83:セスのファンなのでは?
馬車が出発すると、セスは嬉しそうに、ユーリアについて話しだした。
どうやら一度、私がユーリアについて尋ねたことで、セスは私がユーリアに興味があるのだと理解した。そして頼んだわけではないのだが、その後も彼女について、いろいろ調べてくれたようだ。セスは、探偵並の調査能力がある。それは……私をストーカーすることで、身につけたスキルであるのだが。結果的に、かなり踏み込んだ情報を収集していた。
きっと次に私とゆっくり話す機会があれば、報告したいと思っていたのだろう。滔々と、ユーリアについて話している。
その話によると、ユーリアは最初、ウィルと同じクラスで、二人はとても仲が良かったという。そしてウィルを通じてフランシス王太子とも話すようになった。フランシス王太子と筆頭公爵家の嫡男グレッグは、クラスメイトだった。だからユーリアは、グレッグともすぐに仲良くなる。
こうしてヒロインであるユーリアを中心に、ウィル、フランシス、グレッグの四人は、共に学園生活を送るようになる。
ユーリアはどうやらウィルと王太子の間で揺れ動き、グレッグには恋のアドバイスをしてもらっていたようだ。その一方で、「同い年のお子ちゃまな王子より、年上の筆頭魔法騎士のジェラルドのような男性がタイプ」と口にすることも、多々あったとか。
ウィルが転校すると、ユーリアは「遠距離恋愛なんて無理よね」と、周囲に明かしたという。そして王太子との婚約話が浮上し、それはまさに秒読みと思われたが……。なぜかその流れは停滞する。代わりにユーリアは、途端にグレッグと親密になったという。
「ユーリアは、『遠距離は無理』と言っていましたが、やはりウィリアム第三王子のことが好きだった可能性も考えられます。そしてウィリアム第三王子が、王都に戻るかもしれないという噂も一時流れたので、王太子との婚約を保留にしたとも考えられますよね? それに、王太子には『恋多き王太子』という呼び名もあるぐらい、モテますし、本人もまんざらではないので。双方共に、婚約に踏み切れない……とも考えられます。そしてこの悩みを、筆頭公爵家のグレッグに相談することで、ユーリアは彼ともいい雰囲気になった、とも考えられるわけで。あ、あと、これは特ダネですよ、ニーナお姉様。これを調べるのは……大変だったのですから」
セスはそこで瞳を、怪しくキラリと輝かせる。
どんなストーカースキルを発揮したのかと、背中に汗が伝う。
「実は、あの筆頭魔法騎士のジェラルドに、ユーリアは告白していたそうです。2年生の時、芸術祭で出会った際に、告白をした。でも、ジェラルドはお断りしたと。既にウィルや王太子と仲が良いことを知っていたジェラルドは、身の程をわきまえたのでしょうね」
そうだったのか。
でも、ジェラルドが断るのは……当然に思えた。
「ユーリアは、ウィリアム第三王子や王太子、グレッグ以外にも、ざっと十三人ぐらいの男子生徒からも、告白されています。その全員に対し、明確にお断りせず、宙ぶらりんにしているようで。そんなユーリアに対し、ジェラルドは王道の騎士道を行く、清廉潔白な性格ですからね。そもそも合わないと思います。そういう意味では、王太子とユーリアであれば、お互いにフラフラしているので、丁度いいように思えますけどね。共に浮気も容認しあい、上手くやっていきそうです」
セスの話を聞く限り、ユーリアもまた、私の知るマジパラのヒロイン像とは、かけ離れている気がする。誰を攻略するか決めた後は、猪突猛進でアタックするのが、ユーリアのはずなのに。これにはもう、驚くしかない。
王太子とゴールイン間近なのに、急にグレッグと親密になるのも……なんだか浮ついて、フラフラしていると感じる。ホント、ユーリアらしくない。
でもまあ、マジパラの登場人物がキャラ変しているのは、なにもユーリアに限ったことではない。そんなものかと、納得することにした。ユーリアについて聞いているうちに、正門近くに到着した。
すると、セスと私の乗る馬車を見た女生徒が足を止め、こちらを見ている。
その数、ざっと十人以上はいる。
何事かと思い、セスに尋ねると……。
「なぜ彼女達が毎朝のように、馬車から降りるボクを出迎えるのか、分からないのですよ」
「毎朝!? そ、それって……、セスのファンなのでは?」
「まさか。ボクにファンなんて、あり得ないですよ。それにボクはニーナお姉様が……、いえ、ともかく行ってきます」
セスが馬車から降りると……。
セスの周りに少女達が群がる。
どう考えても、あれはセスのファンで間違いない。
セスは、姉である私が見ても、美少年と思える姿に変貌を遂げていた。
今、弟はモテ期にある。
私のことなど忘れ、青春を謳歌しろ!
そう念をこめ、正門へと歩いて行く弟の後ろ姿を見送った。
まさにその時。
何やら女性の悲鳴が聞こえてくる。
マジパラあるある。
攻略対象者が登校すると、女子の悲鳴が響き渡る。
もしやフランシス王太子?
それならさっさと引き上げよう。
そう思ったら……。
馬車がノックされた。
セスが忘れ物でもして戻ってきたかと思ったが、セスが降りた方とは逆の扉がノックされている。
窓から様子を窺うと……。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「さすが、王都。マジパラの本拠地」を公開します。
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