

「え!?大丈夫?」

 不安げな表情のアキに、ケイは微笑んだ。

「大丈夫。あんまり身体が軽くて…勢い余ったんだ…」

 ケイは血を拭うアキの手首をゆっくり掴んだ。

「……ケイ君…私、まだ興奮しちゃってて…ワケ分かんないの…」

 アキは力が抜けたように、静かにケイの前に座った。ケイはアキの手首を掴んだまま、アキの身体を引き寄せた。

「僕も…興奮しちゃって…何から話したらいいか分からないよ」

 ケイの言葉にアキは笑った。

 ケイの少し乱れた息がアキの耳に触れた。

「……でも…1つだけ言ってもいい?」

「うん?」

 ケイはアキの肩に手を置き、アキを笑顔で見つめた。アキはケイの穏やかな表情に見入った。

「―――僕はアキが好きだ。初めて会った時から…アキだけを見てきた。……アキを傷つけた事、本当に後悔してる…」

 ケイは静かに喋った。

「……アキ、僕はアキが許してくれるまでどんな事でもするから……だから…お願い…一緒に帰ろう…アキ。一緒に帰ろう」

 アキの瞳から涙が零れた。ケイはアキの頬に手を当て、その涙を指で拭った。




―――ケイ君…ケイ君…

 私はケイ君を抱きしめた。

「……分ったよ、ケイ君。一緒に帰ろう…」

「…本当に?」

 ケイ君の大きな… 澄んだ綺麗な瞳から大粒の涙が零れていた。私もその涙を指で拭った。

「うん!私が嘘吐いた事あった?」

 ケイ君は子供のように笑いながら―――… 私を抱きしめてくれた。強く抱きしめてくれた。



…ケイ君…本当はね、私、ずっと考えていたんだ。

 あなたが、その細い肩に背負った“運命”を少しでも軽く出来ないか…必死に悩んでいたんだよ……

 

 でも、今はそんな事考えられない。

 

 ケイ君の心臓がドクドクドクと強く鳴る度に、私の心臓も激しく高鳴る。ケイ君の長い睫が私の睫に触れる度に、私はあなたの温もりを感じる。


 あなたの唇が

 あなたの腕が

 あなたの鼓動が

 私の思考回路を完全に止めてしまったから―――――……



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