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君に深紅の花束を  作者: 小川 綾
■第三章
44/63

第四十一節 靄が晴れたあとには

 離れの扉を開けると、ふわっと胸が安らぐいい匂いが漂う。

 ディナーテーブルの上には、すでに食事の用意が整っていた。ザフィーラで頂いた饗膳よりも品数が多く豪勢なそれは、紛うことなき晩餐だ。


「はー、ようやく飯にありつける」

 ロディがテーブルを覗き込み、焼いた肉の一切れに手を伸ばして……クレイグに無言ではたかれるのは、もう食前の儀式に近い。



 料理の置かれた正方形のテーブルに椅子は六つ。

 肉をはさんでロディとニーナが対面し、ロディを見張るように隣にクレイグが……女同士と吸い寄せられるように、スカーレットがニーナの隣に座った。アレクは……何となく追いやられた気分で上座に着く。


 謁見室で自由奔放に振舞おうとも、肉に目の色を変えようとも、さすが聖女は聖女。空腹に眉を下げつつ食前の祈りは怠らないニーナに皆が合わせた。


 ロディがさっきの肉を頬張り「うめぇ!」と叫ぶやいなや飲み込む。舌鼓を打ちながら次の肉にフォークを差した……ところで手を止めた。

「しっかしさ。この国、俺たちが行っちまっても大丈夫なんか?」

「獣の心配ですか? 多分大丈夫ですよ」

 いの一番に甘く煮た芋を頬張っていたニーナは、水を飲むついでくらいの気軽さで相槌を打つ。

「夜月国の大聖女にだけ受け継がれる、『極大結界〈メロ・カグリ〉』という聖法がありまして……そもそも敵意を持った者は夜月国に入れないのです。まぁ、入ってから悪さを働く人もいますが……」

 ふと意味ありげな視線をアレクに流し、にんまりと鼻を鳴らした。

「倒せなくても『束縛〈オトム〉』で動けなくするくらいは朝飯前です。今までも昼日国から武人を借りるくらいで何とかなってました」

 確かにリアムの元には、夜月国から兵を派遣して欲しい旨の文がよく届いていた。

 力仕事と聞いていたが、なるほど。周りが女性ばかりだと不埒な輩がそれなりに出るもんだ……と考えたところで思考が止まり、思いっきりニーナを睨む。


 ひとり不貞腐れる主人を気にも留めず、クレイグは上の空でひたすらフォークを動かしていた。

「……封印の話はとても衝撃的でした。英雄だけが美談として語り継がれていますが、たくさんの人が英雄を助け、命を散らしたのでしょうね」

 せっかく綺麗に盛られた色とりどりの野菜が自分の手で荒らされていくのを、まるで他人事のように傍観している。散っていった犠牲を過敏に受け止めるのは、クレイグが彼らと同じ覚悟を持つからなのだろう。


 そんなクレイグの手元をちら見して、ロディは肉にかぶりついた。

「『鍵』のこともありがてぇよ。皇帝倒した後の魔力ってどうなるんだ、って思ってたからさ、なんかすっきりしたぜ」

 アレクは気を取り直して頷く。

「そうだな。これからの目的は『皇帝を倒して鍵を手に入れる』ことだな」

「鍵、壊れてなきゃいいんだけどさ」

 珍しくロディが軽い不安をもらした。

「それは大丈夫だと思う」

 帝国の行動は増長する一方だが、まだ最後の一線を越えていない……アレクはそう判断し、皿に乗せた焼き魚の骨を器用に外す。

「力を得たとはいえ全面的に戦争を仕掛けてないあたり、封印はまだ最後まで解けていないんだろう。十年も慎重にやってきたんだ。今焦っておじゃんにするつもりはないだろうしな」

 そして切り身を口に運ぶ前に……真っ赤なくし切りの果物を皿の上でちまちまほじくるスカーレットを見る。

「スカーレットは封印の間が帝国城のどこにあるか知っているのか?」

 種を取るのに必死だった元帝国兵は一瞬びくっとなり、すぐ澄まし顔を取り繕った。

「ああ」

「なら……そこまでの案内を頼む」

「心得た」

 スカーレットは戦いに挑むよう力強く頷くと、すぐ果物に意識を戻した。



 クレイグはようやく野菜を突くのを止め、美味しそうに魚を味わう主人に顔を向ける。

「そういえば、アレク様は皇帝と対面したことがあったのですね。帝国に渡ったことがおありで?」

 アレクは口の中でほぐれる身の旨味をしっかり楽しんでから、ゆっくり首を横に振った。

「いいや、ない。まだ父上についていた頃、一度だけ謁見に立ち会う機会があっただけだよ。帝国についても公開している情報を最低限学んだ程度さ」


 帝王学の一環で、前王の謁見に同席していた時期があった。比較的冷静な前王が謁見で声を荒らげたのは、後にも先にも皇帝の時だけだ。当時はまだ話の内容を理解できなかったが、剣呑な空気を生んだ相手の顔はしっかり脳裏に焼き付いていた。


 クレイグは先に主人と同じ魚を手元の皿に取り、それから懸念を示すようにぐっと眉をひそめる。

「皇帝との対峙がどの規模で、どのような影響がでるか予想もつきません。帝国内の現状やいざという時の退路を探っておいた方がよいのでは?」

「そうだな。最悪、住人に避難を促す必要があるかもしれない」

 従者の提案には大いに賛成だが、アレクの頭はすんなり縦に動かない。

「ただあまりにも閉鎖的で、国の内情が全く分からないんだ。街を見て歩くことができれば何か掴めるんだろうが……帝国の街の様子など風の噂ですら聞いたことがない。俺たちにとってごく当たり前のことすら、困難ということだろう?」

 その質問に答えられるただ一人は、否定とも肯定とも取り難いように頭を揺らした。

「私たちが入れるのは、観光用に開放している整えられた街だけだ。酒場に立ち寄れば一兵卒の自慢話くらいは聞けるが、それ以上は諦めろ」

 あまりにも淡々と説くスカーレットに苛立ち、クレイグは勢いよくフォークの先を突きつける。

「スカーレット、貴女は帝国の生まれなんでしょう? 自分の育った国のことくらい、もう少し知っておくべきでは?」

 クレイグは昼日国が好きだ。色々割り切れないこともあるが、自分の生まれた国は素晴らしい。そう誇りたいと、歴史や産業に至るまで日夜研鑽を欠かさない。

 なのに、ついこの間まで帝国で暮らしていたはずの女兵は、短く「さぁ」と応えただけ。


 クレイグは無関心さを責めるように、鋭い視線で射抜こうとする。

 スカーレットは根負けしてため息をついた。その半開きの口を軽く閉じ……意を決したように開く。

「……そもそも、私も、彼らも、国のことなど何も知らされない。もし知ったとて、そこに私情など存在しない。お前(クレイグ)もあまり首を突っ込まないのが身のためだ」

 そう突き返した琥珀色の瞳は、背筋が凍るほどの凄みを放った。クレイグはひゅっと言葉を呑み込む。


 気圧され黙り込んだクレイグにはっとして、スカーレットは気まずそうに俯いた。

「退路が知りたいなら、私が知る限りのことは伝える。ただし、タルダンド大陸から出るための保険は、()()()()でかけておいた方がいい」

 周りの咀嚼音に負けそうなほど小さい声でそう言うと……静かに皿の果実を口に入れた。


 ちょうど芋を食べ終えて次は何にしようと迷っていたニーナが、隣から聞こえるしゃりしゃりと小気味よい音に顔を向ける。

「なんだか帝国って、人が暮らしてるって印象が湧きませんね」

 スカーレットはぴたりと噛むのを止め、

「……百聞は一見に如かず、だ。明日、自分の目で確かめるといい」

 と、赤い果物を見つめたまま独り言のように呟いた。



「明日、かぁ」

 ロディが最後の肉を目の前に掲げ、名残惜しげに見つめている。

「帝国にも野獣っていんのかな?」

 これは多分、飯の心配だな……と皆が呆れていると、急にロディはためらいなく肉を口に押し込んで、指の代わりにフォークでニーナを指した。

「あのさ、さっきニーナが言った、なんだっけ? ほら、女王しか使えないやつ!」

「『極大結界〈メロ・カグリ〉』ですか?」

「そうそれ! それって野獣には反応しねぇのか?」

「ちゃんと拒みますよ」

 考える間もなく返しながら……ふと、ニーナはロディの質問の裏にある意図に気づく。

 この狩人、普段は何も考えていないように見えるが、戦闘における状況判断は群を抜いて的確なのだ。

「でも……子供の獣はわかりませんね。幼いと害をなす意志がないのかもしれませんし」

「子供の魔獣は?」

 そしてロディは悩む隙もなく問う。あっけらかんと答えを待つ頭すっからかんの狩人に、ニーナは遺憾と半眼の眼差しを投げた。

「……魔がついた地点で拒むって、それくらいは考えてほしいですね」


 ただ、ニーナが導きだした意図はアレクとクレイグに飛び火したようだ。

「……やはり、船の中で魔獣化した可能性が高い、ということか」

 悩ましげに眉をひそめるアレクに追従して、

「やり方が回りくどいですね。兵器であれ『魔法』であれ、あれだけのことができるのに」

 クレイグもくしゃりと顔をしかめた。


 晩餐の席らしからぬ嫌悪の表情に挟まれながら、ロディは水の入ったグラスに手を伸ばす。縁に照明の光が映り、きらっと光った。

「そういや、あの魔獣を消した光、あれも魔法ってやつか?」

「どうでしょうか。私はあくまで魔力を使った「兵器」と感じますね」

 クレイグは帝国への非難丸出しだったしかめっ面を、今度は自分の思考に沿ってしかめる。

「港で対峙した際、皇帝は「新兵器の試作」と答えていました。わざわざ新たに開発した、というのであれば……あれがないと空を飛べず、光も撃てないと捉えています」

「私もクレイグと同じ意見ですね」

 たまたまロディと同じ折にグラスを手に取ったニーナが、口につける寸前で止めた。

「あの時、燃料の補給をすると言った皇帝は、何か聞きなれない言葉を呟いてました。その瞬間、気持ち悪いほど大量の黒いもやが……皇帝が手を添えた筒の中に吸い込まれていきました」


 思い返せば、アレクは後ろで吐き気をこらえる声を聞いた気がする。皇帝も激しくむせ返っていた。その現象がどうして起きたかを知れば、今さらながら背筋に冷たいものが走る。


「法術を扱う身としてはそれが魔力を使う術、『魔法』という印象を受けますね。魔力を集める魔法、みたいな感じでしょうか……」

 話すうちに気持ち悪さが蘇ったのか、ニーナは不快そうに顔を歪め水を呷った。


 考えれば考えるほど悪寒が広がり、胃の中まで埋めていくようだ。まだ腹は満たされていないが、どうしても食事に手が伸びそうもなく……アレクはフォークを置いた。

「ニーナの言う黒いもやは……魔力だよな? そんなにたくさん、どこかしこにあるのか?」

 皇帝の一声で大量に集まってきたのなら、いま世界には一定量の魔力が漂動しているということになる。


 ニーナは答えるより先に、水のおかわりを注いですぐ口をつけた。一気に半分ほど飲んだところで、ほっと息をつく。

「港の周りに魔力がたくさんあったのは間違いないですけど、どこにでもある訳じゃないです。あの時の黒いもやは、比較的近いどこかから集まってきてました」

 アレクの心配を否定するとグラスを置き、急に神妙な面持ちで揺れる水面を睨んだ。

「……あれ()、どこかで、誰かに与えられた魔力なのかもしれません」

 そう言い及んだ途端、底気味の悪いものがまた胃から這い上がってくる。ニーナはそっと唾を呑んだ。


「どういう、ことです……?」

 クレイグが自分の頭に全くない意見を述べたニーナを覗き込めば、青い瞳は緊張をはらんで鈍く光る。

「ザインさんのことがあってから、ずっと考えてたんです。前にアレクがひとつの可能性として、『人を妬んだり憎んだりする思いが魔力になる』と話していたの、覚えてますか?」

 向かいにいる茶髪の頭が縦に往復し終えるまでを、ニーナは視線で追った。

「……体内に魔力を宿した状態で恐怖に晒されたり、苛立ったりしたら……魔力はその感情も取り込んで、内でどんどん増えるんじゃないかなって思うんです。そして皇帝は、その増えた魔力ごと奪っているのでは?」

「皇帝が野獣や人に魔力を与えているのは、増やすためだというのですか!?」

 驚きと憤りで極まった大きな声に、アレクもスカーレットも……魚の切り身を口に詰め込んだロディさえも、ぴくりと肩を震わせクレイグを見る。

「今の説明……確かに矛盾はありません! でも、それは……もし、そうであるなら……」

 唇を戦慄かせながらクレイグは必死に言葉を紡ぐが、みるみる上擦り、掠れ……短い茶髪が垂れ下がったのと同時に、途絶えてしまった。


 ライラック村では井戸水に、ザインは服用していたクスリに、予め魔力が含まれていた。

 魔力入りの井戸水を誰が、どれだけ飲んだのかはわからない。確かなのは……魔獣化したのは獣で、救いようのない絶望があの村を満たしていたことだけ。

 そして、ザイン。彼の変貌の瞬間にあったのは、狂おしいほどの恐怖と怨憎の念だろう。

 ――そのどれもが、魔力にとってこれ以上ないほど優れた温床になる。

 皇帝はその全てを予見したうえで魔力を与え、彼ら自身が破滅の引き金を引くよう仕向けたと、ニーナは言うのだ。



 理不尽で身勝手で……ぶつけたい怒りはそれぞれの胸の内に山ほど湧く。誰もが口を開いても、そのどれもが我れ先にと出たがって声にできない。

 語れずが重なれば……耐えるつもりのない沈黙が、五人にのしかかった。



「なんだよ、それ」

 口火を切ったのは、ロディだ。

「じゃあ、あの村もザインも、っていうかこれまでのこと全部! 全部、魔力を手に入れるための食いもんにされてたってことかよ!」

 やりきれなさを握りしめた拳で槌のように、小さく何度もテーブルに振り下ろす。それをじっと見るアレクも、クレイグも、ニーナも……テーブルが壊れる心配などしない。


 スカーレットだけは、どんどんと響く音に合わせてグラスの水面に広がる波紋を眺めながら、帝国で最後に受けた任務を思い出していた。

「……あの薬は、そういうことだったのか」

 発したというには微かすぎる嘆きの音吐は、隣のニーナに届いたようだ。その呟きを拾い上げるように、静かな声が続く。

「魔法が聖力と似たものなら、持つ力が多いほど使える術が増えるはずです。皇帝にとっては国も、世界も……所詮、魔力を得るための実験の場にすぎないのでしょうね」

「……知っていた。改めて、よく分かった」

 スカーレットの答えを聞き、ニーナは行き場のない悲憤を湛えた青い瞳に瞼を下ろした。


 ロディがテーブルを叩く手を止め、これでもかと強ばった顔をアレクに向ける。

「兄貴! 俺、絶対あいつぶん殴る!」

「今回ばかりはロディ様と同じ気持ちです」

 ロディの闘志を後押しするように、クレイグとニーナもアレクを見て頷いた。スカーレットは三角の眼を一層鋭く持ち上げ、琥珀色の部分だけをアレクに寄せる。

「これまでの恩を……きっちり返さなければ、な」

「……ああ。必ず、この因果を断ち切ってやる」

 アレクは瞳を決意で煌めかせ、四人の意志を力強く受け止めた。



****



 さすがのロディも食事を続ける気はなく、そのまま晩餐はお開きとなった。ただ、片付けに来た聖女に「もったいないので残りは明日の朝ご飯に……」とこっそり伝えたニーナには、脱帽せざるを得ない。


 浴室の広い主寝室を女二人に譲り、男三人は副寝室へと移った。真っ先にカラスの行水を終えたロディが二人に声を掛けると、アレクは「先に使ってくれ」とクレイグを促す。


 浴室に入っていくクレイグを見送り、

「何してんの?」

 ロディは手ぬぐいで髪を乾かしながら、備え付けの机にしがみつくアレクを覗き込む。

「リアムに文を書いてるんだ」

 弟に答えるため上体を起こしたアレクは、ついでにぐっと背筋を伸ばした。

「これまでに起きたことと……これから帝国に入るのを伝えておかないとな。タルダント大陸から出る手筈も整える必要もあるし」


 兄が最後に文を送ったのはいつか覚えていないが、大きな街に着くたび鳩を飛ばしている気はする。しかし、夜月国の入ってから……いや、首都に入ってからだけでも、かなり多くの出来事があった。

 同時進行しているロディですら目まぐるしいのに、これをまとめて報告されたら頭が爆発してしまいそうだ。

 ただでさえ反応の過剰な従兄弟はどうなるかと、容易く想像できる。

「リアム、ひっくり返りそうだな」

 ロディは大笑いしかけた口を手で塞いだ。


 アレクは楽しそうな弟に目尻を緩め……文の続きに目を向ける。

「……そうだな。リアムも……皆にも、苦労かけるな」

 楽しさから距離を置くように再び丸まったアレクの背を、

「何言ってんだよ!」

 と、ロディが思いっきり叩いた。小気味よい音とともに、アレクは机に押し倒される。

 ちょっとは加減を、とロディを振り返ろうとして、肩に乗ってきた逞しい肘に遮られた。

「俺だって英雄の魂を継いでんだ、兄貴だけの問題じゃねぇ」

 異を唱えたかった顔が自らアレクの目の前まで迫り、口を尖らせる。

「皇帝を倒したいのは俺たちも同じなんだからさ、そうやって一人で背負い込まねぇでくれよ」


「今日は妙にロディ様と気が合いますね」

 いつの間にか風呂から上がったクレイグが浴室の扉の前に立ち、その様子を眺めていた。

「私では英雄の魂を持つお二人の足元にも及びませんが……それでも、最後まで共に戦わせて下さい。ニーナも、きっとそう言いますよ」

 スカーレットは知りませんが……と付け加えたあと、従者はまるで青髪の聖女を真似るかのように優しく頬を緩める。


 それぞれの真心を耳に残し、アレクはそっと目を閉じた。

 遡るのは……昼日国城を発つ前の自分。


 ――あの時は、一人で全てを終わらせるつもりでいた。英雄の宿命に、誰も巻き込みたくなかった。

 それなのに、二人の言葉を受け入れようとする自分がいる。

 申し訳なさは爪の先ほどあるが、胸を占めるほとんどは喜びと高揚だ。自分以外の誰かと志が交わるのが、心強くてしかたない。

 背に負った皆の覚悟の重さに、少しだけ身を震わせながら……それでも、皆と歩んでこれて本当によかった。

 アレクは心からそう思う。


 熱くなった瞼をぎゅっと引き締めれば、

「……ありがとう」

 アレクの口から、とめどなく溢れる感謝の意がもれた。

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