09.奪還――新城高生
-病院裏-
五人がデコトラで病院の周りを回っていると、八戸が地面についた赤い点を見付けた。
「おいちょっと止めろ!!…見ろ、これ血痕だ…」
八戸は後ろのリヤダンプから飛び降り、地面の血を指ですくう。
「…あの…こっちに…」
藤野は路地裏を指差して出来る限りの声を出した。
「二村君!!」
四季の声に合わせて全員が駆け寄る。
「おや!?早いご到着だねぇ…」
「だぁれ〜?そこのイケメン〜?」
「誰だ?そこのオカマ?…フッ…冥土の土産に教えてやれば…只の始末屋…」
「問答無用!!!!」
八戸は腰のS&Wエアウェイトを抜き、たらたら喋る始末屋と名乗る男の額目掛けて弾丸を放った。
だが男はそれを寸前でかわす。
「っぶな…人の話を聞かない奴は…主人に代わってお仕置きだ!!」
「この腐れオタが…美…四季!俺と一緒に二村運ぶぞ!!六条、藤野、オ…千歳!時間稼げ!!」
「ん…」
「…了解…」
「わかったわょ〜」
八戸は肩をすくめながらも、二村を担いでその場を後にした。
「おや!?逃げ足が速いねぇ…お前らにここは任せる。俺は奴らを追う!!」
男はそれだけ言い残し、三人の後を追った。さらにそれを追うべく走り出そうとすると、間に五人の男が割って入った。
「そういうわけにはいかないんだなぁ…これがさぁ!!」
男の一人がCZE Vz83を取り出し三人に向けて引き金を引いた。
そのうちの一発が日比野の肩を掠める。
「いっっったいじゃないのよぉぉぉおっっっ!!」
日比野は物陰に飛び込み、肩に掛けていたH&K MP5を撃ち返した。
「えーっと…私は…これかな…」
六条はスカートの裾を捲り、太股に巻き付けたサイホルスターからP226を取り出して構えた。
だが、敵はAK-47を絶えず撃ち込み隙を見せない。
「これじゃあ埒があかないわよぉ!」
日比野はマガジンを代えながら叫ぶ。その足は相変わらず内股だ。
「…うーん…」
六条もマガジンを代えながら唸る。
「…えっと…じゃあ、僕が…」
藤野は学ランを捲り、ベルトに着けてあったMK3A2手榴弾の安全ピンを抜いて、敵に投げ付けた。
手榴弾は敵の足元に転がり、二人の足を吹き飛ばし、残り三人を壁に叩きつけた。
「ごめんなさいねぇ〜本当だったら虐めてあげたんだけど…時間、ないのよねぇ…」
日比野は敵の頭に銃口を押し付け、マガジンが空になるまで引き金を引き続けた。
後ろでも同じように、二人がそれぞれとどめをさした。
「はぁ…疲れたわぁ…もう、手榴弾なんて便利な物があるなら早く言ってよね…それより、トラックに灯油積んであるから取ってきて、こいつら燃やしちゃうから。」
「…」
「わかったわよ!自分で行けばいいんでしょ!!オカマなめると痛い目にあうんだからっっっ!!」
日比野は大きな声で独り言を言いながらトラックに向かった。
-路上-
四季は辺りを警戒し、八戸は二村を担ぎひたすらに歩いていた。
「しっかりしろ!じきに派手なデコトラが追い付くからな!」
「…はい…」
「ハッハァッ!!残念だがここまでだ!!」
「そういうベタなセリフさぁ…虫酸が走るんだよ!!…四…美里亜、二村を頼む!!」
八戸は二村を降ろすと、眼鏡を外した。
「ケケッ!これから戦うのに眼鏡外すバカがどこにいる!!」
「生憎、伊達なもんでね!!」
それには四季もビックリだった。
「伊達なの!?」
八戸はそんな疑問に目もくれず、集中力を高める。敵も腰の銃に手をかけ動かない。
すると、緊迫した空気を引き裂くようにタイヤのスキール音が響いた。
敵が音に気付き振り向いた時には、黒のBMWが目前に迫っていた。
BMWは敵を天高く撥ね飛ばし、八戸の足にも少しぶつかり止まった。
「痛ッ!!」
「あっごめん。」
中から降りてきたれいは軽く謝ると、享一にとどめをさすよう顎を突き動かした。
享一は表情一つ変えずに、迷った挙げ句コルトガバメント雪上迷彩でとどめをさした。
「あっ俺の!!」
源三が叫んだが享一は一切聞く耳を持たず、クナイで死体を突っつき遊んでいた。
「フフッ…助かったでしょ。」
「まぁな…それより二村を…」
「あっとごめん。行かなきゃいけないところがあるから…ほら、行くわよ!」
二人が乗り込み一人が頭を引っ込めBMWは颯爽と走り去った。
「…早きこと風の如く…か?」
「兵法ですか?」
呆然とする二人、いや三人の元に騒々しいデコトラのお迎えが到着した。