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君に深紅の花束を  作者: 小川 綾
■第四章
51/63

第四十七節 目覚めた脅威

 扉が倒れ、粉塵が舞った。

 錆びた鉄の臭いが、つんと鼻をつく。



 部屋に踏み入らずとも目に入ったのは……天井まで届く、見たこともない巨大な球体だ。

 表面は磨りガラスのようでいて、鈍い光の映り方が柔らかさを思わせる。

 半透明の中には……人型の影がくっきりと浮かんでいた。


 それは――静かに孵化を待つ卵のようだった。


 今、自分たちが開けたのは「封印の間」。ならばこれが、「封印」なのだろう。

 中に映る人影は……暴虐の王。



 アレクたちは武器を握りしめながら、一歩、部屋に足を踏み入れた。

 帝国兵だったスカーレットですら、その一歩に息を飲む。


 幸いなのか部屋は明るい。

 おかげで、嫌でも部屋の隅々までよく見える。

 本が積み上げられた机、床に散らばる銃火器やよく分からない部品……壁際に追いやられた、血まみれの小さな断頭台まで。



 そして……球体の後ろで揺れる、床に伸びたひとつの細い影。

「誰だ!」

 アレクが影に向かって叫ぶ。



「誰も彼も……私の部屋なのだが」

 呼び声に応え、封印の裏から顔を覗かせたのは……アドバンだった。


 アドバンは五人の前にその全身をさらけ出すと、壊れた扉にちらりと気をやる。

「まったく……扉を壊して入ってくるとは、躾がなっていないな。修繕費は昼日国に請求してよいかね?」

 そう言って、くっくと耳障りな笑い声をたてた。


 はっきりと姿を見るのは初めてだ。

 後ろに流し固めた髪は、夕暮れの港で対面した時より白い。背はぴんと伸びているが、小ぶりな髭を蓄えた口元のしわは深い。それに加え、黒い上着の襟元から覗く垂れた皮膚の凹凸が、老いを物語っていた。

 どこにでも居そうな老人のようでいて……しかし、この封印の間で堂々と立ちはだかる姿は、圧倒的な存在感を誇っていた。


 ロディがわざと大きな音を立て、倒れた扉を踏み抜く。

「こんな時に修理代(かね)のことなんざ、えらい余裕だな」

「小蝿なぞいくらでも湧いてくる。ただそれが帝国(うち)のではなかった程度だ」

 そう言いながら鬱陶しそうに逆手を振るアドバンに、ロディはふんと鼻を鳴らした。

「そのほっせぇ腕で払えるわけねぇだろ」

 拳を構えて噛みつく男の勝気な口を一瞥し、アドバンは肩を震わせながら笑う。

「はたしてそうかな? 握りつぶした時、その口がどう()()喚くか……非常に楽しみだよ!」

 わずかな沈黙のあと、ロディの小さな舌打ちが響いた。



 ロディとアドバンが煽り合う間に、アレクとクレイグは各々部屋のあちこちに視線を這わせる。

 二人が言葉なく探るのは、聖遺物の「鍵」だ。どんな物かは知らないが、「鍵」というからにはそれらしき形をしているのだろう。

 しかし、二人の目の届く範囲には見当たらない。


 二組の意識が部屋を飛び交うなか、ニーナはずっと封印を睨んでいた。自分だけが知っている、嫌というほど部屋を満たす魔力の気配……これは、暴虐の王(イーサー)のもの。

 封印はおそらく……いや、間違いなく、今目に見えているのが最後のひとつだ。


 『聖域〈カグ〉』と呟いたニーナに、アドバンが意識を向けた。

「そういえば……聖女様は魔力が視えるのだったな」

 スカーレットがニーナの前に身を滑り込ませ、好奇に満ちたアドバンの視線を遮る。同時に突きつけられた剣の切っ先を眺め、アドバンは「おや?」と首を傾げた。

「なんだ。お前は燃料にならなかったのか」

 ほんの一瞬、スカーレットの剣を持つ手元が揺れる。

「……兵に、私に、あの薬を仕込んだのは……やはり、そのためか」

「いかにも」

 アドバンはさも愉快げに口の端を歪めると、顎をしゃくり上げた。

「知っているかね? 人間は皆、死の瞬間に少なからず恐怖するのだよ……それは、魔力を育む最高の苗代になる」

 「苗代」という言葉に、ロディの眉間がぴくりと跳ねた。

「人の命を燃やすのが、そんなに楽しいのかよ!」

 吠えるが早いかロディが駆け込み、アドバンの顔面目掛け拳を振り上げる。


 が、

 『エオロー〈神の手〉』 

 と、アドバンが発した瞬間……ロディの腕は振り下ろせなくなった。


 アドバンと拳の間には、なにもない。しかし、腕が震えるまで拳を押し込もうが、その憎らしい顔に届かない。

「くそっ!!」と吐き捨てて、ロディは元いた位置まで後ずさる。

「なんだ? なんなんだよ!?」

「今の、多分魔法です……魔力が手みたいに伸びて……」

 誰に伝えるふうでもなく、ニーナはぼそっと口にした。それはアドバンにも聞こえたようで、わずかに目を見張る。

「……面白い。実に興味深い!」

 含み笑いが急に天を仰ぎ、神経を逆撫でするほど大きな嘲笑になった。


 そうしてひとしきり笑ったあと……ふと、上着の衣嚢から何かを取り出す。

「英雄殿が探しているのは……これだろう?」


 アレクたちに見せびらかすように掲げたのは……頭の部分だけ少し太い、針金のような銀の棒。細まった先端に二つの突起があり、誰もが一度はみたことのある形をしている。


「……それは……!」

 クレイグが思いっきり目を見開いた。


 「鍵」だ。


 ……端材のようなみすぼらしいそれが、封印を解き、魔力を解放した元凶――強烈な痺れが頭からつま先までを貫き、五人の体を釘付けにした。



 アドバンの手の中で弄ばれる鍵を睨み、ロディが床を強く蹴る――より速く、

「させるか!」

 槍を構えたアレクが、一直線にアドバンへと飛び込んだ。


「もう遅い」

 猛然と迫る英雄たちに動じず、アドバンは鍵を封印に押し込んだ。




 目を潰さんばかりの強烈な光が封印から放たれた。




 アレクは咄嗟に足を止め光から目を庇う。

 閉じた瞼の外側に陰りが戻ったのを感じて、そっと開くと――


 アドバンのすぐ横にあった球体は、跡形もなく消えていた。


 ただ、その球体が鎮座していた中心に……濃紺の髪を右だけ長く伸ばした男が、静かに目を閉じ佇んでいる。


 ――イーサー!


 ひと目見るなりニーナは無意識に後ずさった。クレイグがそれに気づき、スカーレットごとニーナを隠すように前を塞ぐ。


 現れた男はすらり、というよりひょろりと痩せている。飾り気のない淡褐色の服から見える肌は、青みがかるほど白い。まるで重患人のようだ。



 ……しかし、男は病床ではなく、封印から現れた。



「お目覚めかね? 暴虐の王」

 アドバンの呼び掛けが見た目との懸隔を吹き飛ばし、はっきり認識させられる。


 このひ弱そうな男こそ……600年前に世界を脅威の渦に陥れた暴虐の王、イーサーなのだ。



 アレクは槍を握りしめたまま、じりじりと背進する。ちょうど兄の後を追おうとして立ち尽くしていたロディに背が当たり、そこで行き止まった。



 ……イーサーの瞼が、ゆっくりと持ち上がる。


「……うん。目は動くな……」

 見えることを確かめるように何度か瞬き、目玉だけを壁に沿ってゆっくり一周させた。

 それから……視界の中で唯一、喜色を浮かべたアドバンに顔を向ける。

「ここは……見覚えある。俺の執務室か?」

「左様。今は私の研究室だが」

「封印を解いたのは……お前か。知らない顔だな」

「私は今の帝国の長だよ、古い支配者殿」

「ふぅん……」

 イーサーはいちいちくっくと息を漏らすアドバンを不思議そうに見やったが、すぐ興味を失い肩をほぐしだした。

「今は創造歴何年だ?」

「1600年だ」

「なるほど、600年か。意識下では一瞬だったんだが……なかなか経ったな」

 腕から手首、足首までの関節をひと通り動かすと、イーサーは大きく腕を伸ばしほっと息を吐く。

 アドバンが伝えた年月を聞いて、体が固まる感覚を覚えたのだろう。


「……お前が暴虐の王、か」

 アレクの声に、イーサーの視線が動く。



 ニーナも無意識に、その視線を追っていた。

 アレクに焦点を定めるまでの、ほんの一瞬。

 その底の見えない黒い目が、ニーナを捉えた……気がした。



 イーサーは両腕を組み、アレクとロディを交互に眺めてはにやにやしている。

「へぇ、なるほど。お前らはザムルーズの縁の者、ってわけか。エミーナにこっぴどく振られた時よりは、まともな顔しているな」

 それはザムルーズを貶めているのか、アレクを持ち上げているのかよく分からない……どちらにせよ、語り継がれてきた脅威を目の当たりにするアレクに、反応する余裕はなかった。


「(兄貴)」

 ロディが後ろから、ごくごく小さな声で囁きかける。

「(俺、なんかこいつ、怖ぇ)」

 強気な弟の口から「怖い」と漏れたのに驚きつつ、アレクも同じ感覚を抱いていた。


 ミレニアムの夜明けは、600年も言い伝わるほどの惨禍だったはず。なのに、その元凶はさっぱりした物言いの人間臭い男に思える。しかし、宵闇のような瞳は何を語ろうが光を映さず、丸いままなのだ。

 まるで、「見る」以外を知らないような、心を宿さないただの器官。


 ……そう感じれば感じるほど、アレクの背筋は体温を忘れていった。


 イーサーはすでにアレクからも興味が逸れ、部屋のあちこちに視線を巡らせている。

「俺のに混じるこの力は……お前のだな?」

 そう言って、あちこちの中にアドバンも含めた。

「脆弱だが確かに魔力だ。お前もエミーナに与えてもらったのか?」

「おやおや、そんな子供じみた発想はなかったな」

 暴虐の王ともあろう男は、アドバンの易い挑発にむっとして口をへの字に曲げる。それを目の端で捉え、アドバンは満足げに笑った。

「この力は自ら掴み取ったのだよ。まぁ、貴殿には劣るが……問題ない。この国で長年培われてきた技術が、私の手にある。兵器と魔力の融合……これが今の、新しい脅威だ。とくとご覧あれ」


 アドバンはアレクたちに向けて片腕を伸ばした。

『全てを掴み統べる神の力は我が手なり、武器をとれ引金をひけ、愚かな生命に制裁を下せ』

 息を継ぐことなく詛いを吐き切り、『エオロー〈神の手〉』と指を鳴らす。



 がしゃん――と、金属の擦れる音がした。



 クレイグが音の正体を探そうとして――またがしゃんと、今度は背後から音がした。

 振り向く必要はなかった。

 部屋の至るところから、連鎖したように同じ音が鳴り響く。その耳障りな金属音は、部屋に散乱していた銃火器が、次々と宙に浮かび上がる音だった。


 ふわりと宙に浮くそれらの口が……一斉にアレクたちを捉える。



『聖域<カグ>!!!!』

 ニーナが手を振り上げた瞬間――銃火器が一斉に火を噴いた。


 無数の砲声が耳を劈く。

 五人を包んだ聖域の境目に、銃弾が絶え間なく降り注いだ。


 音が、熱が、殺気が、肌をじりじりと焼く。

 まさに、弾炎の雨あられだ。


「これが、アドバンの力か……」

 弾幕によりもう姿すら見えないアドバンを見据えながら、アレクは息を飲んだ。


 銃口は絶えず火を吹き、弾は尽きることなく降り注ぐ。

 聖域から一歩でも出れば――死、しかない。

 今さらながら、皇帝の魔力を体感したレグが取り乱したのがよく分かった。



 呆然と聖域の外を眺める四人の目を盗み、ニーナはこっそり胸を撫で下ろす。

 咄嗟の勢いでつい大聖女(ノエル)を凌ぐ聖力を込めたが、ありえない聖域の強度を疑う者はこの中にいない。

 よかった……と安堵の息をついたニーナの耳に、

「ニーナ……大丈夫か?」

 アレクの気遣いが飛び込んだ。

「え、ええ! 問題ありませんよ」

 焦って早まる鼓動を悟らせまいと、ニーナは引きつった頬を無理やり笑みに変える。

 ……しかし、アレクの次の言葉はなかった。


 スカーレット、クレイグ、ロディを隔てて背を向けているアレクの表情はわからない。正体を疑われたのでは……と、ニーナは額の汗をそっと拭う。



 そんなニーナを振り返ることなく、アレクは正面を見据えたまま奥歯を食いしばった。

 窮地に立たされ、思わず「大丈夫か」と口にした。それが、聖域を維持するニーナの負担か、この聖域が維持できなくなる恐れか……どちらを心配したのか自分で分からない。

 どちらもだと言い訳すれば、ニーナに「守る」と言った自分が情けなくてたまらなかった。



 それぞれの不安が聖域に張り詰めるなか……伝う汗もそのままに、クレイグがちらりと扉を振り返る。

「……この距離なら、部屋から退避できそうですね。ニーナ、助けをお借りしてもよろしいですか?」

 一瞬びくっとしたニーナだが、すぐ力強く頷いた。

「……もちろん。クレイグの言う通り、今は一旦ひくべきですよ。扉まで聖域を張ります」

 逃げる選択肢を耳にして、ロディが忌々しげに拳を握りしめる。何もできずこの場を去るのが悔しいと、振り向かない背中が物語っていた。



 小刻みに荒ぶるロディの背をみて、ニーナは唇を噛む。

 この状況を打破する手立ては自分が持っている。一発、魔法をお見舞いしてやればいい。


 ただ、黄昏の魔女だとばれた瞬間、皆はどんな顔をするんだろう。

 魔法を使えば……スカーレットは剣を向けるだろうか。クレイグは軽蔑の眼差しを、ロディは罵りの言葉を、アレクは……


 ……いや、考えたくない。


 聖法でも渡り合えるなら、まだ聖女でいたい。

 希望に、縋りたい。


 ニーナは大きく頭を振り払った。とにかく今は、アレクたちを生きて逃がすことだけを考える。



 銃火器が爆音で騒ぎ立て、もう痛いどころか役割さえ果たさなくなった耳に、

「なるほど」

 イーサーの声がはっきりと聞こえた。


 それが魔法だと知るのはニーナのみ。ニーナ以外の皆はぎょとして、銃弾の雨で見えないイーサーを睨んだ。

「……君は性懲りもなく、そいつの隣にいたいんだな」

 その言葉にニーナだけが凍りついた。


 今のイーサーの問いかけは、自分に向けたものだ。

 気のせいなんかじゃない。やっぱりあの時、目が合ってたんだ……と、ニーナの頬に汗が伝う。



 誰もが口を開かないのに痺れを切らし、

「まぁいい。君がそのつもりなら、また壊してやるさ」

 イーサーの呟きが聞こえた。


『エオロー〈神の手〉』


「ぐっ!」

 突然、アレクが呻き声を上げる。縛られたように直立したその身体は……床から浮かび上がっていた。

「兄貴!? なんだ、どうなってんだ!」

「……何かが、俺の体を掴んで!」

 激しく身を捩りながらアレクが声を荒らげる。

 しかし、いくら目を凝らしてもアレクを掴むものは見えず……何かから逃れようとひとり必死にもがく異様な光景に、三人は息を呑んだ。



「こいつの体を放り出すまで、いつつ、猶予をあげよう」

 再び、イーサーの声が響く。

「いち」

 アレクは聖域の境目へぐぃと引き寄せられた。このみ外に出されてたまるか――アレクは渾身の力で暴れるが、手も足も動かない。


「に」

 アレクの身体がまた少し、銃弾の降り注ぐ方へと引っ張られていく。

「アレク様!」

 異様な光景に立ち尽くしていたクレイグが、ようやく気を取り直して叫んだ。アレクに駆け寄り胴体を掴もうとした瞬間……見えない衝撃が正面からクレイグを弾く。

「危ない!」

 大きく後ろに飛ばされたクレイグをスカーレットが受け止め、聖域の外に放り出されるのはなんとか免れた。

 クレイグは背を支えられたまま、自分の身に起きたことを理解できず呆然とする。


「さん」

 その間にも、アレクはじわじわと弾幕に吸い寄せられていく。

「やばい!」

 ロディが血相を変えて、宙に浮くアレクの背後から抱きついた。が、ロディの馬鹿力を持ってしてもアレクの体はびくとも動かない。結局、ロディも一緒に引きずられていく。

「ばか! 離せロディ! お前まで巻き添いになる!」

「ばか言うな! 兄貴が出されちまうだろ!」

 アレクが離すよう叫ぶが、ロディはより一層掴む腕と踏ん張る足に力を込めた。


「し」

「うわっ!?」

 アレクを引く力が一気に強まり、ロディが振りほどかれた。勢い余って尻から床に転がる。


「兄貴!」

 焦りすぎて上手く立ち上がれず、ロディは四つん這いでなんとかアレクに触れようと腕を伸ばした。しかし、すんでのところで引っ張られ、掠めたのは指先だけ。


 生死の境目は……もうアレクの目と鼻の先だ。


 迫り来る確実な死を直視できず、アレクは目をつぶった。

「くそっ! こんなところで終わるなんて……嫌だ!」

 どうしようもない状況に諦められない本音が激しく口を衝いた。


「アレク!」

 ニーナが叫ぶ。

 アレクが聖域から放り出されるまで、もうほんの爪の先ほど。滝のように降りしきる砲弾に身を晒さらせば、一瞬で蜂の巣にされ、アレクだった肉塊と化す。



 ――そんなの、絶対させない!



 湧き上がる怒りから溢れだす、どろどろとした力の奔流……それは600年ぶりの、思い出したくなかった感覚。


『アイン<破壊>!』


 ニーナが叫んだ。



 弾と音を激しく撒き散らしていた兵器が一斉に爆発を起こす。地を揺るがすほどの爆音が響いたあと、あれほどうるさかった部屋は嘘のように静まり返った。


 ……アレクを掴んでいた何かも、嘘のように消える。


 急に地面に落とされたアレクは……おそるおそる目を開けた。

「……生きて……る……?」

 そして、兵器の残骸と開けた視界に呆然とする。


「どうなってん、だ、よ?」

 ずっと目を逸らさなかったはずのロディも、何が起こったのか理解できない。四つん這いのまま、ぽかんと兄を眺めていた。

「なぜ、兵器が壊れた……?」

 スカーレットは、床に落ちた異様な魔力の余韻を、警戒するように睨みつける。

「何が、起きたのです……?」

 クレイグは驚きのあまり、背を支えるスカーレットの手に体重を預けた。



 扉に一番近いニーナから四人の表情はうかがえない。見えるのは、ニーナに向けて目を見開くアドバンと、その隣で楽しげにぴゅうと口笛を鳴らすイーサーと……こわばる四つの背中だけ。



 ――ここまで、か。



 アレクの背中が動いたのだけを確かめ……ニーナは瞼を閉じた。

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