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星神の箱庭世界  作者: 藍々瀬。
閑話:竜災
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閑話『竜災②』

 鮮烈な開幕戦となった竜災本番ではあるが、しかし空を埋め尽くす竜の群れは一向に減る様子を見せず。

 大量撃墜によりなんとかジリ貧からは抜け出し、城壁やマナポーションなどの備蓄に回せる余裕が、少し生まれたのは確かに成果ではあるがしかし、時間が経てばまたジリ貧に持ち込まれることは必然。

 故にカナタは、さらなる“押し”によって、戦況の大逆転を図ることとした。


 北第三城壁、城門の左右に建つ尖塔。

 上部が開き、昇降可能な作りになっているそれは、砲塔であり。

 そして決して壊れることのない、無敵の自律式固定砲台だ。


『自律式対空砲一番二番、起動します!』


 生産職が戦うために生み出した、研究会の偉大な発明がひとつ。

 ゴーレムから着想を得たそれは、しかしゴーレムのように移動することはなく、こなす役割は対空砲撃の一点のみ。

 しかし役割が固定されたことによって、複雑な回路を組む必要がなくなり、“今も本陣内にて増産が続く”対空砲の強みは、その数と空中の竜の撃墜にあり。


 第三城壁以内全ての城門に配置されたそれを全て起動するのは、今も空中戦を続けるノゾミが木偶の坊と化す可能性を考慮し控えるとしても、たった二機を起動するだけでもその効果は計り知れず。


 デバフ付与に特化した、攻撃力を持たない代わりに超強力な麻痺効果を与える砲弾は、五発も打ち込めばたちまち竜を地に堕とし、空襲による被害を減らしていく。


 そしてもう一つ、特記戦力ががひとつ。


「行ってきます!」


 城門から飛び出す直前の“第五師団”の指揮を務める父親に出撃を告げ、次の瞬間言葉も待たずに空へと飛び出すのは、どこか楽しそうに笑みを浮かべるアニアの姿。

 いわば戦争にも近しいものであるというのに、しかして笑顔絶やさず戦場に愛嬌と光を振り撒くのは、夜空に輝く流れ星。


 ノゾミとはまた違う意味で輝くアニアの姿は、みるみる加速を続けていき、そして竜の群れに到達した瞬間、赤い花火となって夜空を彩った。

 コンマ以下の瞬く間にして、撃墜数は12オーバー。


 最初から全力全開で解き放ったオーバードライブを乗せての微塵斬りは、星位に差はあれど、さして労することもなく。

 ステータスは未熟も未熟なれど、超常の技術によって高められた“素”によって繰り出される高火力超速の連撃を以てすれば、遥か格上を瞬殺することも容易なりて。

 空に咲く花は未だ輝きを増し、そして竜は次々地に堕ちて。


 わずか40秒の無双で帰還したアニアを受け止めたのも、これまた父親であるローガンの腕であった。


「アニアお前、だいぶ無茶したな?」


「へへー……でも、これでだいぶ活躍できたんじゃない?」


 悠久とも思えるであろう40秒を、ひたすらドラゴンの撃破に費やし続けたアニアは、すでに限界も限界。

 本人も周りも知る由もないが、実にアニアが過ごした40秒は、体感として1時間を超えるほどの時間である。

 いくら回復が比較的他のプレイヤーよりも早いアニアの脳とVDG機体とは言え、しかし脳が受けた数十秒に圧縮された1時間オーバーの情報を処理し再び動き出すまでには、しばらくの時間を要するという物。


 にへらと笑い、アニアはぐてりと腕の中で力を抜く。

『私すごかった?』など、ロールプレイなのか本心なのか、おそらくローガンの予想では本心である事を呟きながら見上げる、褒めて褒めてと無邪気に笑うかのような顔を見て、どこかで本当に娘のように思っているローガンが、湧いた言葉を飲み込むはずもなく。


「ああ自慢の娘だよ。だからちょっと、休んできな」


 正真正銘全力を初手から解放したアニアの脳はすでに、アバター制御の尽くに支障をきたすレベルでの疲労を抱えており、休憩なしにまともに動けるとは到底思えない。

 次々に札を切って、それを再装填するまでの時間を稼ぐのは、ローガン含む一般の仕事。

 幸いアニアとノゾミが作り出した疎が、密になるまではかなりの猶予。


 込められたマナも十分たる対空砲もあるとなれば、そして今も空中でヘイトを買っているノゾミがいるとなれば、地上で少数の竜を叩くだけなら余裕とまではいかなくとも随分と楽になったと言えるだろう。

 ローテーション方式で出撃を繰り返す地上戦部隊──そもそも空中戦“部隊”は存在しないが──だけでも、今なら被害も少なく出ていける。


 デスペナは無いとはいえ、死亡する感覚はできれば味わいたく無いものであり、死ににくい職場に配属された点で言えば、幸運だったと言えるだろう。

 それにロールガチ勢ともなれば、再誕が無条件というのも少し歯がゆい部分である。

 そういった意味でも、あまり死にたいとは思えない。


『娘を寝かせてやれ』との言葉──別に戦場で立派に戦った娘が死んだとか、そんな雰囲気で発せられた言葉ではない──を受けたローガンが向かった本陣では、カナタより暇を出された考察勢。

 おそらく周囲に展開しているシステムウィンドウだろう虚空を、一喜一憂情報をまとめながら食い入るように見つめる彼らのそばは、この戦場において比較的静かな場所であり、アニアを休憩させるにはもってこいの場所だ。


 そんな大活躍の娘を寝かせようとしているのを発見した、ひとりのプレイヤーがこちらに歩いてくるのは、はたしてどうした思惑か。

 腕の中で眠るアニアを一目見て、そして彼がつぶやいた言葉は賞賛の一言。

 そして続いた言葉と仕草は、こちらの求めるものを把握しているかのようなもので。


「研究会の方々が作った、現状最高品質の物です。どうぞ、存分に休憩させてあげてください」


 この戦場を観察し、十分に指揮能力があると判断されている考察勢にとって、神技についての知識はすでに常識の範囲内。

 現状のプレイヤー的に考えて、制御不可能極まりない速度域での大量撃破を目の前で眠る少女がこなしたとあれば、行き着く答えは必然それになる。


 脳への負荷が大きいプレイヤーもといキャラクターが、しっかりと休憩を取れるようにと設置された最高級ベッドを開けておいたのは、もちろんブレインの回復のためでもあるのだが、第一はまさしく特記戦力の再出撃に備えてである。


「ありがとう。できればたまに様子を見てやってくれ」


「ええ、また“推し”が増えましてね。推しは大事にしないといけませんから」


 そうして寝かしたアニアを背に、ローガンは戦場へと戻っていく。

 デビュー初っ端から大太刀持って大立ち回りを成してみせた娘にふさわしく在れるよう、ひとつ気合いを入れたローガンが放つは、ここ北第四城壁に集うプレイヤー部隊への激励。


 剣を抜き放ち天へと掲げるローガンが語るのは、ただ勝利後の未来。

 すぐ後ろでヒュンヒュンと魔力の弾が飛んでいく音を聞きながら、にやりとローガンは笑みを浮かべる。

 一歩間違えれば死亡フラグだろうそれを、しかし絶対にそうではないと心に刻み込むような声色で、冒険者風の装備に身を包んだ男は言い放った。


「お前ら!!戦勝会は竜の肉で派手に行こうやァ!!!!」


 倣って自らの獲物を掲げ声を上げるノリのいいプレイヤー達を傍目に、前を向いたローガンは一言告げる。


「第五師団、出撃!!!」


 現実時間で5月6日午前10時37分。

 機動力を捨て、硬さと力強さに特化した別名“主力軍”たる、ローガン率いる第五師団。


 特別にローテーションが“存在しない”戦場常在の軍が、レオール平原に飛び出した。

『レンブレン防衛軍:第五師団』

剣士職であり、さらにSTRまたはVITにステータスが傾いていて、なおかつ長時間連続ログインできるプレイヤーによって固められた精鋭たち

長時間ログインに耐えるスタミナが必要ということもあり、フルダイブVR歴の長いプレイヤーが多く、もっともプレイヤーの実力の平均値が高い

攻略組の面々も、大体はここに配属された

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