君のために僕は詠う―18―
君のために僕は詠う―18―
本条は新聞を広げ、コーヒーをすすりながら身支度をしているアキに言った。
「―――今日はそんなに遅くならずに帰るからね、アキちゃん」
「はい、分りました」本条の言葉にアキは笑顔で頷いた。
「…ケイは?まだ具合悪いって?」
「はい…今日はいつもより大学遅く行っていいみたいで…もう少し寝てるって…先生、ケイ君どうしちゃったんでしょうか?」
アキの不安げな表情に本条は微笑んだ。
「大丈夫だよ、アキちゃん。疲れが出たんだろ…今日、病院に行かせるから心配しないで店に行きなさい」
本条の言葉にアキは少しホッとした。
「じゃぁ、先生。行ってきます!」
「気を付けて…」
本条はアキを見送り、2階のケイの部屋のドアをノックした。
「ケイ!入るぞ。……なんだ、起きてたのか。大丈夫か?」
ケイは窓から外を眺めていた。本条はベッドの上に腰を下ろした。
「…もう、アメリカには行かないの?」
「あぁ…当分の間は行かなくて済みそうだ。来週は福岡の方に行くから…それが終わったら元の生活に戻るよ」
「そう…」
本条はケイの額に手を当て、小さくため息を吐いた。
「やっぱり…少し熱があるな…頭痛はあるか?」
「うん…だんだんひどくなるよ…“あの時”と同じだよ」
「どうする?病院に行ってみるか?行くなら知り合いに医者がいるんだ。彼女なら“事情”を言えば問題無いんだが…」
「……彼女?その医者って女?」
「…あぁ、でも心配するな。よく知ってる女だから」
本条の言葉にケイは苦笑した。
「忙しそうにしてたくせに、やる事はやってたんだ」
ケイの言葉に本条は言葉を詰まらせた。
「…ケイ…」
「……ごめん…兄さん…」
ケイはそう言うと、フーと長く息を吐いて、うつむいた。
「…ケイ…もう、我慢しないで言ったらどうだ?…アキちゃんは…」
「無理だよ!!」
ケイの強い口調に本条は驚いた。
「…アキは僕のモノじゃないんだ…どんなに頑張っても…もう駄目なんだよ…」
うな垂れたように言うケイを、本条は見つめた。
「―――麻衣子ちゃん…そんなに考え込むなって!」
中島は麻衣子の肩をポンっと叩いた。麻衣子は少し腫れた目で中島を見つめた。
「だって……中島君も分かってたんならどうして教えてくれなかったの?」
「それは……」
麻衣子の言葉に中島は言葉を詰まらせた。
「…ごめん…中島君…私には言いにくかったんだよね…ごめんね、勝手な事言って…」
麻衣子は紙コップに入ったカフェオレを一口飲んだ。中島はそんな麻衣子を見つめ、小さくため息を吐いた。
「…俺も後悔してるんだ。アキさんに余計な事言ったの俺だし…」
「そんな…中島君は私のために言ってくれたんだもん!中島君は悪くないわ…悪いのは私よ…。調子に乗って家まで押し掛けて…本条君の邪魔しちゃったんだもん…私って最悪よね…」麻衣子はうつむきながら言った。「…中島君…どうしたらいいかぁ?…アキさんに言った方がいいかぁ…」
中島はしばらく黙り、講堂の窓から外を眺めた。麻衣子は中島の言葉を不安げな面持ちで待った。
「…いや、俺達が言わない方がいいよ…」
「どうして!?このままじゃ本条君とアキさん駄目になっちゃうんじゃない?」
麻衣子は納得いかない様子で言った。中島は静かに首を横に振った。
「…もう俺達が口出す事じゃないよ…別に本条とアキさん、付き合ってたワケじゃないし…アキさんが本条の事どう思ってるのか分らないし…」
「でも…」麻衣子はもどかしそうに呟いた。
「……麻衣子ちゃんは辛くないの?」中島は苦笑いしながら言った。
「え?どうして?」
「…どうしてって…」
「!あぁ!!本条君に振られたから?それは大丈夫!きっぱり言われたから逆にスッキリしてるの」
麻衣子は笑顔で答えた。
「麻衣子ちゃんは強いなぁ…」麻衣子の言葉に中島は微笑んだ。
「……そりゃぁ…全然ショックじゃないワケじゃないけど…それより、私嬉しいの!」
「嬉しい?」麻衣子の言葉に中島は目が点になった。
「うん!本条君がアキさんの事好きな事が嬉しいの」
「…何で?」中島は首を傾げた。
「男の人には分からないかなぁ…アキさんって女性としてすごく素敵だと思うの。いつも笑顔で、なんでも一生懸命で。本条君があんなに好きになるの納得出来るの。それに…あんなに愛おしそうに誰かを想えるって素敵な事じゃない?」
麻衣子の言葉に中島は思わず笑い出した。
「なっなんで笑うの!?」
麻衣子は口を尖らせた。
「いや…確かに、アキさんは素敵な人だよ。でも麻衣子ちゃんも本当に素敵な人だよ。…しかし…女って強いなぁ!!」
中島の言葉に麻衣子は笑った。
「本条がアキさんに振られちゃった時は2人で慰めてやろうぜ!」
「なんでそんな悪い事言うの!中島君、最低!!」
中島と麻衣子のいる講堂にケイが入って来た。2人は顔を見合わせ、頷いた。
「よっ!本条!具合はどうだ?」
「あぁ…大丈夫。…有尾、この間は悪かったな」
ケイの言葉に麻衣子は首を横に振った。
「気にしないで!」
「―――先生…明日、夜出掛けてもいいですか?」
本条の部屋にコーヒーを運んで来たアキは言った。
「明日?あぁ、構わないよ。遅くなるかい?」
「いえ…次の日も早いのでそんなに遅くならずに帰ります」
「そう…分かった」
本条の言葉を聞いて、アキは安心したように微笑んだ。
「それじゃぁ…先生、おやすみなさい…」
「おやすみ」
アキは静かにドアを閉めた。
本条は仕事の手を止め、コーヒーを飲んだ。
アキはケイの部屋の前で足を止めた。ケイの部屋のドアをノックしようとしてためらった。
ドアが少し開き、アキは驚いた。
「…アキ?どうした?」
青白い顔をしたケイの顔を見て、アキは言葉を詰まらせた。
「…まだ顔色良くないね…病院行ったんでしょ?検査の結果っていつ分るの?」
「…明後日くらいかぁ…疲れが溜まってるだけだから心配しなくていいよ」
「そう…」アキは微笑んだ。「…おやすみ!ケイ君!」
「うん…おやすみ…」
ケイは、階段を下りるアキの背中が見えなくなっても、その場から動く事が出来なかった。
午後7時。アキは“Jun−Cafe”の近くにある本屋で立ち読みしていた伊藤に手を振った。伊藤もアキに気付き、手を振り返した。
「ごめんね!待った?」
「いいや。家の方はいいの?」
「うん、先生にちゃんと言って来たから大丈夫!」
アキの言葉に伊藤は微笑んだ。
「でも、遅くは帰れないんだろ?」
「…うん…」
うつむいたアキの頭を、伊藤はポンっと叩いた。
「行こう!腹減って死にそう!」
2人は近くのレストランに入った。メニューを注文し終え、伊藤はグラスの水を一気に飲み干した。
「……準備…進んでる?」
アキの言葉に伊藤は微笑んだ。
「あぁ、バッチリ!…後は、松田の返事を訊くだけだ」
伊藤の言葉に、アキは真剣な表情で伊藤を見つめた。
アキは意を決し、口を開いた。
「―――ねぇ…有治君。本当に何にも教えてくれないの?」
女医、空閑清子の言葉に本条は苦笑した。
「訊かない方が君のためだ」
「……私、医者よ。それにあなたのお父様の書籍、すべて読破してるの。知ってるでしょ?」
「あぁ…」本条は小さくため息を吐いた。「約束しただろ?何も詮索しないって」
「そうだけど…」
清子は納得いかない様子で言うと、ケイの検査結果に目を通しながら小さくため息を吐いた。
「君に迷惑掛けたくないんだ。分かってくれ」
清子は苦笑しながらゆっくりと本条を見つめた。
「……検査結果は…特に異常はないわ。…ただ…大きな問題はあるわ」
「問題?」清子の言葉に本条は眉をひそめた。
「ケイ君の細胞は今活発に動いている。それはどんな人間でもそうなんだけど…ケイ君の場合、その動きが尋常ではなくなるかもしれない……もしかして、前にもそういう事、なかった?」
清子の言葉に、本条は肩をすくめた。
「本当に父さんの本、読破してるんだな…」
清子はニコッと笑った。
「あなたのお父様の言葉で言うと…今、ケイ君の細胞は大きく変わろうとしているみたい。どう変わるかは分からないけど…ケイ君は普通の人とは違うみたいね。脳細胞は常にフル活動してるみたい…しかも脳細胞に“応える”ように筋肉細胞も普通では考えられないくらい発達してるわ…ねぇ、ケイ君の事、私に預ける気ない?」
「…清子…」
「分ったわよ。もう言わないから……結論から言うとケイ君の場合、もし細胞の働きが今より活発になったら…ちょっと問題なんじゃないかしら…」
本条は一瞬、胸騒ぎを感じた。
「……もう…誰もケイを止められなくなるって事か?」
本条の言葉に、清子は静かに肯いた。
「あなたのお父様の仮設と、細胞の活動周期と、体温の上昇から考えて…はっきりは言えないけど……そろそろ大きな“波”が来るかもしれないわね」
清子の言葉に、本条の顔色はスーっと青ざめた。
「……先生?」
アキの言葉に本条はハッとした。
前の晩に机に向かったまま眠っていた本条は、汗でシャツが濡れていた。
「もしかして…ベッドで眠ってないんですか?」
アキは心配そうに言った。
「あぁ…調べ物してたからな…そのまま眠ってしまったみたいだ」
「先生、今日から福岡ですよね?大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。新幹線の中で寝るよ。それよりお風呂沸かしてくれないか?」
「はい、もう沸かしてますよ。荷物は準備しますのでお風呂入ってきて下さい」
「あぁ…ありがとう」
本条の言葉にアキは微笑んだ。アキは旅行鞄に本条の下着や靴下などを詰め始めた。
「……アキちゃん」
「はい?」
……アキちゃん、ケイを助けて…
本条は心の中で強く思った。
「先生?」
アキのキョトンとした表情に、本条は苦笑した。
≪何を考えているんだ…俺は…≫
「…土曜には帰るけど…俺がいない間に何かあったらすぐ連絡するんだよ」
アキは笑顔で頷いた。
「ケイ君!入るよ!」アキはケイの部屋のドアを開けた。「ケイ君!朝ご飯は?」
「…うん…食べる…」
ケイはゆっくりベッドから身体を起こした。
「…ケイ君…なんか顔赤いよ。熱でもあるんじゃない?」
アキはケイの額を触った。ケイは驚いて飛び上った。
「ごっごめん!冷たかった?」アキは手を擦り合わせてもう一度ケイの額を触った。「…ケイ君、熱あるじゃない!どうする?病院行く?」
「いや…まだ薬あるからそれ飲んで寝てる…」
「そう…そしたらご飯食べないとね。持って来ようか?」
「いい…下で食べる。…兄さんは?福岡行った?」
「うん、土曜には帰るって」
「…アキは?店は?」
「今日、お休み。夕飯何かリクエストある?」
アキは笑顔で言った。ケイは必死で考えたが思い浮かばなかった。
「…何でもいいよ…」
「そう…」ケイの言葉にアキは少しがっかりした様子で言った。「栄養のあるもの考えるね!」
アキはそう言うと部屋を出て行こうとした。
「アキ!」 ―――行かないで…
「?ん?」
「…アキ…」 ―――どこにも行かないでくれ…
「―――ケイ君?どうしたの?」
ケイはハッとしてうつむいた。「…大学…今日休むから…」
アキは少し戸惑いながら頷いた。
「そうね。大学には電話しとくから…」
―――本条先生も、ケイ君も…なんか最近様子変じゃないかなぁ…
アキはボウルに卵を割りながら考え込んでいた。
卵を泡立て器で混ぜ始めた時、厨房に純子が入って来た。
「アキちゃん!おはよう!」
「純子さん!おはようございます!」
「どう?順調?…おっ!キレイに焼けてる!美味しそうね!」
焼きたてのアップルパイを見ながら純子は言った。
「…純子さん、今日まで早く帰っていいですか?」
「うん?ケイ君まだ調子悪い?」
「…はい…すいません。明日本条先生帰って来られるんで…今日まで…」
アキは申し訳なさそうに言った。
「いいわよ!普段たくさんこき使ってるからね!新しく入った子も思ってたより働くし…昼で上がっていいわよ」
「ありがとうございます!」
アキは笑顔で言った。
「オェッ…オェッ…げほっ…」
―――苦しい…苦しい…。なんなんだ!?何が起こったんだ!?
ケイはそのまま立ち上がれず、トイレのドアにもたれかかった。
―――今日は何日だ?…
ケイは激しい頭痛で割れそうな頭を抱えた。ケイはハッとした。全身から汗が噴き出した。
―――アキ!アキ!
アキは昼で“Jun−Cafe”を上がり、買い物を済ませ、家路を急いだ。
玄関の鍵を開け、買い物袋を持ったまま台所へと急いだ。冷蔵庫に買ってきた食材を入れ、2階のケイの部屋へ行った。
「ケイ君?入るよ!」
部屋にケイはいなかった。
≪……どこ行ったんだろう…≫
アキは言いようのない胸騒ぎを感じた。アキは下に下り、ケイの携帯に電話を掛けた。ケイの携帯の着信音がケイの部屋で鳴り響いていた。
「……ケイ君、携帯置いて行ってる…」
アキはしばらく呆然とした。ハッと我に返り、慌てて洗面所へ向かった。
≪…とりあえず洗濯しよう……もう!ケイ君!黙って出掛けるなんて…こっちは心配して帰って来たのに…≫
アキはブツブツ言いながら洗濯機のスタートボタンを押した。
午後5時になろうとしていた。アキは夕飯の準備に取り掛かろうとしていた。外は雲行きが怪しくなり、ゴロゴロと雷が鳴っていた。
≪…やだ…ケイ君、どうしたんだろう…≫
アキは胸騒ぎを感じながら冷蔵庫を開けた。
屋敷の電話が鳴り、アキは飛び上がった。アキは少し呼吸を整え、受話器を取った。
「……もしもし?本条ですけど……」
本条は苦渋の表情で携帯の電源を切った。しばらくの間、セミナーホールの天井を見つめた。
「…本条先生?どうかされましたか?」
同じセミナーに出席していた中堀教授が心配げに声を掛けて来た。
「いや…」
本条は徐に椅子から腰を上げた。
「本条先生、今晩のパーティーのスピーチ、考えて頂けましたか?」
中堀は恐縮そうに言った。本条は小さく息を吐いた。
「中堀先生、その事で少し相談があるんですが…」
雨が本格的に降り出した。
アキは動けず、電話の前に座り込んでいた。
…おっ…落ち着かないと…とにかく落ち着かないと…
アキは必死に自分に言い聞かせた。震え続ける両手を何度も擦り合わせた。アキはなんとか立ち上がり、自分の部屋へ行き、鞄に荷物を詰め始めた。
「―――どこ行くの?」
ケイはアキの部屋のドアにもたれかかるように立っていた。アキは驚いてすぐ言葉が出てこなかった。
「…あの男の所に行くの?」
ケイはそう言うとゆっくりと部屋に入って来た。
「…ケっ…ケイ君…」
アキはケイの様子が尋常ではない事に気付いた。ケイの端整な容姿から今まで感じた事の無い冷気が漂っていた。
「ケイ君…どこにいたの?」
「…うん。ちょっと走りに行ってた…アキは?もう荷造りしてんの?」
アキはケイの言葉を理解出来ないでいた。
「な…何言ってるの?…」
「出発は明日だろ?空港で待ち合わせ?」
ケイは微かに笑って言った。
「…なっなんでその事知ってるの?」
「いいじゃん!そんな事…」
ケイはドアを閉め、アキの前に立った。薄らと微笑むケイを見上げながら、アキは息を呑んだ。
「ケイ君…あの…おじさんが…隆一おじさんが亡くなったの…だからっ」
「―――なんで…」ケイの声が震えた。
「え?」
「なんでそんな嘘吐くんだ!!」
ケイの怒声にアキの身体は固まった。
「…うっ嘘じゃないわ…本当よ!」
アキは震える声で必死に言った。
ケイはアキの腕を掴み、アキをベッドに押し倒した。
「きゃぁ!!ケイ君!何するの!!」
慌てて起き上がろうとするアキの身体を押さえつけ、ケイはアキの身体に馬乗りになった。
「やめてよ!ケイ君!やめて!」
「…どうして?どうしてそんなに嫌がるの?あの男とならいいの?」
「なっ何言ってるの!?ケイ君!どうしたの!?」
アキはケイの顔を見て血の気が引いた。
冷たく凍りつくような瞳でケイはアキを見つめた。
ケイはアキの着ていたブラウスを引き裂いた。
「いやぁ!!やめて!ケイ君!!」
「うるさい!!」
ケイはアキの頬に手を当て、アキの瞳から流れる涙を指で拭った。
「…あんな男の…どこがいいんだ?アキ…」
「ケイ君…」
「…なんで僕じゃ駄目なんだ?」
アキは涙で言葉を詰まらせた。
「…何も怖がる事なんてないよ。いずれ、こうなる運命だったんだから…」
―――そう言いかけたケイの視界が歪み、身体が大きく揺れた。ケイは勢いよくベッドから転げ落ちた。
「…う…痛ってぇ…」
うずくまっているケイを見て、アキは急いで起き上がった。
「アキ!!」
アキは慌てて部屋を飛び出した。
「アキ!!」
ケイは起き上がろうとしたが、身体に力が入らず倒れた。
―――アキ!アキ!!
アキは屋敷を裸足で飛び出し、豪雨の中必死に走った。
どこに向かっているのかアキには分からなかった。考える事さえ出来なかった。 ―――――ただ、ひたすら走っていた。
「―――危ない!!」
誰かの叫び声が響いた。それでもアキは走った。ライトの眩しさがアキの頭の中を突き抜けた。トラックのブレーキ音が響き渡り―――
アキの小さな身体は宙を舞った。
ケイはその場から立ち上がれないでいた。瞳からは涙がこぼれ落ち、視界は歪んだままだった。
激しい頭痛と吐き気で気が遠くなる感覚に襲われていた。
―――ケイはハッとした。頭の中で何かが響いた。
「……アキ?」
ケイは必死に身体を起こし、アキの部屋を出た。
玄関のドアが勢いよく叩かれた。
ドンドン!!
「本条さん!!」
ドンドン!!
「本条さん!!」
ケイは、今までに感じたことの無い激しい胸の鼓動にクラクラしながら玄関のドアを開けた。
「あぁ!!本条さん!!良かった!」
近所の住民は慌てふためいていた。
「さっき…そこの交差点で事故があったのよ!お宅の家政婦さんがトラックにはねられたの!!」
ケイは言葉を失い、その場に立ち尽くした。