03.基地――新城高生
車は未だ煌々と燃え続けていた。人の焼ける嫌な臭いが鼻を突く。
半ば呆然としている四季の横を、二村を乗せた救急車が走り去る。車体には赤い文字で"松本市消防本部 丸の内署"と書かれていた。つまり普通の救急車だ。
もっとも、彼女達の救急車など存在しない。というよりも、つい先程消し飛ばされた。
四季は近くの鉄パイプを取り上げ、車からはみ出た五郎の手を押し込んだ。こうなった以上仕方がない。それがれいの判断だった。
ここにはまもなく救急隊が呼んだ消防と警察が到着する。何一つとして"証拠"を残さないために、仲間として非常な行動に出るしかなかった。
よって、彼女にはまだ仕事が残っていた。それはまず、この場の証拠、遺留品を全て消し自分もいなくなること。
そして、搬送された病院に生き、治療の終わった二村を奪還すること。その二つが。
-松本市 某山中地下壕-
松本市の中心部から、西におよそ20kmの山の中腹に、地下壕の入り口がある。
入り口の前には、擬装された軽装甲機動車が二台停まっていた。上部に設置されたMINIMIが、光学カメラと赤外線カメラを使い、フルオートで絶えず動くものに照準を合わせる。
その間を通り三人は地下壕に入って行った。
「ここが…」
享一が無機質な声で尋ねる。
「うーん…まぁ私達の秘密基地ってとこね…フフッ…いいとこでしょ?」
「趣味が悪いな…」
享一は気を遣うことなく、バッサリと言い捨てた。源三は苦笑いしたが、れいは対照的に感心したような顔つきをした。
享一はさらに二三歩進むと何かを拾い上げた。
「この懐中時計もそうだ…見ろ、菊の御紋がついてる…所謂、恩賜の品ってやつだろ?…つまりここは旧帝国軍の施設跡…まったく、趣味も縁起も最悪だ…っていうか、また俺のことを試したな?」
享一は半笑いで探るような視線を、源三は口を半開きで驚いたような視線をれいに投げ掛けた。
れいは優しい笑みを浮かべて、パチパチと手を叩いた。
「正解よ。さすがは平成のシャーロック・ホームズってとこね。」
「そんな通り名聞いたことないがな…」
「当たり前じゃない。私がたった今考えたんだもん。」
れいは舌をチラッと覗かせおどけてみせた。それに享一は肩を竦めておどけて返す。
端で見ていた源三は気が合うなぁ、と思ったが口には出さないでおいた。人を見る目には自信があった。
「まぁね、確かに縁起は最悪かもしれないけど、居住性、収納性、隠密性、防衛性…と、どれをとっても最高なのよ。さすがは本土決戦に備えただけのことはあるわね。
ちなみに出入口は裏にもあって、その先にはガンシップ化したUH-1Jがいるわ。TOWとM2くっつけた超強力型よ。」
爛々と目を輝かせるれいを見て、享一はミリオタなのか?と思ったが口には出さないでおいた。世渡りには自信があった。
しばらく歩いていると、賑やかな人の声が聞こえてきた。享一は意とせず力む。汗ばむ手で腰のベレッタのグリップを握った。
「大丈夫よ。あれは味方の声。心配しないで。それより大丈夫じゃないのは君…」
れいは細い人差し指でベレッタを弾いた。
「何か持ってるなら言ってよね、ビックリするじゃない。個人の過去以外秘密は無し。それがここのルールよ。」
れいは無い胸を一生懸命張った。
「わかった…じゃあ、後少々クナイを忍ばせている…」
「クナイって…」
「クナイは万能だ。短剣にも、飛び道具にも、スコップにもなる。この前は火もつけられた!」
初めて声に熱がこった享一を見て、れいは忍者か?と思ったが口には出さないでおいた。バカに思われそうだったからだ。
「ハイハイ、わかりましたぁ。ほら次の部屋よ皆がいるのは。」
そういいながら部屋に入ると、中には数名の男女がいた。誰もかれも高校生ぐらいの幼い顔つきだが、目が異様に据わっている。
異種への拒否反応というよりは、そういう目に"変えられてしまった"そんな印象を享一は受けた。
「ハイ、皆注目…してるよね。うん、えっと…彼が新入りの一ノ瀬享一君。
で、今日全員はいないけど、とりあえずここにいる人だけ紹介するわ。まず…」