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19.仕事――新城高生

-スノーツリー 83階 第一展望台最上階-


幾つかのガラスの取り付けが終わってない窓から忍び込む、真夜中の冷たい風が密やかに集まった悪人供の頬を撫でる。

実は建設途中とは名ばかりで、不況の煽りをモロに受け、ここ一月"マトモな人間"の出入りは無い。

「で、情報って何?」

「大したものはありません。次のミッションに彼らの末端構成員が関わっているということ…」

オオジョロウは窓の外の満天の星空を眺める。

「…確か次のミッションは道立光陵高校の…」

火村の言葉をれいが遮った。

「それだけか?まさかそれだけの為に自ら赴きはしないだろ?」

れいは探るような視線を投げ掛けてみたが、オオジョロウは一切目を合わさずに、北の空を眺めたままだった。

「今日も北の大地は星が綺麗だ。…そうだあの星はなんと言ったかな?」

そう言ってオオジョロウはほぼ水平に指を指した。その先では確かに何かが光っている。だが決して星でないことはわかった。

「…何だあれは?」

その光はだんだんと大きくなり、それに伴い低く重たい羽音が聞こえだした。

「なるほど、警察に…」

そう言いかけた火村の声に被せるように、享一が口を開いた。

「…違うな…あの音は…タンデムローター…」

「…じゃあ自衛隊…」

「それも違うわね…」

またしても火村の言葉をれいが遮った。

「あの音…チヌークとは、西側のヘリとはちょっと違う…そうね東側の…Yak-24と言ったところかしら…ということは"かの国の生き残り"ってとこ?」

「御明察!さすがは御凪れいだ。だが君は少しばかり有能過ぎた…ただ"仕事"をこなし続けていれば良かったのに…」

オオジョロウは小馬鹿にした笑みを浮かべる。

「…貴様…裏切ったのか?」

火村が問うと、オオジョロウの顔はさらに下卑た笑みに変わった。

「勘違いするな。元の理念に基づいているのも、"クライアント"の言うことを聞いているのも私の方だ。違うか?御凪れい!!」

火村と享一は驚いてれいを見た。れいは俯いたまま黙っている。

「一体…どういうことですか?」

詰め寄る火村をれいは相手にしない。

「私達はちゃんと仕事をこなしているつもりだ。」

「ではなぜお嬢を殺った!!そんな仕事を頼んだ覚えはない!!」

激昂するオオジョロウだが、れいは臆することなく続ける。

「だとしたらあのじゃじゃ馬の手綱をしっかり持っていれば良かった。クライアントにも言われている…邪魔者は殺せと…」

れいは眼光鋭く睨み付ける。

「しかし!!」

「それよりも!!…これはクライアントの命令なのか?そんな筈はないよな?だとしたら、こんなクライアントと縁も所縁も深いところで殺るはずがない…むしろ…」

「俺達と一緒にクライアントを葬る…オオジョロウ…お前の"反乱"だな。」

良いところを奪ったのは享一だった。その手にはなぜかまたコルトガバメント砂漠迷彩モデルが握られていた。

「…だからなんでやねん!!いい加減自分の使え!!…ってかいつ抜いた!?」

「コントはそんなもんでいいか?」

「コントをしてるつもりは無い。」

享一は冷たく言い捨てた。

「まぁいい…私にも理想の一つや二つはある。そのためにあの御方の下についた。だが、あの御方の"理想"は綺麗過ぎた…リーダーはもっと黒くなければ…おっと、お喋りの時間はここまでだ。私はここで失礼する。」

オオジョロウは右手を挙げると、手に持っていたスイッチを押した。

するとこの階の窓という窓が粉々に弾け飛び、吹き込む風がより強くなってガラスの雨を降らせる。

オオジョロウは、近くに置いてあったリュックを背負うと、窓から飛び出していった。

「何!?」

窓に駆け寄り下を覗き込むと、オオジョロウはどこぞの怪盗のように真っ白なハンググライダーを広げて飛び去って行った。

「チッ!」

享一はハンググライダーに銃を向けたが、それをれいが押さえる。

「無駄弾は使わない方が良い…来たわ!!」

三人は窓から上を見上げる。塔の上に丁度古めかしいヘリが着いたところだった。

「急いで下りるよ!!」

三人はれいを先頭にして階段へ走る。

階段を下り出すと同時に、リペリング降下してきた敵が突入した。

「走れ!走れ!!」

「ちょっと待った…」

享一はピタッと止まり、階段の防火扉閉めて、何か黒い塊を取り付けた。

「何なのよ!?」

れいが尋ねる。

「ブービートラップだ。ちょっとは時間を稼いでくれる。」

「OK?行くわよ!!」


-スノーツリー 75階相当階屋内階段-


走り出してしばらくすると、上の方から腹に響く低い爆発音がした。

「良かったわね、ブービーなヤツがいて!」

「でも、階段は他にもあるんじゃないですか?」

「あるに決まってるじゃない!!この屋内の階段の他に、屋外に二つ!!」

「っていうことは…」

「こうやって前から突然出てくる!!」

れいは叫んでから急停止した。追い抜かし様に火村と享一が連絡通路のドアから出てきた二人の男の頭をぶち抜いた。

「早くドア閉めて!!」

二人は慌てて階段の左右についたドアを閉じた。

すると、ドアの向こうから無数の銃声と、ドアやタワーの鉄筋に銃弾が当たった甲高い音が聞こえた。

「ブービートラップでどれだけ殺ったかわからないけど、この階段では追いかけてこないみたいだから少し休みましょう…」

れいは息が上がってしまい、全力で坂を駆け上がる謎の番組のように、呼吸が色っぽく艶かしくなっていた。

「確かに、銃弾じゃあビクともしなかったですからね。この扉。それこそRPGでも持って来なきゃ…」

「シッ!!静かに!!」

享一は口の前で人差し指を立てるジェスチャーをしてから、そっとドアに耳をつけた。

「…一人…他より足音の重たいヤツがいる…」

「…おいおい嘘だろ…」

「…源三が噂なんかするから…」

「俺のせいッスカ!?」

「なんでもいいから急いだ方が良い!!」

「しょうがないわね…」

れいはフラフラと立ち上がって、また階段を駆け下り始めた。それに火村が続き、享一が後衛を務める形になった。

再び階段を下りだして、すぐにまたあの低い爆発音が階段に響き渡った。

「…本当にやりやがった…」

火村が思わず立ち止まる。

「傭兵風情が…」

享一は立ち止まった火村を突き飛ばした。

「早くしなさい!私が走れるうちにちょっとでも下り…れないみたい…足音がかなり近いわ…」

「迎撃戦闘か…嫌いじゃない…」

「俺も…」

「いや、二人は先に降りろ。俺が時間を稼ぐ。」

享一は階段のカーブに身を隠し、持っていたボストンバッグからベレッタM92、MP7、P90と大量の弾倉を取り出した。

「早く行け!!」

「まだ最終回には程遠いわ。」

「死にはしない。」

「フフッ…わかったわ。一之瀬君に任せる。」

「死ぬなよ…」

れいはくたくたになった足を叩き、一歩一歩踏みしめて階段を下りていった。

その後にコルトガバメント雪上迷彩モデルを構えた火村が続いた。

「ふぅ…殺るか…」

享一はP90を手に持ち、敵が近づくのを待つ。

次第に大きくなる足音、やがてそれは一つ前のカーブを曲がった。

「フッ…楽しもうぜ!!」

享一は陰から飛び出すと、敵兵に向けて目一杯引き金を引く。

P90から放たれ続ける銃弾は、駆け下りてきた男達を次々と死体に変えていった。

弾倉に詰まっていた50発もの弾丸は、ものの三秒で撃ち終わった。

また階段の陰に入り、弾倉を取り換える。

すると、生き残った敵が銃撃が止んだのを見計らい、享一に向かい手榴弾を投げ付けた。


-スノーツリー 40階相当階屋内階段-


必死に階段を下りる二人をまた爆発の衝撃波が襲った。

「あれからもう三回目…大丈夫ですかね…」

「仲間を信じろ源三…それより…もうすぐ連絡通路だ…」

火村は一旦止まってから、銃を構え直してドアを警戒する。

れいがあと少しで通り過ぎようかというその時、ドアが勢いよく開き男が転がり込んできた。

火村はすかさず引き金を引いたが、弾は男の頬を掠めて階段の壁に当たった。

「…よせ…撃つな…」

男はそう言って顔を上げた。

「一之瀬君!!」

「一之瀬生きてたか!…良かった…」

「とりあえず目に映った敵は殺してきた。けど…」

享一は服の袖を捲ると、腕の皮をベロンとめくってみせた。

「ちょっと怪我した。」

「はぅあぁぁ〜寒気がするから早くしまって!」

「死体は平気なのに…」

「だって死体は死んでるじゃない。」

れいは訳のわからない理論を自慢げに話した。

「それよりどうしよう…日比野君…じゃない日比野ちゃんは来てないし…」

「いや…来てる…さっきから寒気が止まらない。」

「酷い判断方法ね…」

「とにかく下りましょう。早くしないと夜が明けてややこしいことに。」

「そうね。行きましょう。」


こうして、事件の解決に始まる激動の一夜が終わった。

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