12.交渉――K
「ようこそ、お待ちしておりました。5階で支部長がお待ちしております」
そういうとサラリーマンはれい達にお辞儀をしてさがっていった。
「なぁ火村、なんだここは?」
「……先輩には敬語使えよな、まぁいいけどさ。ほらあそこにパンフレットがあるぞ」
源三はフロントの方を指差す。そこには何種類もの蜘蛛の絵が描かれた紙が整理されて置いてある。
「知ってる。取りに行くのがめんどいから聞いたんだ」
「はぁ!?まったく、とんでもない後輩だな……」
「フフッ、私が一之瀬くんを入隊させた理由の一つは、どんな相手にも臆さない強靭な精神を持っているからよ。後輩指導がんばってね」
れいが笑いながら源三の肩を叩いて励ます。反面、先輩の表情はどんより曇っていた。
「強靭な精神というかただ生意気なだけじゃないっすかれいさん…っと、エレベーターがきましたよ」
3人はエレベーターに乗り込み、れいが「5」と書かれた文字盤を押して扉が閉まっていく。
「ここはこの辺り一帯のタレこみを管理、制御、そして売買している大手情報屋『スパイダー』って会社だよ。俺達は交渉しにきたんだ。くれぐれも粗相のないようにな」
ピンポーンと音が鳴り、エレベーターのドアが開く。
「おい源三、準備しておけよ」
「りょーかい」
れいの命令に従い源三がコルトガバメントの安全装置を解き、ブローバックさせて弾丸を送填する。
……交渉しにきたんじゃなかったのか?享一は疑問に思ったが口には出さなかった。
―――――
三人が案内された応接間には一人の男と複数人の従者が待っていた。
「ようこそ、御凪れい様に火村源三様。……おや、そちらの方は最近入隊なさった一之瀬享一様ですね?初めまして。スコープ無しの狙撃、見事でしたよ。どうぞおかけになってください」
男はそういって窓側の席を奨める。従者達がお茶とナボナを持って待機している。
「フフッ、流石情報屋ね。自己紹介が省けて助かるわ……って一之瀬君、なにしてるの?」
享一は窓……ガラス張りの壁に近づいて外を眺めていた。その壁は5階というだけあってかなり遠くの景色まで見渡せて、二村が入院していた病院も確認することができる。
「ほら、突っ立ってないでさっさと座りなさい」
れいに袖を引っ張られて享一はれいの左隣の席に座った。
「さて、私達がここにきたのは分かっての通り、仕事を頼みにきたのよ。まずは一つ目」
従者がれい達の前にお茶とナボナを置く。れいはそこで一呼吸おき、お茶を啜る。
「あなた達が既に持っている近江の情報と最新の情報、全てこちらに流してほしい。二つ目は、近江にはこちらの情報を売らないでほしい。もちろんそれなりのお金は用意してあるわ」
そういうと、源三が片手に持っていたアタッシュケースをバンっと机に置き、鍵を開けて中身をみせた。
「なるほど。あなたの要求は分かりました。ですが……」
そういって男はナボナをかじりながらカバンの中に入ってある金を数える。
「こんな量の金ではその要求には残念ながら釣り合いません」
「……なに?」
れいが眉をひそめる。それに呼応して源三の表情も険しくなる。
「たしかに一つ目の仕事だけだったら十分すぎる量です。ですが、二つ目のあなた方の情報を売るな……これが入ってくると話が変わります」
男はそう言ってカバンを閉めて源三の方へ返す。
「この金額では話になりません。出直してきて下さい」
「……フフッ、そう」
れいはいきなり立ち上がり、右手を男の方に突き出す。その手は親指がピンと立てられ、人差し指はまっすぐ男の眉間に向いていた。
「くく、お嬢さん。いくら腹が立ったからって、そんなんじゃ人は殺せませんよ」
「フフッ、そうだったらよかったのにね」
カチャ と音が鳴り、右隣で源三がコルトガバメントを構える。
「交渉決裂ね。さようなら」
れいが死の宣告をする。源三は指に力を込めて引き金を絞る……
「待て」
蚊帳の外だった享一が二人の間に割って入って、銃と右腕を下げさせる。
「……なんのつもり?」
れいが冷徹な目を享一に向ける。はぁ、と享一は軽くため息をつき後ろに振り返る。
「あそこ、狙撃兵が三人。蜘蛛のマークがついているからこいつらの仲間だろう」
「……流石一之瀬様。ほんとうに目がいいんですね」
享一は男の賛辞を無視してポケットから紙を取り出し、机においてあったペンを手に取りサラサラと書き始めた。
「これでどうだ」
紙を男に突き出して享一はペンを放る。その紙はカバンの中の何十倍もの金額が書かれた小切手だった。
見やすいかな?と思いエンター押しまくってみたけどどうですか??