77:ニーナお姉様!
そんなこんなで9年ぶりに王都へ戻ってきた。
前世のように新しい建物が続々と建つなんてこともないので、見慣れた街の景色が、広がっている。屋敷も当然、9年前と変わっておらず、なんだか安心できた。
エントランスに着き、車から降りると……。
「ニーナお姉様!」
姉の私が驚くぐらいのイケメンに成長したセスが、抱きついてきた。
王立イエローウィン魔法学園の制服姿のセスは、まごうことなき美少年である。
背も伸び、テニスを始めたということで、筋肉もついてきていた。王子様のようなブロンドの髪にヘーゼル色の瞳。肌艶もいい。
が、しかし。
このハグは、さすがに長過ぎるだろう。
しかもなんだか、私の髪の香りをかいでいるのだろうか?
……鼻息が荒い……。
これは危険だと、黄色信号が点滅している。
「セス、久しぶりね。今回は私の窮地を救ってくれて、ありがとう」
ぐいっとすっかり逞しくなった胸を、押し返す。
頬を赤くしたセスは、残念そうな顔で私から離れる。
客観的に見ても、間違いなく、美少年。
姉をストーカーする時間があるなら、同年代の女子にむかえ!と心の中で念じる。
「……ニーナお姉様のお役に立てて、よかったです」
セスは自身の肩にのる、あの碧いアマガエルの頭を撫でた。
相変わらず瞼が半分ほど閉じ、眠そうな顔をしている。
でも本当に、君に助けられたよ。
私も久々に再会したアマガエルの頭を撫でる。
このアマガエルが、私をストーカーするためにセスが召喚した守護霊獣である件は……一旦忘れることにした。
弟が離れたので、母親と兄が私の方へやって来る。
「ニーナ、お帰りなさい」
「ニーナ、おかえり」
母親と兄も笑顔で迎えてくれた。
母親は相変わらず若々しく、兄はかなり大人になったと感じる。
兄の身長がこんなに伸びていたとは、驚きだ。
「さあ、家族水入らずで、夕食にしよう」
父親の声に、屋敷の中へ入った。
◇
夕食は、食べるのと話すので、大忙しだった。
話はどうしたってアンジェラとの一戦の件になる。
伝説の四聖獣が召喚されたとなれば、どんな姿だったのか、どのような戦い方をしたのかと、セスも兄も聞きたがる。さらにアンジェラはどんな女性だったのか、どんな魔法を使うのかと、もういろいろ質問された。
さらに黒い森での二日間は、どのように過ごしたのか――などなど、最初から最後まで、ひたすら黒い森での出来事を話すことになった。つまり、クリスとの婚約の件は、夕食の席では触れられなかった。……実はそうするよう、私が両親に頼んでいたせいでもある。この件は、慎重に進めた方がいいと、私が考えていたからだ。
慎重に進めるための第一歩。
夕食後、セスの部屋を訪れた。
こじらせている弟に、大切なことを告げるためだ。
私が部屋に行くと、セスは瞳を輝かせ、迎えてくれた。
こんなに喜ぶ弟に、これを告げるのは、酷ではあるのだが……。
意を決し、切り出す。
新調されたばかりのソファに腰をおろしながら、私はズバリ告げることにした。
「セス、私、婚約するのよ」
セスの顔が、凍り付く。
「お父様から聞いていない?」
「聞いている……」
「相手が誰かは、聞いたわよね……?」
セスは頷き、しょぼんとして、私の対面のソファに座る。
「クリスはとても立派な人なの。今回も私のことを守ってくれた。クリスと結婚できたら、私は絶対に幸せになれる。セスも、学校で気になる子はいない? きっとこれから素敵な出会いがあるはずだから。その子のことを、私と同じぐらい、愛してあげて」
私の言葉に、じわっと涙が浮かんだセスだったが……。
「……分かりました。ニーナお姉様の幸せが、ボクの幸せです。もしニーナお姉様が不幸になっていたら……。その時はボクが、迎えに行きます」
素直に応じてくれたと思ったが、最後の方で恐ろしいことを言うのでやんわり否定する。
「セ、セス、大丈夫よ。クリスといれば、100%私は幸せだから」
やんわり迎えに来る必要はないと、否定しておいた。
「分かりました……。寂しいですが、ニーナお姉様の幸せを願っています」
両親からも、相当説得を受けていたのだろう。
セスはそう言って、私とクリスの婚約を、祝ってくれる。
安心した私は、セスにアマガエルにどんな風に助けられたかを、話して聞かせた。さらにアマガエルだけではなく、セスが動いてくれたことで、とても助かったと、感謝の気持ちも伝える。
婚約の件を、私の口から直接聞き、ショックを隠し切れないセスだったが、アマガエルの話をしていると、次第に笑顔になった。
最後はちゃんと姉と弟という感じで、話を終えることができたと思う。
王都での懸念事項の一つをやり遂げることができ、私はホッとしていた。
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次回は「謁見」を公開します。
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