エルの秘密。カイルの思い。
お前は、男のふりして騙していたのか。そこまでして、公爵家に取り入りたいのか。
蔑む目でみられる。もはや、何をいっても言い訳にしかならないだろう。いや、言い訳にもならない。事実、彼が好きで側にいたくて、周りの令嬢に対して優越感を感じていたのだから。そんな邪で、汚ならしい考えを胸に秘めていたからバチがあたったのだろうか。
お前の顔などみたくもない。虫酸が走る。
・・・申し訳、ありませんでした。失礼いたします。
最後に焼き付けようとした、愛する彼の表情は軽蔑した冷たい表情だった。
*
信じられない事実にかっとなった。ずっと信頼していたやつが女だとしって。
容姿が整っており、地位も申し分ない自分の周りにはいつも媚びた笑顔で溢れてた。美味しい密を啜ろうと、気持ち悪い笑顔で近寄ってくる。思春期になり、女達がすりよってくるようになると、その厚かましさと、裏表の激しさに女嫌いに拍車がかった。そんな中、唯一澄んだ瞳でわらいかけてきたのがエルだった。純粋に此方を気遣うエルが心地よく、心許せる友人だと思っていた。それが、あの男の一言で実は酷い裏切りだと気づいた。なのに何故・・・
真実を知ったあの時、何一つ言い訳もしなかった。すがるように、諦めるように、こちらを見やった表情が瞼に焼き付いてはなれない。
透き通るような白い肌に、蜂蜜色の髪を複雑に結い上げ、細いうなじが見える。伏し目がちで愁いた表情の彼女は壮絶な色気をかもしだし、周りの男の視線を一身に集めている。手をとり、ダンスを申し込む男達に控えめな笑顔と言葉でやんわりと断っているのが目にとまる。
つい半年前までは、すぐ側にいた。触れ合える距離にいた。優しく、穏やかに微笑み話しかけてくれた。私だけに。いつも側で確かに支えてくれていた。下心があったかどうか分からない。しかし、事実ささくれだっていた心を癒し、誰よりも支えてくれていたのは、間違えなく彼女だった。彼女だったのに、その手を先に突き放したのは自分だったのに。
透き通った青い瞳とぶつかる。さっと表情が強ばり、近くにいた男に2、3言葉を交わし足早に会場を後にする。その後ろを追う男は、素行の悪さが知られている。さすがに見て見ぬふりはできない。香水くさい女の手を振りほどき追いかける。なにかあっては寝覚めが悪い。自分に言い訳をゆるしながら足早に進む。
目の前の光景に考えるよりも体が先に動いた。その男の顔を、体をけりあげ痛め付ける。
カイル様っ!!
小刻みに震える手で、これ以上はととめる。破れたドレスを片手で押さえ、涙を湛えた目で懇願され、たまらず抱き締める。仄かに香ローズにまざり、懐かしい香りがする。
あぁ、性別など関係なく、自分は彼女に引かれていたんだと気づく。そのすきとおった瞳に、優しい心根に、柔らかい雰囲気に。友達としての親愛だと思っていたが、華奢な体躯に護ってやらねばと。他の男友達を牽制し、独占していた。最初っから彼女が何より一番だったのだ。この半年彼女が視界から消え、たまらなく喪失感を味わった。
もう、利用されてもいい。他の男のものになるなど耐えられない。
華奢な体を強く抱き締めた。




