89:推しが私の言葉に顔を赤くしている……!
クリスが私をエスコートし、舞踏会の会場へ入ると……。
沢山の招待客から声をかけられ、そして私のことを皆に婚約者だと紹介してくれた。
クリスはこの宮殿において、『奇跡の子』としてではなく、大魔法使い見習いとして、多くの人に知られているようだった。クリスが『奇跡の子』であることは、やはり国にとっての機密事項のようだ。王宮でクリスが育てられたのも、大魔法使い見習いだからだと、みんな認識していた。
そしてしばらくクリスが不在だったのは、四聖獣の召喚に必要なクリスタル探しの旅に出ていた。さらにはそこで婚約者まで見つけてきた――ということを、国王陛下が舞踏会の開会のセレモニーの時に、発表していた。
まさか黒い森で銀狼の姿で囚われていたとは、誰も思っていない。
さらに話しかけてくれる人物に軍服姿が多いと思ったら……。
クリスは小等部までは魔法を教える学校に通っていたが、中等部からは騎士養成学校に在籍していた。魔法に関しては完璧だったので、武術を磨きたいという本人の意向だったらしい。
騎士養成学校は5年制。卒業後は、魔法騎士や騎士になるのが通常。
でもクリスは国王陛下からの要請で、18歳になり成人となったら、大魔法使いになるよう言われていたというわけだ。
次期大魔法使いという立場であるのに、軍服姿を何度か目撃し、なぜだろうと思っていたが……。その謎が、思いがけず解けた感じだ。
というか、大魔法使いは魔力がとにかく優れているから就ける地位で、そこに武術までは求められていない。大魔法使いには及ばないが、魔力と武術を求められるのは魔法騎士であり、その頂点が筆頭魔法騎士である。
だがクリスは『奇跡の子』であり、騎士として武術も磨いたわけだから……。
大魔法使い騎士というとんでもなく優秀な人材に成長したのでは!?
私は隣でにこやかに談笑するクリスを眺め、しみじみと感動してしまう。本当にこんなすごい人物と私、婚約をしたのかと。
「ニーナ、どうかしたかい? あ、こんなに大勢と会って、少し疲れたかな? 休憩をしようか? 僕も丁度、話し過ぎて喉が渇いたところだからね」
気遣いも完璧。これで私にゾッコンなんて……。
アンジェラに殺されると思い、怖い思いもしたが、ホント、生きていて良かった。
「なんだか嬉しそうだね、ニーナ」
「クリスと一緒なのが幸せ過ぎて」
「ニーナ……」
推しが私の言葉に、顔を赤くしている……!
こ、これは……堪りません!!
頬を赤くするクリスに連れられ、ホールを出て、軽食やドリンクが用意されている部屋に行くと。
「あ、お師匠さま」
クリスの声に、これぞ魔法使いという風貌の老人が振りかえった。
とんがり帽子に紺色のローブ、真っ白な長い髪に豊かな髭。丸眼鏡につぶらなグレーの瞳で、優しそうな表情をしている。
クリスが嬉しそうに私のことを紹介すると、大魔法使いレナード・メイズも満面の笑みになった。
「ニーナ殿、クリストファーは赤ん坊の頃、家族から離され、以後ずっとこの王宮で育ちました。その結果、彼にとっての肉親ともいえる者は、このわししかいませんでした。でもあなたと出会い、クリストファーはかけがえのない伴侶を得ることできた。どうか彼を愛し、支え、共に生きてやってくだされ」
「もちろんです!」
「なんとも威勢のいいお嬢さんだ。四聖獣の召喚に必要なクリスタルの場所も、あなたが予知夢で見たと、クリストファーから聞いています。カロランの剣も、よろしく頼みましたよ」
「師匠、その件は」
「おお、そうじゃった。いやいや、普段は舞踏会には顔を出さないのだが、クリストファーが婚約者を連れて来るというから、うっかり顔を出したが……。人が多くて、疲れてしまった。老人はこの辺りで休ませてもらうよ。それではニーナ殿、また会いましょう」
大魔法使いメイズは右手を左胸にあて、深々とお辞儀すると部屋を出て行った。
「ねえ、クリス、カロランの剣って」
「ニーナ、見てご覧、この苺のタルト、とても美味しそうだよ」
「!! 本当。その隣の苺のゼリーもキラキラして綺麗」
「よし。ニーナの食べたいスイーツを、全部食べよう」
クリスの夢のような提案を快諾し、しばらくは二人でスイーツを楽しんだ。
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次回のタイトルは明日の更新で明らかに☆
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