13.攻防――消炭灰介
しかし、れいは享一を手で制すると小切手を回収して、これみよがしに胸ポケットへとしまう。
足を組み、机に肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せる。隠れた口元は笑みの形に歪む。
「そんなもっともな位置に狙撃手を配置しちゃだめですよ、ほら」
言って、れいが右の拳を高く上げ、時計回りに回す。
「かくれんぼにすらならない」
聞くものを底冷えさせる悪魔の囁きの後に続いたのは銃声。
れいは懐から携帯を出す。そして、狙ったかのようにかかってきた電話にでた。
『状況完了です。お姉さま』
「ご苦労、七弥に減音器くらいつけろと言っておけ」
短いやり取りで通話を終え、れいは男に向き直る。
「それでは」
れいは机の上に置かれたアタッシュケースを男のほうに押し返す。
「ふざけるな」
男は肩を震わせ立ち上がる。振り上げた手に掴むのはティーカップ。それをそのままれいの頭めがけて振り下ろした。
瞬間。耳をつんざく音、れいの頬を紅茶と血が混ざった液体が滴る。
あまりに唐突な出来事だったので享一と源三は反応できなかった。
「ちっ」
舌打、源三は咄嗟に振り向くと手に持っていたガバメントを男の頭に向け躊躇せず引き金を引く、しかし、響いた音は、
「ハハハハ」
というれいの笑い声だった。享一も俯きがちに口元を掌でおさえ、必死に笑いをこらえている。
「だから言っただろ、源三、お前は私に少しでも何かあるとすぐ引き金を引く――」
こらえきれず、れいはまた「ハハハハハ」と高笑う。頭から血を流しながら。
「だから返すとき一之瀬くんに頼んで、おもちゃとすり替えてもらった」
れいは息をつくと、口元を盛大にニヤけさせ、源三のおもちゃに腰を抜して床に尻餅をつく男を見下ろす。
「それでは、名もなき情報屋さん? 私たちの要求は受け入れてもらえるでしょうか?」
「お前たちが先に手を出したんだろうが……」
男は頭を抑え力なく、呟く。
たしかに先に荒事にしたのは源三だ、しかし、
「私たちは正義の味方ではありませんので」
れいは臆面なく笑顔でそう言い切る。
「わかった。要求は受け入れる。金はいらない、もう出て行け……」
「ありがとうございます。では情報は後日」
言って、れいは武器を連れて部屋を後にした。
頭の傷は派手に血が出る。幸いにもれいの傷口は浅く、ハンカチで血を拭き、絆創膏を張るだけで血は止まった。
「はあ」
れいは大きく溜息をつくと、エレベーターのコントロールパネルに頭を打ち付ける。
「もしかして怒ってます?」
訊いたのは源三。
れいはきっと二人を睨む。源三は少したじろいだものの享一にいたっては何事もなかったかのような顔でそれを受け流した。
「なんで二人とも勝手な行動するの!」
少し荒げた声には疲労の色が浮かぶ。
「ばつとして、一週間かけて二人だけで基地の徹底大掃除ね」
ぴしっと人差し指を立てて言うれいに対する二人の返事は溜息。
「なんであいつ、コレ受け取んなかったかったんでしょうね」
源三は必死に話題を変える。アタッシュケースを示した源三の手を見つめたれいは真剣な顔つきになって口を開いた。
「この街で近江一族に逆らって生きていけるわけないからな、廃業になる以上、私たちの金から足がつくのを恐れたんだろう、まったく賢い男だよ」
あたまの絆創膏をさわりつつ答える。
「それは、近江の連中に消されるって意味ですか?」
「まさか……」
れいは目をつぶりかぶりをふる。そんなわけない。と。
「でも情報屋って一番初めに消されるイメージが……」
「映画の観すぎだ。情報屋は誰よりも情報を持っているから一番早く身の危険を知り、逃げ出すことができる」
「そんなもんですかね」
「まあ、三流はどうか知らないが、少なくともアイツは一流だ。命と金、どっちが大事かよくわきまえてるよ」
フフ、とれいはいつものように笑う。その声にはいつもと違う自嘲めいた響きが宿いて、
「私たちと違ってな」
しかし、後の言葉は自信満々に言う。
「……だれかボタンを押せ」
腕を組み、壁に寄りかかって二人の会話を静観していた享一が、見かねて口を開いた。
「あ」
あわてて、れいはコントロールパネルの1階ボタンを押す。
「さ、今日は疲れた、もうみんな集まってると思うし、帰って、一杯やろっか」
「未成年ですよ」
「やだなぁ、ジュースだよ」
『嘘だな……』と思いつつも言葉にはできない源三と享一だった。
(*゜Д゜)・:∴ブハッ
申し訳ございません時系列がよくわかんなくて
あの後すぐなのか?だとしたらガバメントいつ返したんだ?つか四季とかいきなりだすなよ俺、みたいな思考のループの結果、頭がパンクしてしまいました。申し訳ございませんm(_ _)m,
次話で修正お願いします。