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君のために僕は詠う―16―

君のために僕は詠う―16―




 小学5年の時に転校して来たひなこちゃん。

 パッチリ二重の大きな瞳が可愛らしくて、たちまち男子のアイドルになった。


 夜間高校に通っていた時にバイトしてたお店の店長の愛娘。

 スラッと伸びた美脚と整った顔立ちがみんなの注目を集めた。


 それから……


 私はチビで童顔で、色気もなくて…今まで男の人と付き合った事なんて全然なくて…(そんな余裕も無かったけど)

 キレイな人を見ると、つい自分と比べちゃって…虚しくなって…最初から敵わないんだから比べなきゃいいのに……自分で自分をどんどん惨めにしてる。


 私っていつもそうだった。でも大人になってやっと割り切れるようになった。やっとそうなれたのに…

 ケイ君と再会して…またそういう惨めな感情を持ち始めている…。

 ケイ君があんまり綺麗だから…。なんでも出来ちゃうから…。ケイ君の周りにいる女の子達が私の事、馬鹿にしてるから…。


 私って本当に馬鹿だ。私の方が大人なんだから、気にしなければいいのに…。

 私って…結局、弱い人間なんだ。



 ……だからケイ君と並んで歩きたくないんだ…








「…松田!?聞いてんの?」

 伊藤の声にアキはハッとし、思わず周りを見渡した。伊藤はジンジャーエールを飲みながら苦笑した。

――土曜日――。アキは朝から伊藤とドライブに出掛けていた。人気の店でランチを食べ、映画を観て、帰りにこの喫茶店に入った。

「ごっごめん…何か言った?」

「おいおい大丈夫か?疲れてんじゃないのか?」

 伊藤は心配そうに言った。

「大丈夫よ!ちょっと考え事してただけ。で、何だっけ?」

「だから、近いうちに富永達と飲み会しないか?みんな松田に会いたがってるんだ。どう?」

「富永君か…なんか懐かしい!いいよ!ただ夕飯の準備とかして来ないといけないから少し遅くなるかも…それでもいい?」

「もちろん!富永達にはお店の仕事で遅くなるって言っとくよ。じゃぁ、店とか決まったら連絡するよ」

 伊藤は笑いながら言った。

「あっ伊藤君!私もう帰らないと…」

「あぁ、そうだな」

 2人は喫茶店を出て、駐車場まで歩いた。アキが助手席に乗り込むと、伊藤は車のキーを回した。

「悪いね、送ってもらっちゃって…」

「気にすんなって!」

 車はゆっくりと走り出した。

「…今日、天気良くて良かったね」

「うん。絶好のドライブ日和だったな」

 アキは窓から外を眺めた。午後4時過ぎだったが日差しは強く、空は青かった。アキは日差しをハンカチで遮りながら、小さく息を吐いた。

――――ケイ君、どっか出掛けたかなぁ…。夕飯…ケイ君の好きなハンバーグにしようかなぁ…。


「…また考え事か?」

「へ?」アキは伊藤の横顔を見た。「…ごめん…」

「今日本当に楽しかったのか?」

 伊藤は口を尖らせて言った。

「うん!楽しかったよ!本当だよ!」

 アキは慌てて言った。

 伊藤の運転する車はゆっくり減速し、横断歩道の前で停まった。横断歩道を学生達が笑いながら駆け抜け、その後ろを老人がゆっくり歩いて横断した。

 車内にしばらくの間沈黙の空気が流れた。伊藤は軽く咳をし、口を開いた。

「…お前最近、心ここにあらずだぞ」

 伊藤の言葉にアキは少し戸惑った。

「…本当…ごめんね……ねぇ!試験勉強はかどってる?」

「…話を逸らしたな。」伊藤はため息を吐いた。「…まぁね。もう3か月しかないからな…」

「ヨーロッパ行き決まったらすぐ出発になるの?」

「うん。多分…てか、まだ試験受けてないのにそこまで考え切れないよ!」

「あぁ、そうだね」アキは苦笑した。


 アキの携帯が鳴り、アキは慌てて携帯の受信メールを見た。


<今から走って来るよ。図書館にも寄るから6時過ぎには帰るから。今日はハンバーグがいい…>


 アキは微笑んだ。





「―――― で、今週の金曜日がサークルの親睦会だから!店の場所わかる?本条?聞いてるのか?」

 中島は講堂の隅の席で本を読んでいたケイを捕まえ、必死に喋った。

「聞いてるよ…」中島の言葉にケイはイライラしていた。

「そうだ!どっかで待ち合わせして一緒に行くか!」

 中島の言葉に麻衣子は吹き出した。

「何?何?麻衣子ちゃん?俺まだ面白い事言ってないよ?」

「…だって、中島君必死なんだもん!ねぇ、本条君」

 ケイはつまらなそうに講堂の窓から外を眺めた。

「本条!ドタキャンだけはやめてくれよ!そんな事したらアキさんに言い付けるからな!!」

「分ってるよ…しつこいな」

 麻衣子はクスクス笑い出した。

「そういえば、私この間アキさん見たの。男の人と○○の喫茶店でお喋りしてたよ」

 麻衣子の言葉にケイは顔色を変えた。

「マジで!なんだアキさん、彼氏いたんだ!知ってた?本条?」

「…いつ?それ、いつの話?」

 真顔で聞いてきたケイに麻衣子は戸惑いながら言った。

「一昨日だよ…土曜日…」

 ケイはいきなり席を立ち、凄い勢いで講堂から出て行った。

「な…なんだよ…本条の奴…」

 中島と麻衣子は顔を見合わせ、首を傾げた。





「アキちゃん!アキちゃん!」

 “Jun−Cafe”の店長、谷口純子が慌ててアキを呼んだ。

「?どうしました?…ケイ君!?」

 アキは店の入り口に立っているケイを見て驚いた。

「どっどうしたの?大学は?」

「うん…」そう言うとケイはうつむいた。

「あなたがケイ君ね!本条先生にはいつもお世話になってます。…とにかく座りなさいよ!何か食べる?」純子の言葉にケイは首を横に振った。

 店内には何組かの客がいて、そのなかの3人組の大学生風の女の子達がケイをチラチラ見ていた。

「いえ…いいです。…アキ、何時に帰れる?」

「え?まだ帰れないよ…」ケイの言葉にアキは困惑した様子で答えた。

「…アキちゃん、もう上がってもいいわよ。今日お客さん少ないし」

 見かねたように、純子は言った。

「え…?でも…」

「いいから!いいから!あとは私がしとくから早く帰りなさい!」

「……すいません、純子さん。…ケイ君、ちょっと待ってて。着替えて来るから」アキの言葉にケイは安心したように微笑んだ。


「アキちゃん!あの子誰!?超かっこいい!!」塩谷理子は興奮気味に言った。

「あ…あの子は知り合いの息子さんで…あっ加奈さん!明日の○○青果の配達、30分程遅れるそうですから…」

「え…そう。分かったわ…」アキの言葉に相模加奈は慌てて答えた。

「それじゃぁ、すいません!失礼します!」

「あっアキちゃん!…」

 興味津々の様子の理子を振り切るかのように、アキは足早に店を出た。理子と加奈は拍子抜けし、顔を見合わせた。




「――――アキ!今から映画行こうよ!」ケイが笑いながら言ったので、アキは眉間にしわを寄せた。「何?何でそんな顔するの?」

 アキは足早にバス停へと急いだ。ケイは面白くなさそうにアキに付いて歩いた。

「…ケイ君、私に用があったからお店に来たんじゃないの?」

「…何でいつもそんな風に言うの?用がなかったら店に来ちゃ駄目なのか?」

「…だってお店の子には家政婦やってる事言ってないのよ。ケイ君が来たらイロイロ聞かれるでしょ?」

「別に家政婦やってるって言えばいいじゃん!中島だって有尾だって知ってるじゃん。何でそう隠そうってするんだ?」

 ケイの言葉にアキは言葉を詰まらせた。

「中島君や麻衣子ちゃんはケイ君の友達だから…いいのよ…」そう言うと、アキは近くにいた女子高校生の視線を感じた。「…ケイ君、早く帰ろう!」

 女子高校生がケイに近寄って来た。

「……あの…もしかして“メンズ・ボルチェ”のモデルさんじゃないですか?」

 大きな瞳をパチパチさせながらその女子高校生は聞いて来た。

「は?」ケイは怪訝そうな表情をした。

「やっぱりそうですよね!やだ!実物の方が超かっこいい!!」

 騒ぎ出した女子高校生を見ながらアキはため息を吐いた。


―――何でこんなトコであんなに騒ぐの…。

 アキは居た堪れなくなり、足早に歩き出した。

「え?アキ!待って!!」ケイは慌ててアキを追い掛けた。



 出発しようとしたバスを止め、アキとケイは急いで乗り込んだ。バスに乗っていた女子学生達がケイを見て小声で話し始めた。

「……何でさっさっと行くんだよ…」

 暑そうにポロシャツの襟元をパタパタと動かしながら、ケイは不貞腐れたように言った。

「…今週の金曜日でしょ?中島君が言ってた親睦会」

「何で知ってるの!?」

「昼に中島君からメール来たの。すっぽかしちゃ駄目よ」

 アキの言葉にケイはため息を吐いた。

「……ねぇ!夕飯どっか食べに行こうか!」ケイは笑顔で言った。

「え?駄目よ。もう今日の献立決めてあるもん」

 ケイはアキの横顔を見つめた。

「…もう店には来ないから…そんなに怒らないでよ…」

 落ち込んだ様子のケイを見て、アキの胸は痛んだ。

「……ごめんね…ケイ君が悪いんじゃないのに…ごめんね」

 アキはそのまま黙り込み、ケイも口を閉じた。





 金曜日の朝―――ケイはいつもより早めに起きて、台所を覗いた。朝食の準備をしているアキの後ろ姿をしばらく見つめていた。

「おはよう…」

「あら!おはよう、ケイ君。どうしたの?まだ時間あるよ」

「うん…」

 ケイは椅子に腰を下ろし、新聞を広げた。

 いつもより大人しいケイを見て、アキは困惑していた。食パンを袋から出しながらアキはケイの横顔を見つめた。

「…もう食べる?」

「うん…」

 アキは微笑んで、トースターにパンを入れた。

「―――今日はそんなに遅くならないから…」

「え?あぁ、親睦会ね!いいよ、私の事は気にしないで。楽しんできなよ」

 アキの言葉にケイの表情は一瞬、強張った。

「…どこか行くの?」

「え?…」アキはしばらく黙り、ケイを見た。「言ってなかったっけ?」

「何の事?」

「…今日、私も飲み会なの」

 ケイは面食った。

「聞いてないよ!誰と行くの!?」

 ケイの様子にアキは戸惑った。

「どうしたの?ケイ君?…小学校の時の友達と会うのよ」

「……それ男?」

「え?…女の子もいるけど…どうして?」

 ケイは小さくため息を吐いた。

「…僕、そんなに遅くならないから…アキも遅くならないで」

 ケイはそう言うと、コーヒーを一口飲んだ。アキは黙ったまま、パンにバターを塗った。


――――ケイ君…どうしたんだろう?…なんか機嫌悪い…。私、何かしたかなぁ…






 アキはギリギリまで“Jun−Cafe”で働き、居酒屋へ急いだ。

「きゃぁぁ!!アキちゃん!こっちよ!」

「えぇ!?翔子ちゃん!?」

 アキと翔子は抱き合って再会を喜んだ。

「やだぁ!アキちゃん、全然変わらないね!」

「本当…伊藤の言ってた通りだな…」

 席の1番奥に座っていた富永は驚いた表情をした。

「富永君!久し振りね!元気してた?」

「おう!松田も元気そうだな。今日遅くなるって伊藤が言ってたけど、仕事大丈夫だったのか?」

「うん。早く片付いたの。伊藤君は?」

「そろそろ来るよ…って、噂をすればだな」

 伊藤がアキ達に気付き、笑顔で席に着いた。

「松田、仕事大丈夫だったのか?」

「うん。早く終わったの」伊藤の言葉にアキは笑顔で答えた。

「…あと誰が来るんだったっけ?」

「あとは…竹内と藤元と比奈ちゃんかなぁ…あっ!比奈ちゃんだ!比奈ちゃん!こっち、こっち!」

 比奈子が店に入って来た時、店の雰囲気が一瞬変わったのにアキは気付いた。アキだけではなく、伊藤も富永も翔子もみんなそう感じた。

 酒を飲んでいた客も、店員も一斉に比奈子に目をやった。

 比奈子は慣れたようにその視線をかわし、アキ達が座る席へと駆け寄ってきた。華奢なサンダルのヒールのコツコツという音が、アキにはやけに女らしく聞こえた。

「―――遅くなってごめんね。アキちゃん!?久し振り!全然変わってないね!」

 比奈子は笑顔で言った。アキはしばらく言葉が出なかった。

「おい!松田!どうした?ポカンとして…」

 伊藤の言葉にアキはハッとした。

「いや…比奈子ちゃん、また一段と可愛くなったね…」

 アキの言葉にみんな笑った。

「当り前でしょ!比奈ちゃん今モデルやってるのよ!」

 翔子の言葉にアキは驚いた。

「アキちゃんは今“Jun−Cafe”で働いてるんだってね!私あそこのケーキ大好きなの!」比奈子は笑顔で言った。

「アキちゃん、昔からお菓子作り得意だったもんね!」翔子の言葉にアキは微笑んだ。

「そういえば、小6ぐらいの時、松田がみんなにって手作りチョコ作って持ってきただろ?あん時1番食ってたの伊藤だったよな?」

「はぁ?そんな事あったか?」伊藤は恥ずかしそうに言った。

「あった、あった。伊藤君、アキちゃんの事好きだったもんね〜」

 翔子の言葉にアキと伊藤は飲んでいた酒を吹き出した。

「なっ何いってんだよ!」

「やだ!伊藤君、顔真っ赤よ!」翔子はケタケタ笑った。

「酒のせいだよ!!余計な事言うなよ!」

 伊藤は口を尖らせた。

「……実際、どうなんだ?お前ら2人で遊びに行ったりしてるんだろ?付き合ってんの?」富永は真剣な表情で聞いてきた。

「付き合ってないよ!」アキと伊藤は慌てて言った。

「アキちゃん、小さくて可愛いから伊藤君とお似合いだよ!」

 比奈子は微笑みながら言った。アキは苦笑した。

≪小さくて可愛いか…小さいだけなんだけど…≫

 アキはグラスに入ったカルピスチューハイを一気に飲み干した。



「よぉ〜し!!次はカラオケ行くか!!」

 富永はテンション高く叫んだ。

「……松田!小銭持ってないか?」

「うん!待って!」レジで支払いをしていた伊藤の言葉に、アキは慌てて財布を開けた。


「―――あれ?あいつらどうした?」

 居酒屋を出て、アキと伊藤は富永達の姿を探した。

「カラオケに行くって言ってたけど…もしかしてもう行っちゃったのかなぁ…」

「え…マジで?」伊藤は呆れ顔をした。

 伊藤の携帯が鳴り、伊藤は携帯の受信メールを見た。携帯を見つめながら黙ってしまった伊藤を、アキは不思議そうに見つめた。

「どうしたの?伊藤君?」

 伊藤はアキに受信メールを見せた。

<あとは2人で楽しんで……(^^)v byトミ〜>


 アキは固まった。

「おい…松田!固まるなよ!」伊藤は苦笑いしながら言った。

「だって…富永君達、こんな事するなんて…」

「なんだよ!俺と2人っきりがそんなに嫌か!?」

「そうじゃないけど…」アキは苦笑した。「そんなに遅く帰れないの。」

「あぁ、そうか…今は…9時か…どこも行けないじゃん!」

 伊藤は肩をすくめた。

「ごめんね…どうする?富永君達のトコ行く?」


「―――アキ?…アキ!!」

 アキはその声に振り向いた。

 その通りには仕事帰りに飲みに来たサラリーマンやOL達が頬を赤く染め、陽気に笑いながら歩いていた。――――その人達にまぎれて、ケイが立っていた。

「…ケイ君!?」

 ケイは凄い勢いでアキと伊藤の所へ駆け寄り、伊藤を睨んだ。ケイの後ろから中島が慌てて駆け寄ってきた。

「あれぇ!?アキさんじゃないですか!もっもしかして、こちらの方が彼氏?」

「え!?違うわよ!もう、中島君!結構飲んでるでしょ!」

「は〜い!飲んでますよ!しかし、本条は飲んでも飲んでも酔わないんですよ!本条に合わせて飲んだら駄目ですよ!」

 中島は楽しそうに言った。

「ケイ君はどの店だったの?…ケイ君?」

 ケイは伊藤を睨んでいた。

「アキ…今日は同級生と飲むんじゃなかったのか?何でこの男と2人でいるんだ?」

「あっいや…さっきまでみんなと一緒だったんだけどね…」

 あせあせしながら喋るアキを見て、ケイは眉をひそめた。

「さっきまで7人ぐらいで飲んでたんだけど、松田はもう帰らないといけないから俺が家まで送る事になったんだ。他の連中は2次会に行ってるよ」

 伊藤はケイの目を見つめながら喋った。ケイはそんな伊藤の喋り方が気に入らなかった。

「…いいよ、送らなくて。アキ、一緒に帰ろう」

 ケイはそう言うとアキの腕を掴んだ。

「え!?本条!2次会まで付き合う約束だったじゃないか!!」

 中島は酔いが冷めた様子で、慌てて言った。

「帰ろう、アキ」

「え!ちょっとケイ君待って…」

 アキは、遠くにいた中島のサークル仲間にまぎれて立っている麻衣子の姿に気付いた。麻衣子は不安そうにケイを見つめていた。

「……私、帰らないわ!」

 そう言うとアキはケイの手を振り離した。

「…アキ」ケイは困惑した。

「私もこれから2次会行くから、ケイ君も行ってきなよ!ね!中島君も麻衣子ちゃんもいるじゃない!!私は伊藤君に送ってもらうから大丈夫よ!」

「ア…アキ!!駄目だよ!」

 ケイは必死で言った。

「大丈夫!大丈夫!さっ行こう!伊藤君!」

 アキは伊藤の手を引き、歩いて行った。ケイはしばらく動けず、黙って2人の後ろ姿を見つめていた。

「…本条?」

 中島の言葉にケイはハッとした。

 アキの後を追って行こうとするケイの腕を、中島は慌てて掴んだ。

「なっなんだよ!離せよ!」

「おっ落ち着けって!本条!!アキさん追い掛けてどうするんだよ!」

「お前には関係ないだろ!!」

 ケイは中島を突き飛ばし、駆けて行った。

 ケイの姿はあっという間に人混みに消えて行った。

「―――中島君!!どうしたの!?」

 麻衣子は慌てて中島に近寄った。中島はしばらく呆然としていた。

「中島君!本条君、どうしたの?」

「……いや…もう、帰るって…」

 中島は呟くように答えた。




「―――本当に美形だな〜ケイ君!」伊藤の言葉にアキは苦笑した。「良かったのか?あんな事言って」

 アキは黙ったまま、公園のベンチに腰を下ろした。口を堅く閉じたままのアキを伊藤は静かに見つめた。

 昼間の強い日差しで温められた生ぬるい風がアキ達の頬を撫でるように吹いた。

「いいのよ…」アキは呟くように言った。

「あの子、随分松田に執着してるんだな…」

「…小さい時から知ってるからね。お母さんみたいに思ってるのよ。ごめんね、伊藤君。あの子いつもああなの。人見知り激しくて…気にしないでね」

「うん…」そう言うと伊藤はアキの横に腰を下ろした。伊藤は、夜空を仰ぐアキの横顔を見つめた。

「…松田…これからどうする?」

「…どうしようか…明日も仕事早いから…やっぱり帰ろうかなぁ…」

 

 いきなり―――伊藤はアキの唇にキスをした。

 アキは驚いてそのまま固まった。

「また固まってる…」伊藤は苦笑いしながら言った。

「え…え!?」アキは顔を真っ赤にした。

 伊藤はアキの頭をポンポンと叩いた。「仕方無いな…今日は帰ろうか…」

 アキは頬を赤めて―――頷いた。









 


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