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12:逆転の策(2)


「で?具体的にはどうすれば良いんですか?一応同級生の顔と名前は頭に叩き込んでますけど、漏れなく全員アンネリーゼ様の信奉者でしたが?」


 エルーシアは入学してから今まで、誰か味方になってくれそうな人はいないかと同級生を注意深く観察したが、結局は程度の違いはあれども誰も彼もがアンネリーゼに傾倒していた。例外はない。


「私が見る限りでは、アンネリーゼ・ヘッセンバイツはまるで新興宗教の教祖様です。バーティミア聖教会本部に訴えれば、彼女を神の領域に手を出した異端者として裁判にかけることができそうなくらい、異常なほどに皆が傾倒しています」

「教祖か、言い得て妙だな。しかし、全員が全員、アンネリーゼに傾倒しているわけではない。立場の弱い下位貴族の令嬢なんかは特に、アンネリーゼを慕う()()をしている者も多い」

「フリ……」

「ああ。下位貴族の令嬢が社交界でも影響力を持つアンネリーゼを敵視することは社会的な死を意味する。目をつけられた令嬢はまともな結婚なんて出来なくなるという噂もある」

「こっわ……」

「まあ、彼女たちにとって結婚できないということは、家のためにも本人のためにも死活問題だからなぁ」

「へえ、そうなんですねぇ」


 平民にはわからないことだが、お貴族様にはお貴族様なりの苦労があるらしい。

 エルーシアは貴族は全員もれなく悪なのだと、勝手に思い込んで嫌悪していたことを反省した。


「お貴族様も苦労しているんですね。ちょっと偏見を持ちすぎていたかも。反省します」

「君は素直だな。よろしい」

「どうも」

「でも本当に貴族の婚約って結構大事なんだ。そんな中、アンネリーゼは一人で多くの男を虜にしている。どういうことかわかるか?」

「何となく」

「まだ誰とも婚約していない男は、まあいいよ。でも中には婚約者がいるのにアンネリーゼに傾倒している奴もいる。そしてそんな浮気男の中には自分の婚約者とアンネリーゼと比べるような発言する馬鹿も多くてな」

「なるほど、鬱憤を募らせているご令嬢も少なくはないと」

「そついうことだ。けれど、令嬢たちは全員もれなくアンネリーゼよりも身分が低いからな。みんな一矢報いてやりたいと思っているのに、表立っては動けない」

「要するに、私が彼女たちの隠れ蓑になってあげれば良いのですね?」

「そういうことだ。ま、愚かなマリオネットにならぬよう、令嬢たちに主導権を握らせないように気をつける必要はあるがな」


 あくまでもアンネリーゼと表立って対立するのがエルーシア本人であるならば、きっと令嬢たちは彼女を盾にアンネリーゼに牙を向くことを選ぶだろう。

 一見、裏切りの可能性が高い危険な賭けにも思えるが、アンネリーゼを嫌う令嬢の中には侯爵家の娘もいると聞く。何も持たないエルーシアにとってアンネリーゼと対抗できる後ろ盾を得るにこれしかない。


「令嬢たちの傀儡になることなく、彼女たちの力を最大限利用するためには並大抵の精神力では持たないだろうが、その点は大丈夫だろう。君は肝が据わっているからな」

「それ、褒めてます?」

「一応。とりあえず、作戦は僕が練る。君は僕の言う通りに立ち回り、うまく令嬢たちをたらし込め」

「たらし込めって……」


 そんなこと、本当にできるのだろうか。ライカの提案は不安しかない。けれど、エルーシアにはこの提案に乗る以外に道はないわけで。

 エルーシアは頑張りますと自信なさげに小さく呟いた。



 ***


 ライカに色々と話を聞いたエルーシアが地下を出ると、空は朱く染まっていた。どうりでお腹が空くわけだ。


「やばい。早く帰らないとお夕飯を食べ損ねちゃう」

 

 貴族の子息子女に合わせて作られている学園のご飯は絶品ばかり。食事はエルーシアの魔法学園での唯一の楽しみだ。

 だから彼女はライカの手を引いて、走り出した。

 

「ほら、先輩。急ぎますよ!」

「嫌だ。やめろ。走りたくない。そんなに早く食べたいなら、一人で先に行けよ」

「え!?今日のお夕飯は子羊のステーキですよ!?早くしないとなくなりますよ!?」

「ちゃんと人数分あるから無くならないし、そもそも別にステーキくらい、いつでも食べられる」

「うわぁ……、何それ嫌味ですか?」

「事実を言っただけだろうが」

「事実ですって!?いやだわー、これだから貴族は。毎日毎日、さぞ贅沢をしていらっしゃるのでしょうねー?あー、やだやだ」

「なんとでも言え。それより、新入生」

「なんですか?」

「入学式の時に渡したお守りを貸してくれないか?」

「あ、これですか?」


 子羊のステーキ目指して駆けていたエルーシアは、ピタリと足を止めて首から下げていたペンダントを取り出した。


「このお守り、何から守ってくれる予定だったんですか?今のところ、全然何からも守られていないんですが」

「冤罪から君を守るものだよ。……うん、大丈夫そうだな」


 エルーシアの首にぶら下がるペンダントをまじまじと見つめ、ライカは納得したように頷いた。

 エルーシアにはそれが何を意味するのかわからない。


「今日は時間が遅いし、これについてはまた今度話す」

「はあ、わかりました」

「とりあえず、しばらくは身につけておいてくれ」

「了解です?」


 なんだかよくわからないと首を傾げるエルーシア。

 けれど寮の調理室から香るステーキの匂いが早くしろと急かすので、この変なお守りについてはまた今度とすることにした。


「ほら!先輩、走る!」

「いや、だから僕は走りたくないんだってば!」


 走りたくないと言いつつ、何故かこの手が懐かしく感じて振り解けないライカ。

 結局、彼はエルーシアに手を引かれ、されるがまま連行された。


 本当にこの小娘といると疲れる。だけど、


(……悪くない気分だ)


 ライカは懐かしいものを見るような目で、前を行く彼女の姿を見つめた。

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