81:甘々なのは、私にとってはご褒美
「ニーナ」
「は、はいっ」
フランシスの後ろ姿をガン見していたところで、急にクリスに名前を呼ばれ、少しギクッとしながら返事をすると。
「フランシス王太子は、あの容姿だ。ニーナがつい見入ってしまうのは……仕方ないかもしれない。でも」
背伸びして、思わずクリスの頬を、両手で包んでいた。
「ごめんなさい、クリス。その、王太子の姿は予知夢で見たことがあったの。でも現実で見るのは、これが初めてで。あまりにも予知夢と同じ姿だったから、じっくり見てしまったわ。それと確かに、女性の目をひく容姿をしていらっしゃると思う。でも私の中の一番は、クリスだから。それは絶対に、変わらないから」
「ニーナ」
掠れるような声で私の名を呼ぶと、クリスは私の手をゆっくりつかんだ。そしてそのまま顔を近づけ……手首にキスをした。
手首へのキスなんて初めてで、私は目を大きく見開き、息を飲む。対するクリスは、逆に大きく息をはいた。
「フランシス王太子はあの容貌に加え、身分が身分だから、言い寄られることも多い。婚約者はユーリアという女性に決めたと、本人は言っているが……。実はまだ父親である国王陛下には、話をしていない。表立って言う者はいないけど、恋多き王太子というのが、暗黙の了解になっている。特に誰かが大切にしている女性に、横やりを入れることを楽しむとか。だから気が気じゃなかったけど、ニーナの気持ちを聞けて、安心したよ」
「そ、そうなの……?」
私の知るマジパラのフランシスとは、真逆だ。
フランシスと言えば、真面目で一途、ヒロインのことしか見えない……まさに今のクリスのような性格だったはずなのに。
見た目は……見慣れたフランシスそのものだ。でも性格は違う。
とはいえ、違うといえば……。
ウィルに至っては、見た目も性格も、かなり違っていたわけで……。
マジパラがベースの、別世界になりつつあるのだろうか。
「ニーナ。明日の舞踏会は、僕と一緒に行こう。ニーナの屋敷まで、迎えに行くから」
「え!? クリスは王宮にいるのに、私の屋敷までわざわざ来るの……?」
「ニーナがいるなら、どこだって行くよ」
冷静に考えれば、マジパラのクリスって、こんなに甘い性格だったっけ!?
まあ、クリスが甘々なのは、私にとってはご褒美。むしろ、大歓迎!
「分かったわ。クリス、迎えにきて」
「もちろん。……そろそろ屋敷に送るよ、ニーナ。帰りに揚げないドーナツのお店に寄ってみよう」
「……! 本当に! 予知夢で見た時から気になっていたの」
「そうだろうと思ったからね」
クリスは私と手をつなぐと、ゆっくり薔薇園を歩き出す。
ネモフィラの花畑でも、こうやって手をつないで、歩いていたな。
あの頃より力強く、そして大きくなったクリスの手に、ドキドキしてしまう。夢で見た記憶では感じられなかったその温もりに、幸せを噛みしめる。
「ニーナ、明日の舞踏会のイブニングドレスの用意は、大丈夫?」
「ジェシカが、念のために持って行くといいって、アドバイスしてくれていたの。だからちゃんと持ってきているから、大丈夫よ」
「そうか。……どんな色のドレス?」
「……最近、私、ライラック色が好きなの」
歩く速度を落とし、クリスがこちらを見る。
私の大好きな、ライラック色の瞳で。
「それは……僕の瞳の色だから?」
私が頷くと、クリスは満面の笑顔になる。
自分にだけ向けられるクリスの笑顔。
その事実を認識するだけで、キュン死しそうになる。
そして。
あまりにも嬉しそうなクリスを見て、私も笑顔になると……。
「ニーナ、僕は君を、馬車までエスコートしないといけないのに……」
そう言いながら私を抱き寄せると、甘い甘いキスを始めた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「学園には近寄りたくないのだが」を公開します。
それでは引き続きよろしくお願いいたします!!
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