23.喪失――新城高生
北の大地の森の中で、寂しく座り込む六条と七弥の足下には、灼けた無数の薬莢が散らばっている。
六条のサイホルスターには、自前のP226が刺さり、その手には敵から奪ったAK-47が握られていた。
弾倉はそれぞれ一つずつしかない。
七弥にいたっては、ニューナンブと一本のサバイバルナイフしか無かった。
「…あんた…お得意の手榴弾は?」
「…もう店じまいですよ…」
「…はあぁ…とにかく…あの化け物みたいに動きが良いヤツ…早く殺らないとね…」
「…ですね…れいさん達に鉢合わさせる訳にはいかないですから…」
七弥は足首から下が無くなった左足を見つめた。
「…まだ痛むの?」
「…痛い…なんて、言ってられないですよ…」
七弥は木にすがりながら立ち上がる。傷口からは血が滴り続け、何より歪んだままの表情が、その苦しみを伝えていた。
だが、れいの"弾丸"である彼らに立ち止まる暇など無い。
研ぎ澄まされた第六感に任せ、敵と何より森をさ迷っているであろうれい達を捜す。
静寂に包まれた森では、葉鳴りの音さえ煩く感じられ、訓練された敵には十二分に位置情報として伝わってしまう。
「…いっそ足が無くなれば静かに動けるのに…」
六条は草を掻き分けながら呟く。
「…それはそれで大変ですよ…」
七弥はひきつった笑顔を見せた。
六条は口を滑らせたことに気付きつつも、何も言わずに黙々と歩き続けた。
しばらく歩くと、二人が同時に足を止める。
「…いますね…」
七弥はニューナンブを構えた。
「…みたいね…」
六条はAK-47を構えた。
「…御明察…」
真っ黒いコートに身を包み、両手にAR-15を持った男が、アッシュグレイの髪をなびかせ木の上から二人の目の前に降り立った。
「…あんた…名前は?」
「…名前?…そんなもの…ガキの頃に棄てたさ!!」
男は二人目掛けてAR-15を乱射する。
二人はそれぞれ間一髪のところで木の裏に身を隠した。
無数の小銃弾を浴びて、木の幹が少しずつ削れていく。
やがて装填されている銃弾を撃ち尽くし、銃声が鳴り止んだ。
「…今だ!」
七弥が飛び出す。
「ちょっと待っ…」
六条は止めようとしたが間に合わず、七弥は敵の前に姿を現せた。
その七弥の目に飛び込んできたのは、こちらに向けてデザートイーグルを握っている男の姿だった。
「…甘いなぁ〜」
男はニタァと笑い引き金を引く。
放たれた銃弾は七弥の左肩を貫通し、地面に突き刺さった。
「…くそっ!」
七弥はそのままの勢いで、六条の隠れる木の裏に入った。
「…だから待ってって言ったでしょ!!」
「おやおや、仲間割れかい?…それより…声が若いなぁ…高校生…ってとこか?」
六条の背中を冷や汗が伝う。
「ふっ…殺しがいがあるなぁ!!」
男は懐から手榴弾を取り出し投げ付けた。それを六条がすかさず撃ち抜く。
手榴弾は男の目の前で炸裂した。
六条は残弾の少ないAK-47を抱えて飛び出す。だが、男の姿はない。
「…どこ見てる…」
六条は慌てて振り向く。男は冷たい表情で、六条の華奢な右の太股を撃った。
「ぐあぁっ!!」
六条は崩れ落ちながらも、負けじと引き金を引いた。だが、六条の放った弾丸は男を捉えることができず、全て暗い森へと消え去った。
そして、最悪は重なる。
「六条!七弥!」
二人が聞き覚えのある声のした方を向いた。そこにはれい達が立っている。
「…れいさん…来ちゃダメだ!!」
「ほぅ…あれがれいってヤツか…あの目…イジメがいがありそうだな…」
れいへと歩を進める男の足を七弥が掴む。そしてその足に、持っていたサバイバルナイフを突き立てた。
「ぐぅ…雑魚が…調子に乗るなぁッ!!」
男は七弥を蹴り飛ばすと、七弥の額にデザートイーグルの銃口を当てて、その弾倉が空になり、スライドが後ろに引かれっぱなしになるまで弾を撃ち込み続けた。
男は弾が切れたデザートイーグルを捨て、再びAR-15を構える。
れい達の残弾も少なく、殺れなければ殺られるが、無駄弾を使えばどのみち後で殺られる運命となる。
ジリジリと距離が縮まってきたその時、草むらに息を潜めていた六条が、背後から男に飛び付き羽交い締めにした。
「早く撃てぇ!!享一!!」
六条が叫ぶ。
「…だけど…」
享一はたじろぐ。
「構うな!撃て!!」
享一は意を決したようにレミントンを構えた。だが、その銃口の先を見た六条は享一を叱る。
「頭なんか狙うな!こいつは避けやがる!!…胸だ…胸を狙え!!」
今度は六条の意思を悟った男が叫び暴れる。
「…おいおい…自己犠牲精神か?…ふざけるなぁ!!…雑魚共がよってたかって!!」
拘束を振りほどかんとする男を六条が必死に押さえ込む。
「止めて…撃たないで享一!!」
れいが叫んだ。
「…早く…撃ちなさい…撃てぇッ!!」
重たい銃声が森に響き渡り、二人は冷たい地面に転がった。
「…イヤ…そんな…イヤァァッ!!」
れいは泣き崩れた。
「何で撃ったのよ…他に何か方法は無かったの!?」
四季が問いただす。
「止めろ!!一番辛いのは…享一だ…」
源三は唇を噛み締めた。
「…俺は…仲間を…殺した…」
享一は己の罪を悔いる。
しばらくの間、4人は言い表せぬ喪失感に包まれていた。




