9:私の体はハンサム男子に受け止められた
突然、距離を縮めてきたアンソニーが、翌朝からどう出てくるか心配したが……。
拍子抜けするほど、いつも通りだった。
ジェシカ、アンソニー、私の三人は、コンカドール魔術学園の制服を着て、朝食をとり、いつもの時間に家を出た。馬車に乗り、学校へ向かう道中で話すことは、授業の話や魔法についてだ。
本当は、『ネモフィラの花畑の約束』について、アンソニーに聞きたい気持ちもあった。
でもそれを話すと昨晩のことを思い出し、アンソニーがまた突然おかしな行動をとる可能性もある。それでなくとも、これから学校に行けば、そこにはウィリアムがいる。
ウィリアムがいることだけでも、ものすごいプレッシャーなのに、さらにアンソニーのことまで考えるのは無理だ。だから、『ネモフィラの花畑の約束』の件は気になりはするが、放置することにした。
そしていつもの時間に学校に到着したのだが……。
馬車を降りた私は、降りた瞬間に回れ右をして家に帰りたくなっていた。
正門にできている人だかり。
こんなもの見たことがない。
アンソニーは、ここブルンデルクにおいては、王都の王太子のような存在。だから朝の登校にあわせ、彼を慕う女生徒が正門で待ち受けているのは、日常茶飯事。でも今見える正門の人だかりは、男女問わずで、しかもとんでもない数だ。
これはアンソニー待ちをする人だかりではない。
間違いない。
いる。ここに。ウィリアムが!!
「アンソニーさま、おはようございます!」
例えウィリアムがいても、アンソニー命の親衛隊はいて、正門に第二の人だかりができ始めた。
「ジェシカ、私、東門から行くわ」
「え、そうなの!? ウィリアムさまを見なくてもいいの?」
「ええ。私はいいの。ジェシカはたっぷり堪能してください」
それだけ言うと、私はダッシュで東門へ向かう。
コンカドール魔術学園は、ブルンデルクに住む貴族の中でも、エリートと言われる上流貴族のご子息ご息女が通っている。皆さま学園には、多額の寄付をしている(節税になるから)。ゆえに学園は、通常では考えられない敷地面積を誇っている。
生徒の総数は3学年合計で300名しかいないのに、1000名が収容できるドームやスタジアムがあったり、庭園だけでも驚くことなかれ、800ヘクタールもある。
だから。
正門以外の門へ移動するだけでも一苦労なのだ。
ちなみに、コンカドール魔術学園の制服はとても可愛らしい。
女子はピンクと黒のチェック柄のハイウエストのジャンパースカートで、白いブラウスに衿元に黒いリボン。その上に春はピンクのケープ、秋は黒のボレロ、冬はボレロの上にピンクのロングケープを身に着ける。
今は春なので、ピンクのケープを羽織っている。
この姿で、にこやかに登校する姿は。まさに良家のご息女に見える。
だがしかし。
今、私はこの愛らしい制服姿で、全力疾走しながら東門へ向かっている。
すれ違う車、馬車、人が目を丸くしているが、気にしている場合ではない。
遅刻をしない。そのために一切の視線を無視して、ダッシュする。
こんな時。
魔力が強ければと思う。
風魔法を使えれば、風の抵抗を抑え、かつ足裏に風の力を与えることで、まるでスケートしているように地面を滑ることもできる。
そう思ったまさにその時。
スイスイとスケートするがごとくの速さで、私を追い抜く男子の姿が見えた。
その後ろ姿を見ると、紺のブレザーに水色と黒のチェック柄のセンタープレスされたズボンをはいている。つまりコンカドール魔術学園の制服を着る男子生徒だ。
どうやら彼もまた、東門に向かっているらしい。
と、思ったが、立ち止まった。
そして振り返った。
ブロンドベージュのサラサラの髪に、オパールグリーンの瞳。
よく日焼けした肌に、精悍な顔つきをしている。
キリッとした眉、血色のいい唇。
胸板も厚そうだが、身長があるので、引き締まって見える。
すごいハンサムだ。こんな人、うちの学園にいた?
そんなことを思いながら思わずガン見してしまい、慌てて視線を逸らす。
淑女たるもの、男子のことをあからさまに見てはならない。
そう思ったのだが。
「君、なぜ魔法を使わない?」
すぐそばを通り過ぎようとした瞬間、声をかけられた。
耳通りのいい声をしている。
「え、そ、それは魔力が弱くて……」
少し速度を落としながらそう答えると、ハンサム男子が並走してついてきた。
「魔力が弱い? 本当に?」
ハンサム男子が目を細めたその瞬間。
オパールグリーンの瞳がキラリと輝いた。
それはもう、まるで本物の宝石のような輝き。
驚いて、走る速度がぐんと落ちる。
「え、今、目が!?」
「君がどんな状態か確認させてもらった。何ていうか、君、すごいことになっているね」
「!?」
「君は、本当は魔力が強いはずだ。でもそれが抑えられている。しかも瞳も厄介なことになっている」
そこまで話したハンサム男子が、私の腕を掴む。
突然、腕を掴まれ、緩い速度ながら走っていた私は、つんのめって倒れそうになる。
だがその体は、ハンサム男子に受け止められた。
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次回は「えええええええええええ。」を公開します。
とんでもない事態に直面する予定ですw
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