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第五話:国籍不明の貨物船

 イアン・ニートルは、ふむ、とうなずいた。


「それで若い船乗りに、あなたが知っている海図と航路を教えてやったのか」

「そうだよ。もちろん警告もしたさ」

「なるほど、なるほど。たしかに話の中で危険だという警告はなされていたようだ」



 イアン・ニートルはうなずいた。


「だが、それでも彼らは難破船から運び出された食料以外の価値ある物もあると考え、島を目指したのか。おまけに根拠の無い憶測にさらなる尾ひれがつき、それが『黄金の延べ棒が島のどこかに隠されている』という、ものすごく怪しい伝説になったわけか」


 なぜイアン・ニートルがそれを知っているのだろう?

 老船乗りは一瞬、息を止めた。

 その話は今はしていない。話をそらさなければ。


「どうせそんなことだろうさッ」


 老船乗りはわざと投げやりに応えたが、


「そうそう、長距離航海に出る船の船長室の金庫には、いざというとき、どんな国でも貨幣の代わりに使えるように、価値のある砂金だの宝石だのが入れてあるという話だったな。あの島に隠してあるのは、そういったお宝というわけか」


 イアン・ニートルは一人で納得していた。

 老船乗りはあきれたふうに、すごく大きな溜め息を吐いてやった。


「難破船はあるだろうさ。だがな、アンタが行った時まで金目のものがあるかは期待しない方がいい。だいたい難破した船乗りにとって、食えないうえに重すぎる荷物なんざ無用の長物だ。よしんば持ち出されて無事に島へ隠せたとしても先に行ったやつが見つけて取っているだろうし、難破船の残骸だって、とっくに海の底に沈んでるだろうよ」

「それもそうだな。だが、その若い船乗りは、それを聞いても仲間と出発したわけだ。何も手に入らないかも知れないのに」

「ああ、世の中バカばっかりだ。難破船なんて今頃無いかもしれないのにな」


 そうとも、老船乗りはあの島に金塊があるなんてイアン・ニートルには話していない。


「俺の船も帰りはぜんぶ沈んじまった。俺はたまたま悪運強かったから救助されたが、あの海域へ行くのは二度とごめんだ」

「そう思っていても、最初の海難事故から生還した後、二度目、三度目と、危険な島を目指して航海に出たわけだ。その理由をうかがっても?」


 その感想と疑問はもっともなものだ。だが、これだけ凄惨な話を聞かされても、イアン・ニートルの反応は、どこか薄ぼやけている。


 こいつ、どこかおかしいぞ……。

 これ以上、話してもだいじょうぶだろうか。

 老船乗りは少し考えて、イアン・ニートルのおかしなところを整理した。


 こいつは残酷な話に眉一つ動かさない。

 そう、彼は、人間なら当たり前の良心的な反応をみせないのだ。まるでこんな話には慣れているように。


 はたしてまともな人間だろうか。


 もしかしたら老船乗りを恨んでいる誰かが雇った殺し屋で、老船乗りを殺しに来たのではないか……。


 だが、もう話さない選択肢は無い。


「俺が二回目にその島へ行ったのは、知り合いに案内を頼まれたからだ」


 きっかけはいつも同じ。

 昔なじみの船乗りが訊ねてくる。そいつは航海に出られる人数を集めている。老船乗りも頭数あわせで参加する。


 そいつも若い頃からギャンブルが大好きだった。そのせいでトラブルに巻き込まれることも数知れず、この歳まで生きているのが不思議なくらいの阿呆だったが、なぜか老船乗りとは気が合った。


「なあ、お願いだよ。どうしても金がいるんだよ。俺の知ってるなかで、あの島から生きて戻ってきたのはアンタだけだ。あんたならあの海域を案内できるんだろう?」


 魔の海域にあるその島へたどり着ければ、大金を払う客がいるという。


「船も燃料代もそいつらが用意する。島へ上陸するのはそいつらだけだ。俺たちは案内だけ。なら、危険は無いだろう?」


 うますぎる話に、老船乗りはきな臭さを感じたが、ちょうど手持ちの金が尽きてなにより金が欲しかった。


 その客どもはどこかの国の大金持ちで、職業は医者らしい。

 まだ世界には存在しない新しい病原体の研究をする医学者だと。


 老船乗りも船の乗員として給料を支払ってくれるという。そのときの仕事内容は聞いたこともない大型貨物船の運航全般だった。

 老船乗りには理解できないすごい最新設備の研究室が造りつけられているというその船の、元々の船員たちは、魔の海に詳しくない。だからこっちの海に詳しい老船乗り達も集めたってわけだ。


 というわけで、寄せ集め船員の老船乗り達が乗り込むと、船は出港した。


 貨物船の国籍は不明だった。国旗も掲げず、説明もされなかった。

 臨時雇いへの待遇は悪くなかった。メシはまあまあだし、船室も衛生的だった。


 ただ乗員の間には明確な階級があるようで、船長や艦橋士官などはどこかの国の貴族か軍人なのか、恐ろしく気位が高く、威張りくさっていた。


 老船乗りたち臨時雇いの下っ端は、そういった身分の高そうな人々には、直接話しかけないよう注意までされた。


 ところが港を出発して三日目。


 老船乗りは、その気位の高い人々のリーダー格らしい男に話しかけられた。


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