不滅の愛
ここからが本編です。
…たぶん。
十数年後。
先輩も家も母親も社会的地位も、何もかも失った。
人を一人殺して十数年で出てこれるのだから、そこは感謝すべきなのかも知れない。
当時、まだ16才だった頃、今もあの時の記憶が脳に焼きついている。
風の噂によると、先輩は親戚に預けられたよう。
それも対人恐怖症に陥ったとか。
今の私には、先輩に見せる顔がない。大好きな先輩に、強い精神的ダメージを与えてしまった。
後悔と反省とが渦を巻いて、私の心を蝕んでいく。
もういっそのこと死んでしまおう。そうすれば楽になれる。
先輩。先に行って待ってますね。
『さようなら』なんて言いたくないけど…。
「さようなら」
…そんな度胸もなかった。愛する人のために死ぬ事すらできない。
私には何も残ってないのに、それでも怖気づいてしまう。
じゃあどうしたらいいの?
私を全部失ったのに、これ以上どうしろって言うの?
……。
「そっか。最初から答えは一つしかないんだ」
頭の中に、黒い塊が生まれたような感じがした。
その塊は理性を覆い、あっという間に頭の中全体に広がる。
おもむろに足を動かす。目を閉じてもわかる、あの場所目指して。
行ったところで何もないのは分かりきっている。
そんなことくらい、黒い塊でも分かる。
近くの駅から1駅。懐かしい空気。
雰囲気はある程度変わっているが、それでもわかった。
ここで私は…。
と、感傷に浸っているときに、一人の男性が声を掛けてきた。
いかにも草食系男子と言うような、中の上くらいの男性。
ここら辺の人ではない。と言うか日本人でもなかった。
とても片言な日本語で、病院の場所を知りたいと言う。
言葉で案内してみるが、どうにも伝わってない。
仕方なく病院まで一緒に行く羽目に。
一番近くの病院へと案内する。しかし、なぜ病院なのだろう?
観光名所ならわかるが、外人が日本の病院に、それも知らない病院に行く意味があるのだろうか?
ここ近所に引っ越してきたばかりで、病院の場所がわからない。
そういう事にしておいた。聞いても、あの日本語じゃこっちが疲れる。
近くの病院へと到着。
そういえば、ここの病院には精神神経科があるんだっけ。
少しの期待と、たくさんの後悔。
後ろを振り向き、『着きました』と言おうと思った。
しかし、そこには誰もいない。
さっきまでの外国人は煙のごとく、跡形もなく消えていた。
白昼夢でも見てるよう。さっきまで確かにいたはず。いたはずなのに。
膝が震え、まともに立っていられない。本当に驚いたときは、人間、何も言葉が出ない。
不意に病院の自動ドアが開いた。
中から出てきた人を見ると同時に、私の瞳孔も開いた。
震えてる足で、その場を走り去る。何度も、何度も転びそうになるけど、それでも走る。
「そんな…そんなはずない…。だって…親戚に預けられたって…!」
若干大きな声でそう呟く。
どこまで来ただろうか。
限界に近い体に鞭打って、目的も何も決めず、ただ走ってきた。
日は傾き、空に朱色を混ぜ始める。
心臓は、走ったせいと、さっきの出来事で破裂しそうなくらい脈打つ。
いっそのこと、このまま破裂してしまえばいいのに。
人間の体はそう脆くない。
随分と走った気がした。ここはどこだろう。
痛いくらいの心臓を無視して、自分のいる場所を確認する。
が、実際はそこまで遠くまで来たわけじゃなかった。
見慣れた土地。こんなにも心臓は痛いのに。
…私はなんで逃げたんだろう?
せっかく先輩に会えたのに、なんで逃げたんだろう?
冷静になっての自問自答。答えは出た。
走ってきた道を、歩いて戻る。
先輩は対人恐怖症。あくまでも噂だけど、今は信じるしかない。
なら、先輩は親戚に預けられたんじゃない。入院してるんだ。
前も言ったように、あの病院には精神神経科がある。
少しではあるが、入院できるようにもなっている。
病院へ戻る道で『先輩に会いたい』という気持ちと『会ってどうする』という気持ちがせめぎ合う。
私は先輩にあって、何をするのだろう? また、あんな事をしてしまうのだろうか?
…考えてもしょうがない。いや、考えるまでもない。
何をしたいじゃない。会いたい。それだけだ。
おかしいかもしれないが、自分で自分の心がわからない。
それでも、先輩に会いたい。その心は、はっきりとわかる。
辿り着いた病院。もちろんの事、先輩の姿は無い。
緊張した足で、しかし、しっかりとした足取りで中へ入っていく。
ここが先輩のいる病室。
やっぱり私の思ったとおり。先輩は入院していた。
今、病室の扉を…開ける。例え、先輩に何を言われようが、気にしない。
私は今から、先輩を、『救う』のだから。
250行で更新とか言っておきながら、実際は210行。
いや、キリが良かったからです。それと、早く読者さんに読んでもらいたかったからです。
ホントデスヨ?