羊と狼
『ビート & ヨーン』
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
「ルシファーを討つ」――その決断が下された瞬間、特別攻撃隊の心は、一切の迷いを削ぎ落とした鋭利な刃へと変貌した。
ルカは古代装置の魔力が濃密に充満する個室に籠もり、レオンハルトの矛に幾重もの強化魔法を練り込んでいく。グンとブリューはフェンリルの王を相手に、牙と爪を研ぐスパーリングパートナーを務め、カミロは、レオンハルトの槍術と格闘術を研ぐスパーリングパートナーを務める。
背後からチョークスリーパーを決められ、カミロの腕をレオンハルトがタップした。
「……本当におれたちを残して行く気かよ」
すぐさま立ち上がり、所定位置に戻ろうとするレオンハルトの背中に、カミロが問いかける。レオンハルトは振り返ることなく、淡々と答えた。
「ああ。私が敗北した時のリスクヘッジだ」
「俺が国王なんて、そんなガラじゃねえんだがな」
「軍事的な合理性に基づいた判断だ」
再び組み合う二人。額をぶつけ合い、深く腰を落として押し合う。今度はレオンハルトがカミロを地面に叩きつけ、起き上がろうとする彼の首に、下から電光石火の三角絞めを決めた。
レオンハルトの作戦は、自分とフェンリルの王の二人だけでルシファーを討つというものだった。
「最強の人間」と「最強の神獣」のタッグ。それが、一国の王として彼が導き出した最適解であった。
当然、仲間たちは一斉に反対した。死ぬ時は一緒がいい。そう願わずにはいられないほどに彼らの結束は固かった。しかし、レオンハルトがその決定を覆すことはなかった。
「我々、特別攻撃隊は家族だ。だが、イザベル共生領を興した以上、我々は家族である前に、この国の責任者としての責務を果たさなければならない。全員で討伐に赴き、誰も帰ってこなかった時、残された民はどうなる?」
家族としては冷徹であり、一国を預かる王としてはこの上なく誠実なその判断に、誰も反論の言葉を持てなかった。それだけに、残される四人は自分たちに与えられた「送り出す二人の牙を研く」という任務を全うすべく、それぞれの役目に没頭した。泣き言を言っている暇など、一秒もなかった。
一日の過酷なトレーニングを終え、魚料理を用意してくれた民に深く感謝し、食事を済ませてすぐに就寝する。そんなストイックな日々が、何十日と続いた。ルシファーの弱音が、彼らの頭の中に響き渡るその日まで。
どんなに代わり映えのない閉塞した日々でも、食事の時は幸せだった。
カミロは魚の骨を取り分けるのが壊滅的に下手で、いつも食べるのが遅い。魚を骨ごとバリバリと咀嚼するグンとブリューを恨めしそうに眺めては溜息をつき、一人で黙々と解体作業を続ける。ルカが手伝おうとすると、子供のように頑なに拒むその姿は、殺伐とした地下生活における数少ない癒やしだった。
飲水は貴重なため、風呂に入ることは叶わなかったが、ルカは定期的に仲間たちへ丹念なマッサージを施した。シャンプーもコンディショナーもとっくに底を突いていたため、それは単なる回復魔法付きの指圧だったが、皆、至福の表情でそれを受けた。
一人だけマッサージを受けられないカミロが愚痴をこぼすと、「カミロは戦わないでしょ」と冷たく一蹴される。「それならグンもブリューも戦わないだろ!」と反論すれば、「二人はかわいいからマッサージするんです。僕がマッサージしたいんです」とぐうの音も出ない宣言が返ってくる。
マッサージの本来の目的が風魔法の付与だと知ったフェンリルの王が、「フェンリルの唾液は魔導率が高いのじゃぞ」と親心からグンたちの毛並みを舐め始めた時は、三人揃って(いや、そういうことじゃないんだよね……『さらふわ』と『匂い』が大事なんだよね……)という、何とも言えない絶望的な顔を浮かべた。
「ねえ、お話聞かせてよ」
就寝時、澄んだ声で、何の恥じらいもなく正直にカミロに甘えるグンの姿は、最高に可愛らしかった。どんなに体が逞しくなろうとも、中身はまだ二歳なのだと痛感させられる。
「またかよ。毎回同じ話で飽きないのかよ」
カミロは一度は面倒臭そうにふて寝を決め込むが、耳元でブリューに「ウォン!」「ゥ〜……ウォン!」と執拗に催促されると、「うるさくて敵わん!」と渋々折れるのが常だった。
カミロは、三人の中で一番お話が上手かった。これは一種の才能だと、レオンハルトもルカも感心していた。
彼の語る物語は、決まって「羊と狼」が登場する。即興ゆえに設定は毎回少しずつ異なるが、結末はいつも同じだ。羊と狼が全力で戦い、引き分けに終わり、互いに「お前は漢の中の漢だ」と称え合って親友になるという、熱い友情物語。
話が始まって早々にブリューが眠りに落ち、グンも結末を聞く前に夢の中へ行く。
そして、残された三人の大人が、二人の可愛らしい寝顔にキスをしてから眠りにつく。それがこの家族の夜の定番だった。
グンとブリューの温かく逞しい体を抱きしめると、あまりの多幸感に、人類が絶滅の危機に瀕していることなど遠いどこかの、それこそカミロがするお話のような、誰かが作ったおとぎ話のように思えた。




