うちの店のカレーの隠し味
うちはカレー屋、出す料理はカレーライスとカレーウドンだけ。
それでもカウンター席とテーブル席合わせて40席ある席は、何時も満席。
厨房の奥、客席からは見えない所に大鍋が20個並び、弱火でグツグツと煮込まれている。
並んでいる大鍋の前には従業員が4人いて、グツグツ煮込まれるカレーを木でできた大きなヘラで順番に掻き混ぜていく。
朝8時から夜の11時までの15時間で、大鍋で煮込まれたカレーが毎日5個分消費される。
そういう訳で、奥で煮込まれているカレーは明日から4日後までの分なのだ。
うちのカレーはジャガイモやニンジンにタマネギなどの野菜だけで無く、肉もトロトロに溶けている程煮込まれているのが特徴。
だから20個ある大鍋のうち1番奥側の5個の鍋の中では、原型を留めた野菜や肉が煮込まれている。
その次の5個の大鍋では崩れ始めた具材が煮込まれ、その次の5個の大鍋の中は殆んどペースト状になった具材が煮込まれていた。
一番手前の5個の大鍋は隠し味を仕込んだあと更に1日煮込まれる。
うちのカレーは4日間弱火で煮込み続けた結果、見た目は具材が全く入って無いように見える。
偶に隠し味は何? って聞かれるけど、それは企業秘密って奴で教えられない。
ま、それは建前なんだけどな。
俺はある広域暴力団の枝の構成員。
店で働いている従業員は全員、俺の子分。
昔、昭和の終わり頃から平成の始め頃までは暴力団にゲソをつける奴や犯罪に手を染める奴なんて、たいてい中学高校の頃から暴走族や愚連隊の構成員だった奴ら。
まぁ偶に大学出のインテリも入って来たけどな。
それが平成の半ば以降は楽して金を稼ぎたいって理由で、それまで良い子ちゃんだった奴らが簡単に犯罪に手を染めるようになった。
名前の通ってる大学の学生や卒業生なんかを含めてね。
で、そういう名前の通っている大学の理系の学生なんかが、自分の知識を使ってヤバい薬を作って密売しようとするんだよ。
俺たちが売っている混ざり物の方が多い薬と違って、純度が高い奴を売ろうとするんだが、そんな物を売られたら俺たちが売っている薬が売れなくなる。
だから作った奴を捕まえて薬を没収するんだ。
作った本人はたいていパーツ毎に捌いて売ったり奴隷として売ったりする。
そんで没収した薬なんだが、俺たちが輸入してる物と全く同じ物とは限らないんで破棄したいんだが、下手な場所に捨てると色々と不味い。
だからカレーの隠し味として使わせてもらっているって訳。
それで教えられないんだよ。