90:婚約の証に。
スイーツを満喫した後、ドリンクを手に中庭に出た。
用意されていたスイーツは、どれも絶品だった。宮殿の一流の調理人が作ったものであり、ブルンデルクではまだ見たことがないようなお菓子も、用意されていた。お菓子だけではない。舞踏会に参加している女性達のドレスには、斬新なデザインなものや、日本の着物を思わせる生地を使ったものも、見受けられた。そう考えると、王都は流行の最先端をいっている。やっぱり王都はすごいなと思ってしまう。
「今日は風もなく、穏やかで、気持ちがいい夜だね」
クリスの言う通り、今日は日中の穏やかな気温そのままで、夜になっても肌寒さはなかった。
それにしても。
夜空を見上げるクリスの横顔は……。
涙が出そうなほど美しい。
月光を受けキラキラと輝くアイスシルバー色のサラサラの髪。
月明りで煌めくライラック色の瞳。
横顔だからこそ際立つ高い鼻。
夜の柔らかい光に浮かぶ白磁のような艶のある肌。
本当に、本当に、本当に。
この世の物とは思えない美しさ。
瞳と同じ色のテールコートも、痺れるほどよく似合っている。
「ニーナ、そこのベンチに座ろうか」
こちらを向いて微笑むクリスは……。
史上最高の優美な顔をしている。
思わず呼吸を忘れ、慌てて空気を吸い込む。
「どうしたの、ニーナ?」
不思議そうな顔をしたクリスに手をひかれ、「な、なんでもないわ」と必死にバクバクする心臓を落ち着かせる。何もしていないし、されていない。ただ、クリスを眺めているだけでこの状態。
落ち着け、私。
落ち着け、自分。
なんとか、呼吸の乱れを静め、中庭のベンチに腰を下ろす。
すると。
「ニーナは明日、ブルンデルクへ向け出発だよね」
その言葉に。
悲しい現実を思い出す。
そう、そうなのだ。
明日になれば、王都を離れなければならない。
「そんな悲しい顔をしないで、ニーナ」
すっと頬にクリスの指が触れ、落ち着かせたはずの心臓がビクリと反応する。
「ニーナに、今のうちに渡しておきたいものがある」
そう言ってクリスが、テールコートの内ポケットから取り出した小箱には……。
指輪が入っていた。
それを目にした瞬間。
悲しいという気持ちは、吹き飛んでいた。
心臓はときめき、ドキドキしている。
クリスは私の前に移動し、片膝を地面について跪いた。そしてライラック色の宝石と、ダイヤモンドが輝く指輪を、箱から取り出した。
「ニーナ、愛しているよ。婚約の証に。受け取って欲しい」
「クリス……!」
喜びで涙がこぼれてしまう。
クリスの前では私、泣いてばかりだ。
「ニーナ、笑顔、笑顔」
その言葉でなんとか涙をこらえ、指に指輪をはめてもらう。
サイズもピッタリで、いつの間に用意してくれたのかと、再び感動する。
左手の薬指に完璧におさまった指輪に、「ニーナと僕の婚約の証」と言ってクリスは、静かに口づけをする。
その動作の優雅なこと……!
今、目の前で起きていることなのに。
まるで映画のワンシーンを見ているようだ。
神々しく、深淵で、とても現実のこととは思えない。
でもじわじわと喜びがこみ上げ……。
「ありがとう、クリス!」
立ち上がったクリスに抱きついたところ。
「よお、ニーナ。クリス、婚約、おめでとう」
白シャツにタイ、黒のテールコートに黒いズボン、そして黒革のロングブーツという、オーソドックスな正装スタイルのウィルが、こちらへと歩いてきた。
「ウィル、お前、いつからそこに!?」
「いやあ、いいものを見せてもらったよ。本当はそのままキスでもすると思ったのに」
私が顔を赤くすると、クリスがウィルに、さらに抗議する。
「ウィル、のぞきなんて悪趣味だぞ」
「違う、違う。夜風にあたりにきただけだよ。なあ、ジェラルド」
ウィルにふられたジェラルドは、今日も筆頭魔法騎士にだけ許されている白の軍服姿だ。
相変わらずこの姿のジェラルドは美しい。
ちなみにアンジェラとの戦闘でスコルピオンを倒したジェラルドの白の軍服は、もちろん汚れることはなかった。私が連れ去られた後も、ウィルと共に残りのアンジェラが召喚した霊獣を、白の軍服を汚すことなく、倒したと聞いている。
「ウィリアムさまと中庭で少し休憩をと、出てきたところでした。まさかクリストファー殿がプロポーズされていると思わず、驚きましたが……。でもいいものですね。自分もそんな指輪を贈るような相手が欲しくなりましたよ」
「ジェラルドならすぐ相手が見つかると思いますが」
私の言葉にジェラルドは苦笑する。
「そうだとよいのですが」
「でもこんなところにいては、見つかる相手も見つからないかもしれません」
「そうだ。ニーナの言う通りだよ。ウィルもジェラルドもホールへ戻ろう。ニーナ、僕とダンスを踊ってくれるかい?」
「もちろん」
ホールに戻り、クリスとダンスをしていると……。
ウィルとジェラルドは早速、令嬢たちに取り囲まれている。
そんな様子を見ながら、クリスとのダンスを終えた時。
フランシス王太子の姿が見えた。そのそばにはグレッグもいる。
そして。
心臓が大きく跳ね上がる。
この後、もう1話、公開します!
準備出来次第、公開します。11時半までに公開します!
昨日に続き来訪いただけた方。
いつも本当にありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も
ありがとうございます!!