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15.推理――新城高生

-リムジンバス内-


午後六時、新宿駅西口発羽田空港行きのオレンジのリムジンバスの中に彼女らはいた。

「…」

「…」

窓の外を流れる景色を見て、男二人はたそがれていた。そんな二人の頭をれいが後ろからどつく。

「なぁにしみったれてんのよ!!」

「…吐くぞ…」

享一はクルッと振り返り、真面目な顔でそれだけ言うとまた窓の外に視線を戻した。

れいは、煮え切らない気持ちの全てを源三にぶつける。

「ねぇ〜、こんな可愛い女の子ほっとくなんて男が廃るぞぉ!!」

れいは無い胸をグリグリと押し付けた。

「ちょっ…何してんすか!?…っていうか…まだ酔ってません?」

「フフッ、バレた?」

れいのテンションはさらに上がり、横に座る源三をバシバシと殴り続ける。

そんな二人を置き去りにして、一人前に座る享一は鋭い目付きに戻った。

「なぁによ、恐い顔してぇ…」

「黙れ!!」

「えっ…」

「あっ…すまない。ただ、前の客…」

れいは前の方に座る女性客に目を凝らした。

その女性は、ジーンズに黒いTシャツを着て、淡いブルーのチェックのアウターを膝に掛けていた。

問題はそのアウターの袖についてるものだ。

「血…」

「…あぁ…」

「面白そうね…」

れいはスッと席を立ち、その女性に歩み寄る。その目付きは、鋭くも楽しんでいるように見えた。

「すみません…後ろ、酔っぱらいが煩くて…」

れいはペコペコしながら女性の前を通り、窓側の席に座る。

女性は一瞬怪しんだが、周囲に空席が無いことを確認すると、その警戒を解いた。

「学生さん?」

「はい!火村享子って言います。」

れいは苦しい偽名を使い相手を誘導する。

「そう…私はツキシマ サチコって言うの。」

「ツキシマ?」

ごく自然な感じでさらに揺さぶる。

「そうよ。お月様の月に、佐渡島の島。名前は幸せな子って書いて幸子って言うの。

…実際は…そんなにツイても、幸せでもないけどね…」

月島は遠くを見つめ、悲しい顔をした。

その横で、れいは見えないように素早くメールを打った。


-新宿 ビジネスホテル-


五階の一室で、ロリコン官僚を殺り終えた四季のもとに、れいからのメールが届いた。

「ん?月島幸子って女をしらべろ…何だ?…かわかんないけどやるしかないのよね…」

四季は返り血をシャワーで流してから、デニムのホットパンツに足を通し、オフショルダーのカットソーを着て、長い髪をシュシュでまとめポニーテールにして、今風のオーラを存分に出してから部屋を出た。


-リムジンバス内-


れいは四季からの返事を苦し紛れの世間話をしながら待っていた。既にバスは品川駅を過ぎている。

そわそわと落ち着かないでいると、ようやくメールがきた。

「…月島幸子…新潟出身の35歳…城新会幹部の愛人…か…」

「お友達?」

「えぇ…まぁ…」

れいは曖昧な返事を返して静かに携帯を閉じる。

もちろん、メールを打った後にだ。


-新宿 カフェテラス-


一仕事、いや二仕事終わってコーヒーをすする四季のもとに、再度れいからのメールが届いた。

「その幹部について調べろ?…それと…野茂瀬兄ぃ?に話を聞け?…はぁ…また骨の折れることを…」

四季はぶつくさ言いながらも、残りのコーヒーを飲みきってカフェを出た。


-城新会事務所-


黒塗りの高級外車がいくつも停まり、いかついお兄さん達がうろうろしているいかにもなビルに、四季は単身で乗り込んだ。

「幹部を出して!!」

「あぁ?…ここはお嬢ちゃんの来るところじゃ…」

四季は茶化す190cmオーバーの大男を素早く捩じ伏せる。

「時間が無いの!!」

「お、奥の部屋だ…」

四季は並みいる野郎どもをかき分け、奥の扉を蹴破った。

「なんだ!?騒々しい!!」

奥にいたのは四季のイメージとは違い、だいぶ若かい組員だった。

「あんたが幹部?」

「まぁ…この事務所じゃあ一番偉い。」

男は小バカにしたように、椅子に深く腰をかけて反り返った。

「剱崎って幹部知ってんな?」

「あぁ知っとるで、女泣かせたら世界一や。」

「どこにいる?」

「知らん。そういやぁ今日は見とらんのぉ。」

男は薄ら笑いで椅子をくるくるしている。

「家は?」

「知っとるで。」

「なら連れていけ。」

「あぁ?」

「もしかしたら女に殺されてるかもしれないらしい…」

「なっ!!…っていうかお前誰やねん!!」

「いいから早く!!」

「かぁ〜…しゃあねぇなぁ!!おい車回せ!!」


-羽田空港-


バスは東京駅からおよそ二時間で、空港のロータリーに着いた。

次々と乗客が降りる中、れいは必死に月島を追いかけた。

月島は一目散に国際線ターミナルに向かう。

後一歩で出国ゲートというところで、れいは声をかけた。

「月島さん!!」

月島はビクッとして振り返る。

「あなた、剱崎さんって構成員、殺しましたね?」

「な、何を?」

力無い否定は肯定に等しかった。

「あなたのそのアウターの袖、血がついてます。それに、隣座って気付きましたが、貴女から僅かに硝煙の臭いが…」

「でも残念…それだけじゃ私が殺した証拠にはならないわ。」

「…」

れいは思わず口ごもる。

「フフッ…残念ね…ツイてない人生だったけど…やっとラッキーなことがあった…それじゃあね…」

ボストンバックを抱え、歩き出そうとする月島の腕をれいは掴んだ。もう片方の手には携帯が握られている。

れいは黙って携帯をハンズフリーにした。

「もしもし!四季です!!世田谷の剱崎の自宅にて、腹を撃たれた剱崎本人を発見!まだ息があります!!…それより…剱崎…自分で…撃ったと…言ってます…」

月島は目を見張った。その目は赤く充血し、頬を涙が伝っていた。

「何で…何でよ…」

「…罪深き男が初めて本気で愛した女性だった…」

「そんな…私…私…」

月島はれいにすがるようにしそのまま泣き崩れた。


-国内線出発ロビー-


「にしても、何事件解決してんすか!まったく、警察に事情聴取なんかされてたらややこしく…って聞いてねぇよ…」

源三が振り向くと、れいは四季に電話していた。

「ありがとう。助かったわ。」

「いいんですよ。それより何でわかったんですか?彼女が何かしたって…」

「彼女の目よ。彼女、望まず人を殺した目をしていた…世界中にいる少年兵と同じ目。」

「…あっ、あと、野茂瀬兄ぃって誰だったんですか?ただの情報屋には…」

「反対から読んでみなさい。」

「反対?…ニセモノ…」

「フフッ…そういうこと。偽札、偽ブランド、それに"偽造パスポート"…ありとあらゆる偽物製造に精通してる人よ。」

「なるほど、ようやく納得できました。ではお嬢様、まだ仕事があるので失礼します。」

「わかったわ。気を付けて。」

れいは電話を切って、二人に向き直った。

「さ、行きましょ。」

「目指すは北の大地北海道!!」

「…銃…持ってて平気なのか?」

「えぇ、右から三番目のゲートは協力者よ。」

れいは自信満々に歩き出し、二人も後に続いた。

さらにその後ろを数人の男女がつけている。

「…はい…少々のハプニングはありましたが…予定通り…大丈夫…ヘマはしません…必ずや"鉄の鳥"を"空の木"に…」

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